待合室でトラブル発生!どう対応するのが正解?シミュレーション10事例【後編】

待合室での患者からのクレーム対応

「待合室でトラブル発生!どう対応するのが正解?シミュレーション10事例【前編】」の記事では待合室での「患者同士のトラブル」について、どのように対応するのが適切かシミュレートしました。続く後編は「待合室での患者からクリニックへのクレーム」編。「患者がクリニックに対して感じた不満」から発生したクレームについて、その対応の仕方を考えていきます。

待ち時間の解消を図るために導入した予約システムが思わぬクレームを生んだり、待ち時間のいらいらからスタッフの接遇に不満が生じたりと、クリニックに寄せられるクレームはその内容もさまざまです。

後編も前編と同じく、そうした事例について適切な行動を3択形式でシミュレート。それに対し、医療機関のクレームやトラブル発生時の接遇対応に詳しい株式会社ウィ・キャン代表の濱川博招氏に、正解とともに、その理由を解説してもらいました。

前編でも記したとおり、「クレーム対応は初動が肝心。まずは患者さんの声にしっかりと耳を傾け謝罪することが大切」だと濱川氏は断言します。謝罪の後に取るべき行動について3択の中からどう動くのが正解なのかを考えながら、後編も読み進めてみてください。

株式会社ウィ・キャン代表
濱川博招 (はまかわ・ひろあき)氏

経営コンサルティング会社、株式会社ウィ・キャン代表。関西大学法学部卒業。顧客満足度向上、クレーム対応のスペシャリストとして、医療機関、介護施設、企業、サービス業などで実践的なコンサルティングを行う。顧客満足、クレーム対応、人材教育などをテーマにした講演、研修、執筆なども実施。著書に『病院のクレーム対応の基本』、『結局、病院のクレーム対応は最初の1分で決まる!』、『看護主任・リーダーのためのコーチングスキル入門』(いずれもぱる出版)、『どんな患者さんからもクレームがこない接遇のルール』(エクスナレッジ)などがある。

【事例1】「予約したのに待たされるのはなぜ?」と患者からクレームが!どうする?

〈クレーム事例〉

「予約時間に来院しているのに、30分以上待たされた。予約した意味がない」と受付スタッフに抗議が入った。

〈どれが正解?3つの選択肢〉

(1)優先的にその患者を診察するよう調整する
(2)「診察内容によって順番が前後することもあるので」と、とにかく待ってもらうよう伝える
(3)待ち時間の目安を伝え、これ以上待てないようであれば予約の取り直しをお願いする

濱川:「(1)優先的にその患者を診察するよう調整する」の対応を選びがちだとは思いますが、これはNGです。この対応を取ると、同様の抗議をしてくる患者さんに対して常に優先的に診察をするということになってしまいます。待ち時間について理解を示してくれているほかの患者さんが不利益を被るような対応は、クリニックへの信頼を失いかねません。

「(2)『診察内容によって順番が前後することもあるので』と、とにかく待ってもらうよう伝える」は正論ではありますが、すでに患者さんが不満を抱えている以上、この理屈は通用しないと思います。そのため対応としては不正解です。

「(3)待ち時間の目安を伝え、これ以上待てないようであれば予約の取り直しをお願いする」が正解です。どんなに便利なIT機器を導入しても、安全な医療を提供するためには、完全に待ち時間をなくすことは困難です。そうした現状を丁寧に伝えた上で、その日の目安の診察時間をお伝えしてください。

また事前の策として、予想以上に待ち時間が長くなる可能性がある日には、受付時にあらかじめ受付スタッフが「申し訳ありませんが、本日は急患の対応が入ったため、皆さん30分ほどお待ちいただいています」などと伝えておくだけで患者さんの心持ちは随分違うはずです。

忙しいときはスタッフも大変ですが、患者さんにはお待たせする理由と目安の時間を伝えることで、こうしたクレームは確実に減ります。

その後もさらに時間が押すようなら、最初にお伝えした「30分」が過ぎる少し前に、受付スタッフや看護師が待合室に出て、「お待たせして誠に申し訳ございません。あと○○分ほどで順番となります」と伝えるようにしてください。患者さんを待たせてしまっていることをクリニック側もちゃんと把握しているという姿勢が見えれば、患者さんも安心します。

そしてできることなら、実際に診察をする院長に「今日は待ち時間が全体的に長くなっている」と報告しておき、診察室に入ってきた患者さんに対して「お待たせしてすみませんでした」と一言告げてもらうようにすると、患者さんの不満も少なからず解消されるかと思います。

【事例2】スタッフの態度に不満を持つ患者からクレームが!どうする?

〈クレーム事例〉

問診票への記入時や保険証の提出時などに対応した受付スタッフに対し、「態度が横柄で感じが悪い」と患者が怒り出してしまった。

〈どれが正解?3つの選択肢〉

(1)速やかに代表である院長が出て丁寧に詫びる
(2)当該スタッフは別室に下がり、別のスタッフが代わりに対応する
(3)対応したスタッフが説明不足や言葉足らずな点を認め謝罪。クレームが入ったことをすぐ院長に報告する

濱川:「(1)速やかに代表である院長が出て丁寧に詫びる」や「(2)当該スタッフは別室に下がり、別のスタッフが代わりに対応する」も間違いではありません。

むしろ(1)が可能なら、スピーディーに解決する策としては最善かもしれません。しかし多忙なドクターが外来診療を中断してまで謝罪に出てくるというのは現実的ではないですし、その間、他の患者さんをお待たせすることになってしまいます。

(2)は、急にクレームを受けて動揺しているスタッフをフォローするという意味では正しい対応ですし、例えばそのスタッフの上長にあたる者に代わるということであればかなり有効でしょう。

クレーム対応においてはクリニックや病院に限らずどんなサービス業でも、役職の高い立場のある者からの説明や謝罪には重みが感じられ、顧客はより納得感を得る傾向にあります。ただ、やはり少人数のスタッフで運営しているクリニックではなかなか迅速にこうした対応は取りづらいもの。

というわけで、「(3)対応したスタッフが説明不足や言葉足らずな点を認め謝罪。クレームが入ったことをすぐ院長に報告する」が間違いのない対応となります。まずは対応したスタッフが、不快な思いをさせてしまったことを丁寧に詫びることが大事です。

その上で、こうしたクレーム発生時には院長への報告を徹底させることをお勧めします。そして院長はその患者さんを診察する際に「先ほどはスタッフが失礼いたしました」と一言お詫びの言葉を伝えると良いでしょう。クリニックの責任者である院長からの言葉に患者さんは「不満をきちんと受け止めてくれた」と安心感を抱くはず です。

【事例3】予約したつもりができていなかった患者からクレームが!どうする?

〈クレーム事例〉

クリニック側に予約は入っていないのだが、「確かに予約を入れた」と言う患者。その日の診療はすでに予約で満杯だが……。

〈どれが正解?3つの選択肢〉

(1)他の患者がいるため順番を繰り上げることはできないが、なるべくその患者が予約を入れたという時間帯に沿うような形で診察する
(2)予約が入っていないのは事実なので、後日改めての来院をお願いする
(3)予約システムの使い方を説明し、その場で後日の予約を入れてもらう

濱川:「(2)予約が入っていないのは事実なので、後日改めての来院をお願いする」は患者さんとクリニックの間で「予約を入れた」「いや入っていない」の堂々巡りになるだけで、対応としてはNG だと思います。

クリニック側には非がないことを強調するように「予約は入っていません」と言いきってしまうと、すべてこの患者さんが悪いと決めつけているような印象を与えかねず、当然患者さんの不満は解消されません。

「(3)予約システムの使い方を説明し、その場で後日の予約を入れてもらう」は正解といっても良いのですが、NG です。なぜなら、それが「あなたの予約の仕方が間違っているので」という前提で進むと、患者さんはさらに気分を害してしまうためです。

あくまでも「当院のシステムがわかりづらく、ご不便をおかけしました。よろしければ、どのように予約を入れたか教えていただけますか?」というようなニュアンスで、一緒に画面を見ながら、患者さんがどこでつまずいたのかを知るような流れになればベストです。そして正しい入力方法などを教示し、希望があれば後日の予約を入れるなどの対応が取れると良いでしょう。

「(1)他の患者がいるため順番を繰り上げることはできないが、なるべくその患者が予約を入れたという時間帯に沿うような形で診察する」がこの場合では正解だといえます。

たとえ誤って予約が入っていなかったとしても、わざわざクリニックまで足を運んだ患者さんを「今日は診られません」と帰すのではなく、極力診るという姿勢は見せるべきです。

もちろんすぐにというわけにはいかないので、「30分〜1時間ほどお待ちいただくことになりますが」などの前提は伝えてください。それで「待てない」ということになれば、(3)の対応で患者さんに寄り添いましょう。

【事例4】呼び出しの声に気づかず待ち続けていた患者からクレームが!どうする?

〈クレーム事例〉

個人情報保護の観点から受付スタッフの呼び出しの音声を小さくしたところ、すでに名前を呼ばれているはずの高齢の患者から「全然呼ばれない」と小言を言われてしまった。

〈どれが正解?3つの選択肢〉

(1)できるだけ早いタイミングで診察が受けられるよう対処する
(2)個人情報保護について説明し、理解を促す
(3)次回からは聞き逃がしのないよう「大きな声でお声がけします」と約束する

濱川:「(2)個人情報保護について説明し、理解を促す」と「(3)次回からは聞き逃がしのないよう「大きな声でお声がけします」と約束する」はNGですね。(2)はあまりにもしゃくし定規。患者さんは「名前を呼ばれなかった」と不満を感じているわけですから、それに対してクリニック側のルールを提示したところで、納得はしてもらえないでしょう。

(3)も、「この患者さんが来院したときだけ」の特別対応となってしまうような解決方法であり、推奨しません。受付スタッフの仕事が煩雑になってしまいますし、万一、別のスタッフにそれがきちんと伝わっていなかった場合には、次回、患者さんの不満はさらに増してしまいます。

この場合は「(1)できるだけ早いタイミングで診察が受けられるよう対処する」が正解。まずは声が届かなかったことを詫び、できるだけ早く診療が受けられるように調整してください。昨今では個人情報保護の観点から、大きな声で何度もフルネームで呼ばれることを嫌がる患者さんもいるため、診察の順番が来たときに患者さんを番号で呼ぶクリニックもあります。

一方で、患者さんの取り違えがあってはいけないので呼び出し時に名前を呼んで確認するというポリシーを大切にしているクリニックもありますし、高齢の患者さんなどからは、番号よりも名前のほうが気づきやすい上に親しみを持ちやすいという意見も聞かれます。

いずれにせよ、すべての患者さんが自分の順番が来たことに素早く気づける工夫は大切です。例えば、運用に無理のない範囲で、あらかじめ受付で希望する呼び方を選択してもらっておくのも良いでしょう。「名前を呼ばれたくない」という患者さんには番号で、「名前のほうがわかりやすい」という患者さんには名前で呼ぶことができるよう初診時に希望を聞いておくのも一つの方法です。

その上で、どうしても「呼び出しの声が聞こえづらい」という患者さんには、呼び出し後に診察室に向かったかどうかを確認する、あるいは個別に声がけするなどの配慮は必要かもしれません。

【事例5】医師が不在で急遽休診に。知らずに来院した患者からクレームが!どうする?

〈クレーム事例〉

その日、外来診療に入る予定だった医師が所用のため急遽休診に。そうとは知らず、その医師の診察を希望する患者が来院。「わざわざ調べた上で会社を休んで来たのに、どうしてくれるんだ!」と受付スタッフに不満をぶつけた。

〈どれが正解?3つの選択肢〉

(1)「代理の医師が対応いたしますので、ご安心ください」と患者の気持ちを落ち着かせる
(2)次回からは来院当日に希望する医師が休診となっていないか、確認の電話をするようお願いする
(3)後日にはなるが、希望する医師の診察日の予約を提案する

濱川「(1)『代理の医師が対応いたしますので、ご安心ください』と患者の気持ちを落ち着かせる」はNGです。患者さんがスピーディーな診察を求めているなら代理の医師の対応でも問題ないですが、特定の医師に診てもらいたいという強い希望がある場合には、クリニック側の都合を押しつけていると捉えられてしまいます。

「(2)次回からは来院当日に希望する医師が休診となっていないか、確認の電話をするようお願いする」も良い対応とはいえません。こうしたお願いをすれば、当然この事例のようなトラブルは防げるわけですが、それを患者さんに強いるような提案をクリニック側がすることは避けるべきです。もちろん患者さん自身が「次回からは確認の電話を入れます」と言うのなら、それは受け入れてください。

「(3)後日にはなるが、希望する医師の診察日の予約を提案する」が正解です。

しかし、患者さんにまた別の日に足を運んでもらわなくてはならないため、「ご希望の医師ではありませんが、本日の外来担当も実績のある医師です。いかがいたしましょうか」と別の選択肢も提案するのが良いのではないでしょうか。

その提案を患者さんが受け入れてくれた場合には「診察後もご希望の医師に戻してほしいという場合には、本日の診療内容を引き継いでおきますのでご安心ください」と、一言添えることも大切ですね。

もちろんその日、代わりに診ることになった場合は、その医師にも診察前に事情を伝えておき、「私がしっかり診ますので安心してください」と伝えてもらうなど、患者さんの不満と不安に寄り添うような態度を示すことが大事です。

【後編まとめ】その場しのぎのクレーム処理ではなく、患者の声をクリニック改善のきっかけにする

前後編に分けて、待合室での適切なクレーム対応を3択形式で解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。

濱川氏は「クレーム自体は必要以上に恐れることはありません。クレームは『改善してほしい』という期待の証しであり、むしろ表面に出てこない『サイレントクレーム』のほうがクリニックにとってはマイナスです」と指摘します。

なぜなら、医師やスタッフに不満を伝えたくても伝えられなかった患者は、「改善してほしい」という期待を寄せなくなるため、次第にクリニックに足を運ばなくなります。そこで解消できなかった不満はクリニックに伝える代わりに友人・知人に広まる可能性があり、そうした「サイレントクレーム」はクリニックの信頼を下げる危険性を孕むものだからです。濱川氏はこう続けます。

「患者さんから寄せられた声はクリニックの環境やスタッフの接遇を改善していく大きなチャンスであり、むしろ貴重な気づきとなる可能性を秘めているもの。

できればクレームは受けたくないと考えるのは当然のことですが、もしも患者さんに不満をぶつけられたとしても、初動の対応を間違わなければさほど大きなトラブルに発展することはありません」

いわく、「とにかく患者さんの声を聴くことが第一」だとか。その際に重要なのは、自分たちが原因で不満を生じさせたかもしれないという相手への理解と共感を持って接すること。それで多くのトラブルは回避できると言います。

「クリニックと患者さん、どちらが正しいかという議論をするのではなく、患者さんの不満の要因を探ることが大切であり、それこそがクレームを改善のきっかけにするチャンスです。

クレーム発生→患者さんの不満を受け止める適切な対応→クリニック全体で事例共有→同様のクレームが起こらないよう根本的な改善を図る――というサイクルが確立されていけば、より安心して通える場所として、患者さんから厚い信頼を得るクリニックへと進化し続けていけるのではないでしょうか」

<執筆者プロフィール>
スギウラ ミエ
ライター。愛知県生まれ。求人系情報誌の編集部に在籍し、多くの文化人、タレントへのインタビューを担当。その後独立し、ビジネス系ウェブメディアなどでインタビュー記事を多数手がけている。医療分野でも活躍し、『頼れるドクター』では長年表紙の制作などに携わり、『患者ニーズ研究所』でも冊子創刊号から記事を執筆。

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