経営のヒント

2024.5.10

電子カルテのココが大変!ココが良い!【前編】導入から1年半の内科のホンネ

電子カルテのメリットとデメリット

診療記録を電子データとして一括管理する電子カルテ。業務効率の向上やスムーズな情報共有につながることから、多くの医療機関が導入しています。

2020年に医療ポータルサイト「ドクターズ・ファイル」が実施した「電子カルテの利用状況についての調査」(※)でも、回答したドクターのうち、なんと9割以上が導入しているという結果に。しかし、2017年に厚生労働省が実施した調査では、一般診療所(医科)の電子カルテ導入率は46.1%となっています。

長く紙カルテを使用していて切り替えに悩むドクターや、最近電子カルテを導入したものの思うように使いこなせないドクターは、今も少なくないのではないでしょうか。

以前に配信した「開業医にとっての「電子カルテ」導入メリット・デメリットとは?わかりやすく解説!」では、こうした電子カルテの現状についてお伝えしました。本稿では2回にわたって、電子カルテを導入して1年半のクリニックと、30年以上にわたって活用しているクリニックにインタビューを行い、実際に使っているからこそ感じるメリット・デメリットについて本音を探っていきます。

まずは導入して1年半(2021年11月時点)という「医療法人心和会 ゆずの木台クリニック」の鈴木將夫(まさお)院長に、導入前後でどう変わったか、苦労話も含めて聞きました。

長年親しんだ紙カルテからの移行に不安も……

今回話を聞いたのは、埼玉県にある「医療法人心和会 ゆずの木台クリニック」。同院は1994年に開業し、糖尿病治療を主としながら、関連性の高い眼科や循環器内科も標榜。地域のかかりつけ医として内科全般に幅広く対応しています。

そんな同院が電子カルテを導入したのは、コロナ禍が始まったばかりの2020年春のこと。鈴木將夫院長が将来的に息子の康大副院長へと事業継承することを想定し、導入に踏み切ったといいます。

「ずいぶん前からいつかは導入を……と思っていたものの、長年紙カルテに慣れていただけに、業務効率が落ちるのではという心配もあって、二の足を踏んでいたのが正直なところです」

電子カルテの必要性を感じてはいたものの、躊躇していたという鈴木院長。この意見に共感するドクターも少なくないかもしれません。

そこで実際導入してどうだったのか、ずばり聞いてみると、返ってきたのは「思っていたよりも大変ではなかったですよ」という明るい声でした。

紙カルテからの移行への不安

1年半前に導入して感じた「電子カルテのココが良い!」ポイント

そこで導入から1年半がたち(2021年11月時点)、現在では「業務の効率化につながった」という鈴木院長に、具体的に良いと感じているポイントを聞いてみました。

【ポイント1】紹介状作成もカルテ上で完結。業務効率の向上に

院長が効率化を実感したことの一つが、他院への紹介状作成。これまでのように紙カルテを見ながらパソコンで作業する必要がなく、カルテ上で完結するため作業が格段にスムーズになったそうです。

またパソコンにキーボードで打ち込むこと自体についても、「時間がかかるのではと心配していた」という院長ですが、実際には思っていたほど問題はなかったようです。「もちろん慣れるまでは少し手間取りましたが、定型文をつくり簡単に入力できる工夫をすることで、結果的に手書きとそう変わらない時間で作業できている気がします」

年配の先生の中にはパソコンに苦手意識を感じる人もいるかもしれませんが、鈴木院長のように工夫しながら少しずつ慣れていくことで克服できる部分も大きいようです。

【ポイント2】レセコンと連動させ、会計までの時間を短縮

さらに効率化につながったのは、レセコン(レセプトコンピューター)との連動。処方箋作成の手間が省け、診療後すぐに会計ができるようになったこと。以前から使用していたレセコンと同じメーカーの電子カルテを導入したことも、スムーズに移行できた一因かもしれません。

同院ではレセコンと同じ担当者がサポートに来てくれたため、コミュニケーションが図りやすく、さらなる業務の効率化につながったようです。

1年半前に導入して感じた「電子カルテのココが大変!」ポイント

続いて、電子カルテ導入のデメリットについて聞いてみると、「うーん……。あまり感じないですね」と答えてくれた鈴木院長。では、導入時に苦労したことや予想と異なる点はなかったのか、さらに尋ねると2点挙げてくれました。

【ポイント1】紙カルテの情報を移行するのに手間がかかる

導入にあたって鈴木院長が最も大変だと感じたのは、「導入完了までの準備」。中でも手間がかかったのが、紙からデータへの移行作業だったそうです。

紙カルテの情報をどこまでデータ化するかは、クリニックによっても異なるでしょう。例えば開業して間もなければ、初診からの全情報をスキャンして電子カルテに取り込むことも可能でしょうが、開業から27年の同院は長く通っている患者が多く、すべての情報をデータに取り込むのは簡単なことではありませんでした。そのため、再診で受診した患者の基本情報をサマリーとしてカルテに入力し、それ以外の過去の履歴を参照したい場合は、紙カルテを使用するという方法を選択したそうです。

「糖尿病の合併症やアレルギーの既往歴なども記録する必要があったので、少し時間がかかりましたね。内科の患者さんは私が入力を担当し、眼科や循環器内科に関しては担当医が行いました。特に循環器内科は心臓カテーテルの治療履歴なども入力しないといけないので大変だったようです」

同院では2~3ヵ月周期で定期的に通院する人が多いため、そのタイミングでサマリーを作成。データ入力は診察の合間に行い、最終的に導入から2~3ヵ月で完了しました。

「作業する前は、入力する時間があるのか心配でした。でも実際にやってみたら隙間時間を使えたので、大変ではあったものの、予想よりは負担が少なかった気がします」

【ポイント2】紙カルテは継続して保管する必要あり

もう一つ、鈴木院長にとって予想外だったのが、紙カルテの収納スペースが減らなかったことでした。

「以前は電子カルテに切り替えたら、紙カルテが減ってその分他のことに使えるかなと思っていたんです。でも実際には、紙カルテを参考にすることもあるので処分はしませんでした。もちろん、新たに紙カルテが増えることはないという点では、良かったと思いますね」

過去の記録は診察の大きなヒントになる重要なものだけに、今後も併用して使う予定だと院長。予想と異なったとはいえ、紙カルテの必要性を認識する機会になったと捉えることもできるかもしれません。院長自身も紙カルテへの愛着を感じつつ、電子カルテのメリットを実感しているようです。

【前編まとめ】電子カルテを使って初めてわかることも

「準備期間のことや費用面の負担はありますが、そういうのを差し引いても、電子カルテには効率化という点でプラス面が大きいのではないでしょうか。当院では導入して良かったと思います」

最後にこう話してくれた鈴木院長。この記事を読んでいるドクターの中には、「紙カルテのほうが楽」と考えている人もいるかもしれません。もちろん紙には紙の良さがありますが、鈴木院長のように「使ってみたら、思っていたより楽だった」というケースもあるでしょう。

ちなみに同院の場合は、紙カルテを保管していた電動ラックが故障し、修理に出すのが難しかったことも導入を後押しするきっかけになったそう。医療のIT化が進む中で、いつ電子化するのか、そのタイミングも含めてぜひ本稿を参考にしてみてください。後編では、電子カルテ歴30年以上のクリニックが実践する、活用の極意に迫ります。(クリニック未来ラボ編集部)

※ドクターズ・ファイルによる「電子カルテの利用状況についての調査」。対象は、ドクターズ・ファイルを契約中の全国の医科・歯科クリニック305院。2020年7月27日~8月2日にインターネット調査にて実施。

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