患者の「不安の声」からひもとく!クリニックの感染症対策【後編】

クリニックの感染症対策

新型コロナウイルス感染症の感染症法の位置づけが、2023年5月から5類に移行しましたが、世界の歴史を見ても、新型コロナのような感染症の流行は繰り返されており、今後も未知のウイルスが生まれる可能性があります。

そこで、コロナ禍の教訓を残しておくためにも2022年に発表した記事を再掲載します。

※本稿の初出は、「〈後編〉患者の「不安の声」からひもとく!コロナ禍3年目、医療機関の感染症対策」(「患者ニーズ研究所ONLINE」2022年6月3日配信)です。再掲載にあたり一部加筆・編集しています。肩書きやデータは本稿初出時のものです。

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コロナ禍が長期化したことで、患者が医療機関に対して感じる「不安」の内容が、新型コロナウイルス感染症が流行し始めた頃と比べて、より具体的な「感染リスク」に関するものへと変化しています。

「患者の『不安の声』からひもとく!クリニックの感染症対策【前編】」では、こうした状況を踏まえ、今患者が感じている感染リスクに対する「不安の声」と併せて、医療機関で行われている感染症対策をご紹介しました。

この後編でも引き続き、患者の声とともに、医療機関での感染症対策を取り上げます。新型コロナウイルス感染症の新規感染者数は減少傾向にあるものの、2022年6月1日現在、厚生労働省によると、国内では1日平均で約2万3000人の新規感染が報告されています。拡大の波が繰り返され、コロナ禍が長期化する中、今一度、自院の取り組みに漏れがないかをチェックしておきましょう。

【不安の声5】うちの子はキッズスペースで遊んだり、絵本を読んだりするのが大好き。でもこのご時世、使っても良いの?

【医療機関の感染症対策】
コロナ禍の今、小さな子どもの安全に配慮し、キッズスペースのおもちゃを撤去したり、絵本の貸し出しを制限したりする対策が行われています。

キッズスペースの制限・撤去

感染対策として、子どもが自由に遊べるキッズスペースを閉鎖したり、みんなで使えるおもちゃを介して感染しないよう、子どもが触れるおもちゃを撤去したりする医療機関が多く見られます。その代わりに、子どもに静かに待ってもらうための取り組みとして、DVDの上映をしているところも。

絵本貸し出し制限・本棚撤去

不特定多数の子どもが触ってしまう絵本についても、感染症対策として本棚を撤去しているケースが見られます。医療機関によっては、絵本を本棚に置くのではなく貸し出し制にして、読み終わったら消毒するといった方法で本を貸しているところもあります。

【不安の声6】長時間院内にいることになるので、密閉性が気になってしまいます!

【医療機関の感染症対策】
こまめな院内換気を行ったり、ウイルス除去に特化した医療機関向けの空気清浄機を導入したりと密閉回避のための取り組みがあります。

院内換気の強化

定期的な空気の入れ替えで窓を開けたり、入り口を少しだけ開けておいたりと、「換気」の対策が多く見られます。もともと空気清浄機を導入している医療機関は多くありましたが、コロナ禍を受け医療機関向けのウイルス除去機能のある空気浄化装置の導入などハード面での対策を強化している医療機関が増えています。

また、「換気中」などと書かれた紙を開けている窓に張り、「対策の見える化」で患者に安心してもらっているというケースも。

【不安の声7】お会計のとき、必ず対面ですよね。現金の受け渡しをあまりしたくないな……。

【医療機関の感染症対策】
患者と受付スタッフ間での現金での受け渡しを避けるため、自動精算機の導入や、キャッシュレス決済対応など非接触会計を導入する動きが進んでいます。

自動精算機導入

会計に自動精算機を導入することで、非対面・非接触会計が可能に。患者のみならず、スタッフの安心のために導入する医療機関が徐々に増えています。非対面・非接触というメリットだけでなく、会計のスムーズ化により待ち時間が軽減され、結果的に院内滞在時間の短縮につながっているケースも。

キャッシュレス決済対応

クレジットカード、電子マネー、QRコードなどによるキャッシュレス決済。現金での受け渡しがないため、感染症対策としてキャッシュレス決済の対応に踏みきった医療機関があります。実際、2021年に医療ポータルサイト「ドクターズ・ファイル」が行った「キャッシュレス決済に関する調査」(※1)でも、医療機関の5割以上が導入しているという結果に。

クレジットカード決済の場合はカードをスタッフが受け取り機械に通すのではなく、患者にカードを機械に挿してもらい「完全非接触」を徹底する医療機関も見られます。

【不安の声8】感染が怖くて人に会いたくない。基礎疾患があるけれど、通院を控えるべきか迷っています。

【医療機関の感染症対策】
来院時のさまざまな工夫のほか、オンライン診療を開始したという声が。インターネットを使ったもののほか、電話での診療を行う医療機関があります。

遠隔診療

パソコンやスマホからインターネットを介して行うオンライン診療や、電話での診療に対して、「通院自体が不安」という患者からの需要が高まっています。

これまでコロナ特例の時限的な措置として、再診からのみ遠隔診療などが認められていましたが、2022年4月の診療報酬改定のタイミングで、初診から恒久的に認められるようになりました。そのため、設備投資や運用が導入のハードルになっていた医療機関でも、徐々に興味を抱くところが増えているようです。

【後編まとめ】患者の「受診不安」は軽減したものの、不安は残る。情報発信で安心につなげて

ここまで、待合室での滞在時間や発熱患者との「密」不安、キッズスペースの利用の可否など、コロナ禍が続く今の患者の不安をピックアップしてきました。

実は2020年5月に、ドクターズ・ファイルが開業医向けに行った感染症対策に関するアンケート調査(※2)では、すでに同時受診患者数の制限や予約制の導入については約半数の医院が実施しており、院内の消毒強化やスタッフのマスク着用については95%以上の医療機関が実施しているという結果でした。その一方で、体制が整いつつある中、「どんな対策を講じればいいのかわからない」という医療機関からの不安の声が多く寄せられていました。

そして2022年6月現在、新型コロナウイルス感染症流行から2年半近くが経過した今回の調査では、患者の不安に対して、すでに多くの医療機関で「患者さんの安心のために」と長期に及ぶさまざまな対策がなされており、今回集まったような患者の「受診不安」は徐々に減っていくように感じます。

これにはおそらく、新型コロナウイルス感染症流行当初と比較すると、感染症対策だけでなく、患者の安心のためにとホームページなどで「どのような対策をしているか」を伝えたり、院内掲示をしたりと「対策の見える化」を進めている医療機関が増えていることも影響しているでしょう。

しかし、患者の中には今も、医療機関でどのような感染症対策が取られているか知らず受診に悩み、医療機関に行ってみて初めて対策の状況を知り、「こんなに感染症対策がされているのか」と安心するという人は少なくありません。特に初診で医療機関に行く際は、「どんな感染症対策がされているか」が気になる患者は多いもの。終わりの見えないコロナ禍、積極的な情報発信をすることで、患者の安心につなげましょう。(クリニック未来ラボ編集部)

※1 ドクターズ・ファイルによる「キャッシュレス決済に関する調査」。対象は、ドクターズ・ファイルを契約中の全国の医科・歯科クリニック415院。2021年6月にインターネット調査にて実施。
※2 ドクターズ・ファイルによる「クリニックの感染対策調査」についてのインターネット調査。調査対象は、開業医119人。2020年5月19日~31日に調査実施。

ドクターズ・ファイル アポ レジタス

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