2026年度(令和8年度)の診療報酬改定概要
2026年度(令和8年度)の診療報酬改定は、近年の物価高騰や賃金上昇、人材不足といった医療現場を取り巻く厳しい環境を踏まえ、「医療提供体制を維持・安定させること」を大きな目的として行われました。
特に今回は、医療従事者の処遇改善を強く意識した改定であり、診療報酬本体の改定率は+3.09%と、約30年ぶりの高い水準となっています。
改定の中心は「賃上げ」と「物価対応」
ベースアップ評価料が拡充されたほか、電気代や医療材料費などの上昇を踏まえ、外来・入院・在宅を問わず、基本的な診療報酬の底上げも図られています。改定率は一見すると大幅なプラスですが、その多くは「利益の増加」ではなく、「コスト増への補填」という性格が強い点が特徴です。
医療DX・業務効率化の推進も重視
今回の改定では医療DXや業務効率化の推進がこれまで以上に重視されています。電子カルテの活用やデータ提出、ICTを活用した医療提供体制への対応が評価対象となり、今後はDX対応が「加算」ではなく、事実上の前提条件になっていく流れが示されています。
また、病院とクリニック、急性期と慢性期、外来と在宅といった役割分担をより明確にする「機能分化」も改定の重要な柱となっています。
クリニック開業医の6割超は「2026年度(令和8年度)」診療報酬改定を不安視

ポジティブな印象である「期待」は、「とても期待している」「不安はあるが期待している部分のほうが大きい」を合わせても19.6%と、2割に届きません。一方でネガティブな印象の「不安」は、「不安のほうが大きい」「とても不安」を合わせて61.3%と過半数を大きく上回っています。さらに注目すべきは、その中でも「不安のほうが大きい」といった中間的な声より、「とても不安」という強い意見が37.5%と最も多かった点です。改定に対する不安の強さが、はっきりと浮き彫りになりました。
若年層ほど「期待」が高く約3割
年代別に見ると、「期待」と答えた人は、30代・40代といった比較的若い層では約3割。一方50代以降では2割以下にとどまり、「期待」の受け取り方には年代の差があるようです。「不安」と答えた割合はどの年代でもおおむね6割前後で、大きな差はありません。
診療報酬改定に向けては、情報収集や申請準備、設備導入、スタッフ教育など、取り組むべきことが多岐にわたります。若い世代ほど「期待」と捉える傾向があるのは、日々の診療に加えてこうした準備を進める上で、体力面や医療DXへの理解度が影響しているのかもしれません。

2026年度(令和8年度)の診療報酬改定 開業医の不安のポイント
【とても不安だ】【期待はあるが不安の部分のほうが大きい】を選んだドクターに、「不安」の理由を聞きました(一部抜粋)。
実際に挙がった声を見ていきましょう。
診療科ごとの不安
- 透析がメインのため、収入が下がることが予見される
- 整形外科は収益ダウンだと思う
- リハビリ計画書の減点が不安の種
- 精神科では、精神保健指定医の場合でも、初診の患者の60分以上の診察で、50点の加算。 再診で、1点の加算が有るのみである。 非指定医の場合精神療法は、すべて一律に、4割の減算
詳しくわからないからこその不安
- ベースアップなどは期待できるが、かえって「何か減点されるのではないか」と勘ぐってしまい、不安
- マイナス改定の要素が大きい印象がある
- はっきりはわからないが、いつも改定では良くない方向になることが多いので
- 関係する改定内容を把握できているか確信がない
- 実際自院で今回必要な届け出が何か、膨大な送付資料では十分確認しにくい
- 電子化などわかりにくい改定が多い
手間が増えることへの不安
- 変わること自体が面倒に感じる
- 事務関連の作業が増えるのが懸念
- 取り扱うのに手間や時間がかかる
- 加点があっても事務作業がさらに煩雑になりスタッフの負担が増える
- ベースアップ評価など業務が増えることが不安
- 手続きが煩雑で混乱する
- 届出をしないとレセプト申請できないなど、準備するのに煩雑なことが多い
- 生活習慣病のデータ提出が面倒に思う
- いろいろ加算がついても手続きや条件が煩雑なことが多い
- 医療機関の実務負担の増加や、制度変更の理解・対応に伴う人的・時間的コストの増大を懸念
患者からの評価に対する不安
- ベースアップ評価料を算定すれば患者から苦情があるのは必至
- 患者からのクレームが多くなるのではないか
物価上昇が続く社会情勢における、先行きの見えない不安
- 「プラス改定」とはいっても、昨今の物価上昇に見合ったものではない
- 物価高や家賃引き上げ分をカバーできない
- 毎回の改定ごとに収入が減少し、財務状況が悪化しているため
- 結局医療DXを進めるための機械の購入費用は補助金が全額でないため持ち出しになるので、マイナスになる
そのほかの不安
- 開業医にはあまりプラスにならないと噂されているため
- 「プラス改定」と言われているが、クリニックにおいてはプラスの影響がごくわずか
- 在宅医療充実体制加算の要件が厳しすぎる
- 院内トリアージ加算がなくなるため、日祝日診療のメリットがだいぶ減る
- 算定要件の厳格化などで、これまで取れていた点数が取れなくなる可能性を危惧している
- 薬価改定のためトータルでは減収になる
不安の内容は多岐にわたりますが、回答全体を通して浮かび上がるのは「制度が複雑で、自院がどう影響を受けるのか見通せない」という点でした。
不安の中身を細かく見ていきましょう。
診療科ごとの不安
今回のアンケートでは、診療科ごとに見ると整形外科と精神科から不安の声が特徴的でした。
例えば整形外科、中でも外来リハビリを中心とするクリニックでは、「リハビリテーション総合計画評価料1」がこれまで一律だった点数から、初回300点・2回目以降240点へと引き下げられます。算定回数が増えるほど減収につながる仕組みであることから、「整形外科は特に不安だ」という声が多かったと考えられます。
また、精神科や在宅医療を主とするクリニックでも、評価の見直しなどによる影響が大きいとされており、不安を訴える意見が多数挙がりました。
詳しくわからないからこその不安
今回の診療報酬改定に限った話ではありませんが、短冊や要項などの資料は非常に膨大で、内容を読み込むだけでも多くの時間が必要です。さらに、読み込んだとしても「結局、自分のクリニックではどう影響するのか」を判断するまでに、かなりの労力がかかります。
実際、今回のアンケートでも「よくわからないまま不安だけが大きい」という声が多く寄せられました。
また、「これまでの診療報酬改定で減収になった経験があるため、今回も同じではないか」と詳細を把握する前から、今までの経験に基づき不安に感じている開業医も少なくありません。
手間が増えることへの不安
今回の診療報酬改定では、加算取得のために新たな届け出や各種手続きが求められる項目が複数存在します。
さらに、新設される「電子的診療情報連携体制整備加算」を算定するには、院内の情報連携基盤の整備やシステム更新など、一定の設備投資およびICT環境の整備が不可欠となります。
こうした要件は、開業医自身の「手間」を増大させるだけでなく、実務を担うスタッフにとっても、事務処理の増加や新規システムの習熟といった追加的負荷を生じさせる点が大きな懸念材料となっています。
患者からの評価に対する不安
開業医の間では「ベースアップ評価料を算定すると患者から苦情が増えるのではないか」という懸念の声も挙がっています。
ベースアップ評価料を患者視点で見ると「診療費が上がった」という事実が注目されがちです。それは患者負担の増加は数十円程度とはいえ、「クリニックの意思で値上げした」と受け取られやすい構造にあります。制度趣旨が賃上げ支援であることは患者側からは見えにくいのです。結果として「負担が増えた」「儲けようとしている」といった不満や疑問が医療機関に向かいやすくなります。
また、特に慢性疾患で定期的に受診する高齢者層などは、物価上昇による生活費の増加と相まって、医療費のわずかな変動にも敏感になりがちです。
こうした状況下では、負担増が心理的抵抗感につながりやすく、クレーム発生のリスクが高まるのではと危惧する開業医が多いようです。
物価上昇が続く社会情勢における、先行きの見えない不安
また「物価上昇に見合っていない」「家賃や光熱費の上昇分をカバーできない」といった切実な不安も数多く聞こえてきました。
診療報酬改定の本体改定率は+3.09%。その内訳は、賃上げ対応+1.70%、物価高騰対応+0.76%と、ほとんどが既存のコスト増を埋めるための補填です。近年の物価上昇は一時的なものではなく、光熱費や医療材料費など、クリニック運営に欠かせないコストが軒並み高止まりしています。こうしたコスト増に対して、診療報酬の上昇幅は追いつきにくいのが現実です。
さらに、今回の改定では「電子的診療情報連携体制整備加算」の新設など、医療DXに向けた投資も求められています。
物価高で経営が圧迫される中でも、追加の設備投資が避けられない。こうした状況が、「この先、本当にやっていけるのだろうか」という不安をさらに強めているといえます。
「開業医にとってのプラスが少ない」という意見が多数
そのほか、加算取得のために求められる各種要件の中には、クリニックの規模や人的体制を踏まえると現実的な運用が難しいものが少なくありません。このため、「今回の改定は開業医にとってプラスとは言えない」といった意見が多く見られました。
中でも、「在宅医療充実体制加算」については、「自院単独で24時間連絡体制および往診体制を確保している」「在宅医療を担当する常勤換算医師数が3人以上、かつ常勤医師数が2人以上配置されている」など、要件が高度かつ組織的な在宅医療提供体制を前提としています。在宅医療を実施しているクリニックであっても、専門性や連携体制が一定水準に達していなければ算定できない点に不安を感じている開業医が多いようです。
2026年度(令和8年度)の診療報酬改定 期待のポイントは?
【とても期待している】【不安はあるが期待している部分のほうが大きい】を選んだドクターに、「期待」の理由を聞きました。(一部抜粋)
- かかりつけ機能の評価強化
- ベースアップ加算などが出てきたから
- ベースアップに伴い診療点数も見直される方向になるため
- 賃上げ上昇につながるから
- 診療報酬改定に先駆け電子化を進め、格段に仕事が楽になったのと見落としやミスがなくなった
- 在宅で重症者を診るというメッセージに納得している
- 一応プラス査定になるから
- 眼科領域においては改悪よりも改善の部分が大きいと思われるから
- 小児領域にも少しずつ配慮されてきた
- 昨今の社会保険料の負担を考えて医療機関側が大幅に損をしそうな予想や噂があった中で、今回の改定はそこまでの負担はなさそうに感じたから
- 物価高対策の診療報酬改定がなされたため今後も引き続きの引き上げは期待できそう
- ベースアップ評価料や各種加算が取れそうだから
ベースアップ評価料への期待が多数
期待の声としては、賃金改善を後押しする「ベースアップ評価料」に関する意見が多く寄せられました。2026年度と2027年度の二段階で点数が引き上げられることや、対象となる職種が広がることなど、メリットを受けられるクリニックが多い点が特徴といえます。
また、「電子化を進めたことで業務効率が大きく改善した」「在宅医療で重症患者を診るという方向性に納得している」といった、改定の方向性を前向きに受け止める声も。診療科別では、「眼科では改善の影響が大きい」「小児科にも配慮が見られるようになった」という評価も挙がっています。
2026年度(令和8年度)の診療報酬改定への対策
不安の声が大きい診療報酬改定ですが、各クリニックではどのような対策を行っているのでしょうか。アンケート結果を見てみましょう。



全体4割、30代・40代では約半数が「算定要件の見直し・確認」を実施
特に多かった回答は「加算取得に向けた算定要件の見直し・確認」でした。全体の42.0%、つまり4割以上の開業医が「加算取得に向けた算定要件の見直し・確認」を進めていると回答。多岐にわたる加算の中で、自院が算定対象となるかどうかが判然とせず、また算定するために必要な体制整備や運用変更が求められるため、早い段階から自院に合わせた具体的な準備を始めている様子がうかがえます。
年代別で見てみると、30〜40代の若い世代では、約5割が「すでに取り組んでいる」または「これから取り組む」と回答しており、積極的に行動している様子が際立っています。一方で、50代37.5%、60代40.9%、70代以上36.4%と年代での差が目立ちました。
また、診療フローの見直しや電子カルテ・レセプトコンピューターの設定変更といった実務的な対応でも、年代による違いが見られ、若年層ほど具体的に準備を進めている傾向がありました。
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約4割の開業医が対策に「情報収集」と回答 不安な人ほど情報収集をする傾向も
次に多かったのは「情報収集」で36.8%の開業医が回答しました。診療報酬改定の内容を正確に理解する必要があることに加え、これまでの結果にも見られたように、“よくわからないこと”が不安につながっているという背景があります。そのため、積極的に情報を集め、改定内容を把握しようとする開業医が多いことが明らかになりました。
一方で、期待値別に見てみると、「期待層」27.4%、「不安層」43.3%と、不安を感じている層のほうが多いという結果に。不安が大きいほど、まずは状況を把握しようとする“情報収集優先”のフェーズになるのは、自然な動きといえるでしょう。
「期待」している開業医ほど具体的にアクション
「電子カルテ/レセコン設定の更新・修正」を期待値別に見てみると、「期待」層では25.0%、「不安」層では12.2%と、改定に「期待している」と回答した開業医ほど高い傾向に。
診療フローの見直しや、自院の運用にどう反映させるかといった項目を見ても、期待している人のほうが高い傾向が見られ、具体的なアクションにつながっていることがわかりました。
開業医の4人に1人が「何もしない」と回答
診療報酬改定に対する不安や戸惑いは、必ずしも「行動」につながっているとは限りません。
調査では「特に何かをする予定はない」と回答した開業医が25.6%と、4人に1人を占めました。 年代別に見ると、30〜40代では「何もしない」と答えた割合は1割程度にとどまる一方、50代以降では約3割、70代以上では4割近くに達しており、改定への対応姿勢には年代差が見られます。
また実際に、「内容が複雑でよくわからないため、何から手をつければよいのか判断できない」という理由で動きづらくなっているケースも少なくないと考えられます。こうした状況を見ると、診療報酬改定への対応においては、正確な情報を得ることが行動の第一歩になることが改めて浮き彫りになっています。
まとめ
今回の記事では、2026年度(令和8年度)の診療報酬改定を開業医がどのように受け止めているかを調査しました。診療報酬改定は、クリニック経営に直結する大きなテーマです。今回の調査から見えてきたのは、診療報酬改定が「プラスかマイナスか」以上に、「理解できているかどうか」で受け止め方が分かれているという点です。
一方で、期待を寄せる開業医ほど、具体的な準備を進めている傾向も見られることから、
・診療報酬改定に期待している層は入手している「情報の”質”」が高く、自院の打ち手まで落とし込みができている
・不安を抱えている層は入手している「情報の”質」が低く、情報量を集められてはいるものの、打ち手まで落とし込みができていない
ということがわかります。
開業医は日々の診療に加え、経営判断も背負う立場です。だからこそ、「周囲がどう受け止めているのか」を知ること自体が、不安を整理する第一歩になるのかもしれません。不安を減らし、自院にどう関わる改定なのかを整理するための一助として、ぜひ参考にしてみてください。(クリニック未来ラボ編集部)
<執筆者プロフィール>
クリニック未来ラボ編集部
クリニック未来ラボは、開業医、開業をめざす勤務医・医学生に向けたクリニック経営支援メディアです。独自の視線で調査・研究し、より良い医院経営に役立つ情報として発信。「開業医白書」をはじめ、診療報酬改定や医師の働き方改革、医療従事者の転職動向など、医院経営に関する調査レポートも公開しています。
