採用面接時のクリニック側の対応が良いほど、好印象につながる
クリニックでは院長自らが直接、面接などの人事を担当することも少なくありません。看護師から、面接後に選考を辞退されないようにするためには、面接官が面接時の対応や態度に配慮することが重要です。採用面接は「採用側のジャッジの場」と考えられがちですが、求職者が求人先をジャッジする場でもあります。井原氏は、「面接に来る看護師さんも、クリニックや院長の様子を見ているのだと意識することが大事」と指摘します。
「選考を辞退する理由は、条件面が合わなかったり、院内の雰囲気が想像と違ったりなどさまざま挙げられますが、それ以外に『面接時の印象の悪さ』があります。面接の前後や面接中に、看護師さんに何らかの不安を感じさせてしまっているのではないかと考えられます。
面接では、面接官だけでなく応募者も『これから一緒に働く仲間になるかもしれない』という思いから、相手の言動を注意深く見ているものです。ほとんどの応募者が、転職活動の中で複数のクリニックを比較・検討していますので、面接段階で少しでも不安を感じさせてしまうと、『ここはやめておこう』と別の候補先へ気持ちが移ってしまう可能性も。特にクリニックでは院長との相性が働きやすさに影響しやすいため、より配慮が必要です。面接時は誠意を持って対応するように心がけましょう」
【面接時の心がけ1】面接官の人数は、応募者に緊張を与えすぎないよう2人が理想
ここからは、転職活動中の看護師が、面接時に不安を感じやすいよくあるシチュエーションを例に、井原氏が勧める心がけについて紹介します。
〈看護師が不安を感じるシチュエーション〉
面接のため、クリニック内の応接室に案内されたAさん。応接室では院長、事務長である院長夫人、人事担当者、看護師長の4人の面接官が対面に座っていた。応募者を複数の目で多角的に見て判断したいという気持ちがあったのかもしれないが、Aさんは面接官の人数の多さに過度に緊張。うまく話せなかった上に聞きたいことも聞けず、消化不良で面接を終えてしまった。
面接官の人数が多すぎると、応募者の緊張をさらに高めてしまう可能性があります。面接終了後、採用担当者と応募者が互いに良い時間だったと思えるためにも、少人数で役割を決めて臨んだほうが良いでしょう。
井原氏:そもそも面接は、一緒に働く仲間になれるかどうかを判断するために、互いの理解を深めることが目的です。そのため、応募者と深い話をしたいのであればリラックスして面接に臨めるよう、余計なプレッシャーを与えるべきではありません。
クリニックの採用面接の場合、面接官の人数は2人程度が適正といわれています。そして、1人が「質問係」、もう1人が「観察係」と「記録係」のように、事前に役割を決めておくと、限られた時間の中でスムーズに進行しやすくなるでしょう。
また、2人の面接官の座る位置や応募者との距離も、下図の(1)(2)のように対面の横一列ではなく、(3)の「対面の人」と「求職者から見て90度の位置の人」のようにするのがお勧めです。目線が分散されて応募者の圧迫感が軽減するだけでなく、面接官との距離が近くなることで心理的に親近感も抱きやすくなるはずです。
【面接時の心がけ2】面接時は、応募者の顔を見ながら誠意ある対応を心がける
〈看護師が不安を感じるシチュエーション〉
院長との面接に臨んだBさんだったが、面接中、院長はずっと書類ばかりを見ていて、目を合わせてくれない。さらに、「これまでどんな診療科で看護してきたの?」「得られたことは何?」などと質問されたので答えても、「ふーん」「そう」と反応が薄い。もしかして院長の機嫌を損ねてしまったのではないかと委縮したBさんは、全力を出しきれずに面接が終わってしまった。
人と会うとき、第一印象はとても重要です。面接時も同様に、威圧的な態度やフランクすぎる言葉遣いは、相手を不安にさせてしまう可能性があるため注意が必要です。
井原氏:良い医師の特徴として、必ず相手の目を見て会話をするという点が挙げられると思います。そんなつもりはなくても、相手の顔ではなく書類を見ながら質問をしたり、素っ気ない返事をしたりしていては、応募者に「自分には興味がなさそうだな」と誤解を与えてしまうかもしれません。相手の目を見ながら適度に相づちを打つ、「そうだったのですね」と共感を示すなど、「あなたの話が聞きたい」という姿勢を見せることで、相手も話しやすくなるはずです。
また、これから働く仲間として敬意を払っているかという点も大切なポイント。親しみを持って接するのは良いことですが、友人と話すときのような言葉遣いや打ち解けすぎた態度は、人によっては高圧的だと受け取られてしまう可能性も。面接中は求職者が話しやすい場づくりに努め、誠意ある対応を心がけてみてください。
【面接時の心がけ3】面接内容の時間配分を明確にして、互いに聞きたいことが聞けるように
〈看護師が不安を感じるシチュエーション〉
面接の開始直前、面接官である院長から謝罪されたCさん。何でもクリニックが予想以上に患者で混み合っており、面接時間を10分短縮してほしいという。アピールしたいことや質問したいことがたくさんあったCさんだが、忙しそうな院長を前に焦ってしまい、話したいことの半分も話せないまま面接が終了した。
時間が短縮・延長する場合は、必ず謝罪とその理由を説明しましょう。そして、限られた時間の中で行われる面接だからこそ、事前準備が大切です。段取りができていれば面接時間が短くなったとしても、慌てることなくスムーズに面接が行えるでしょう。
井原氏:面接時間は最低でも30分以上設けるのが理想的です。面接を互いが有益なものにできるかどうかは、面接官が事前準備をしているか否かで大きく変わります。準備をしておけば、急に面接時間が短くなったとしても、最小限の調整で、滞りなく進行ができるはずです。ポイントは、面接の進め方と時間配分です。
例えば、オープニングのあいさつから始まり→志望動機や経歴などの質問→理念や開業への思いなど伝えたいこと→応募者からの質問→最後は見送りのあいさつでクロージング、などといった具合に、あらかじめ面接の進め方を決めておき、時間を割り振っておくことをお勧めします。
その上で、【面接時の心がけ1】でもふれたように、事前に面接官の役割を1人が「質問係」、もう1人が「観察係」と「記録係」のように決めておけば、さらに安定した進行につなげられるでしょう。
なお、最後のクロージングはできるだけ丁寧に行うことを意識してみてください。応募への感謝や面接に来てくれたことへのねぎらいの言葉を述べることで、応募者も「面接を受けて良かった」と思ってくれるはずです。
【面接時の心がけ4】法律で禁じられているNGな質問は避ける
〈看護師が不安を感じるシチュエーション〉
2児の母で、子育てをしながら働くことができる職場を探していたDさん。面接で開始早々、面接官の院長から「家族構成は?」「今後、妊娠の予定は?」などとプライバシーに立ち入った質問が。同じように院長も働くママらしく、共通の話題で場を和ませようとしてくれているようだったが、「仕事に関係あるのかな……?」と戸惑うDさんだった。
応募者の緊張を少しでも和らげたいと、良かれと思ってした質問が、職業差別につながるケースも。職業安定法により、本籍や家族構成、男女雇用機会均等法に抵触する結婚や出産のことなど、特定事項の個人情報を聞き出すことは禁止されています。
井原氏:本人の適性や能力に関係がない部分で採用選考の採否を決めることは、労働差別にあたります。面接の場で、うっかり職業差別につながる恐れのある不適切な質問をしてしまわないよう、事前に厚生労働省が公開しているガイドラインなどで確認しておきましょう。
一方で、応募者の中には、育児や介護のことなど家庭の事情をあらかじめ雇用側にも知っておいてほしいと考えている人もいます。クリニックとしても、そうしたニーズを把握しておくことは、入職後のサポートがしやすくなるでしょう。
そこで、「当院は安心して働き続けてもらうために、出勤日数や勤務時間など、スタッフの皆さんが働きやすい環境づくりに取り組んでいます。何か気になることはありますか?」のように配慮した聞き方であれば、応募者を不快にさせず、話したいと思っている人は事情を話しやすくなるかもしれません。
【面接時の心がけ5】面接の開始時間が遅れる場合は、必ず謝罪と説明を
〈看護師が不安を感じるシチュエーション〉
面接当日、開始時間に間に合うように意気揚々とクリニックを訪問したEさん。ところが、開始時間になっても誰からも声をかけられない。待合室で患者の邪魔にならないよう待つこと30分。ようやく声をかけられ、院長との面接が開始。おそらく診察が長引いたのだろうなと想像する一方で、院長から謝罪や説明が何もなかったことが引っかかるEさん。帰り道、「患者さんに対しても気配りがないのかな。もし受かっても一緒に働いていける自信はないかも」と思うのだった。
面接時間は診療の合間を縫って行うことがほとんどのため、その日の混雑具合や緊急対応などで、やむを得ず面接の開始時間が遅れてしまうことも。その際には応募者へのフォローが重要だと井原氏は言います。
井原氏:応募者の貴重な時間をもらっているのですから、面接官は遅刻しないことが基本中の基本です。とはいえ、やむを得ない事情で開始時間を遅らさねばならない場合もあるでしょう。そんなときは、間に合わないことが判明した時点ですぐに連絡を入れ、必ず謝罪とともに説明をすることが大切です。同じ医療職である以上、きちんと事情を説明すれば、ほとんどの看護師さんはわかってくれるはずです。
応募者は自分が置かれている状況がわからないと、不安になってしまいます。人によっては軽く扱われているように感じて、傷ついてしまうことも。すでに応募者が到着して待っている場合は、一言でもいいので、面接官から「お待たせしてしまい、申し訳ございません」と謝罪の言葉を伝えましょう。どうしても手が離せない場合は、受付などほかのスタッフから代わりに謝罪とともに状況の説明をしてもらうといったフォローを心がけてみてください。
【面接時の心がけ6】採用・不採用の結果は、面接後の1週間以内に連絡を
〈看護師が不安を感じるシチュエーション〉
クリニックの面接を終え、ぜひここで働きたいと思ったFさん。クリニックからは、合否に関係なく2~3日以内に結果をお知らせすると説明があり、連絡を待ちわびていた。ところが、1週間たっても音沙汰がない。「必要な人材と思われていないんだな」と不信感を募らせたFさんは、先に採用の通知をもらっていた別のクリニックに転職することを決めた。
応募者にとって、採用・不採用の結果はなるべく早く知りたいと思うもの。せっかくの優秀な応募者を逃がさないためにも約束の期日は必ず守り、かつなるべく早く連絡をするようにしましょう。もし時間がかかる場合は、事前に伝えておくことも大事です。
井原氏:採用の通知は、遅くとも1週間以内に行うのが理想です。それ以上待たせてしまうと、もし応募者が複数の選考を同時に進めている場合、すでに合格の結果が出ているクリニックを選んでしまう可能性が高まるためです。
一方で、どれほど気に入ったとしても、面接の場や面接当日など、早すぎるタイミングで合格の結果を出すのもお勧めしません。「人手不足で切羽詰まっているのかな?」「人気がないのかな?」などと応募者に要らぬ誤解や不安を与えかねないためです。
また、不採用の結果を連絡する際は、採用の連絡よりも一層丁寧に、誠実な対応を心がけることが大切です。近年は、不採用の通知はメールや書面で行うことが多いと思いますが、この時の対応が悪いと、応募者のクリニックに対するイメージを大きく損ねてしまう恐れがあります。遅くとも1週間以内に、応募へのお礼とともに、相手の期待に沿えなかったことへのお詫びを丁寧な言葉遣いで伝えるようにしましょう。
【まとめ】
今回、紹介したクリニックが看護師の面接時に心がけたい6つのポイント、いかがでしょうか。
採用側はもちろん、応募者も「一緒に働く仲間になれるだろうか」という気持ちで面接に臨んでいます。大切なのは、応募者の気持ちに寄り添い、少しでもその不安を減らすために、誠意ある態度を心がけることです。事前に段取りをつけておくことや座る位置など、一つ一つの配慮が、応募者のクリニックに対する印象を良くしてくれるはず。その結果、面接後の選考辞退の防止にもつながるのではないでしょうか。
<執筆者プロフィール>
トヤカン
フリーライター。正看護師として、大学病院での勤務を経てライターの道に。医療現場で培った経験をもとに、医療従事者向けのメディアを中心に記事を執筆している。甘味に目がなく休みの日は和洋問わず甘味巡りに没頭。