コロナ禍によるクリニック経営への影響とは?【コンサルタントに聞く!現状分析編】

コロナ禍のクリニック

新型コロナウイルス感染症は、医療機関への「受診控え」など、患者の受療行動に大きな変化をもたらしました。

医療機関もまた、感染リスクや人手不足といった問題を抱えながらも安定した医療を提供するため、医療DXの推進など、経営の変革を迫られたところも少なくなかったのではないでしょうか。この「現状分析編」では、第1波による当時の影響について、アンケート調査と専門家による分析をお届けします。

※本稿の初出は、「〈現状分析編〉コロナ禍でも収益を維持し、患者の満足度を高められるクリニック運営のポイントとは?」(「患者二―ズ研究所ONLINE」2020年10月30日配信)です。再掲載にあたり一部加筆・編集しています。肩書きやデータは本稿初出時のものです。

新型コロナウイルスの流行がきっかけとなった、患者心理の変化

新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって、医療機関を利用することに対する患者の意識と行動は一変しました。クリニック運営に携わる方の多くが、それを強く実感していることでしょう。

その急激な変化は、データとしてもはっきりと示されています。緊急事態宣言が発出された2020年4月に、医療ポータルサイト「ドクターズ・ファイル」が実施した患者へのアンケート調査(※1)では、「新型コロナウイルスが流行して以来(2020年1月以降)、医療機関にかかりづらくなったと感じますか?」との問いに対し、対象者の53.2%が「そう思う」、26.8%が「ややそう思う」と回答、合わせて8割の人が「医療機関にかかりづらくなった」 と答えています。

患者の受療行動の変化

また、実際に医療機関の受診を「我慢した」「受診したが迷った」「やや迷った」と答えた人のうちの92.3%が、その理由として「院内感染のリスクがあるから」と回答しています。やはり新型コロナウイルスの感染力の強さは、「病院へ行くと感染するのではないか」という大きな不安を人々に抱かせたようです。

患者の通い控えにより、打撃を受けた医療機関は9割以上!

そうした患者の受診意識と行動の変化による影響は、当然ながら医療機関の運営状況にも如実に現れました。医療ポータルサイト「ドクターズ・ファイル」が2020年5月に行った開業医へのアンケート調査(※2)によると、2020年4月の医院の運営における新型コロナウイルス感染拡大の影響について、対象者の95.8%が「影響を大きく受けている」「影響を受けている」とし、うち91.2%が「患者受診数が減った」と回答しました。

医療機関の経営への影響

さらに、「患者受診数が減った」と答えた対象者のうち、「2~3割減った」と答えたのは48.1%と最も多く、次いで「4~5割減った」28.8%、「6~7割減った」9.6%、「8割以上」3.8%となっています。つまり、ほとんどの医療機関が、大なり小なりコロナ禍の影響を受け、過去に経験のないほど厳しい状況に置かれたところも少なくなかったのが実情です。

厳しい状況の中、患者の受診数を維持できたクリニックもあった

しかし、そうした現実の一方で、従来の受診数を維持できた、あるいは逆に増やすことのできたクリニックも、実は少なからずありました。第一波のピークである4~5月を底として、受診数は全体的に回復してきているとはいえ、世界的な新型コロナウイルスの広がりはこの先も続くと予想されます。それを乗り越えていく上で、コロナ対応に成功したクリニックの事例から学ぶべきことは多いはずです。

そこで今回、クリニック運営の実情とノウハウに精通する経営コンサルタントの分析・解説を交え、ウィズコロナ時代において患者の満足度を高められる具体的な施策について、「現状分析編」と「対策編」の2回に分けて考察します。

まず今回の「現状分析編」では、株式会社船井総合研究所ヘルスケア支援部マネージング・ディレクターで、歯科医院活性化のコンサルティングを得意領域とする砂川大茂氏と、ヘルスケア支援部リーダーで、内科のコンサルティングを専門とする石原春潮氏をお招きし、クリニックにおける受診数の変化と現状を振り返ってみましょう。石原氏はクリニックの受診数の差異を生んだポイントとして、「1.診療科」「2.年齢層」「3.診療内容」の3つを挙げます。

第一波襲来からこれまでを振り返る。診療科、年齢層、診療内容による影響の違い

1.診療科

砂川氏はまず、受診数の減少幅と推移は診療科によってかなりばらつきがある、と指摘します。

群を抜いて影響の大きかったのが小児科で、一時60%以上減少し、9月下旬の現時点でいまだに患者の戻りが芳しくありません。次いで耳鼻咽喉科が40~50%減少、加えて夏場は閑散期のため戻りが遅かったようです。それに続くのが内科や整形外科、歯科、眼科などで、4~5月に20~30%減少しましたが、6月から回復傾向となり、今はほぼ例年通りとなっています」(砂川氏)

2.年齢層

次に、全診療科に共通して受診数の差異を生む要因となったのが、患者の年齢層です。石原春潮氏は次のように言います。

全体として高齢者と小児が圧倒的に減ったため、当然、もともとその年齢層の患者の多いクリニックは、受診数を大きく減らしました。これは、2~3月頃のメディアの報道がかなり影響したと考えられます。

それに対して若年層は、情報収集能力が高く、院内感染対策や予約体制の整っているクリニックを探し出す力を持っています。そのため、そうした対策を行っていたクリニックは、むしろコロナ禍の前より若年層の患者を増やすことができたのです」(石原氏)

3.診療内容

3つ目のポイントは診療内容です。砂川氏によると、全体として保険診療の症状の受診数は減ったものの、自費診療の症状の受診数はコロナ禍前とほぼ変わらなかったか、逆に増えたケースすらあったということです。

「自費診療の割合が50%以上のクリニックに関しては、昨対比で売上が上がった、というデータがあります。保険診療の売上が落ち込んだ分を自費診療に力を入れてカバーし、結果としてコロナ禍前より業績を伸ばしたクリニックは少なくありません」(砂川氏)

加えて、不要不急の症状の受診が減った一方、必要火急の症状の受診に関してはあまり変わらなかったと言います。

「たとえば内科で言うと、定期検診での受診率の高い胃カメラの受診数は激減しましたが、血便や下血などの症状がきっかけで受診するケースの多い大腸カメラについては受診数があまり落ちなかった、という傾向が見られます」(石原氏)

「美容皮膚科ではしみやしわのケア、眼科ではICLの受診数が増えました。不要不急なのになぜ、と思われるかもしれませんが、おそらくこれは、患者がダウンタイム(施術後、体が元の状態へ戻るまでの期間)を意識したからでしょう。コロナ禍で人に会わずに済む期間を有効利用しよう、という人が多かったものと考えられます」(砂川氏)

そうした現状分析を踏まえ、続く「対策編」では、患者の満足度を高め、クリニック運営を守っていくための施策を紹介します。

※1 ドクターズ・ファイルによる「新型コロナウイルス感染拡大による医療機関の受診意識への影響」についてのインターネット調査。調査対象は、全国主要都市に住む25~69歳の男女500人。2020年4月に調査実施。
※2 ドクターズ・ファイルによる「新型コロナウイルス感染拡大における医院運営への影響とその対策」についてのインターネット調査。調査対象は開業医、有効回答数は119人。2020年5月に調査実施。

<執筆者プロフィール>
松島 拡(まつしま・ひろむ)
フリーライター。雑誌やネットメディアを中心に、社会・経済・学術・文化など、幅広い領域の記事を執筆。また、IT企業を主な顧客として、製品・サービスの導入事例やホワイトペーパー、イベントレポートなど、企業の営業・マーケティング活動を支援するコンテンツの制作にも多く携わる。

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