「待ち時間」の患者のイライラポイント5選!快適な待合空間づくりのヒント

待合空間づくり

丁寧に診るため、専門的な検査を実施するため、とさまざまな理由から、クリニックではどうしても「待ち時間」が発生してしまうもの。ですが、新たな受診先を探したり、これから長く通っていきたい「かかりつけ医」を選んだりする際のユーザーの心理として、待ち時間は気になるポイントです。

コロナ禍を機とした感染症予防の観点から、患者の待ち時間への注目度は以前より高まっています。これからのユーザーのクリニック選びで無視できない「待ち時間」。とはいえ、待ち時間を完全にゼロにするのは困難なことです。

未来のクリニック経営に役立つ情報を独自に研究してお届けする「クリニック未来ラボ」編集部では、患者が待ち時間に感じるイライラをひもとき、選ばれるクリニックのヒントを探ります。

患者の3人に1人が「待ち時間」を踏まえて受診先を決めている!

医療ポータルサイト「ドクターズ・ファイル」がユーザー調査(※)の一環で、コロナ禍に行った「病院・クリニックを選ぶ際、重要視しているポイントは?」という質問の回答結果を見てみると、「診察までの待ち時間・混雑状況を重要視している」と選んだ人は30.1%。つまり、およそ3人に1人が待ち時間も加味して受診先を決めています

待ち時間

長引くコロナ禍で、「待ち時間の短縮」はスタンダードな取り組みとなり、医療機関はさまざまな努力をされていることでしょう。しかし、待ち時間を完全にゼロにするのは非常に難しいのが実状です。そのため、「待ち時間をどうストレスなく過ごしてもらうか」という観点を持つことも大切です。

ここからは、日頃から医療機関をよく利用し、家族の健康を気遣う20~40代の既婚女性5人にヒアリング調査を実施。その声をもとに、「患者が待っている間、どこにイライラを感じているのか」を5つのポイントに分けてご紹介します。併せてイライラ緩和策もお伝えしますので、ぜひ医院づくりの参考にしてみてください。

■調査対象者
Aさん:30代。夫と2人暮らし。産婦人科、歯科のクリニックなどに通っている。手話通訳をしているため、聴覚に障害のある人の付き添い受診も多い。

Bさん:30代。夫と生後4ヵ月の息子の3人家族で、初めての子育てに奮闘中。小児科と、自身が通う歯科などがかかりつけのクリニック。

Cさん:40代。夫と2人暮らし。10年以上通う産婦人科クリニック、週1で通う内科クリニックがかかりつけ。年に1回程度、総合病院も利用することも。

Dさん:20代。夫ともうすぐ2歳になる娘の3人家族。小児科、産婦人科、内科、皮膚科と、多数のクリニックに通う。

Eさん:30代。夫と2歳の娘の3人家族。自身や子どもの症状に合わせて、近所のクリニックを上手に活用している。

患者のストレス1】診察までの時間がわからずイライラ

ユーザーの中には、医療機関に待ち時間はつきもの、と考えている人は少なくありません。「妊娠時に通った産婦人科では、予約しても1時間待ちはいつものことでした」と話すBさんも、待ち時間に対してネガティブ一辺倒な印象を持ってはいませんでした。またCさんも「腕の良い人気の先生に診てもらおうと思ったら、待ち時間が長いのは仕方がない」と話します。

しかし一方で、「待ち時間の目安がわからないこと」に対して不満を感じる人は少なからずいるようです。例えばDさんからは「時間が読めないのが一番ストレス。ただ待つだけにならないよう、待合室に何かしら情報が欲しい」との声が。またAさんも「自分が今、どの位置にいるのかわからないと、トイレにも行けない」と不満をこぼします。

そのイライラ緩和には、待ち人数を知らせるモニター掲示板などが有効ですが、それよりも効果的なのが、スタッフの一言の気配りです。体調が悪い中、患者はいつもよりナーバスになっています。そのため、長時間待たせてしまう場合、外出できるよう受付時に「後1時間くらいです」と伝えたり、順番が近づいたら「もうすぐですよ」と声がけしたりと、ちょっとした働きかけがあるだけで、だいぶ心証が違うとの意見が多数聞かれました。

【患者のストレス2】待合室で時間を持て余してイライラ

新型コロナ感染防止のために雑誌やキッズスペースが撤去され、待合室で時間を持て余してイライラする人が増えています。フリーWi-Fiを導入しているクリニックもありますが、スマホで時間をつぶすのにも限界があるため、Cさんは「テレビを字幕放送モードにしてもらえるとうれしい」と話していました。院内ではテレビの音量が絞られているため、字幕がないと内容がわからず余計に憂鬱になってしまうそうです。

文字情報といえば、Eさんからは「院内掲示で、患者向けの啓発用の情報やクリニックからの広報など、役立つ情報があると、待ち時間に情報収集ができて有意義に感じられる」という意見も。

そして、「椅子は大事」だという意見が多数。椅子の種類によってはお尻が痛くなり、ただでさえ不調のところ、余計に具合が悪くなりやすいようです。「背もたれのあるソファーだとうれしいですね。気持ちが落ち着いて、待ち時間が長くても快適に過ごせます」とAさん。 また小さな子どもの場合、じっと椅子に座っているだけでも至難の業。座りやすい子ども用の椅子を用意したり、テレビのチャンネルを国会中継やニュース番組からもう少しライトなものへと変えたりといった工夫があれば、子どもも退屈せず、親も気を張らずに待ち時間を過ごせるはずです。

【患者のストレス3】診察で忙しそうな先生に質問できずイライラ

長い待ち時間を耐えたにもかかわらず、質問をできないまま診察が終わってしまうと、患者のイライラはピークに。Eさんは不満げに「2時間も待ったのに、先生が忙しそうで気後れしてしまい、何も聞けなかった。あの時は、待った時間がもったいないと感じてしまいました」と産婦人科での経験を話していました。

先生やスタッフが忙しさからぴりぴりしている様子は、思った以上に患者に伝わるもの。結果、質問しづらい雰囲気が醸成されてしまいます。ですから、多忙でもできる限りゆとりを持ち、診察室に入ってきた患者に、ねぎらいの言葉をかけることを心がけてみてください。実際にDさんからは「長く待っても先生から『お待たせしましたね』と一言あるだけで、ストレスが軽くなります」との声が聞かれました。

【患者のストレス4】感染症対策が徹底されておらずイライラ

多くの母親にとって、感染対策はコロナ禍以前から気になるポイント。もうすぐ2歳になる娘がいるBさんは、「小児科では、発熱者用の待合室が完全に別でないと心配で」と話していました。加えて、3密を回避するために座席間隔を広げたり、時間帯ごとに患者の人数を絞ったりと、待合室や受付の感染対策を講じる医療機関が増えている今、適切な対策がなされていないと、不安でイライラしてしまう層が母親以外にも広がっていると見られます。

すぐに対策を取ることが難しければ、「せめて外出できる仕組みがあるとありがたい」とAさん。例えば、Dさんが通う2時間待ちが当たり前だという人気のクリニックでは、受付時に「外出カード」と呼ばれる番号札を渡され、目安の待ち時間を教えてくれるそうです。「それに合わせて外出し、クリニックに戻ったら外出カードを受付に返却します。もし自分の順番を過ぎていても、札を返した時点で優先して案内してもらえるので、安心なんです」とDさんは話します。

【患者のストレス5】ただ待つしか選択肢がないことにイライラ

長く待つからといって、すべてのユーザーがイライラするわけではありませんが、待ち時間が短いに越したことはないというのが多くの人の本音。Cさんは「待ち時間が長いと大切な時間が削られている気がします」と話していましたが、これは極端な意見というわけではないでしょう。そして、同様に待ち時間に抵抗があるEさんからは、「待ち時間の長さよりも、ただただ待っていなければならない環境自体がストレスです」という発言も。

こうした待ち時間への抵抗感が強い人たちには、待ち時間そのものを短縮する工夫が必要です。その一つが、インターネットの「診療予約システム」。中でもEさんが通うクリニックでは「順番受付」を採用しており、患者は院外からスマホで順番予約や混雑状況の確認ができ、自分の順番が近づくと、「あと何組待ち」とメールやプッシュ通知で知らせてくれるそうです。「ぎりぎりまで外で買い物をしたり、子どもと家や公園で過ごしたりできますし、なにより来院後の待ち時間が短くて済みます」とEさん。

最近では待ち時間の短縮のため、こうした予約システム以外にも問診システムや再来機受付機の導入など、院内のICT化を強化するクリニックも増えているようです。患者のイライラを緩和するだけでなくスタッフの負担を減らす手段として、導入を検討してみるのもいいかもしれません。

【まとめ】小さな積み重ねが、患者に選ばれ続けるポイント

今回、紹介したイライラ緩和策の中には、今日、明日にもできる工夫も含まれています。テレビの字幕をオンにしたり、患者にねぎらいの言葉をかけたりと聞くと「そんな些細なことでいいの?」と思われるかもしれませんが、小さなことの積み重ねにユーザーは敏感に気づき、クリニックに対して好感を抱くもの。逆に、ただただ無駄に長時間座っていると感じさせてしまうと、先生を頼って来た患者はがっかりして、再度の受診をためらってしまうかもしれません。

患者離れを防ぐため、そして、選ばれ続けるクリニックであるために、待ち時間のイライラの種が自院にないか、ぜひこの機会にチェックしてみてください。(クリニック未来ラボ編集部)

※ドクターズ・ファイルによる「患者のクリニック選びに関する調査」。対象は、全国主要都市に住む、もしくは勤務する20~59歳の男女4000人。2020年7月にインターネット調査にて実施。