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2024.5.17

電子カルテのココが大変!ココが良い!【後編】30年以上利用する消化器内科に聞く、活用の極意

電子カルテの導入が進む医療業界

昨今、電子カルテを導入するクリニックが増えてきています。医療業界全体で見るとまだ大多数とまでは言いきれないものの、今後も増加するのは間違いないでしょう。

そこで、クリニック未来ラボ編集部では2回にわたって電子カルテを活用するドクターにインタビューし、現状をリサーチ。「電子カルテのココが大変!ココが良い!【前編】導入から1年半の内科のホンネ」の記事では導入して間もないドクターに導入前後でどう変わったか、苦労話も含めて話を聞きました。

今回登場するのは、電子カルテを使い始めて30年以上(2021年11月時点)という「共和堂医院」の増田幹生院長です。長く使っているからこそ感じる、電子カルテのメリット・デメリットを教えてもらいました。

30年以上前から診療情報をデータ化し、診療に活用

東京都北区にある「共和堂医院」。同院は開業60年以上(2021年11月時点)の歴史あるクリニックで、現在は増田幹生院長の専門である消化器内科を中心に、かかりつけ医として地域住民の健康を支えています。

そんな同院が電子カルテを取り入れたのは1989年。厚生省(当時)がカルテの電子媒体による保存を認める通達を出したのが1999年のため、同院は、データで保存された診療記録が法令上認められるよりも前から使っていたことになります。

「紙カルテを保存する難しさや記録を活用することを考えると、紙の時代はいずれ終わると感じていました。そこで、当時まだ発売されたばかりのパソコンを使って、患者さんの情報を一部データ化し始めたんです」

今でこそ一般的になりつつある電子カルテですが、当時は紙カルテが当たり前の時代。その中で、早くから医療のIT化を見据えていた増田院長は、紙カルテとパソコン上のデータを併用することを思いつきました。患者の受診履歴など日々の記録は紙カルテに、それ以外の基本情報(患者名や生年月日、既往歴、検査履歴など)はパソコンに入力し、データ上で保存。必要なときにすぐ検索できるよう工夫しながら、データを蓄積していったそうです。

「データ化によるメリットは、履歴がすぐに追えること。当院は慢性疾患で長く通う高齢患者さんが多いので、過去の情報を蓄積することでその人の傾向がつかみやすく、スムーズな診療につながりました」

こうしてデータ化を進めること20年。パソコン上に記録された患者情報は、9000件近くにも上ったそう。これらのデータを引き継ぎつつ、同院では、2008年に本格的な電子カルテに移行しました。

30年以上使用して感じた「電子カルテのココが良い!」ポイント

以来、診療に欠かせないツールとして電子カルテを活用する増田院長に、そのメリットについて尋ねたところ、3つのポイントを挙げてくれました。

【ポイント1】書類作成の手間が省け、ミスも軽減

「内視鏡検査に力を入れる当院には、他院からの紹介で検査を受ける人や、検査後に紹介された病院で手術を受ける人が多くいます。そのため、紹介状やレポート、患者同意書や検査結果表などあらゆる書類が必要となります。それらを毎回一から作成するのは、非効率的。その点電子カルテなら一度データを入力すれば流用できますし、定型文を作成しておけば入力もスムーズで手書きの何倍も早い。その上ミスも減るので、一石二鳥です」

まず院長がメリットとして挙げたのは、業務の効率化。これは前回記事の鈴木院長の考えとも一致します。同院のように検査結果などのデータを長期的かつ頻繁に活用する機会が多いクリニックほど、導入のメリットも大きいといえるでしょう。

【ポイント2】「下ごしらえ」で、スピーディーかつ中身の濃い診療が可能に

さらに効率化を図るために、増田院長には診療前、必ず行っていることがあるそうです。それは、検査結果を確認しデータをカルテに貼りつけておくこと。

「私は『下ごしらえ』と呼んでいますが、事前に検査結果や前回の記録などカルテのデータを見ながら『薬をこう変えよう』とか『次回はこんな説明をしよう』といったように、シミュレーションしておくんです。そうすれば診察時はすぐに本題に入れますから、診療がスムーズに進みます。待ち時間を軽減でき、最近では待合室の『密』防止にも一役買っています」

また「下ごしらえ」をすることは、診療の質にも関係すると院長は続けます。

「事前に準備をすることで患者さんにわかりやすい説明ができるのはもちろん、自身が余裕を持って診療に臨めますから、見落としなどのミスも減るのではないでしょうか。一日の中でも忙しさには波がありますが、手が空いた時間に『下ごしらえ』をしておけば、診療の質を均一に保つことにもつながると思います」

電子カルテの使い方次第では「診療の質」もアップし、中身の濃い診療につなげられる可能性もあるようです。

【ポイント3】メモを活用し、患者との信頼関係を築く手助けに

「カルテに書き込むのは、検査結果や病歴だけではありません。私は患者さんとの何げない会話の内容もメモしておきます。直接病気に関係ない場合もありますが、次の診察時に『この前話していたあれはどうでした?』と確認するようにしています。こうしたこまやかなコミュニケーションを図ることが、信頼関係を築くきっかけになるように思います」

忙しいと必要最低限のやりとりになりがちですが、画面を見ればすぐに必要なデータを取り出せるという電子カルテならではの強みを生かし、患者とより丁寧に向き合うこともできそうですね。

なお、診察中のカルテ入力に関しては「パソコンの画面ばかり見てしまい、患者を不安にさせないか心配」というドクターの声を聞くこともありますが、増田院長はこんなアドバイスをしてくれました。

「パソコンの横に鏡を置いて鏡越しに患者さんの表情を見るのも一つでしょう。でもそういった工夫以上に大切なのは、患者さんに電子カルテの意義やメリットを理解してもらうことではないでしょうか。当院では院内広報誌を通じて電子カルテについて周知させることで、患者さんを不安にさせないよう心がけています」

30年以上使用して感じた「電子カルテのココが大変!」ポイント

ここまで電子カルテのメリットを紹介してきましたが、デメリットに関してはどうなのでしょうか? この点について尋ねると、院長から挙がったのは以下の2点でした。

【ポイント1】停電やシステム障害が起きると、何もできない

電子カルテは、停電時やシステム障害が起きるとまったく使用できなくなってしまいます。そこで、同院では災害などに備えてバックアップデータを別の場所に保管するほか、もしものときのために紙カルテを残しているそうです。

「電子カルテが使えなくなった場合を想定し、処方箋や患者さんの基本情報を書き込んだ書類を紙カルテに挟んで保管しています。普段は電子カルテを使用していますが、緊急時にもし電子カルテが使えなくても診察に困らない程度に、紙カルテも準備しているんです。紙カルテをゼロにすることは、この先も考えていません」

30年以上前からデータと紙を併用してきた増田院長だからこそ、紙カルテのメリットもよく理解し、その強みを生かした運用を継続しているのでしょう。

【ポイント2】定着するまでは、一時的に業務効率が下がる

電子カルテに慣れるまでは、紙カルテよりも入力に時間がかかることもあるでしょう。またカルテの項目を増やしたり、すぐに打ち込めるよう定型文を作ったりと使いやすいようにカスタマイズする必要もあります。そこで、こうした状況を事前に想定しておくことが必要になります。

「大切なのは、定着するまでの期間をどうやって短くするか。そのために欠かせないのは、メーカー側のサポートです。導入して間もないうちは担当者に常駐してもらい、その後もわからないことがあったらすぐに相談できるようにしておくといいと思います」

【後編まとめ】効率化の先にある可能性を模索する

今回、長年の経験から生まれた独自の工夫を紹介してくれた増田院長。最後に、電子カルテを自院の状況に合わせてさらに活用するにはどうしたらいいのか、読者に向けてアドバイスを仰いだところこんな答えが返ってきました。

「電子カルテが当たり前になりつつある今、その利便性を感じる一方で、効率化以上のメリットを感じにくい人もいるかもしれません。そんなときは『もしこの作業を紙カルテで行ったらどうなるだろう』と想像してみては? どんな使い方をしたらうまく活用できるかを考えるヒントになるかもしれません」

増田院長の話にあったように、電子カルテにはメリットもあればデメリットもあります。また業務の効率化につながるのは確かですが、単に効率を上げるなら、診られる患者数が増加するだけともいえます。しかし今回の取材を通じて、工夫次第で診療内容の充実につなげたり、感染症対策に役立てたりすることも可能だということがわかりました。つまり電子カルテは、質の高い医療を患者が安心して受けられるようにするためのツールになり得るのです。

効率化を図った先にどんなメリットがあるのか。電子カルテの導入にあたっては、そうしたことも踏まえながら検討してみてはいかがでしょうか。(クリニック未来ラボ編集部)

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