クリニックの成長のためにはスタッフの存在が不可欠
「クリニックの評判は医師の技量よりも、スタッフの良しあしで決まる」
人材育成に注力する理由について、梅岡氏はこう語ります。
「どれだけ良い医療を提供しても、スタッフの対応が良くなければ患者さんはクリニックに対してマイナスの印象を持ちます。だから、患者さんに満足してもらうにはチームとして医療サービスの底上げをすることが重要なのです」
そのために梅岡氏がスタッフに必要と考えるのが、「共感する力」と「考える力」の2つ。確かに患者の気持ちに寄り添いながら、自分で考え臨機応変に対応できるスタッフが集まれば、患者の満足度が高まるに違いありません。では、そういった力を持つ人材を育てるためにはトップとしてどう関わっていけばいいのでしょうか。梅岡氏が経験した「しくじり」をもとに、どこがまずかったのか、そしてどうすれば女性スタッフが輝けるのかを見ていきましょう。
【ドクターのしくじり事例1】厳しい指導が良い結果につながるという思い込み
スタッフに新人研修を任せたところ、交際相手のことなどプライベートに踏み込みすぎた話を通じてコミュニケーションを図る内容が盛り込まれていた。「仕事は遊びではない」と感じた梅岡氏はスタッフを厳しい口調で指導したところ、そのスタッフが委縮してしまい、モチベーションを下げてしまった。
学生時代、体育会系の部活で育ってきた梅岡氏。厳しい指導を受ける中で「何くそ!」と思いながら頑張ることがモチベーションとなり、良い結果につながったという自覚がありました。そのため、同じような指導がスタッフにとっても良いと思っていたそうです。
「スタッフのためを思い厳しく接しましたが、逆効果でした。もちろんスタッフだって自分なりに考えた上で提案してきたはずです。でも私は背景にある新人をリラックスさせようという思いを聞こうともせず、頭ごなしに叱ってしまった。その結果、彼女を萎縮させてしまうだけになってしまったと思います」
中には、叱られて伸びるタイプの人もいますが、「自分がそうだから相手も同じ」とは限りません。男女の違いはもちろん、世代によっても受け止め方は異なるでしょう。特に若い世代の中には叱られ慣れていない人も多いので、マネジメントする側はそういった違いを理解しておく必要がありそうです。
【スタッフを輝かせるコツ】頑張りを認め、過程を評価しよう
スタッフのモチベーションを下げてしまうというしくじりを踏まえ、書籍やセミナーを通じて学びを深めた梅岡氏は、男女の捉え方には違いがあることを知り、指導の仕方を変えることに。
「私が書籍などで学んだのは、女性は叱られた悔しさをばねに頑張ろうと思うタイプよりも、褒められて伸びるタイプのほうが多いということでした。そこで、自分の要望どおりになっていなくても、まずはスタッフの頑張りを認め、その上で改善点を伝えるようにしました」
また、男性は結果を、女性はプロセスを重視する傾向にあることも知ったそう。そこで、スタッフに仕事を依頼する際は丸投げするのではなく、途中経過を確認しながら必要に応じて関与するようになりました。「そもそも思うような結果が出ないのは、私自身が研修の目的やゴールをスタッフに共有できていなかったことも大きかったと思います」と梅岡氏。
あらゆる点で一方的なコミュニケーションになっていたことを反省し、現在では意思疎通を大切に、女性ならではの傾向を理解しながらスタッフをフォローする体制を整えています。
【ドクターのしくじり事例2】求められていないのに、即座に結論を出す
スタッフとの面談で、職場環境の悩みを相談された梅岡氏。すぐに「こうしてみたら?」と解決策を提案するも、スタッフは浮かない表情。その場では「検討します」とのことで面談を終えたが、後日そのスタッフが「理事長は話を聞いてくれない」と不満を示していると、別のスタッフから報告を受けた。
梅岡氏は経営者として多くを学び、豊富な経験を積んできた自負があっただけに、「自分の意見に絶対的な自信を持っていた」と言います。だからこそ、良かれと思って解決策を提示しましたが、スタッフは納得せず。
「よく話を聞くと、悩みを聞いてほしかっただけで、解決策を求めていたわけではなかったみたいなんです。だったら私に相談してこなくてもいいじゃないかと思わなくもないですが……(笑)」
戸惑いつつも本を読んだり人に話を聞いたりする中で、梅岡氏はここにも男女の違いがあることに気づきます。
「男性は目的の解決を優先し、女性は共感を求める傾向にあるようです。私はすぐに結論が欲しいので、共感を重視する考えを完全に理解できたわけではありませんが、そういった視点があると意識することが大事なのだと思います」
【スタッフを輝かせるコツ】話すのは2割、残りの8割は聞き役に徹しよう
そこで梅岡氏は、とにかくスタッフの話を聞くことを心がけました。これまで会議や面談では9割梅岡氏が話していましたが、できるだけ話すのを2割とし、残りの8割は聞くことに徹したそう。
「途中で口を挟んで結論を言いたくなってしまうんですが、そこをぐっとこらえて……。話しすぎると、『どうせ意見は聞いてもらえないだろう』とスタッフを委縮させてしまうことにも気づきました」
梅岡氏がスタッフの意見に耳を傾けるようになったことで、会議では徐々に意見が出るように。話すことで頭の整理ができるのか、スタッフから解決策を提案されることも増えていきました。また、面談では仕事だけでなく、家族や健康などプライベートについても話せる雰囲気が醸成されていったそうです。
「スタッフの声に耳を傾けるうち、彼女たちを理解しようとする姿勢が不足していたことにも気づき反省しましたね。例えば、休みがちなスタッフに対し、以前はプロ意識が足りないからだと思うこともありましたが、体調や育児、介護などそれぞれの事情があり、休みたくて休んでいるわけではないのだと考えるようになりました」
ちなみに梅岡氏は、コロナ禍となる前は、定期的にスタッフとのランチ会を実施していたとのこと。仕事を離れておいしいものを食べることで距離が縮まり、結果的に業務におけるコミュニケーションも図りやすくなったそうです。
【ドクターのしくじり事例3】言わなくてもわかってくれるだろうと決めつける
患者から診療開始時間を早めてほしいという要望があり、「患者さんのニーズに応えたい」と、30分前倒しにすることに。スタッフも理解してくれるだろうと決定事項として伝えたところ、「聞いていない!」と不満が爆発してしまった。
「患者さんのためなのだから、スタッフもわかってくれるはずと考えていた」と、梅岡氏は当時を振り返ります。もちろん、患者のためにという思いはスタッフも同じはず。ですが、勤務開始が30分早まれば当然ながら出勤時間も変わります。「子どもの送迎に間に合わない」「家族の食事の準備がある」など、生活サイクルにも影響するだけに「事前に相談してほしかった」という声が多かったようです。
【スタッフを輝かせるコツ】スタッフへの事前の相談を大切にしよう
スタッフの声を受けて、事前の相談の必要性を痛感した梅岡氏。「ドクターのしくじり事例1」でもふれたように、結論だけでなくそこに至るまでの過程を大事にしなければいけないと感じたそうです。
「診療時間を変えたいのなら、『患者さんから要望があり応えたいと思っている。時期についてはみんなの意見も踏まえて決めたいがどうだろう?』と現場に意見を募るべきでしたね」
この教訓をうまく生かせたのが、新たな治療法を導入する時でした。新しいことに挑戦するわけですから、準備が必要となりスタッフにも少なからず負荷がかかります。そこで梅岡氏はスタッフを集め、なぜこのタイミングで導入する必要があるのか、患者にとってどんなメリットがあるのかなどを説明。スタッフが前向きに受け入れたことでスムーズな導入につながりました。
「もちろん経営判断として絶対にやるべきこともありますが、だからといってスタッフに相談せずに進めていいかというと、そうではないと思います。同意が得られているかどうかは彼女たちのモチベーションにも影響します。トップに言われたので仕方なくやるのと、自分たちが納得してやるのとでは業務への向き合い方が異なりますから」
【前編まとめ】同じような「しくじり」を起こしていないか振り返りを
ここまでご紹介した3つのしくじり事例を読んで、ドキッとした方もいるのではないでしょうか。誰でも陥りがちな失敗なだけに、日々の言動を振り返る機会にしていただけたらと思います。
次回後編でも、スタッフが輝くためにはどんなマネジメントをしていけばいいのか、引き続き梅岡氏のしくじり事例をもとに紹介します。(クリニック未来ラボ編集部)