事例でひもとく!スタッフが生き生きと働ける環境づくりのポイント

スタッフが生き生きと働ける環境づくりのポイント

「スタッフの人柄や対応」は、クリニック全体の印象を左右する重要なポイントの一つ。クチコミでも「笑顔のスタッフさんが親切で感じがいい」「スタッフさんがしっかりと名前を覚えていてくれるのでうれしい」といったスタッフを評価する声が寄せられることも多く、患者にとってクリニック選びに大きな影響を与える要素となっています。

一方で、せっかく採用したスタッフがすぐに退職してしまうなど、スタッフ確保に苦労した経験があるドクターも多いのではないでしょうか。スタッフが定着しないと、採用コストが増えたり、面接・選考の対応で業務時間が圧迫されたりするなど、経営観点でのマイナス影響が出てきます。さらに、スタッフが頻繁に入れ替わってしまう状況に、かかりつけ患者が不安感を抱く可能性も……。

そこで今回は、スタッフが生き生きと働ける環境をつくるために何が必要かを考えた上で、実際にスタッフがパフォーマンスを発揮できるための環境づくりに取り組んでいるクリニックの事例を紹介します。

転職理由から読み解く「生き生きと働ける環境づくり」のヒントとは?

スタッフが生き生きと働ける環境のポイントはいろいろ考えられますが、特に重要となるのは、「モチベーションを左右するやりがい」と「パフォーマンスに影響する働きやすさ」の2つの観点でしょう。

この場合の「やりがい」とは、自分の意見や希望が受け入れられ、仕事の意義や重要性に対して説明してもらえることで「自分ならできる」という前向きな気持ち(自己効力感)で満たされる状態をいいます。そして、「働きやすさ」はその自己効力感に加えて、相談できる体制や福利厚生など雇用管理がなされた場合に高まる傾向があるようです。

スタッフが早期退職を決断する背景に、これら「やりがい」「働きやすさ」について入職前後でギャップを感じた可能性があります。実際、厚生労働省の「令和2年雇用動向調査」によると、前職を辞めた理由として「職場の人間関係」「労働時間・休日などの労働条件」「給料など収入の少なさ」などが上位に挙がっていました。

「労働条件が悪かった」「人間関係が好ましくなかった」は「パフォーマンスを左右する働きやすさ」に関する不満、「仕事の内容に興味が持てなかった」のは「モチベーションを左右するやりがい」を実感できなかったという不満といえるでしょう。裏を返せば、スタッフが仕事や職場に対して「やりがい」「働きやすさ」を感じられるような環境づくりを行うことで、職場定着率が高まるといえそうです。

なお、「給料など収入が少なかった」という収入に関する不満は、クリニックの体制や経営状態の影響を受けがちなため、容易に改善するのは難しいかもしれません。一方、人間関係や労働条件のような内的要因が大きい項目に関しては、スタッフが働き出してから感じるギャップを埋める工夫により、ある程度は解決が期待できそうです。そのためにも採用前に自院の方針やドクターの考え、また職場の人間環境をしっかりと伝え、実際に働くイメージを持ってもらうことが大切といえるでしょう。

以上を踏まえて、実際にクリニックのドクターが取り組んでいる2つの事例を見ていきます。

【事例1:おもて整形外科・骨粗鬆症クリニック】スタッフルームの活用や2人1組のバディ制度。ママスタッフが安心して働ける環境づくりを推進

スタッフの多くが子育て中のママである「おもて整形外科・骨粗鬆症クリニック」。表一岐院長は、勤務医時代から、仕事をしたいのにお子さんが小さいために働くことを諦めるスタッフを多く見てきて、残念に思っていたそう。だからこそ、子育て中の女性が生き生きと活躍できる職場環境の大切さを強く感じていたといいます。

そこで開院の際に、診察室とリハビリテーションスペースがある建物1階とは別に、院内階段でつながる2階にスタッフやその子どもたちが自由に使える「スタッフルーム」を設置。子どもたちが宿題や食事をしたり、DVDを見たりして過ごせるこの空間は、院内のバックヤードを通らないとたどり着けないため、外部から人が入る心配はありません。

また、子どもに何かあったとき階下で働くスタッフが様子を見に行けるよう、受付やリハビリのスタッフは一人が抜けても業務が滞らないような2人1組で仕事を行うバディ制度を採用しています。さらに、必要なときに職域を超えて互いの業務をサポートし合えるようにと全員が同じ制服を着用するなどの工夫を凝らしています。

子どもから高齢者まで幅広い年齢の患者が訪れる同院。出産や子育てを経験した女性の対応力を重要な能力だと考え、「働きやすさ」を実感しながら女性が活躍できる職場づくりに取り組んでいます。

【事例2:つかさ歯科クリニック】本音を引き出す定期的な個別面談を実施。出てきた意見に真摯に対応し信頼関係を構築

スタッフの働きやすい職場環境を実現するには、スタッフが日々の業務で困っていることや不満を一人でため込まない場づくりが不可欠。しかし、参加人数の多い全体ミーティングのみでは、受け身の姿勢になって発言できないスタッフが出てきてしまう場合もあり、不満の解消は難しいと「つかさ歯科クリニック」の阿部武司院長は考えていました。

そこで同院では、全体ミーティングに加えて定期的に個別面談を実施しています。個別面談では少しでもスタッフの本音を引き出しやすくなるように、院長自身が意識的に口調をカジュアルなものにするなど親しみやすい空気をつくっているそう。さらに、スタッフの話を否定することなく真摯に耳を傾けることで、給料や休暇への要望や、「誰々が仕事に不安を感じていそうだ」という意見、業務改善に関する提案などが出てくるようになったといいます。

また、「同僚とのコミュニケーションに関する不安」といった、スタッフが真面目に考えて話してくれた課題を指摘する意見に対しては、阿部院長は必ず改善策を出すようにしているそうで、業務改善によりみんなが働きやすくなるだけでなく、「自分の意見が受け入れられている」と提案したスタッフ本人が安心できることにもこだわっているとのこと。この取り組みにより、スタッフたちの日々の不満や不安を取り除くことができ、スタッフ間の前向きな意見交換の機会も増えるなど、良好な職場環境につながっているそうです。

【まとめ】ドクターとスタッフの信頼関係が深まる取り組みが、環境づくりの鍵

ここまで2つの事例を紹介しました。これらで共通しているのは、ドクターとスタッフがコミュニケーションを取りながら信頼関係を築いていくことで、「働きがい」や「働きやすさ」をスタッフが実感できる取り組みとなっている点です。また、スタッフを適切に評価したり、スタッフの納得感を引き出したりできるように、運用面でもさまざまな工夫がされています。

スタッフの労働環境に意識を向けてモチベーションの維持や良好な関係構築に取り組むことは、クリニックの利益として還元されていくことが期待できます。ドクターとスタッフの双方が幸せに働いていくために、本記事を参考にしてみてください。

<執筆者プロフィール>
矢野 佑子(やの・ゆうこ)
ライター。福岡県出身。国内飲料メーカー、外資系ワインメーカーで営業職を経験。教育出版企業に転職後、医療や子育て情報誌の制作に携わり、ドクターを始め医療従事者を多く取材。出産を機に退職し、復帰後は個人ライターとして『ドクターズ・ファイル』のクリニック・病院のコンテンツ制作に関わる。