コロナ禍の採用はどうしてる?クリニックのスタッフ採用事情の変化

クリニックの採用

受付、事務、看護師、歯科衛生士など、スタッフが気持ち良さそうに働いているクリニックは患者も居心地が良いものです。スタッフの対応そのものが、自院の印象を大きく左右するため、どこのクリニックも人材の採用・維持に力を入れています。
新型コロナウイルス感染症の影響により、航空業界や旅行業界などの企業が人材の採用活動を中止、見送ったことが話題となりましたが、クリニックではどうだったのでしょうか。
病院・クリニックの採用支援を行っているドクターズ・ファイルエージェントのキャリアカウンセラー桑高和恵氏に、クリニックの採用活動への影響について聞きました。

※本稿の初出は、「コロナ禍の採用はどうしてる?クリニックのスタッフ採用事情の変化」(「患者ニーズ研究所ONLINE」2020年12月18日配信)です。再掲載にあたり一部加筆・編集しています。肩書きやデータは本稿初出時のものです。

緊急事態宣言がシビアに影響した、クリニックの採用活動

直近のスタッフ採用マーケットの動向について、桑高氏はこのように振り返ります。

「すでに退職者が出るとわかっているクリニックの場合、人手不足で患者の受け入れができないといった事態を招かないよう採用活動を止めるわけにはいきません。そのため、新型コロナウイルスが襲来した春先にはそのほとんどが感染防止対策に追われながらも面接や採用活動を継続していました。しかし2020年4月7日、7都府県に緊急事態宣言が発令されると、状況は一変しました」(桑高氏)

緊急事態宣言が発令され、その後、不要不急の外出や夜間外出自粛の気運が全国に広がると、予定していた採用計画を一時的にストップした医療機関が多かったと言います。

「5月29日に全国的に解除されるまでは、張り詰めた状況が続きました。私たちが求職者のご紹介でクライアントのクリニックに電話をしても、対応していただけたところは半分以下。『採用どころではないので、今は結構です』という反応でした。あるクリニックは欠員募集で早期に採用を行う予定だったのですが、外来患者の受診抑制によって、やむを得ず診療時間を短縮。その間、少ないスタッフでシフトをやり繰りし、何とか乗り切られていたようです」(桑高氏)

6月以降、採用活動が再開。ウェブ面接の導入には関心が低め

この時期、子どもの幼稚園、小中学校などの休校や、親の介護のために出勤できなくなった女性スタッフも多数いました。また、発熱外来など感染症対策に対応する人員が新たに必要になったり、新型コロナウイルスに対する不安で事務員が突然辞めてしまったりと、通常のシフトが組めず、頭を抱えたクリニックも少なくなかったようです。

そうした現場の混乱はあったものの、緊急事態宣言が解除された6月以降は、採用活動を止めていたクリニックも徐々に採用を再開。

「世の中では、ウェブ面接を取り入れている企業もありました。しかし、医療機関の採用では実際に会って、その人の雰囲気を見ることを重視しているので、ウェブ面接を行っているクリニックはあまりありませんでした。一方で求職者も、クリニックの雰囲気や患者層を直接見たいという方が多く、ほとんどのケースにおいてマスクを着用し、ソーシャルディスタンスを考慮した上で、対面の面接が行われていました」(桑高氏)

求人広告を運営する企業の多くが加盟する公益社団法人全国求人情報協会の発表によると、「医療・福祉サービス」の求人広告数は4月に4万8340件と前月より大きくマイナスに転じましたが、7月には7万6599件に増加。新型コロナウイルスの感染拡大によって、医療機関や介護の現場を支える人材のニーズが一段と高まっていることがわかります。

新型コロナウイルスによってあぶり出された、医療機関の経営姿勢

こうした採用の市況感から、人手不足が加速したことで採用の難易度が上がっているのではないかと懸念するクリニックもあるのではないでしょうか。しかし桑高氏は、「採用側にとってはチャンスです」と言います。

「実は今回の新型コロナウイルスをきっかけに、自分の人生を見つめ直した、という方が多くいらっしゃいます。不安を抱えて働く中で、より安心して働ける環境を求める人が増えているのです」(桑高氏)

今はどのクリニックも、感染症対策を一層強化していることでしょう。しかしある歯科衛生士は、「勤務していた歯科クリニックは、グローブを一日中交換せずに破れるまで使ったり、ドリルなど治療器具も交換、消毒滅菌しなかったりと、とにかく衛生管理がずさん。そうした院長の経営方針を見て、『いざというとき、このクリニックは私を守ってくれなさそう』と不信感が湧いて、転職を決意しました」と言います。

「日々、スタッフは感染リスクの高い環境にさらされ、不安を抱えながら勤務しています。コロナ禍はある意味で、医療機関の経営姿勢をあぶり出しました。有事のとき、院長はスタッフの生命を守ってくれるのか、健康を気遣ってくれるのか、何を大事にしているのか。スタッフにとって、自分の居場所を見直す機会でもあったのです」(桑高氏)

コロナ時代の採用で重視したいのは、「理念への共感」

スタッフ側の心理に変化があった一方で、採用するクリニック側にも変化があったと桑高氏は指摘します。

「医療機関は、患者のため、地域医療を支えるためといった理念を掲げています。実はこの理念に関して、新型コロナウイルス感染の流行前と現在とで、採用側の意識が変わったと感じています。看護師は慢性的に不足していますので、以前は、その採用においても、スキルや経験が満たされていれば採用するケースがありました。しかし、今は『当院の理念にきちんと共感してくれた人を採りたい』と、理念への共感を必須条件に挙げるクリニックが増えたように感じます」(桑高氏)

新型コロナウイルスのさらなる感染拡大が懸念される中、考えたくないことではありますが、今後もまた患者の通い控えで勤務日数を減らしたり、賞与を減給・カットしたりする可能性がないとは言えません。そのとき、待遇面を重視して勤務していたスタッフであれば、「想像していたのと違うので、退職します」と言い出しかねないでしょう。

そのリスクを鑑みた上で、先行きが不透明な時代、しっかりと理念に共感してもらい、スタッフみんなが気持ちを一つに助け合うクリニックをめざしたい、という強い思いの表れともいえます。

「スタッフ一人を採用するにあたっても、非常に多くの時間とコストがかかります。一度採用した方には長期的に勤務してもらうためにも、求人を掲出する際にはできるだけクリニックの理念や雰囲気、感染症対策や健康管理の徹底が伝わるような情報発信が重要と言えます。そして面接時には、採用側がこれまで以上に理念をじっくり伝えると同時に、3年後、5年後のクリニックのビジョンを提示することが大事です。また、コロナ禍での賞与のカットなど、起こり得るデメリットについて正直に伝えることも有効な手段かもしれません。応募者が仕事において大切にしていることは何なのか、ここをしっかり確認した上で、採用を検討することが大事と言えるのではないでしょうか」(桑高氏)

(クリニック未来ラボ編集部)