多くの患者は医師に聞きたいことを聞けず、説明不足へのストレスも感じている
医療ポータルサイト「ドクターズ・ファイル」が実施した患者へのアンケート調査(※1)によると、「ドクターとの診察中のコミュニケーションについて、どう感じているか」という問いに対し、「聞きたいことを十分に聞けないことがたまにある」と答えた人は過半数の52.1%、さらに、18.7%の人は「聞きたいことを十分に聞けないことがよくある」と回答しました。昔ほどではないにしろ、聞きにくいと感じる患者は今でも多いようです。
続いて、患者が診療時に何に対してストレスを感じるかを聞いたアンケートを見てみましょう。ここには医師だけでなく他のスタッフの応対も含まれていますが、いずれにしてもコミュニケーション関連の問題が多いということがわかります。この数字は調査年ごとに改善しているものの、まだまだ厳しい評価であることは否めません。
このランキングからは、説明不足に対してストレスを感じる患者が多いことがわかります。これを見て、「うちのクリニックでは患者にはちゃんと説明しているし、診療後も『大丈夫ですか』の一声をかけている」という人もいるかもしれません。ただし、この「大丈夫」という言葉には、思わぬ落とし穴があります。
「大丈夫」と答える人は、だいたい大丈夫ではないと思ったほうがいい
患者に「大丈夫ですか」と尋ねると、多くの患者は 「はい、大丈夫です」と答えるでしょう。しかし、それで安心するのは早計です。
多くの場合、「大丈夫ですか」は「大丈夫ですよね?」という念押しとして伝わります。また、返答がYES/NOになりやすいクローズドクエスチョン(※2)であるため、相手は何が大丈夫ではないのかを具体的に申し出にくいものです。
この背景には、昔から指摘されてきた、「日本人はNOと言えない」という傾向も影響するのかもしれません(昔ほどではないとは思いますが)。あるいは、自分の理解が悪いと思われたくない、否定で返すのは相手に申し訳ない、などの心理が働いているのかもしれません。しかし、説明の内容が生活指導である場合、理解が曖昧なまま終わればその後の診療に影響する可能性もあり、避けたいところです。
このことはスタッフに対しても同様です。医師から指示を受けた後に大丈夫かと聞かれても、大丈夫じゃないとは言い出しにくいものです。でも、スタッフの解釈が誤っていれば、その後の業務がうまく進まなかったり、後で二度手間になったりと支障を来すことがあります。
そんな時、表現次第で相手の本音を引き出しやすくなります。ポイントは、大まかに理解度を確認する「大丈夫ですか」ではなく、相手が頭の中を整理しやすいように導くことです。
このような聞き方であれば、わかったことと、わからなかったことを仕分けすることができます。一つ一つ聞かれると、「〇〇はわかりましたが、△△はもう1回説明してもらえますか」と整理して患者も質問しやすくなります。
患者に対しては、自分以外のスタッフの手を借りることも有効です。患者の心理として、医師には言いにくいことも別のスタッフには言いやすい、診察室では思いつかなかった疑問が会計時になって湧いてきた、ということもあります。診療後はあえて別のスタッフから、「今日の説明の中でわからないことはありましたか?」「何か疑問が出てきたらいつでもご連絡ください」といった声をかけることをルーティン化するといいでしょう。それだけでも「説明不足だ」というマイナス印象の芽を摘み、何でも聞きやすく話しやすいクリニックだと思ってもらえる一助となります。
※1 ドクターズ・ファイルによる「患者のクリニック選びに関する調査」。対象は、全国主要都市に住む、もしくは勤務する20~59歳の男女4000人。2020年7月にインターネット調査にて実施。
※2 クローズドクエスチョンは、YES/NOのような選択肢から回答させる質問のこと。反対に、自由に考えを答えさせる質問はオープンクエスチョンと呼ばれる。コーチングでは、このように質問の仕方を変えながら相手の真意を引き出していく。
<執筆者プロフィール>
田中 美香(たなか・みか)
医療ジャーナリスト。出版社でヘルスケア系の書籍・雑誌の編集経験を積み、現在はフリーで活動。日経グループの健康情報サイトでドクターへの取材記事を毎月連載。研修会社で医療スタッフ教育に従事した経験を生かし、人材教育に特化した記事執筆も手がける。ライター業の傍ら、ビジネス文書講師として社会人や大学生への指導も行う。