7院経営する敏腕理事長のしくじりから学ぶ!女性スタッフが輝くマネジメントのコツ【後編】

女性スタッフのマネジメントで大事なポイントと注意点

「7院経営する敏腕理事長のしくじりから学ぶ!女性スタッフが輝くマネジメントのコツ【前編】」では、「スタッフの良しあしがクリニックの評判を左右する」という考えのもと、人材育成に注力する医療法人社団梅華会理事長の梅岡比俊氏にインタビュー。梅岡氏自身がスタッフのマネジメントの中で「失敗した、しくじった」と感じた事例と、そこから導き出された「女性スタッフが輝くマネジメントのコツ」を聞きました。

後編でも、引き続き梅岡氏が経験した「しくじり事例」をもとに、女性スタッフのマネジメントでのポイントや注意点を紹介していきます。

医療法人社団梅華会 理事長
梅岡 比俊 (うめおか・ひとし)氏

奈良県立医科大学卒業後、勤務医を経て、2008年に兵庫県西宮市に梅岡耳鼻咽喉科クリニックを開設。2011年に医療法人社団梅華会を設立。現在、阪神地区に耳鼻咽喉科4院、小児科2院、東京都内に内科1院を経営する。開業医コミュニティー「M.A.F」主宰。著書に『クリニック人財育成18メソッド 女性がイキイキ輝く職場の秘密』(医学通信社)など多数。

【ドクターのしくじり事例4】セミナーで上げたやる気を、そのままクリニックに持ち帰る

〈しくじり行動〉

新型コロナウイルス感染症がまだ流行する前、ある海外のセミナーに参加した梅岡氏。スタッフ同士のハグや握手がコミュニケーションを円滑にするという事例を知り、「これはいい!」と共感。クリニックでも取り入れようとスタッフに相談したものの、拒否反応が続出してしまった。

ドクターがセミナーや研修に参加して新たな刺激を受けると、感化されてモチベーションが上がりがちですが、ここに落とし穴があると梅岡氏は言います。

「セミナーで得たメソッドなどを『ぜひ自院にも取り入れたい!』とやる気になるのは素晴らしいですが、気をつけないといけないのは、その高いテンションをクリニックにそのまま持ち帰ってしまうこと。セミナーに参加していないスタッフに熱すぎる思いをぶつけても伝わらないし、温度差が生じてしまうことがあります」

いくら自分がいいと思ったことでも他の人も同じとは限りません。それを押しつけてしまうと、スタッフの賛同を得られないばかりか、距離が生まれてしまう可能性も。梅岡氏も当時を振り返って、「スタッフは『また理事長が変なことを覚えてきた』と思っていたんじゃないんですかね」と苦笑い。勉強熱心なドクターこそ、やってしまいがちなしくじりといえるかもしれません。

【スタッフを輝かせるコツ】リーダーとなるスタッフと一緒に現場に還元しよう

岡氏が取り組んだのは、興味のあるセミナーには理事長の自分だけでなくリーダーとなるスタッフと一緒に参加すること。「得た情報や感じた内容をスタッフの目を通して伝えることで、ほかのスタッフにも浸透しやすくなり理解が深まると考えました。組織のトップは物事を俯瞰して考える力に長けているだけに、どうしても情報を『抽象的』に伝えがちです。でも、スタッフは現場の状況に合わせて『具体的』に伝えてくれるんです」と梅岡氏。

なお、握手に関してはリーダーを通じて必要性を現場に共有した結果、正式に院内でも取り入れることになったそう。今は行っていませんが、新型コロナウイルス感染症が流行する前は、毎朝握手しながら「今日もよろしくお願いします」と伝え合い、チームのやる気と結束力を高めることにつながっていたとか。

【ドクターのしくじり事例5】スタッフ間で解決できるだろうと楽観視する

〈しくじり行動〉

女性スタッフ同士の意見の食い違いが勃発。梅岡氏は双方の言い分を聞きつつも、直接的な介入はしなかった。結果的に修復不可能になり、当事者の1人から「今日で辞めます」と連絡が入った。

「一番の反省点は、大人同士だし何とかなるだろうと、スタッフのもめ事を楽観視していたことです」と梅岡氏は振り返ります。一概にはいえませんが、女性の多くは人間関係を重視する傾向にあります。特にクリニックは少人数の職場であり、一緒に働く人たちの関係がこじれると業務に影響する可能性も。梅岡氏もこうした傾向を理解してはいましたが、一方で自分が介入するほどではないとも感じていたようです。

「私自身は人間関係がきっかけで仕事を辞めたいと考えたことがないので、『どうにかなるだろう』という思いが心のどこかにありました。でも、クリニックは女性メインの職場ですから、自分と同じように考えてはいけなかった」と自戒の念を込めて語ります。

【スタッフを輝かせるコツ】密な情報共有で小さな火種をキャッチしよう

「まずは関係がこじれる前に、不穏な空気をキャッチできる体制を整え、第三者が早めに介入したほうがいい」と梅岡氏。これを実践するために、梅岡氏は日頃からスタッフと丁寧なコミュニケーションを取り、リーダーを通じてこまめに情報共有を図るようにしました。そうしてトラブルの種を見つけたら、放置せず解決に向けてすぐに動くようにしたそう。また、解決にあたっては客観的なアドバイスをするのはもちろん、スタッフ同士の距離を物理的に離すのも有効だと言います。

「状況が悪化する前に解決できるのが一番ですが、万が一こじれたら冷却期間を置くことも大切だと思います。患者さんとクリニックにとって、最も避けたいのはスタッフが辞めてしまうこと。実際、当院では退職に伴う人員不足をカバーするのに苦労したので、離職を防ぐための対策は必須です」

例えば、分院があれば異動させるのも一つ。それが難しければシフトをずらす、業務内容を調整するといった配慮も必要かもしれません。

【ドクターのしくじり事例6】上から目線で一方的な考えを押しつける

〈しくじり行動〉

パソコンを見ながら患者と話すスタッフを見た梅岡氏。「なぜ目を見て話せないの?」と注意したところ、「気をつけます」という返事があったものの、改善されなかった。面談を重ねてスタッフ自身に考えてもらおうとしたが、状況は変わらなかった。

スタッフを注意する際、一方的に責めると逆効果です。梅岡氏はスタッフに態度を改めてほしい一心で、どうしたら目を見て話せるのかという「答え」を早急に見つけようとしましたが、「私の行動の意図がスタッフに伝わらず、上から目線での考えの押しつけになっていたのかもしれない」と言います。

「女性にとってはプロセスが大事と理解していても、やはり目に見える結果も大切です。そのため、できるだけ早く解決方法を見つけようと、スタッフに『なぜ? どうして?』と要求ばかりしていました。でもスタッフからすれば、患者の目を見ていないという自分の癖に気づいてすらいなかったかもしれません。そういう意思疎通もなく突然上から目線で怒られた感じになり、どうしていいかわからなかったはずです」

一方的な考えを押しつけても相手の納得は得られませんし、本人が受け身のままでは良い改善策を見つけることもできないでしょう。

【スタッフを輝かせるコツ】相手を尊重しながら自分の気持ちを伝えよう

本人が納得しなければ、状況は変わらないことに気づいた梅岡氏は、スタッフとの向き合い方を見直し、要望ばかり押しつけるのではなく、純粋に自身が感じたことを伝えるようにしたそうです。

「『患者さんの顔が不安そうに見えたので、僕は悲しくなってしまった』という自分の気持ちを素直に伝えました。否定したり責めたりしているわけではないので、スタッフも受け入れやすかったのではないでしょうか」

その上で、梅岡氏は「ホスピタリティーの高いクリニックを作っていくためにはあなたの力が必要で、協力してもらえるとうれしい」という提案もしたそう。上から目線のアプローチではなく、相手を尊重しながら自分の気持ちを伝えるというスタンスを取ることで、少しずつスタッフも変わっていきました。この事例でスタッフが変わる原動力となったのは、梅岡氏の「思い」です。人を動かすのは「理屈」ではなく「感情」だということがよくわかるケースです。

【ドクターのしくじり事例7】評価基準が明確でない状態で差をつける

〈しくじり行動〉

休憩室で何やら不満をこぼしているスタッフたち。聞いてみるとどうやら賞与に関する話題らしく、「私より高いのは何で?」「やっている業務は同じなのに」というスタッフ間での金額の違いに納得していない様子だった。スタッフたちの仕事ぶりを公平に評価したつもりでいたが、そもそもの評価基準が伝わっていなかったようだ。

「頑張った人はきちんと評価したい」と考え、賞与にも反映していた梅岡氏。でも、どのような基準で評価されたのかがわからないと、不公平と思わせる可能性も。

「医療サービスは目に見えない部分が多いので、成果がわかりづらいのも事実です。とはいえ、できる限り評価基準をはっきりさせておくべきでした。頑張ったのに評価されていないと感じればスタッフのモチベーションは低下しますし、評価基準が不透明だと、優遇されているように見えるメンバーへの不満から、チームワークにも影響が出かねません

その上で、女性は横並びを重視する傾向にあることから、人事考課についてもそれを踏まえた検討が必要だったと梅岡氏は言います。

「決してみんな同じであるべきというわけではありませんが、入職時期なども考慮してスタッフ同士の差をつけすぎないようにすることも大切だったと思います」

【スタッフを輝かせるコツ】結果に至るプロセスも含めて評価基準を設定しよう

梅岡氏は、評価基準の設定を明確に定めてスタッフに提示。基本となる考え方は、「与えられた仕事に付加価値をつけて業務を提供できているか」でした。例えば「同じ仕事を担当していても、業務改善を目的として自主的にマニュアルを作ったスタッフがいれば、その人の評価を上げるようにしています」と梅岡氏。

梅岡氏が運営する医療法人社団梅華会では、以前はマニュアルを作成しただけでは評価対象とはせず、「そのマニュアルでどれだけ業務改善を実現できたか」という結果を重視していました。しかし、数々のしくじりを経た梅岡氏は、結果だけでなくプロセスも評価することが大事だと考えるように。そこで、まだ目に見える変化が出ていなかったとしても、マニュアル作成の目的や過程、期待できる成果をきちんと説明ができればOKという判断をすることにしました。基準を明確にし、プロセスを含めて評価する形に変えたことで、スタッフ側も「頑張ったのになぜ評価されないの?」という不満を感じにくくなったようです。

ちなみに、業務に付加価値をつけられる自立したスタッフを育てる方法として、梅華会ではクリニックに対する要望を患者アンケートで募り、その改善策をスタッフたちに考えてもらうような取り組みも実施しているそうです。

【後編まとめ】失敗を無駄にせず、組織の成長のために学び続けよう

前後編にわたって自身の「しくじり」をもとにアドバイスしてくれた梅岡氏ですが、最後にこんなことを話してくれました。

「正直に言うと、私は今でも女性スタッフのマネジメントが得意なほうではありません。でも、苦手だからこそ人一倍努力をしてきました。人材育成は組織の成長に直結するものですから、失敗を無駄にせず常にアンテナを張って学び続けることがトップとしての役割ではないでしょうか」

マネジメントは常にうまくいくものではなく、大なり小なり失敗やトラブルは起こるものです。大切なのは梅岡氏も言うように失敗から学ぶこと。ぜひ、本稿をスタッフマネジメントに生かしてみてください。(クリニック未来ラボ編集部)

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