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2026.10.20

ドクハラとは?6つの具体例から学ぶリスクと対策

ドクハラとは?6つの具体例から学ぶリスクと対策

地域の人々の健康を支えるクリニックのドクターは、日頃から患者に寄り添った診療を心がけているかと思います。

しかし、そんな思いとは裏腹に、近年ではインターネット上の掲示板やクチコミサイト、SNSなどに医師やクリニックの名前を明示して、「ドクターハラスメントだ!」と訴える書き込みが多く見られます。

中でも、誰でも気軽にレビューできるGoogleマップのクチコミの影響力は大きく、悪いクチコミを書き込まれた場合、集患にも影響を及ぼしかねません。

近年はカスタマーハラスメント対策の強化やハラスメント防止に関する社会的な関心の高まりを背景に、医療機関にも患者対応に関するルール整備や相談体制の構築が求められています。

ドクターハラスメントの予防という観点からも、医師個人の心がけだけでなく、組織として適切な対応体制を整えることが重要です。

そこで今回は、医療情報に誰もが簡単にアクセスでき、SNSへの書き込みも自由にできる今だからこそ気をつけたい医師の言動について、IT・インターネットに詳しく、医療機関の顧問も務める弁護士法人戸田総合法律事務所の松本紘明弁護士に取材しました。

無意識のうちに加害者にならないために、ネット社会におけるハラスメントのリスクや具体的な事例をお届けします。

■専門家プロフィール

弁護士法人戸田総合法律事務所 代表弁護士
松本 紘明

中小企業法務を中心に、労務問題やハラスメント対応、インターネット上の風評被害対策などを幅広く手がける。企業や医療機関の法務相談にも対応し、患者対応やカスタマーハラスメント、SNS・口コミ投稿への対応など、現場で生じるトラブルの解決を支援。IT・インターネット関連の法務にも精通し、医療機関を含むさまざまな事業者のリスクマネジメントをサポートしている。2011年に戸田総合法律事務所を設立し、2015年より弁護士法人戸田総合法律事務所代表弁護士を務める。

【記事公開日:2024/2/9|最終更新日:2026/10/20】

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この記事でわかること

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「ドクターハラスメント」とは?なぜ今、考えることが重要なのか


そもそも、「ドクターハラスメント」、通称「ドクハラ」とは、医師による患者の心に傷を残すような暴言、態度、雰囲気を意味する言葉で、外科医の故・土屋繁裕氏が生み出した造語といわれています。

1990年代にマスコミが大きく取り上げ、医療機関に対する世間の不信感を煽りました。2006年には日本医師会が医師による患者へのハラスメントを題材にしたCMを全国放送するなど、この問題に本気で取り組む姿勢を見せました。

あれから20年超、医療はサービス業ともいわれる昨今、接遇に力を入れる医療機関が増え、医療を取り巻く環境は大きく変わっています。ドクターハラスメントという言葉を以前ほどは聞かなくなりましたが、松本氏は今でも注意が必要だと指摘します。

「マスコミに大きく取り上げられた当時は、あからさまに高圧的な医師の態度や心ない発言などが問題視されていました。

ネット社会の今は、患者のために良かれと思った発言でも、患者側が不安や不快な感情を抱けば、『ドクターハラスメント』と受け取られ、間接的にインターネットやSNSに悪質な書き込みをされてしまう可能性があります。

当事務所でも増えているのが、知らないうちにインターネットやSNSで悪い噂になっていたという医療機関からのご相談です。患者による理不尽な投稿によってクリニックの信用を損なわないためにも、患者対応には十分な配慮が必要です」(松本氏)

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ドクターハラスメントの要因は、医師と患者のコミュニケーション不足や認識のずれ

インターネットで「ドクハラ」と検索すると、質問サイトや掲示板などに、「医師の高圧的、威圧的な言動で精神的な苦痛を受け続けたので、訴えたい!」「産婦人科の医師に『お金がないのになぜ子どもをつくるのか。余裕がないなら産むな』と言われ、傷ついた。法的に解決する方法はありますか?」などと、被害を訴える患者の声が多数ヒットします。

最悪の場合、実際に損害賠償請求にまで発展するケースもあるといいます。

「ドクターハラスメントと受け止められる事例が発生する背景の多くは、患者とのコミュニケーション不足や認識のずれにあると考えます。東京都が設置している『患者の声相談窓口』の相談件数などを見ても、コミュニケーションに関する不満を抱えている患者が多いことがわかります」(松本氏)

「患者の声相談窓口」が示す患者不満の実態

「患者の声相談窓口」とは、東京都保健医療局が設置している、患者や家族が医療機関の医師や職員の対応方法などについて相談できる専用の窓口のことです。

東京都保健医療局の「患者の声相談窓口実績報告」(※)によれば、2025年度(令和7年度)の相談・苦情件数は8,347件で、その内訳は「相談」5,214件、「苦情」2,649件でした。過去5年間で見ると、「相談」は全体の5~6割、「苦情」は3割で推移しています。

「苦情」の内容別内訳では、「コミュニケーションに関すること」が毎年上位に挙がっています。具体的には、多い順に「医療従事者の接遇」「説明不足等」「その他」「暴力・暴言」という結果になっています。

さらに、診療科別(「不明」を除く)に相談件数の多かった順で見ると、「精神科(心療内科を含む)」19.2%、「内科」18.8%、「歯科」9.5%、「なし」9.0%、「整形外科」8.6%となっています。

※出典:東京都保健医療局「令和7年度 患者の声相談窓口実績報告」(令和8年8月28日更新)

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患者がドクターハラスメントと感じる医師の言動とは?6つの事例を紹介

それでは、実際に患者が医師に対して不満や不安を感じる言動とは、どのようなものなのでしょうか。前述の故・土屋繁裕氏は、自著『ドクターハラスメント』(扶桑社/2002年発行)の中で、具体例を挙げて解説しています。

20年近くも前の内容になりますが、その一部を抜粋してご紹介します。

【ドクハラ事例1】医者のエゴによる無神経な発言

事例1

「この抗ガン剤は、あなたにとって最後の手段です。我々にとって、放射線治療を受けてしまったあなたは、治験の対象としては不適切で、欲しいサンプルではありません」(P.26)

がんを患った患者が、とある名門病院で担当医に言われた言葉とのことです。患者をサンプル、データ扱いしてしまっていますね。また、「最後の手段」という言葉は、この薬が効かなければもうおしまいと、患者を心理的に追い込んでしまいます。

【ドクハラ事例2】医者の立場を笠に着た脅し

事例2

「舌に点滴してやろうか」(P.27)

何度か点滴に失敗した医師に対して、「この辺の血管に点滴してくれませんか」と言った患者に医師が吐き捨てた言葉とのことです。威圧的な態度や、支配的な発言は脅しと受け取られかねません。医師というより、個人の人間性の問題が大きいです。

【ドクハラ事例3】前の担当医の治療法を非難する

事例3

「こんなことやっても意味ないのに……」(P.29)

体質的な問題で手術や抗がん剤治療が難しく、放射線治療をしていた患者が、新しい担当医に言われた言葉とのことです。前の担当医の非難は、他意はなくても、患者の心に深い傷を残すことがあります。患者はこれまで自分が受けてきた治療が全く無駄のように感じ、人格まで否定された気になってしまうでしょう。

【ドクハラ事例4】患者の知る権利を無視する

事例4

「手術のことなど、知る必要などない」(P.31)

がん患者が執刀医となる医師と面談をした時に、言われた言葉だそうです。

身近なクリニックでも、検査に関する説明が不十分だと感じさせてしまうケースなど、患者にとって「説明義務」を果たさない医師は信頼できず、不安を抱かせてしまいます。わかりにくい説明や、説明不足も不満の原因になります。

【ドクハラ事例5】デッドラインを一方的に決め、患者に考える時間を与えず、焦らせる

事例5

「急いで手術しないと治らないよ」(P.39)

進行する病気という患者の恐怖感につけ込んで、他の治療法を説明したり、相談に乗ったりする手間を省くために医師が言った言葉とのことです。患者には自身が受ける治療を選ぶ権限があります。

患者に決断を急がせ不安にさせる医師の言動は、不満・不信感につながります。クリニックでも、患者に「一方的に医師に決められてしまい嫌だった」と感じさせないよう注意が必要です。

【ドクハラ事例6】患者の選択を責める

事例6

「どうしてそんな治療を受けたのですか!?」(P.56)

他の病院で治療を受け再発した患者を、病院も医師も快く受け入れない傾向があると土屋氏は指摘しています。患者の選択を尊重せず、逆に責めるような医師の言動は、患者にとって精神的につらく、責められているような気になり、通院がストレスになります。

親切心からつい言ってしまいがちな「なんでこんな状態になるまで放っておいたんですか」という発言も、患者は自分の行動が責められたと感じる場合があるため、気をつけたほうがいいでしょう。

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ドクターハラスメントは熱心で正直な医師こそ要注意!?

ここまで、土屋繁裕氏の著書『ドクターハラスメント』からドクターハラスメントの具体例を見てきました。

事例4の「手術のことなど、知る必要などない」は、インフォームド・コンセントが重視される今の時代、「こんな時代錯誤の発言をする医師はもういない」と思われる方が大半でしょう。

一方で、事例3の「こんなことやっても意味ないのに……」や、事例5の「急いで手術しないと治らないよ」、事例6の「どうしてそんな治療を受けたのですか!?」という発言は、医師の立場からすれば、むしろ熱心で正直だからこそ、思わず出てしまう一言かもしれません。しかし、患者側からすれば、ハラスメントと感じる人もいるわけです。

「繰り返しになりますが、重要なのは医師にそんなつもりはなくても、患者の主観によってハラスメントとみなされてしまう可能性があるということです」(松本氏)

誰もが意図せず、ハラスメントの加害者になり得る時代。うっかりそうならないためにも、ドクターは患者と自分では価値観や考え方が異なることを認識し、患者一人ひとりに寄り添ったコミュニケーションを心がけることが重要です。

ドクターハラスメントに関する苦情や相談が寄せられたら?

ここまで見てきたように、ドクターハラスメントは必ずしも悪意のある言動だけを指すものではありません。患者のことを思って発した言葉であっても、受け手によっては「傷ついた」「高圧的だった」と受け止められ、苦情や相談につながることがあります。

では実際に患者からドクターハラスメントに関する苦情や相談が寄せられた場合、医療機関はどのように対応すべきなのでしょうか。

松本氏によると、ドクターハラスメントに該当するか判断が難しいケースであっても、まずは患者の声を受け止め、組織として適切に対応することが重要だといいます。

対応時に意識したいポイントは次の5つです。

①該当性を決めつけず、まず相談を受け止める

ドクターハラスメントに該当するか判断が難しい場合であっても、まずは広く相談を受け付ける姿勢が重要です。患者の心身の状態や言動の受け止め方、相談をためらう事情などにも配慮しながら、丁寧に話を聞くことが求められます。

②患者・関係者双方から事実確認を行う

患者からの訴えだけで判断せず、関係者へのヒアリングも行いながら、迅速かつ公正に事実関係を確認します。一方の主張に偏った判断は新たなトラブルにつながる可能性もあるため、客観的な視点で確認を進めることが大切です。

③担当医だけで対応を抱え込まない

苦情の対象となった医師本人が事実確認を行うのではなく、管理者や第三者が関与する体制が望ましいでしょう。当事者だけで対応すると判断が偏ったり、患者との認識のずれが大きくなったりする可能性もあるためです。
担当医個人の問題として抱え込まず、組織として対応することが重要です。

④対応内容を記録として残す

後日のトラブルや紛争を防ぐため、相談内容やヒアリング結果、対応経過などは記録として残しておきましょう。相談履歴をデータベース化し、相談件数や内容を可視化できるようにしておくと、傾向分析や再発防止にも役立ちます。
また、相談者や関係者のプライバシーに配慮しながら適切に管理する必要があります。

⑤再発防止まで含めて対応する

ドクターハラスメントの事実が確認された場合は、患者への説明や配慮、医師に対する必要な措置、対応方法の見直しなどを行い、再発防止につなげる必要があります。
また、相談や調査への協力を理由に、相談者や関係者が不利益な扱いを受けないよう配慮することも大切です。

苦情対応を個人任せにしないための組織体制づくり

松本氏は、ドクターハラスメント対策を医師個人の問題として捉えるのではなく、組織全体で取り組むことが重要だと指摘します。苦情が発生してから対応方法を考えるのではなく、あらかじめ相談体制や情報共有の仕組みを整えておくことで、適切な対応や再発防止につながるといいます。

苦情対応を個人任せにしないために、医療機関として整えておきたいポイントを見ていきましょう。

相談窓口や報告ルートを明確にする

相談窓口や相談担当者、管理者への報告経路などをあらかじめ定めておくことが重要です。
例えば、院長や事務長、相談担当者など、それぞれの役割や連携方法を整理しておくことで、トラブル発生時にスムーズな対応につながります。

複数人で判断できる体制を整える

苦情対応を特定の担当者だけで抱え込まず、複数人で状況を確認・判断できる体制を整えておきましょう。患者と医療従事者の双方から話を聞き、管理者や関係者を交えて状況を共有することで、多角的な視点から状況を把握しやすくなります。一人で判断するよりも、公平かつ適切な判断につながるでしょう。

情報共有と記録管理を徹底する

対応内容や事実確認の経過は記録として残し、必要な関係者間で共有することが大切です。情報を適切に共有することで、判断基準の統一や円滑な引継ぎにつながります。
共有する際は、相談内容に応じて閲覧権限を限定するなど、プライバシーへの配慮も欠かせません。

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事例を院内改善に生かす

発生した事案はその場限りで終わらせず、原因分析や再発防止に活用することが大切です。匿名化した事例を用いた研修や、アンケート、院内での検討会などを通じて継続的な改善につなげましょう。

必要に応じて外部専門家と連携する

院内での対応が難しい重大な事案や専門的な判断が求められるケースでは、弁護士などの外部専門家と連携することも重要です。
特にトラブルが深刻化している場合や対応方針の判断に迷う場合は、早い段階で相談することで、適切な対応につながります。

ドクターハラスメントを未然に防ぐための予防策

ドクターハラスメントを防ぐためには、医師個人がコミュニケーションに配慮することはもちろん、医療機関として継続的に取り組む仕組みづくりも欠かせません。

接遇・コミュニケーション研修を実施する

患者との認識のズレは、医師自身が気づかないうちに生じていることがあります。
そのため、接遇研修やロールプレイング、実際に発生した事例の共有などを通じて、患者目線でコミュニケーションを振り返る機会を設けることが有効です。

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説明方法の標準化を進める

同じ内容を説明していても、医師によって伝え方に差が出ることがあります。
説明資料の活用やインフォームド・コンセントの充実、患者の理解度を確認する運用などを取り入れることで、「説明を受けていない」「十分に理解できなかった」といった認識のズレを防ぎやすくなります。

患者の声を改善につなげる

アンケートや意見箱、苦情報告などを活用し、患者から寄せられた声を組織的に共有する仕組みも大切です。
苦情を単なるクレームとして扱うのではなく、医療サービスや患者対応を見直すきっかけとして活用することで、より良い医療提供につなげられるでしょう。

医師だけの問題にしない

患者が接するのは医師だけではありません。受付、看護師、医療事務など、さまざまな職種とのやり取りを通じて医療機関全体の印象が形成されます。
そのため、ドクターハラスメント対策を医師個人の課題として捉えるのではなく、医療機関全体で患者対応の質を高めていくことが重要です。

まとめ|ドクターハラスメント対策はコミュニケーションと組織対応が重要

ここまで、ドクターハラスメントの具体例や発生の背景、苦情や相談への対応方法、医療機関に求められる予防策について解説してきました。

ドクターハラスメントは、医師に悪意がなくても、患者との認識のずれやコミュニケーション不足によって生じる可能性があります。また、問題が発生した際には、医師個人だけで対応するのではなく、組織として適切に事実確認や情報共有を行う体制づくりも欠かせません。

患者一人ひとりに寄り添ったコミュニケーションを心がけることはもちろん、苦情や相談が寄せられた際に適切に対応し、その声を院内で共有・改善していく仕組みを整えることが重要です。

患者との信頼関係は、一朝一夕で築けるものではありません。だからこそ日々の診療や患者対応を振り返りながら、より良い医療の提供につなげていく姿勢が求められるのではないでしょうか。

クリニック向け総合サービスプラットフォーム「ドクターズ・ファイル」では、医療現場の「伝達漏れ」を防ぎ、スタッフ間の円滑なコミュニケーションを支援するクリニック専用情報共有アプリ「medipathy」を提供しています。
患者対応の質向上や組織づくりに取り組む際の選択肢の一つとして、活用を検討してみてください。

ドクターズ・ファイル メディパシー
患者とのより良いコミュニケーションと信頼関係づくりのために

<執筆者プロフィール>
岩田 千加(いわた・ちか)
ライター。旅行業界誌記者として取材・編集経験を積んだ後、2000年に独立。経営者や医師、弁護士、著名人のインタビュー、雑誌・書籍の企画・編集を行う。医療分野では、日経やエムスリーグループの医療従事者専用サイトや、『ドクターズ・ファイル』『頼れるドクター』などで長年活躍中。

<監修者プロフィール>
弁護士法人戸田総合法律事務所 代表弁護士
松本 紘明

中小企業法務を中心に、労務問題やハラスメント対応、インターネット上の風評被害対策などを幅広く手がける。企業や医療機関の法務相談にも対応し、患者対応やカスタマーハラスメント、SNS・口コミ投稿への対応など、現場で生じるトラブルの解決を支援。IT・インターネット関連の法務にも精通し、医療機関を含むさまざまな事業者のリスクマネジメントをサポートしている。2011年に戸田総合法律事務所を設立し、2015年より弁護士法人戸田総合法律事務所代表弁護士を務める。