コロナ禍でも収益を維持し、患者満足度を高める方法【コンサルタントに聞く!対策編】

コロナ禍の経営対策

「コロナ禍によるクリニック経営への影響とは?【コンサルタントに聞く!現状分析編】」の記事では、患者の受診意識・行動の変容と、それに伴う受診数の変化および現状について分析しました。医療機関全体で患者数は回復しながらも、院内感染のリスクを恐れる患者が少なくない中、そのニーズをいかにすくい上げ、クリニックの経営を守っていけば良いのでしょうか。

この「対策編」では引き続き、クリニック運営の実情とノウハウに精通する経営コンサルタントによる解説のもと、その具体的な施策を紹介します。

株式会社船井総合研究所ヘルスケア支援部マネージング・ディレクターで、歯科医院活性化のコンサルティングを得意領域とする砂川大茂氏は、すべての診療科に共通する有効な施策として、「院内の感染防止対策の徹底」「院内のIT化」「重点治療の整理」の3点を挙げます。

※本稿の初出は、「〈対策編〉コロナ禍でも収益を維持し、患者の満足度を高められるクリニック運営のポイントとは?」(「患者ニーズ研究所ONLINE」2020年11月6日配信)です。再掲載にあたり一部加筆・編集しています。肩書きやデータは本稿初出時のものです。

【ポイント1】院内の感染防止対策の徹底する

「現状分析編」で紹介した患者アンケートの結果が示すとおり、患者が医療機関の受診を躊躇する最大の要因は、院内感染のリスクがあることです。そのため、発熱患者の待合分離やウェブサイトなどを通じた混雑具合のお知らせ、院内の消毒強化、スタッフ教育といった感染防止対策の徹底は、集患のための重要かつ基本的な施策といえます。

ただ、新型コロナウイルス感染症の拡大開始から半年以上が経過した現在、そうした対策はほとんどのクリニックで実施されているでしょう。同研究所ヘルスケア支援部リーダーで、内科のコンサルティングを専門とする石原春潮氏は言います。

「院内感染防止対策は、今やどのクリニックでも徹底されていますので、集患における差別化のポイントという意味では、重要度がかなり低くなってきています。そしてその分、後に述べる残り2つのポイントの重要度が高まっているのです」(石原氏)

【ポイント2】院内のIT化を進める

「今、医療機関は患者に怖がられてしまい、『できるだけ建物内にいたくない』というのが端的な患者心理です」と石原氏。患者の多くは、院内での待ち時間を極力減らし、必要なときだけ中へ入りたいと望んでいるわけです。

そうしたニーズに応えるための施策として真っ先に挙げられるのが、院内のIT化。その代表格が、時間帯予約体制への予約システムの切り替えです。

ご存じのドクターが多いと思いますが、時間帯予約体制について簡単に説明します。

時間帯予約制

そうすることで、予約した患者の院内での待ち時間を最長30分に抑えることができ、外出も可能になります。また、時間帯ごとの繁閑の差を平準化できるため、スタッフの負荷軽減にもつながります。

「今回のコロナ禍を通して痛感したのは、患者の不満は、待ち時間の長さではなく、待ち時間がわからないことに本質がある、ということです。時間帯予約体制に対する評判は、取り入れたどのクリニックでも非常に良く、集患に直結する施策として急速に浸透しています」(石原氏)

ウェブ問診システムの導入もまた、時間帯予約体制と同様のメリットを有しています。患者がパソコン・スマートフォンなどを使い、自宅や外出先で来院前に問診票を入力できるため、院内の滞在時間とスタッフの負担を減らすことができます。

「患者と直接やり取りせずに問診を完了させるウェブ問診システムは、非常に生産性の上がるツールです。従来のやり方を変えたくないということで、これまでは導入に消極的なクリニックが多かったのですが、その流れもコロナ禍を機に大きく変わりつつあります」(石原氏)

さらに、滞在時間を減らすのに有効的な施策であるオンライン診療についても、政府は2020年4月、限定的にオンライン診療による初診診察を解禁し、恒久的な診療形態とする方針を打ち出しています。そうした新たな施策に対し、抵抗感を持たず、積極的に取り組む姿勢が大切だ、と石原氏は強調します。

【ポイント3】重点治療の整理をする

3つ目の施策は、重点治療の整理です。前編で述べたとおり、患者の受診数は全体として減ったとはいえ、自費診療や必要火急の症状については、コロナ禍の前とほぼ変わらなかったり、逆に増えたりしています。そこで、まずは自分のクリニックにおいて、どんな処置が減っているか、増えているかを見極め、それを踏まえて対策を講じる必要がある、と砂川氏は言います。

「クリニックとして得意な領域を持つことは大切ですが、このコロナ禍でも業績を維持・向上できているクリニックは、一つの領域に頼らず、あれもこれもできる、とバランス良く売上を構成できているところが多いです。日々の業務内容や売上のデータを見れば、コロナ期間でも受診数が変わらない、あるいは増えている領域(分野)は、どんなクリニックにも必ずあります。そういう複数の領域を見極めて重心をかけ、患者を増やしていくのです」(砂川氏)

砂川氏は、そのようにしてポートフォリオをしっかり組むこと、つまり経営資源を一つの得意な領域のみに集中させるのではなく、複数に分散させることで、変化に対応しやすい、安定した収益構造にすることが何より重要だ、と力説します。

「同時に、日繰りのキャッシュ管理も非常に大切です。今日はどのぐらいの利益が出たか、といった経営数値をしっかり把握して、絶対にキャッシュアウトしないよう、お金の管理を徹底する必要があります。今回のような危機は、1990年代以降、バブル崩壊、金融危機、リーマン・ショックと約10年ごとに訪れていますが、結局、その都度で生き残ってきたのは、キャッシュを持っている企業だけでした。クリニック運営においても、まったく同じことがいえると考えています」(砂川氏)

以上、患者の満足を高められる3つのポイントを紹介しました。ただ、これらを講じた上でもう一つ、欠かせない施策があります。情報発信、特にウェブマーケティングです。せっかくクリニックとしてさまざまな施策を打ち出しても、それを患者にきちんと伝えることができなければ、集患にはつながらないからです。

クリニックに限らず、企業の経営が厳しくなったとき、広告などのマーケティング費用は、どうしても削減されがちです。しかし、砂川氏は、費用を絞るべきところは絞り、必要なところは逆に増やす、というメリハリが大切だ、と言います。

「受診数が変わらない、あるいは増えている複数の領域について、広告費を集中的に投下したり、ホームページの見せ方を変えて感染症対策や専門性、強みをアピールしたりして、さらに伸ばしていくことが肝要です」(砂川氏)

患者のニーズや市場の変化を読み取り、時流に適応することが大事

ここまで紹介してきたように、ウィズコロナ、アフターコロナ時代のクリニック運営に求められるのは、ひと言でいえば「時流適応」。すなわち、患者のニーズや自身の得意領域を見定めつつ、変化を受け入れて自らを積極的に変えていくことだといえそうです。

「1~2年耐えればコロナは終息し、元の経営状態に戻れるだろう、という楽観的なシナリオを思い描いているクリニックの院長や経営者がいるとしたら、その考えは危険かもしれません。今回のコロナ禍を機に、患者の意識と行動は明らかに変容したからです。そして、離れてしまった患者は、なかなか戻ってきません。そういう現実を受け止めつつ、コロナ禍レベルの脅威はいずれまた来るという最悪の想定のもとに、プランB、プランCをしっかり用意して、新しい市場に適応していくべきだと思います」(砂川氏)

その際には、やはり予約システムやオンライン診療など、院内のIT化が一つの重要なポイントになる、と石原氏は改めて指摘します。

「クリニックの開業件数は年々増加しています。そしてその中からは、徹底したIT化を行う医療機関も出現し、これまでの地域の競合バランスの在り方も随分と変わってきました。そういう事例を多数見てきた立場からいえば、そうしたクリニックが近所に開業してからIT化を始めたのでは遅すぎます。コロナ禍のような危機だけでなく、外部環境の変化は常に高確率で起こり得るものとして、今から院内のIT化を進めていくべきです」(石原氏)

保守的な姿勢を改め、変化に強い組織づくりをめざす

もちろん、従来のクリニック運営から脱却し、改革を推し進めていく上では、変化に対応できる人材の確保と育成が欠かせません。砂川氏は言います。

「教育でカバーできる部分もありますが、基本的には採用がとても大事だと思っています。採用の際、『こういうクリニックにしていきたい』『そのためにこんな取り組みや時間の使い方をしてほしい』という理念や方針を伝え、それをしっかり理解してくれる人材を集めていくことが大切です。実際、コロナ禍をきっかけに院長とスタッフが一丸となったことによって、時間帯予約体制の導入など、改革に成功したクリニックは意外に多いのです。

コロナ禍によって、一時、医療機関からの人材の流出が問題となりました。しかし、今後求められる変化に強い組織づくりのためには、今述べたように採用から見直すべきですから、逆にポジティブに捉えることもできます。一時期よりは募集に応じる人材が増え、採用しやすくなっています。そういう意味でコロナ禍は、これまでの保守的な姿勢を改め、経営を強化する大きなきっかけになり得るのではないでしょうか」(砂川氏)

<執筆者プロフィール>
松島 拡(まつしま・ひろむ)
フリーライター。雑誌やネットメディアを中心に、社会・経済・学術・文化など、幅広い領域の記事を執筆。また、IT企業を主な顧客として、製品・サービスの導入事例やホワイトペーパー、イベントレポートなど、企業の営業・マーケティング活動を支援するコンテンツの制作にも多く携わる。

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