患者の「不安の声」からひもとく!クリニックの感染症対策【前編】

感染症対策に関する患者の不安の声

新型コロナウイルス感染症の感染症法の位置づけが、2023年5月から5類に移行しました。しかし世界の歴史を見ても、新型コロナのような感染症の流行は繰り返されており、今後も未知のウイルスが生まれる可能性があります。

そこで、コロナ禍の教訓を残しておくためにも、2022年に発表した記事を再掲載します。

※本稿の初出は、「〈前編〉患者の「不安の声」からひもとく!コロナ禍3年目、医療機関の感染症対策」(「患者ニーズ研究所ONLINE」2022年5月27日配信)です。再掲載にあたり一部加筆・編集しています。肩書きやデータは本稿初出時のものです。

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新規感染者数が減少傾向にあることや、2022年5月に政府が「マスク着用緩和」の方針を示したことにより、一時の緊張感が薄れて、感染対策が形骸化しているクリニックもあると聞きます。

この記事では、患者の声から「不安」の正体をひもとくとともに、そうした不安に対して医療機関で行われている感染症対策をピックアップ。前後編にわたってご紹介します。「コロナ慣れ」してきた今こそ、あらためて自院の感染症対策に漏れがないかをチェックしてみてください。

感染拡大が長期化し、患者の不安の中身に変化が。クリニックの対策とは?

新型コロナウイルス感染症が広がる前と、その後では、患者の医療機関へのかかり方に大きな意識の変化がありました。感染リスクへの不安を理由に、不調を感じていても受診を控える人や、これまで定期的に受けていた検査を「今はやめておこう」と躊躇する人が増えたことは記憶に新しいでしょう。

多くの患者が受診に迷いを感じていたこの時期。医療ポータルサイト「ドクターズ・ファイル」の調査(※1)によると、中でも、「院内感染のリスク懸念」が受診控えや受診を迷う理由に挙げられていました。

コロナによる医療機関の受診意識への影響

「新しい生活様式」が定着したコロナ禍3年目(2022年現時点)。医療機関では、患者を守るためにさまざまな感染症対策が取られています。しかし、今も不安感を抱えている患者は少なくありません。そんな患者の「不安」とはどんなものなのでしょうか。

流行し始めの頃は「未知のウイルスだから、何となく不安だ」という声が多くありましたが、感染経路などが広く知られる今は、「不安」の内容にも変化が。「触ったものを渡し合う現金の会計が不安」「カウンセリングを受けたいが長時間対面で会話するのが不安」など具体的な不安を抱えているようです。

ここからは、そんな不安の声とそれに対する対策を一つひとつ見ていきましょう。

【不安の声1】たくさんの人が出入りする医療機関。「密」にならないのでしょうか?

【医療機関の感染症対策】
患者から特に「密」の不安として挙がったのは待合室。多くの医療機関で待合室の椅子を減らしたり、予約などを駆使したりと待合室を混雑させない工夫がなされています。

完全予約制

診療人数を制限し待合室の密集を避け、長時間院内に滞在しなくて済むよう、飛び込みでの受付をストップする完全予約制。患者はあらかじめ自分のおおよその診療時間がわかるため、密に対する不安が和らぎます。また予約時に電話や予約フォームでの簡易的な問診を設けている医療機関では、発熱の有無や症状を事前に確認することにも一役買っています。

同時受診人数の制限

同じタイミングで同じ空間に人が密集しないように、受診人数を制限し混雑緩和をめざす取り組みです。予約システムを使って受診そのものの人数を絞ったり、外や駐車場の車の中で受診の順番を待てるようにしたりと主に待合室での密集と密接を避けるもの。外や車内で待つことで、子連れで受診するとき待合室での子どもの行動にはらはらせずに済むという反応も。

予約システムの患者ニーズは増加傾向にあり、実際、2021年にドクターズ・ファイルが行った「ネット予約の活用状況」に関する調査(※2)でも、患者のほぼ3分の2が予約経験者という結果に。

【不安の声2】発熱している人こそ医療機関に行きますよね。知らずに熱がある人と一緒に過ごしているのでは……。

【医療機関の感染症対策】
発熱者との接触に抵抗感のある患者に配慮し、発熱患者とそうでない患者を分離させるさまざまな取り組みがなされています。

受付時の検温

発熱の有無を自己申告ではなく受付時の検温で確認。発熱が新型コロナウイルス感染症の症状の一つであることから、診療科に関係なく実施されています。脇に挟む体温計ではなく、額や手の甲にかざして測れるものや検温カメラによる非接触検温を行う医療機関がほとんどです。

発熱患者の受付・待合分離

検温を実施し、発熱の有無で物理的に滞在スペースを別にして発熱患者を区分けし、発熱のある人とそうでない人の接触を減らす対策です。部屋自体を分けたり、仕切りを用いて分けたり、発熱患者がほかの患者と接触しないよう隔離しています。

また、あらかじめ感染症が疑われる患者には、別の入り口を用意したり、駐車場など院外にドライブスルー方式のPCR検査所を設けたりして対応している医療機関も。

発熱患者の受付時間限定

発熱がある患者とそうでない患者を、スペースではなく診療時間で分離をする対策です。「体温が37.5℃以上の人」といったふうに、対象者を限定した外来を設置している医療機関も。待合室全体の消毒や換気の実施など、診療の準備を整えやすいという面もあるそうです。

【不安の声3】先生やスタッフさんはいつも忙しそう。多くの患者さんを診療するので、先生たちが感染しないか心配。

【医療機関の感染症対策】
医療従事者の感染を防ぐために、診察内容によっては防護服などの着用を行う医療機関も。また、ほとんどの医療機関で、スタッフの健康管理や検温実施を徹底しています。

防護服などの着用

医療従事者の新型コロナウイルス感染症を防ぐために、発熱に関する外来や、訪問診療、検査、手術などで、感染防護服やゴーグル、サージカルマスク、フェイスシールド、グローブ、シューカバーなどを着用するといった対策を取る医療機関も。

スタッフの検温・健康管理徹底

患者の対応にあたるスタッフの健康を守るため、ほとんどの医療機関で毎日の検温や、体調チェックが徹底されています。また勤務中こまめに手指のアルコール消毒ができるよう、院内の動線に消毒液を設置している医療機関も多数あります。

【不安の声4】治療前のカウンセリングを受けたいけれど、対面での会話は飛沫感染につながりますか?

【医療機関の感染症対策】
マスクをしていても、対面での会話に不安を抱く人は多いため、アクリル板などでの仕切りを設置するなどの飛沫対策が見られます。

飛沫感染防止用の仕切り設置

受付やカウンセリングルームなど、医師やスタッフたちと対面する場面で、飛沫飛散を避けるための仕切りを設置して感染を防ぎます。アクリル板など透明な仕切りによって互いの顔は見えるように。

受付では会計や問診票、診察券のやりとりため、仕切りの下を開けている医療機関も多くあります。また、使用した後にはその都度両面の仕切りを消毒し、清潔を保っているという細かな対応も。

続く後編でも、「子どもをキッズスペースで遊ばせていいの?」「長時間院内にいると、密閉性が気になる」「会計時、対面での現金の受け渡しを避けたい」「人との接触を減らすため、外出を控えたい」といった患者の不安の声を取り上げるとともに、医療機関の感染症対策をお届けします。(クリニック未来ラボ編集部)

※1 ドクターズ・ファイルによる「新型コロナウイルス感染拡大による医療機関の受診意識への影響」についてのインターネット調査。調査対象は、全国主要都市に住む25~69歳の男女500人。2020年4月に調査実施。
※2 ドクターズ・ファイルによる「ネット予約の活用状況」に関するインターネット調査。調査対象は20~50代の男女700人。2021年3月に調査実施。

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