患者が安心して通うクリニックは院内コミュニケーションが良好
まずは、院内コミュニケーションの重要性を確認しておきましょう。
コミュニケーションが良好な職場は働きやすく、スタッフの雰囲気も自然と和やかになります。患者はその様子を見て、「いい雰囲気で通いやすそう」と感じるものです。つまり、院内コミュニケーションの質は、患者の「安心して通いたい」というニーズに応えるために欠かせない要素といえるでしょう。
また、医療従事者間のコミュニケーションは、スムーズな診療提供にも不可欠ですが、人間同士のやりとりなので、常に順調とは限りません。
そのため今回の調査でも、院内コミュニケーションに課題を感じ、改善方法を模索している開業医が少なくないことがわかっています。次で、詳しく取り上げていきます。
過半数の開業医がコミュニケーション課題を認識
ここからは、全国の開業医304人を対象に実施した「コミュニケーションツールの活用に関するアンケート調査」の結果をもとに、現場の実態を見ていきます。


コミュニケーション課題の有無は、「ある」が過半数に及びました。
医科クリニックでは58.6%、歯科クリニックでは53.7%が「課題がある」と回答し、医科と歯科の間に顕著な差は見られませんでした。
一方で規模別に見ると、スタッフ数21〜25人のクリニックで課題ありの回答が85.7%と最も高く、20人を超える規模になると、課題を抱えるクリニックが増える傾向が見られます。
スタッフ数が増えるほど職種や連携機会が複雑になり、コミュニケーション課題が生じやすいのかもしれません。
開業医はどんなコミュニケーション課題を抱えている?
次に、コミュニケーション課題を感じている医師・歯科医師たちは、どのような点に悩みを抱えているのでしょうか。調査結果をまとめました。

具体的な課題の内容を見ると、「不満を吸い上げにくい」が64.0%で第1位という結果に。スタッフの不満の把握は働きやすい職場づくりに欠かせませんが、立ち話で聞くわけにもいかず、場所や時間の確保が必要です。忙しくそれが難しい医師・歯科医師が多数いることが推測できます。
次に多いのは、52.3%の「人により偏りがある」。業務上、コミュニケーションを取る機会が少ないスタッフとの意思疎通に課題を感じる医師・歯科医師が多いようです。
その他には、「スタッフの情報理解度のチェックが難しい」 といった回答もありました。
どの課題も解消には時間と労力を要することから、多忙な医師・歯科医師にとっては、「必要とわかっていても、対処する余裕がない」という現実が浮かび上がります。
情報伝達の手段は?チャット利用率が5割超と広がる活用
前の質問では、クリニックの半数がコミュニケーション課題を抱えていることがわかりました。続いて、院内でどんな情報伝達の手段が使われているのかを探ります。


調査結果を見ると、最も多かったのは「付箋・メモ」の68.4%で、次いで「チャットツール」51.3%、「ノート」43.8%が続きました。
特に、チャットツール利用率は歯科で60.2%と高く、医科も45.3%と半数に近い水準まで広がっている点が注目されます。
コロナ禍を機に一般企業ではビジネスチャットの普及が急拡大しましたが、今回の調査からは、医療現場でも導入が広がっていることがわかります。
付箋・メモは、直接手渡す必要があるなどスピード感に欠けますが、手軽に誰でも使える手段です。ノートはオンタイムの連絡には不向きな一方、複数人へ同じ情報を共有する際には便利です。チャットツールは慣れが必要なものの、スピードと記録性に優れています。
院内でやりとりされる情報は重要度や緊急性に差があるため、複数の手段が使い分けられていると考えられます。ただし、手段を使い分けすぎると、情報を後でまとめて確認しにくいという懸念もあります。
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チャットツールは何を利用?8割がLINEだが運用には注意も
ここからは、チャットツールの利用状況を詳しく見ていきます。
一般企業で広がったチャット利用は、クリニックでも徐々に増えています。院内の情報共有を効率化する手段として注目される一方、運用の中で生じやすい課題や、導入によって得られるメリットを踏まえた検討が必要です。
まず、どのようなチャットツールが使われているのかを確認します。

チャットツールのうち、「LINE」利用率が84.0%と突出して高いという結果に。私生活で日常的に使われているツールが、そのまま業務にも持ち込まれる傾向が強いことがうかがえます。
また、LINE WORKSやChatworkなど、ビジネス向けツールの利用は1割前後にとどまり、医療現場では「すぐ使える・慣れている」ことが優先されやすいと考えられます。
一方で、プライベート向けのチャットツールは業務利用を前提としたセキュリティー設計ではないため、誤送信やアカウント管理の不備による情報漏えいなど、セキュリティー面でのリスクが残る点も指摘されています。
チャット活用で見られた主なメリットとは
次に、チャットツールを利用している開業医に、具体的にどんなメリットが得られるのかを聞きました。

利用のメリットとして最も多かったのは、情報共有・伝達が「スピーディーになった」(79.5%)です。
例えば、スタッフが医師に伝言をする際、付箋やメモに書いただけでは情報を届けられません。診察室まで行ったり、目の届く場所に貼ったりする必要があります。
一方でチャットは、診療と診療の合間などの短い時間にも、ほぼリアルタイムでのメッセージの送受信のほか、既読機能があれば確認状況まで共有できます。
また、48.1%が情報共有の「抜け漏れがなくなった」と回答しています。チャットツールのリアルタイム性が、“後で伝えよう”という行動を減らし、結果として抜け・漏れの抑制につながったと考えられます。
さらに目を向けておきたいのは、16.0%が「対面だと話しづらいことを相談・会話しやすくなった」と答えている点です。前述の「院内コミュニケーション課題」で最も多かった「スタッフの不満を吸い上げにくい」という悩みに対しても、チャットツールは寄与すると考えられます。
主要な利用課題は「業務外対応」と「セキュリティー」
続いて、チャットツールを利用している開業医に、逆に使ってみて感じた課題について聞きました。

課題項目のうち「特になし」を除くと、「スタッフの勤務時間外への影響」と「セキュリティーへの不安」がチャットツール利用における主な課題として挙がっています。
これらの背景には、導入されているチャットツールの84.0%が私的にも使用されるLINEであることが影響していると考えられます。
LINEは利用者が多く、業務に取り入れやすい一方で、「プライベートでも使うツールのため、終業後や休日も見てしまい、対応を求められているように感じる」といった心理的負担につながりやすい側面があります。
また、医療現場では患者情報などセンシティブな情報を扱うため、私的利用と混在するチャットツールを業務に用いることに対し、セキュリティー面で不安を抱く医師・歯科医師がいるのも自然な結果といえるでしょう。
一般的なチャットツールに不安がある場合は、クリニック向けに設計された「ドクターズ・ファイル メディパシー」のような専用ツールを利用することが有用です。セキュリティーに配慮し、チャットやタスク管理など院内連携に必要な機能を備えています。
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コストや運用面の懸念から導入に至らないケースも
では、チャットツールを未導入のクリニックでは、何が理由となっているのでしょうか。
調査を進めると、必要性の有無だけでなく、コストや運用面への懸念も導入判断に影響していることが見えてきました。


チャットツールを現在利用していないクリニックのうち、89.2%が導入を検討したことは「ない」と回答しました。
チャットツールを「利用していない理由」としては、60.1%の「必要性を感じたことがない」が最多。一方、2位以下の項目を見ると、「スタッフの勤務時間外への影響(33.1%)」、「導入コストへの懸念(29.1%)」、「運用ルール策定の煩わしさ(29.1%)」など、導入に踏み切れない具体的な理由も挙がっています。

さらに規模別に見ると、スタッフ5人以下の比較的小規模なクリニックでは、全体よりも多い80%が「必要性を感じたことがない」と回答。少人数体制で日常のやりとりが直接の声かけで完結しやすく、コミュニケーションに大きな支障を感じにくいことが背景にあると考えられます。
チャットに対するイメージも利用をためらう理由の一つ
チャットツールを使用していない理由について、さらに詳しく掘り下げると、コストや運用面の懸念などに加えて、チャットに対するイメージも利用をためらう背景になっていることがうかがえました。
「スタッフの勤務時間外への影響」については、前述した、チャットツールを利用中のクリニックの課題とも重なります。「チャット=LINE」というイメージが強いことから、プライベート時間にも連絡が届き、オン・オフの切り替えが難しくなるのではないかという不安が影響している可能性があります。 また、「スタッフに負担がかかる」「口頭の方が気持ちを伝えやすい」といった回答も見られ、チャットは無機質で温度感が伝わりにくいと感じる医師・歯科医師も一定数いるようです。
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【まとめ】時代や状況に合わせてコミュニケーション方法の見直しを
今回の調査では、多くのクリニックが院内コミュニケーションに課題を感じていることが明らかになりました。最も多かった課題は、「不満を吸い上げにくい」(64%)。こうした結果から、スタッフが働きやすい職場づくりを重視する医師・歯科医師の思いがうかがえます。
利用しているツールを見ると、目的・状況ごとに院内で情報伝達手段が使い分けられている傾向が見られました。
チャットツールの利用率は約5割で、情報伝達のスピーディーさを評価する声も多く、今後も広がると考えられます。セキュリティー面が気になるクリニックは、医療機関向けに設計された専用チャットツールを活用するのも一つの方法でしょう。
院内コミュニケーションはスタッフの働きやすさ、そして患者の安心に結びつく重要な要素です。クリニックの状況や社会的背景に応じて「最適な方法」は変わります。もし今、違和感や課題がある場合は、コミュニケーション方法の見直しを検討してみてはいかがでしょうか。(クリニック未来ラボ編集部)
<執筆者プロフィール>
クリニック未来ラボ編集部
クリニック未来ラボは、開業医、開業をめざす勤務医・医学生に向けたクリニック経営支援メディアです。独自の視線で調査・研究し、より良い医院経営に役立つ情報として発信。「開業医白書」をはじめ、診療報酬改定や医師の働き方改革、医療従事者の転職動向など、医院経営に関する調査レポートも公開しています。
