オンライン診療で患者が抱く不安と期待とは?患者調査レポート【前編】

オンライン診療

スマートフォンやパソコン、タブレット型端末などの情報通信機器を介して、医師が患者の診察や薬の処方をする「オンライン診療」。待ち時間の短縮や通院の負担を軽減できるため、離島やへき地などの遠隔地はもちろん、都市部でのニーズも高まっています。

オンライン診療は原則として、初診を除いた2回目以降、医師と相談の上で選べる診療方法として運用されてきました。しかし新型コロナウイルス感染症の拡大により、厚生労働省は2020年4月、医療機関内における院内感染予防の一環として、初診から電話やオンラインを活用した診療を認めることを決定。

この特別措置は、新型コロナウイルス感染症が収束するまでの間の時限的・特例的なものでしたが、2021年6月、新たな動きがありました。政府は規制改革の実施計画を閣議決定し、2022年度から、かかりつけ医による診療を原則に、初診からのオンライン診療を恒久的に認めることとしたのです。

コロナ禍で広がりを見せるオンライン診療ですが、参入している医療機関はまだ少なく、患者側はどのような不安と期待を抱いているのでしょうか。

医療ポータルサイト「ドクターズ・ファイル」では、「オンライン診療の利用状況に関する調査」(※)を実施。前後編に分けて、結果の詳細をお伝えします。まず前編では、利用状況やオンライン診療に対する人々の印象をひもといていきましょう。

※本稿の初出は、「〈前編〉注目のオンライン診療、患者が抱く不安と期待とは?ー患者アンケート調査ー」(「患者ニーズ研究所ONLINE」2021年7月2日配信)です。再掲載にあたり一部加筆・編集しています。肩書きやデータは本稿初出時のものです。

約9割が「利用したことがない」と回答。年代別に見ると、若年層の利用率が高め

オンライン診療の利用率

アンケート回答者の約9割が、オンライン診療を利用したことが「ない」と回答。規制緩和により利用しやすくなったとはいえ、多くの人にとってまだなじみの薄いものであるのが実情のようです。ただ、利用したことが「ある」と回答した人を年代別に分類した結果を見てみると、ある特徴が。20・30代男性の利用率が高く、30%以上が利用したことが「ある」と回答しています。

他の年代の利用率を見ると、40代は11.8%、50代は8.6%と慎重な姿勢が浮き彫りになりました。20・30代といえば、スマートフォンやタブレット型端末などの扱いにも慣れていて、毎日を忙しく過ごす人が多い世代です。そういった若年層にとって、オンライン診療は受け入れやすい医療サービスなのかもしれません。

利用方法など「なんとなくわからない」がハードルに。診療の質に対する不安の声も

オンライン診療を利用しない理由

次に、利用に至らなかった理由を探ってみましょう。「希望する医療機関がオンライン診療に対応していなかった」「受診したい診療科が対象外だった」など、患者側の希望に沿わないケースのほかに、セキュリティー対策への不安や端末操作への苦手意識といったハード面に関連する懸念が妨げとなっていることがわかりました。

中でも目を引くのが、「利用方法がよくわからなかった」という理由です。この理由を挙げる人の割合は、対象となった20代から50代の全世代でそれぞれ20%以上を占めます。つまり、年齢を問わず「よくわからない」といった理由から、利用をためらう人が一定数いるということ。確かに、どれだけ良いサービスだと聞いても、端末の操作に自信があっても、利用方法がよくわからなければ、最初の一歩は踏み出しづらいものです。また、「十分な医療が受けられるか不安があった」といった声も多く寄せられました。「画面越しであっても、対面時と変わらない診療を安心して受けたい」といった、患者側の率直な心情がうかがえます。

非利用者でも関心度は高め。普及のカギはわかりやすさと不安の払拭

一方で、今まで利用したことがない人のうち、「利用してみたい」と回答したのは約7割にも。利用には至らずとも、関心を持つ人は多いことがわかります。

一つ前の質問で、利用方法を含め、オンライン診療に対する「わかりにくさ」が、利用する上でのハードルとなっていることがわかりましたが、それを解消すれば、利用したいと思う人が取っかかりやすくなると考えられます。日頃より、メリットとともにオンライン診療の対象となるケース、利用するための手順、事前に準備しておくべきものなどといった基本情報を正しく伝えていくことが大切です。対面診療に遜色のない診療をオンラインでも実現するため、医療機関側の創意工夫も、今後一層求められてくるでしょう。

利用者の約8割がメリットを実感し、高い満足度を示す結果に

オンライン診療の満足度

ここからは、実際にオンライン診療を利用したことがある人を対象に聞いていきます。利用者にはオンライン診療はどのように映ったのでしょうか。

特筆すべきは、76.8%の人が対面診療と比べても満足度の高い診療が受けられたと回答したことです。利用者の中にも、初めて利用するときは、期待と併せて多少の不安を覚えたという人は多いでしょう。そんな不安があることが、かえって「実際に使ってみたら、思った以上に良いものだった」と感じやすくさせたのかもしれません。つまり、今は不安があって利用に至っていないという人も、最初の一歩さえ踏み出してしまえば、満足のいく診療を受けられる可能性があるということです。

一度利用すれば良さがわかる? 「継続利用したい」の声が約9割も

オンライン診療を継続利用したいか?

同様に、今後もオンライン診療を利用したいかという問いに対しても、高い満足度がうかがえます。結果を見ると、「新型コロナウイルス感染症の流行が続いていれば、利用してみたい」「新型コロナウイルス感染症とは関係なく、利用してみたい」が90.2%と、多くの人が高い継続利用の意向を示しました。

オンライン診療の場合、医師による診療だけでなく、電話などでの薬剤師の服薬指導や、郵送による薬の受け渡しも利用できるため、医療機関はもちろん薬局へ出向く手間もなくなります。慢性疾患の治療中であれば、継続して処方されている薬を出してもらうことも可能です。オンライン診療は利用者にとって「続けて利用したい」と思える利点をさまざま持っているのです。

対面診療と遜色ないと感じた人多数。待ち時間や感染リスクの軽減も魅力

オンライン診療のメリット

それでは、オンライン診療のメリットを具体的に見ていきましょう。

最も多かったのが、「待ち時間のなさにメリットを感じた」という回答(45.2%)。年代別に見ると、30代では50.0%、40代女性では57.3%に上り、高いポイントを示しました。この世代は働き盛りで育児に励む人も多く、日々忙しく過ごす中で、通院や診療に割く時間を減らせ、都合の良い場所で受診できる点が、より高い満足度につながったのだと推察されます。

そして、続いて「対面と比較しても医療提供の内容は満足のいくものだった」「対面と同様、またはそれ以上に相談しやすかった」と答えた人の多さを見ても、利用したことのない人が懸念する対面診療との質の差については、利用者目線に立つとそこまで感じられるものではないといえるでしょう。端末操作や通信状況に戸惑うケースも、実際はあまり多くない様子です。

また、34.8%が「感染予防にメリットを感じた」と回答していることからも、オンライン診療の規制緩和は世間のニーズに即したものだったといえます。

【前編まとめ】

調査の結果から、オンライン診療は利用に踏み切れないでいる、自分には縁遠いものと捉えている人がまだまだ多いことがわかりました。一方で、一度でも利用したことがある人の声からは、さまざまなメリットがあり、継続利用したいと思えるほどの魅力を内包しているものだということを読み解くことができます。

後編では、オンライン診療でよく受診されている診療科や医療機関の探し方など、より具体的な利用状況を掘り下げていきます。(クリニック未来ラボ編集部)

※ドクターズ・ファイルによる「オンライン診療の利用状況に関する調査」。対象は、全国主要都市に住む、もしくは勤務する20~59歳の男女500人。2021年3月にインターネット調査にて実施。

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