患者が医療機関に求めるものは何か?「感謝の声」から患者のニーズを分析

患者の「感謝の声」から患者ニーズを分析

患者が日々感じているドクターやクリニックへの感謝。伝える機会がなく医療機関へ届けられていないケースがほとんどです。しかし患者からの感謝の言葉は、「満たされたニーズ」ともいえます。医療ポータルサイト「ドクターズ・ファイル」の「感謝の声を送る」機能を通じてクリニックに寄せられた声をひもとくと、そこから患者が求めているニーズが見えてきました。

患者がクリニックに何を求めているかは意外とわかりにくいものです。ニーズを知ることは、患者の満足度を高め、クリニックの安定した経営につながるはずです。

本稿では、患者からドクターズ・ファイルの「感謝の声」機能に寄せられたさまざまなメッセージから、対応や環境など、クリニックに対して患者が何を求めているかを分析します。

患者が伝えたかった感謝の言葉から「満たされたニーズ」がわかる

患者からの感謝の気持ちはクリニックへ届きにくい

患者は医療機関にかかる際、医師やスタッフと会話をします。しかし当然ながら、「主訴」や「治療」の内容がその中心でしょう。治療のために通院しているのですから当然ですが、多くの患者が「伝えたいが伝えられていない」ことがあります。それは、「医療機関への感謝」です。

「先生もスタッフさんも忙しいだろうし、かえって迷惑じゃないだろうか」「いつも行くクリニックなだけに、面と向かって改めて言うのは恥ずかしい」「元気になったので、通院する必要がない。伝える機会がないな……」などといった思いから、患者は感謝の思いを伝えたくとも、躊躇してしまうと推察されます。

患者が何に満足したかを知ることは、経営のヒントになる

一般的に、「要望」や「苦情」のような意見は、その裏にニーズが隠されているといわれますが、「感謝」も例外ではありません。要望や苦情と異なるのは、「満たされたかどうか」という点であり、ニーズには変わらないといえます。

例えば「スタッフさんが明るく元気なあいさつをしてくれてうれしかった」という感謝は、「スタッフに明るくいてほしい、元気なあいさつをしてほしい、というニーズが満たされた」ために生まれるといえるでしょう。つまり、その患者は「スタッフに明るくいてほしい」「元気なあいさつをしてほしい」というニーズ(自覚・無自覚問わず)を持っているということです。

そこで、ドクターズ・ファイルに寄せられた「感謝の声」に着目。「感謝の声」とは、ドクターズ・ファイルに掲載されているクリニックに対して、患者が編集部を介してメッセージを送ることができる機能です。次からはこの声をもとに、患者のニーズを読み解いていきましょう。

かつてかかっていたドクター・クリニックへの感謝の事例

以下は、今現在は転居や、完治したため通っていないが、「あの時言えなかった感謝の言葉を届けたい」と投稿した患者のメッセージです。わざわざ投稿しようと思わせるほど、患者の心を満たしたポイントとは何なのでしょうか。

過去のクリニックのドクターへの感謝

以前に診てもらっていたドクターへの感謝の声の特徴は、不安を取り除いてくれたドクターの一言や、患者に寄り添ってくれた対応を忘れていないこと。

「昼休憩中でしたが、もう一歩も動けないほどの痛みで、『椅子に座って待たせてほしい』とお願いしたら、先生が休憩をやめて診てくださった」「子どもの不調が心配で親も疲れていたとき、先生が直々に『気になって』と電話をしてくれて感動した」など、心に寄り添った診療が挙げられました。

〈患者の声〉

  • 定期的に治療で通っていました。先生がとにかく優しくて、安心して治療を受けられました。転勤で通えなくなり残念ですが、治療はこれからも続けます。
  • 子どもが小さい時にお世話になりました。娘が初めてのインフルエンザワクチンを打って発熱した際、先生が親身になってくれて本当に心強かったです。

過去のクリニックのスタッフへの感謝

診療をしてくれた医師だけでなく、応対してくれたスタッフへの声も多く、患者にとって診療中以外の時間も非常に大切な時間だということがわかります。「看護師さんや受付の方が優しかった」「スタッフの方すべてが温かい対応をしてくれていたので、安心した」という声がありました。

何か特出したエピソードではなく、日々通っていた際の対応が、患者にとっては忘れられない出来事であり、大きな感謝につながっていることがうかがえました。

〈患者の声〉

  • 先が見えず、本当につらい時期に通っていました。先生だけでなく、受付の方や看護師さん、すべての方が穏やかで優しくしてくれて、安心して通うことができました。
  • スタッフの方がみんな、てきぱきと臨機応変に働かれていて、行けば元気が出る、私にとってはそんな場所でした。

過去のクリニックの環境への感謝

ドクターやスタッフといった「人」への感謝だけでなく、クリニックの環境配慮や雰囲気への感謝も見られました。

特に小児科では、子どもの成長により通院しなくなりますが、小さな子どもをクリニックに連れて行くのは親としては重労働。そんな大変な時期に、子どもや親に配慮された空間に通えたことが、「子どもが成長した今だからこそ伝えたい感謝の言葉」として数多く挙げられました

〈患者の声〉

  • 子どもが大きくなり今は通っていませんが、診察室に電車やいろいろなおもちゃがあって、子どもが緊張しない空間を作ってくれていたのが、親としてありがたかったです。
  • コロナが流行る前から、熱がある子は個室で診察し、入る前に消毒と感染症対策がしっかりされていて安心できるクリニックでした。

いつもの「かかりつけ医」への感謝の事例

日頃かかりつけ医として通院している医療機関への声は、「常々思っているけれど、伝える機会がなかった」ものの代表格。医院の雰囲気やドクター・スタッフの人柄に感謝・感動の声が挙げられていました。

かかりつけのドクターへの感謝

「かかりつけ医」へは、これまであった出来事や、いつもの声かけ、ドクターのスタンスなど、さまざまな点からの声が見られました。

「先生のおかげで体調が良くなった」という治療に対する感謝のほか、「診療中にかけてもらった一言で元気が出た」や、「わかりやすい説明で助かった」など、ドクターの人柄やスタンスへの共感や感動が多く挙げられました。かかりつけ医だからこそ、「先生に会うとそれだけで元気になる」といった意見もありました。

〈患者の声〉

  • 育児は大変ですが、子どもの体調不良に関しては一切心配事がありません。「何かあったら先生のところに行けば大丈夫」という気持ちがあるからだと思います。
  • 軽い症状で診療を受けてもいいのかと不安に感じながら行ったら、先生に「遠慮なく来てください」と言っていただけたので、とても気持ちが楽になりました。

かかりつけのスタッフへの感謝

スタッフの対応や心配りへの声では、「前回のことを受付の方が覚えていて、声をかけてくれてうれしかった」など、一つ一つが患者にとっては大きな出来事だったことがわかります。

「リハビリのスタッフさんが、親身に丁寧に対応してくれる。いつもあっという間に感じます」「受付の方が『ゆっくりでいいですよ』と言ってくれる。高齢なのでほっとしました」というように、関わる時間が多い分、日々かかるクリニックだからこそ、患者はスタッフの応対を重視しているといえます。

〈患者の声〉

  • いつもスタッフさんがみんな「こんにちは」とあいさつをしてくださるのでとても気持ちがいいです。治療に行っているのに、つらいどころか元気になる場所です。
  • 予約した時間に間に合わず電話をしたら、受付の方が「急がなくて大丈夫ですよ」と神対応。いつも優しくしてくださって、感謝です。

かかりつけの環境への感謝

初診で行ったときに受ける環境への印象とは異なり、いつも行くクリニックだからこそ、「この環境に助かっている」という実感の声が見られました。

バリアフリーでベビーカーや車いすで行ってもシームレスに移動ができたり、診療時間が長く通いやすくて助かっていたりとさまざまな声がありました。体調不良の際に行くことの多い医療機関だからこそ、ストレスなく通えることや、通いやすい雰囲気が患者の「心地良さ」になっているといえます。

〈患者の声〉

  • 待合室の治療のごほうびにできるカプセルトイが娘のお気に入り。病院嫌いな娘ですが、「カプセルトイの先生のところに行くよ」というとすごく喜んでくれるので助かっています。
  • 院内全体がいつも穏やかな雰囲気の歯科医院。歯医者さんは、私にとって緊張する場所なので、穏やかな雰囲気のおかげで必要以上に緊張しないで済んでいます。

初診でかかったクリニック・ドクターへの感謝の事例

初めてのクリニックは誰しも緊張するもの。その中で、気持ちをほぐしてくれた言葉や応対への感謝の声が多く見られました。この項目に寄せられた声は、初診の患者はどんな点に着目しているかが表れているともいえます。どのような声があったかを紹介します。

初診のドクターへの感謝

「今まで通っていた歯科医院では、すぐに神経を取ったり、歯を削ったり、という流れでしたが、初めて『なるべく歯を抜かない、削らない、神経を取らないようにするにはどうするか』といった治療を熱心にしていただき、10年先を見据えた歯の維持の考え方を教えてもらえました」というような、通院をきっかけに、これまでの自身の健康に対する「意識改革」になったことへの感謝の声が多く見られました。

〈患者の声〉

  • 急な診察にも対応いただけたクリニック。パソコンばかりではなく、患者の顔を見て、わかりやすく説明をしてくださる先生。とても力づけられました。

初診のクリニックの環境への感謝

突発的な体調不良やケガ、健診などで、初めてかかったクリニック。初診だからこそ寄せられたのは、第一印象での感動や、クリニックの内装などへの声でした。

「靴を脱がずに受付から診察まで、すべて車いすのまま動ける設計がありがたかった」「腰を痛めており、椅子に座ると立ち上がる際につらいのですが、スタンディングチェアがあり、待ち時間も負担なく助かりました」といった設備への感動の声も多かったのが初診の患者からの声の特徴です。

〈患者の声〉

  • 恥ずかしさと怖さから踏み出せずにいた大腸の検査。きれいな施設に踏ん切りがつき受診。痛みも怖さもなく受けられました。

新型コロナウイルス感染症対応でのクリニック・ドクターへの感謝の事例

世界的に2019年末から続くコロナ禍。新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけが5類に移行したとはいえ、2024年12月現在、年間を通して感染者が確認されています。新型コロナの脅威を目の当たりにした患者からは、不安に苛まれる中でかかったクリニックでの対応への感謝の声が多く見られました。平時以上に不安だからこそ、医療機関の対応や配慮が心に染みたという患者が多くいます。

コロナ禍のドクター・スタッフへの感謝

新型コロナウイルス感染症での対応に関する感謝の声では、診療だけではなく、「実際に受診はしていないが、電話での心優しい応対に救われた」というメッセージがありました。「電話応対への感謝」は特に伝える機会がないからこそ、今回挙がってきたのだと推測できます。

また、「医療現場がひっ迫している中、丁寧に対応してくれて感謝しかありません」といった声や、「検査で伺った際、子どもを励ましてくれて元気づけられました」など、コロナ禍の混乱がある中での心を打つ対応に感動・感謝の声が見られました。

〈患者の声〉

  • 診察を断られ続け、すがる思いで電話したところ、診察もPCR検査もしてもらえました。陽性で症状を電話相談したらそのまま診察、さらに薬を家まで届けてくれました。

コロナ禍のクリニックの環境への感謝

発熱の外来を開設しているクリニックへの「心強い」という声も多く、医療機関が行うさまざまな配慮を患者は敏感に感じ取っていることがわかります。

また「医療機関のひっ迫」を知っているからこそ、「感謝の気持ちを伝えたいが、直接伝えてその対応に時間を取らせるのは遠慮すべきか」と自重する思いもうかがえました。

〈患者の声〉

  • 発熱相談を、淡々と断わられることが多く心が折れかけていましたが、電話での丁寧な対応、詳しい問診。すべての対応に心が救われました。

【まとめ】応対への感謝の言葉の多さは、患者のニーズが高いことの証し

ここまで4つの分類から、患者の「感謝の声」を見てきました。どの項目からも、「ドクターやスタッフの日頃の応対やちょっとした一言」が心に響き、それが感謝につながっていることが特徴といえます。

今回挙がった感謝の声に、「電話の話し方が優しかった」「受付スタッフの方が明るく声をかけてくれた」「先生が親身に話を聞いてくれた」など、応対への声が多くあったのは、それだけ患者のニーズが高いといえるでしょう。

医療機関に対して、患者が何を求めているかはなかなかわかりづらいものです。しかし、患者にとって医療機関での応対一つ一つが重大な意味を持っています。感謝の言葉はニーズを知る上で、重要なヒントになると思われます。

今回、取り上げたドクターズ・ファイルの「感謝の声」のほか、控え室に「ご意見箱」を設置したり、専用のアンケート用紙やアンケートフォームを使って満足度調査を実施したりするなど、自院に合ったやり方で、患者から感謝の言葉を集めてみてはいかがでしょうか。(クリニック未来ラボ編集部)