開業医白書

2026.7.10

【開業医調査】クリニックのスタッフ定着│定着できているドクターは何をしている?

急激に変化する医療業界。その荒波を乗り越えて、開業医がクリニックをアップデートしていくための一助になりたい――そんな想いから、当コーナー「開業医調査」では1つのテーマに焦点をあて、課題解決に向けたヒントを探っていきます。

今回のテーマは「クリニックのスタッフ定着」 です。

スタッフの採用・定着は、多くの開業医にとって永遠の課題。
人手不足や人件費の高騰、働き方に対する価値観の変化など、個々の努力だけでは解決が難しい要因も増えています。そこで、今回は全国の開業医429人に、スタッフ定着の状況と、そのために取り組んでいることを聞きました。

本記事は、さまざまな立場の「開業医のリアルな声」を通じて、自院の現在地を確認するとともに、今後の対策に役立てていただくことを狙いとしています。ぜひ、アンケート結果を、自院のスタッフの定着に向けたヒントにしてみてください。

(調査対象:全国の30~70代の医科の開業医429人/インターネットパネル調査によるもの。調査期間:2026年3月19日~3月27日)
※端数処理の関係で、内訳の和が100%にならない場合があります

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この記事でわかること

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クリニックのスタッフ定着状況に関する開業医調査。

スタッフ定着が「うまくいっている」クリニックは半数以下――ドクターの多くは手探りの現状

「スタッフ定着がうまくいっている」と回答した開業医は45.0%で、半数以下という結果に。一方で、「どちらとも言えない」「うまくいっていない」を合わせた、つまり「何かしらの引っかかりがある」状態の開業医は、全体の55.1%と、過半数を占めました。

多くの人が、スタッフ定着に対してはっきりとした対策を見いだせずに悩んでいる――今回の結果からは、そんな開業医の姿が浮かび上がってきます。

開業医のリアルな回答から見えたスタッフ定着に向けた6つの方向性

では、悩みながらもどのように試行錯誤しているのかを探るため、続いて、429人の開業医に「スタッフ定着のためにどのような取り組みをしているか」を深掘りしました。すると、大きく分けて、以下の6つの方向性があることが見えてきました。

①給与、福利厚生の充実
②勤務時間、休みに対する配慮
③コミュニケーション、人間関係の工夫
④評価制度の導入、明確化
⑤医療DXや業務改善による効率化
⑥何もしていない

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スタッフ定着対策で最も多かった「給与アップ」「福利厚生の充実」

診療報酬によるベースアップもあってか、今回のアンケートでは、給与アップを対策に挙げた開業医が最も多いという結果に。また、働きやすい環境づくりの一環として「福利厚生の充実」を挙げた人も多くいました。実際に挙がった回答は以下のとおりです。

  • 給料アップしかない
  • 結局は報酬
  • 「ベースアップ評価料」を利用した賃上げ
  • 残業代や各種手当をケチらない
  • 給与はかなり多く払う一方で、人数は少なく維持している
  • 院長の給与を削ってでも福利厚生の充実を図る
  • 収入は最盛期の5分の1だが、厳しい診療報酬の中で頑張って賃上げし、自分の蓄財も放出している
  • スタッフが辞めないようにするため給与や賞与を上げる

「賃金を上げるしかない」という本音が多数

多かったのが、「賃金を上げる“しかない”」という声。言葉の端々から、そうせざるを得ないことが伝わってきたのが印象的です。雇用主である開業医は、スタッフの生活を守る責任があるからこそ、「賃金アップ」は対策の第一手になりやすいともいえるでしょう。

加えて、2026年度の診療報酬改定では、ベースアップ評価料の引き上げや対象職種の拡大が予定されています。そのため、「今」のタイミングだからこそ、賃金アップしやすいと前向きに捉えた人も少なくないようです。

スタッフのために院長が身を削るケースも

一方で、スタッフの賃金アップや福利厚生を充実させるためには、「院長の報酬や待遇を下げるしかない」という切実な声も。ただ見方を変えれば、院長が身を削ってでもスタッフ定着に力を入れるのは、スタッフの力なくして適切な医療は届けられないと考えているからこそ。それを示すように、「スタッフが何より一番大切だと思っています」といった声も挙がっていました。

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スタッフ定着を左右する勤務時間・休暇への配慮

クリニックのスタッフには専門性に加え、少数精鋭の組織だからこその柔軟性が求められるケースが多くあります。そのため、勤務時間も長くなりやすい傾向に。それをスタッフ定着の「課題」と捉え、以下のような対策を取っている開業医も多いようです。

  • 超過勤務をなくし、有休を積極的に取ってもらっている
  • 診療時間の短縮
  • なるべく早く帰らせる工夫をしている
  • 無駄な業務は依頼しない。有休や病欠は可能な限り許可している
  • 患者さんが少ない日は早く帰れるようにしている
  • 診療時間の縮小、時間外労働をなくし、昇給をできる限り行う

有休を「取得させる」「早く帰らせる」ための積極的な働きかけ

2019年の法改正により「年間有休取得5日」が義務化されたり、近年では「働き方改革」と並んで「休み方改革」が注目を集めたりと、労働者の休暇は年々重要度を増しています。それを反映するように、今回の調査でも「休みに対する配慮」を対策として挙げた開業医が多数いました。

つまり、制度として「有休が使える」というだけでなく、開業医が積極的に「休ませるための働きかけ」をしていることが推察されます。

診療時間そのものを見直す医院も

さらに、スタッフの負担を増やさないよう、診療時間自体を変えたという意見も。従来のように現状に合わせてスタッフを配置するのではなく、医院の運営そのものをスタッフに合わせて見直す――そうしてスタッフの残業を軽減し、働きやすい環境を整備することで、無理のない体制で経営を行うという決断をした開業医も少なくないようです。

コミュニケーションや人間関係の工夫

一方で、制度の見直しだけでなく、スタッフ一人ひとりとの信頼関係の構築に重きを置く開業医も多く見られました。

  • 雑談を増やしてコミュニケーションを取る
  • こまめに個別面談をしている
  • 怒らないということに尽きます
  • 仕事とは無関係な話は積極的にするようにしている
  • 不満や愚痴など、時間をかけてよく聞くことだと思います
  • コミュニケーションを増やして、信頼関係を構築
  • 互いの領域を侵さないよう指導している

雑談・声かけ・定期的な対話の設定など日常の工夫

コミュニケーションや人間関係の対策として特に多く挙げられたのは、特別な制度やイベントではなく、日々の関わり方を意識することでした。

「スタッフとの雑談を増やす」「こまめに声をかける」「定期的に話を聞く時間をつくる」

どれも即効性はありませんが、日々の積み重ねこそが信頼関係の構築につながると考えてのことでしょう。共通しているのは、普段から話せる関係づくりを重視し、スタッフの心理的安全性を高めたいという姿勢でした。

「怒らない」「距離を詰めすぎない」という意識

一方で、興味深いのが「怒らない」「距離を詰めすぎない」といった意見も挙がっていたこと。良かれと思ってスタッフを厳しく指導したり、過度に干渉したりすることを避け、一定の距離感を保つことが、働きやすさにつながると考える開業医もいました。

どの方法が適しているのかはスタッフ一人ひとり異なります。その人の性格や大事にしている価値観を踏まえた関わりが、定着に影響するといえるでしょう。

評価制度の導入や理念の浸透などやりがいある職場づくり

長期的な視点で考えた時、給与を上げるだけではスタッフ定着にはつながらない可能性があります。というのも、多くの人は自身の成長を感じることが、仕事のモチベーションになっているからです。

そのため、スタッフが働きたいと思える環境づくりの一環として、「評価制度」の導入や、「評価の明確化」を進める開業医も増えています。

  • 人事評価制度の明確化、経営理念の設計、各種マニュアル化
  • スタッフの評価を明確にすること
  • 昇給の際は、事実だけでなく納得できるような説明をする
  • 仕事が属人化しないようにしている
  • 医院のめざすものをしっかり共有している
  • 毎日の理念の読み合わせ
  • 勉強会を定期的に行っている
  • 学会参加や発表の後押し

評価基準を明確にし、自院の方針を伝える

多くの医院では、スタッフ管理を強化するためではなく、院長が判断や説明に迷わないようにするために評価制度を導入していました。評価基準や昇給の考え方を明確にし、医院として大切にする価値観を言語化することで、スタッフの不公平感やすれ違いを減らそうとしていることが読み取れます。各種マニュアル化もそれを後押しするものといえるでしょう。

医院が大切にしている考え方を共有する

評価制度と併せて、経営理念や医院の考え方を共有しているという声もありました。理念を明文化し、日常的に言葉として伝えることで、「何を大切にして診療しているのか」「どんな行動を期待しているのか」を擦り合わせようとする意図がうかがえます。

給与や評価といった条件面だけでなく、医院の方向性や価値観を共有し、スタッフの納得感を高めることが、仕事へのモチベーション、ひいては定着につながると考える開業医もいるようです。

学会参加や勉強会を通じてスキルアップを後押し

一部の開業医からは、スキルアップの支援をスタッフ定着につながる取り組みとして挙げる声もありました。具体的には学会や勉強会参加の補助、院内での教育機会の創出などを通じて、スタッフの成長を後押しするものです。

多数派ではないものの、「長く働いてもらうには、成長を実感できる環境づくりも大切」と考える開業医の視点がうかがい知れます。

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医療DXや業務改善による現場の負担軽減

現場の疲弊感を抑え、少ない数のスタッフで十分な業務ができるよう、医療DXや業務の見直し・改善を図っているという声も挙がっていました。

  • 医療DXを進め、業務量を減らしている
  • 賃金アップと併せ、DXによる業務量の軽減にも取り組んでいる
  • 院内システムを使って負担を軽減している
  • 無駄な業務は依頼しない
  • 常に、負担をいかに軽減するかを検討している

「スタッフを楽に」するために現実的な打ち手を

医療DXや業務見直しについては、「業務を効率化したい」「現場の負担を減らしたい」という、切実な声が中心でした。

ITツールを活用する、業務フローを見直すといった取り組みは、人手不足をカバーし残業時間を削減する方法として、現実的な選択肢の一つになっているようです。大きな改革というよりは、比較的着手しやすい、今できる範囲での改善として捉えられています。

何もしていない「お手上げ状態」の開業医も

今回の調査では、実は「特に何もしていない」と回答した開業医も少なくありませんでした。

行動を起こしていない理由はさまざまですが、日々の業務に追われ余力がないことや、何から手をつければよいかわからず困っている状況の開業医も多いと考えられます。

頑張っても結果が出ないことへの諦め

「どうしていいかわからない」「頑張っても定着しないので、諦めた」――今回の調査では、こうした率直な声も聞かれました。スタッフ定着に向けた対策は、医院経営において重要だと理解はしていても、診療報酬や人件費の制約の中で、打ち手を見いだせずに悩む開業医の現実が浮かび上がってきました。

スタッフ定着がうまくいっている、うまくいっていないクリニックの特性

スタッフ定着がうまくいっているクリニックと、うまくいっていないクリニックは、どんな特性があるのでしょうか。それぞれ状況や、対策ポイントを見ていきます。

「うまくいっている」開業医の対策のポイントは「継続性」

では、スタッフ定着がうまくいっている開業医は、何が違うのでしょうか。スタッフ定着の状況別に回答を見てみると、実は特別な施策や目新しい制度が並んでいるわけではありません。それよりも、継続しやすい取り組みを無理のない形で積み重ねている人が多い印象です。

小さな改善や日常の工夫を継続していくことが、結果的に定着につながっている――。そんな実感を持っている開業医もいました。一度にすべてを変えようとせず、こつこつと積み重ねていく姿勢も、定着につなげるポイントの一つといえそうです。

「うまくいっていない」開業医の苦悩

一方で、「うまくいっていない」と感じている開業医からは、「いろいろと試みているが、決定打がない」といった声も聞かれ、やはり継続性に欠けるケースもあるようです。加えて、個人の努力ではどうにもならない課題も見えてきました。

人件費、収入の伸び悩み……診療報酬の枠組みの中で経営者である開業医が抱える課題は山積しています。その中で、仕事にやりがいを求めるスタッフの定着を図ることは決して簡単ではありません。中には、「どんなに教育しても、診療報酬改定のたびに退職者が出る」という切実な声も。すぐに効果が出る対策はないだけに、スタッフ定着対策は、各医院の置かれた状況に左右されるテーマであることが改めて浮き彫りになった形です。

まとめ

スタッフ定着に「これだけやればOK」という正解はありません。そのため、今回の調査では、それぞれの状況に合わせて、給与・休み・人間関係・評価・業務改善といった自院に合った対策を検討し、模索する開業医の姿が見えてきました。

他院の対策を知ることが、必ずしも答えになるわけではありません。それでも、「同じ立場の開業医が悩み、考えていること」を知り、視野を広げることが次の一手を考えるヒントになるかもしれません。(クリニック未来ラボ編集部)

<執筆者プロフィール> 
クリニック未来ラボ編集部 
クリニック未来ラボは、開業医、開業をめざす勤務医・医学生に向けたクリニック経営支援メディアです。独自の視線で調査・研究し、より良い医院経営に役立つ情報として発信。「開業医白書」をはじめ、診療報酬改定や医師の働き方改革、医療従事者の転職動向など、医院経営に関する調査レポートも公開しています。 

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