電子カルテとは
電子カルテとは、従来は医師や歯科医師が紙カルテに手書きで記入していた、患者の氏名や生年月日など基本的な情報をはじめ、診療内容や経過といった患者に関する医療情報をデジタル形式で一元管理できるシステムのことです。
大きな特徴の一つに、情報がリアルタイムに管理・活用できることがあります。紙カルテは患者一人につき一部となっているため、誰かが使用しているとそれ以外のスタッフは使用することができません。しかし、情報が電子データとして一元管理された電子カルテの場合、複数のスタッフが同時に閲覧や記入が可能となり、業務効率化につながります。
そのほかにも、スムーズな情報共有、医療ミスの防止、コスト軽減など、電子カルテにはさまざまなメリットがあります。近年、大病院を中心に導入が進んでおり、クリニックでも、紙カルテから電子カルテに移行する ところが増えています。
電子カルテの導入率
実際、医療情報ポータルサイト「ドクターズ・ファイル」が実施した「電子カルテの利用状況についての調査」によると、9割以上のクリニックが電子カルテを導入していることがわかりました。
調査結果を医科・歯科別に見ると、医科では90.2%、歯科では94.8%が電子カルテやレセプトコンピューター(レセコン)を「導入している」と回答し、導入率の高さがうかがえます。
ちなみに前述したように、厚生労働省が2020年度に実施した調査では、一般診療所(医科)の電子カルテ導入率は49.9%。ドクターズ・ファイル利用者を対象にした本調査では、一般的な水準よりも高い導入率となっているようです。
電子カルテのメリット
近年、普及が進んでいる電子カルテには、主に以下の4つのメリットがあります。具体的に一つひとつ説明します。
電子カルテのメリット1:業務効率化
電子カルテには紙カルテと比べて、情報へのアクセシビリティ が高いという強みがあります。
紙カルテの場合、棚から紙カルテやレントゲン写真、検査結果などを探したり、棚に戻したりする必要がありますが、電子カルテは患者の診療情報がデータで一元管理されており、閲覧や検索が容易なため、そうした手間が不要になります。
また、カルテ記載用のテンプレートや定型文が登録可能なので、紙カルテよりも入力にかかる時間を軽減でき、結果的に医師やスタッフの業務効率の向上、引いては患者の待ち時間の短縮に役立ちます。
電子カルテのメリット2:リアルタイムな情報共有
紙カルテは一人しか閲覧や記入ができないため、自分の手元にカルテが回ってくるのを待たなければなりません。しかし、電子カルテは前述した通り、患者の診療情報がデータで一元管理されており、複数人で同時にアクセスできるため、情報共有にかかるコミュニケーションコストの削減につながります。
電子カルテのメリット3:ペーパーレス化
紙カルテの場合、患者数が増えれば増えるほど、物理的に管理する書類が増えていきます。そのため、紙カルテを保管するスペースが圧迫されていくと、管理も煩雑化しがちになり、業務効率が低下する要因に。
電子カルテの場合、患者情報はシステム上での保管になるので、院内のスペースを圧迫しません。その結果、紙の購入や、新たに追加するカルテの保管スペースの費用が不要となり、コスト削減につながります。加えて、紙と違って、カルテの破棄・紛失、経年による劣化のリスクがないのも、魅力の一つです。
電子カルテのメリット4:ミスの防止
電子カルテは、医療ミスのリスクを減らすことにも貢献します。
紙カルテは手書きなので、記録者による文字の書き間違いや転記での記載漏れ、読み間違いが生じることがあります。場合によっては、カルテの読み間違いにより現場が誤った判断をして医療ミスに発展するリスクもあります。
しかし電子カルテの場合、文字が読みやすいので、ほかの医師、看護師、事務員への指示の伝達がスムーズな上に、症状と投薬をチェックする機能なども備わっているものが多いので、医療ミスの防止に役立ちます。
電子カルテのデメリット
ここでは、電子カルテの4つのデメリットを具体的に一つひとつ見ていきます。
電子カルテのデメリット1:導入・運用コストが必要
電子カルテの導入には、初期導入費と毎年・毎月のランニングコスト、保守費用がかかります。初期導入費は、後述する「オンプレミス型」(院内にサーバーを設置)と「クラウド型」(院内にサーバーを設置せず、インターネット回線を利用)のどちらなのか、レセコン(レセプトコンピューター)と一体型かどうか、必要な機能、システムのカスタマイズなどによって変動しますが、相場は300万円前後と言われています。一般的には、オンプレミス型のほうがコストは高い傾向にあります。
中には無料の電子カルテも存在しますが、機能不足やセキリュティ面の不安など多くのデメリットがあり、スモールスタート以外での利用はあまりお勧めしません。
電子カルテのデメリット2:運用が軌道に乗るまで時間がかかる
電子カルテは豊富な機能を有しているので、便利なシステムである反面、操作に慣れるまでに時間がかかるケースがあります。PCなどデジタルツールに強い医師や看護師、事務員なら飲みこみは早いかもしれませんが、そのようなクリニックばかりではないでしょう。そのため、教育や研修などのサポートが必要となり、システムの運用が軌道に乗までに多くの時間を要する可能性があります。
電子カルテのデメリット3:セキリュティーリスクがある
電子カルテに蓄積されている患者情報は、非常にセンシティブな内容です。もし漏洩すると、大きなトラブルに発展しかねません。外部のサイバー攻撃から守るためのセキュリティー対策はもちろんのこと、関係者による不正アクセスや情報漏洩など内部不正もしっかり防ぐ必要があります。
電子カルテのデメリット4:システム障害のリスクがある
電子カルテのデメリットとして、システムダウンや停電、パソコンの故障などのトラブルに弱い点が挙げられます。これらの要因によって、電子カルテを使えなくなると、患者への診療が滞る可能性があります。
いざというときにスタッフが慌てないよう、緊急時は紙カルテで対応するなど、日頃から万一の事態に備えて、院内でルールを決めておくことが大切です。
電子カルテの「オンプレミス型」と「クラウド型」のメリット・デメリット
電子カルテを導入する際、多くのドクターが悩むのがどのタイプにするかということ。大きく分けて、電子カルテには「オンプレミス型」と「クラウド型」の2種類があり、両者はデータを管理するサーバーの置き場所が異なります。
オンプレミス型の電子カルテのメリット・デメリット
<メリット>
- 院内に専用サーバーを設置し院内のみで運用するためセキュリティーレベルが高い
- 状況に合わせてカルテをカスタマイズできる
- メンテナンスなどのサポートが手厚い
<デメリット>
- サーバーなど専用機器を購入して院内に設置する必要があり、イニシャルコスト (初期費用) が高くなりやすい
- システムの保守費用、メンテナンス費といったランニングコストがかかる
- メーカー担当者とのやりとりの手間が発生する
クラウド型の電子カルテのメリット・デメリット
<メリット>
- 院内にサーバーなど専用機器を設置せずに、業者のサーバー上のシステムを利用するため、イニシャルコストが低い
- システムのバージョンアップやデータのバックアップが自動で行われるため手間が少ない
- データが院外に保管されているため災害に強い
<デメリット>
- サーバーの利用料といったランニングコストが毎月発生し、長期的に見ると、オンプレミス型よりもコストがかかる可能性がある
- カルテをカスタマイズしづらい
このように両者ともメリットとデメリットがあり、どちらかが優れているというわけではありません。
電子カルテの種類別の導入率
これらを踏まえた上でアンケート結果を見ていくと、電子カルテを「導入している」と回答したドクターのうち、40.2%がオンプレミス型、12.8%がクラウド型を使用しているという結果に。
オンプレミス型は電子カルテが普及し始めた頃から使われており、長年同じ種類の電子カルテを使用し続けているドクターが多いことが、この結果につながっているのかもしれません。
一方のクラウド型は、医療分野のクラウド解禁に伴い2010年以降に普及してきたサービスです。それまでは医療情報をインターネット上で扱うことは難しいと考えられてきましたが、セキュリティー面の向上やガイドラインの整備に伴い、選択肢の一つとなりました。
数字だけ見るとオンプレミス型に軍配が上がった形ですが、注目したいのが、何を使っているか「わからない」と回答した人が全体の半数弱を占めている点です。それぞれの電子カルテの特徴を理解し、自院に合ったものを選択しているドクターは意外に少ないのかもしれません。
電子カルテの導入の決め手
現在国内では、多種多様な電子カルテシステムが販売されており、商品によって特色や長所はさまざまです。そうした中で、ドクターたちはどんな視点で選んでいるのでしょうか。
結果はご覧のとおり、メーカーによるサポートの手厚さが重視されていることがわかります。使用開始前の「導入サポート」以上に、トラブル対応やシステムの改修といったメンテナンスを行う「保守サポート」が重視されていることから、導入後のスムーズな運用を考慮しているドクターが多いようです。
そしてそれに続くのが、「操作性のわかりやすさ」。パソコン操作に苦手意識のあるドクターはもちろん、看護師などのスタッフも使うものですから、誰にとっても簡単に操作できることが重視されるのは当然といえるでしょう。
また、導入のタイミングではコストや体制づくりなどの負荷がかかるために、提供するメーカー担当者との信頼関係も欠かせません。「営業担当者の人柄」が上位に入っているのは、その表れといえます。 一方で、「イニシャルコスト」「ランニングコスト」は5、6位という結果に。導入にはある程度費用がかかっても仕方ないと考えている人が多いのかもしれません。
電子カルテの乗り換え検討時の理由
いざ電子カルテを導入したものの、他の製品への乗り換えを検討するドクターも少なくないようです。そこで「乗り換えを検討した理由」を尋ねたところ、最も多かったのは「ランニングコストが高い」という回答でした。興味深いのは、導入時には優先順位としてそこまで高くなかったコスト面が重視されていることです。
続いて多かった「カスタマイズ性が低い」という理由も、同じく導入時の決め手にはなりづらいものでした。ですが、いざ使い始めてみると自院の診療スタイルに合わせて「項目を追加したい」「画面を見やすくしたい」といった要望が出てくるもの。4位の「セキュリティーが不十分」という声に関しても同様で、実際に使用してみたからこそ、わかることだといえます。
【まとめ】診療に欠かせないものだからこそ、理解を深めて導入・活用を
今回のアンケートではすでに9割以上のクリニックが電子カルテを導入しているという結果が出ていますが、医療現場のIT化を推進する一環として厚生労働省も電子カルテの普及を推進しています。今後も新規開業の医療機関を中心に、導入するドクターが増えていくのではないでしょうか。
一方で、あえて電子カルテを導入せず、従来の紙カルテを使用しているクリニックもあるでしょう。その理由としては「紙カルテなら災害時にも使える」「入力するより書くほうが早い」など、紙カルテのメリットを重視していることが挙げられます。また「診療中、先生がパソコンの画面ばかり見ていて、冷たい印象を受ける」といった患者の声に耳を傾け、電子化をデメリットと捉える人もいるようです。
電子カルテと紙カルテ、どちらが優れているということではありませんが、あるクリニックでは、電子カルテの単語登録機能を活用して、診察中のカルテへの入力時間を減らしているそうです。工夫次第では、今後電子カルテの強みをより一層生かすことができるのではないでしょうか。
せっかく電子カルテを導入するのであれば、納得して選び、有効活用したいもの。そのためには、活用法を含めて情報を集め、理解を深めることが大切といえます。ぜひ、今回のアンケート結果を、カルテ選びやツール活用のヒントにしてみてください。(クリニック未来ラボ編集部)
※医療ポータルサイト「ドクターズ・ファイル」による「電子カルテの利用状況についての調査」。対象は、ドクターズ・ファイル契約中の全国の医科・歯科クリニック305院。2020年7月27日~8月2日にインターネット調査にて実施。