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2024.1.26

炎上トラブルを回避するために!クリニックのSNS運用のポイント6選

クリニックのSNS運用の注意点とトラブル事例

FacebookやX(旧Twitter)、Instagramなど、若い世代を中心に、今や私たちの日常生活に必要不可欠となったSNS(ソーシャルネットワークサービス)。クリニックでも、患者への情報発信や自院のブランディングにSNSを用いるところが増えています。しかし、そんなつもりはなかったにもかかわらず、ふとしたSNSでの発言が思わぬ炎上トラブルに発展するケースも。

今回は、クリニックがSNSを運用する上で、炎上トラブルを防ぐためにはどのような点に気をつければいいのか、インターネット問題に詳しい法律事務所アルシエンの清水陽平弁護士に取材。個人情報への配慮など、6つのポイントを中心に紹介します。

【ポイント1】写真を投稿する際、個人情報が映っていないか確認を

個人情報保護の観点から患者の顔写真を掲載する際には必ず、本人か保護者の許可を取りましょう。例えば健康教室やクリスマス会など、患者参加型のイベントの様子をSNSに載せる場合は注意が必要です。また、顔が映っていなくても安心はできません。

個人情報とは「個人に関する情報であり、かつ特定の個人を識別できるもの」とされており、カルテやファイルも個人情報にあたります。そのため、院内の様子をSNSで紹介する場合は撮影場所に気を配り、スタッフルームや受付スペースといった書類の多い場所では、患者情報が映り込んでいないかを確認しましょう。スタッフ間の情報共有に用いるホワイトボードにも注意が必要です。

個人情報への配慮が必要

【ポイント2】患者とのエピソードは個人が特定されないような工夫を

よくある投稿の一つに「患者とのエピソード」が挙げられます。患者からかけられた言葉やうれしかった出来事というのは誰かに伝えたくなるものですし、ドクターやクリニックに親しみを持ってもらうためにも効果的かもしれません。

ただし投稿にあたっては、「これを患者本人が見たときにどう感じるか?」ということを忘れないようにしましょう。例えば、以下のような投稿をしてはいないでしょうか。

「以前、甲状腺疾患で通院していた患者さんが、昨日、お子さんの発達相談で久しぶりに来院されました。いろいろとお話しさせていただき、安心されたようです。皆さんも気になることがありましたら、気軽にご相談ください♪」

これだけを読むと、患者が特定されるような個人情報は含まれていないため、一見問題がなさそうです。ですが、もし当の患者が自身の疾患や子どもの発達で悩んでいるという事実を知られたくなかったとしたらどうでしょうか? 患者との信頼関係が崩れることにもなりかねません。

一般的に病歴は他人に知られたくないものであり、守秘義務にも関わるため、投稿時には本人の承諾を得るか、「誰が見ても個人が特定されない」ように工夫することをお勧めします。

例えば複数の事例を織り交ぜたり、一部変更を加えたりして、患者本人が見ても、自分のことだとわからないようにすることが大切です。やり方の一つとして、以下のように文章に少し手を加えることで匿名性が保たれ、リスクが軽減されます。

「以前、高血圧症(※疾患名を変更)で通院していた患者さんが、先日(※日付を明確にしない)、お子さんの健康相談(※要件を具体的にしない)で久しぶりに来院されました。いろいろとお話しさせていただき、安心されたようです。皆さんも気になることがありましたら、気軽にご相談ください♪」

なお、クリニックの公式SNSは特定性、誘引性があると判断されると、ホームページと同様、広告に該当するため医療広告ガイドラインの規制対象となります。そのため、患者とのエピソードを紹介する中で「〇〇治療をしたおかげで痛みがなくなった」といった治療効果に言及することは禁止されていますので、注意が必要です。

【ポイント3】ネガティブな表現には細心の注意を

患者とのエピソードと同様、発信者に悪気はなくても、何気なく発したコメントが患者を傷つけたり不快にさせたりしてしまうというケースがあります。

例えば、ドクターがX(旧Twitter)上で「今日はトラブル続きで診療時間が延び、大忙しの1日でした」とつぶやいたとします。これを当日受診した患者が見たらどう思うでしょうか? 「私が何度も質問してしまったから、延びたのかもしれない」と感じ傷つく可能性も否定できません。実際は、スタッフが遅刻したとか院内システムにトラブルが発生したといった別の理由だったとしても、です。

SNSは不特定多数の人が見るものだからこそ、発言には慎重になる必要があります。他者からどう見られるかを常に念頭に置いて発信することが不可欠といえるでしょう。

そこですぐにできる工夫の一つは、「疲れた」「忙しい」「大変」といったネガティブに受け取られかねない表現をする際には細心の注意を払うとともに、現実の行動と紐づかないよう、投稿時間をずらして発信することです。 また感情に任せて発言するのではなく、一呼吸置いて「本当に発信していい情報か?」と落ち着いて考えることもトラブル防止に役立ちます。

【ポイント4】個人の症状や治療に関する相談には安易に答えない

クリニックの公式SNSはもちろん、個人アカウントであっても医師であることを明かしてSNSを利用していると、ユーザーから医療に関する相談をされる可能性があります。

疾患の説明や感染症対策などの一般的な医療知識の提供は構いませんが、個人的な症状や治療に関する質問に対して安易にコメントするのは控えましょう。SNS上で良かれと思って答えたことが、「アドバイスどおりにしたのに、良くならない」といったクレームにつながる可能性もあるので、注意が必要です。

対策としては、アカウントのプロフィール欄に「症状や治療に関する質問には回答できない」旨を記載することをお勧めします。その際「質問禁止」と突っぱねるのではなく、「診察をしないと症状を正確に把握することは難しいため、お答えいたしかねます」など、不安を抱える患者やユーザーの気持ちに配慮することも、トラブル予防につながるでしょう。

【ポイント5】勤務医やスタッフへの指導を徹底する

ドクターだけでなくクリニックに勤務するスタッフ、さらには実習などで一定期間クリニックに出入りする学生にも、節度を守ってSNSを使ってもらう必要があります。

例えば手術を見学した学生が、患者の患部写真をSNSに投稿した場合、法律上問題がなくても倫理的に問題視され、炎上してしまう可能性があります。それが私用の個人アカウントであっても、過去の発言や投稿写真などから所属先が特定されると、結果的にクリニックの評判を落とすことになりかねません。

こうしたトラブルを防ぐには、休憩時間以外は個人のスマートフォンの使用を控えるようにするなど、クリニックでSNS運用のルールを定めることが有用です。近年はSNSガイドラインを作成している企業が増え、インターネットで検索すると数多く出てきます。そうしたものを参考にしながら自院に合わせて運用しましょう。

また定期的に院内勉強会を実施し、炎上につながりやすい発言について共有するなど、スタッフの意識向上に努めることもリスクの低減につながります。

SNSを運用する上でのルールの徹底

【ポイント6】プライベート利用の際もSNSの発信内容には細心の注意を

中には情報収集や息抜きのために、医師という立場をふせて完全にプライベートでSNSを利用するドクターもいるかと思います。

その場合は、自身のプライバシーを守ることも忘れないようにしましょう。公式アカウントに比べて、プライベート使用だと深く考えずに発言しがちですが、専門分野に関する発言や風景写真などから勤務先が特定されることもあるため、発信内容には十分注意を払うことが求められるのです。

忘れてはいけないのが、匿名や非公開のアカウントであっても「絶対にばれない、安心だとは言い切れない」ということ。だからこそ、誹謗中傷と捉えられかねないリスクの高い発言は避けたほうが賢明といえるでしょう。

SNSを使うことは、全世界に向けて発信しているということ。その意識を忘れずに、誰に見られてもいい状態にしておくことが大切です。

ここまで、炎上を防ぐためのポイントを紹介しました。他にも炎上しやすい要因の一つに、公式アカウントと個人アカウントの切り替えを間違えて失言をしてしまうというケースがあります。こうした誤発信、いわゆる「誤爆」を防ぐ方法として、清水氏は「公式SNSの更新には必ず院内のタブレットを用いるなど、専用端末を決めておくこと」と、デバイスの切り替えを勧めています。

【まとめ】SNSを正しく安全に使って患者に頼られるクリニックに

SNSは使い方次第でクリニックのブランディングに活用でき、集患はもちろんスタッフ採用にも効果的なツールです。特にクリニックを受診することに不安を覚える人も多いコロナ禍においては、クリニック側がより丁寧に情報発信することが求められています。例えば院内での感染対策を紹介することで、患者の不安を軽減することも可能でしょう。

このようにクリニックから発信される情報は、患者の安心につながるものだからこそ、SNSを正しく使って炎上を防ぐことが大切です。「安心できる医療機関」であることを広くアピールするためにも、客観的かつ多角的な視点を持って発信することを忘れないようにしたいものです。(クリニック未来ラボ編集部)

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