患者もスタッフも笑顔になる!待合室で「物販」をうまく活用する方法【後編】

クリニックの待合室で行われている物販のコツ

「患者もスタッフも笑顔になる!待合室で「物販」をうまく活用する方法【前編】」の記事では、日々の診察に携わる傍ら、「待合室マーケティング®」という独自の理論を応用したセルフケアグッズの物販によって、院内の活性化を実現させている医療法人社団栄昂会の理事長、中原維浩氏を取材。患者の満足度やスタッフのモチベーションの向上など、待合室マーケティングを活用することで、さまざまなメリットが得られることを紹介しました。

この後編では、引き続き中原氏に、待合室マーケティングを実践する際のコツについて、自身が理事長を務める「戸塚駅前トリコ歯科」の物販ブースを例に、具体的な手法を解説してもらいます。

歯科に限らず、眼科や整形外科、小児科、内科、皮膚科など、医科の医院でも幅広い診療科で応用されている内容となっていますので、ぜひ参考にしてみてください。

医療法人社団栄昂会理事長
中原維浩 (なかはら・まさひろ)氏

2010年東京歯科大学卒業。2016年、父が東京都葛飾区に開院した細田歯科医院を継承。2017年にクリニック経営の包括サービスを提供するDECT株式会社を設立。2018年には戸塚駅前トリコ歯科を開院。「クリニックの待合室の掲示物や物販ディスプレイを活用して、物販の売り上げとともに患者のデンタルIQを向上させる」という独自のマーケティング理論を提唱。そのメソッドをオンラインサロン「中原まさひろの医療物販学ラボ」で発信する一方、年間100回を超える歯科医療従事者向けの講演・セミナーで全国を飛び回る。著書に『物販だけで毎月100万円売り上げる Start up!! 待合室マーケティング』(デンタルダイヤモンド社)がある。

まずは、患者目線で導線や物販のディスプレイを見直し、現状を把握しよう

初めに、待合室マーケティングを実践する前に中原氏がお勧めするのが、待合室の見直しです。まずは、院内を改めて見直すことで、どのような商品があるのか、不足しているものはないか、クリニックのコンセプトに合った商品になっているかなど現状を把握することが重要とのこと。

そして、「表玄関から入る」→「待合室に座る」→「受付の前に立つ」というように、患者の動線を確認しておくことも大切だと言います。患者の目線に立つことで、自然と目が向くのはどのスペースなのか、どういう陳列の仕方だと伝わりやすいのかといった新たな発見があるからです。

戸塚駅前トリコ歯科では、クリニックに入るとまず液晶ディスプレイが目に飛び込み、商品の説明をする動画が流れています(下部の写真上)。ほかにも、待合室にはロボットと連動したスライドショー動画の液晶ディスプレイ(下部の写真下)など、患者の興味を集めるための仕掛けがたくさんあります。

「当院では『AIDMA(アイドマ)の法則(※)』というマーケティング理論を応用しています。『AIDMA』の『A』は『attenntion(注意)』を意味しますが、消費行動を促すにはまず、来院した患者さんの注意を引き、興味を持ってもらうことが重要。その過程がないことには、『買いたい』『欲しい』という購買意欲にはなかなかつながりません。

興味を持った状態の患者さんに、診察や治療を通じて私たち歯科医師やスタッフが商品をお勧めすることで、その必要性を実感していただくことができるのです。そのため、POPや商品の置き方などディスプレイがとても大事になってきます」

商品のディスプレイが肝心! 患者の興味を引くためのコツとは

待合室マーケティングを活用して患者の興味を引くためには、ディスプレイの「7つの法則」があると言います。

■ディスプレイの「7つの法則」

(1)売りたいグッズのフェイスを増やす
(2)売りたいグッズを「ゴールデンライン」に陳列する
(3)重さや価格帯で、上下配置を決定する
(4)イチオシグッズは中央から右側に陳列する
(5)サンドイッチテクニックを活用する
(6)集視ポイントをつくる
(7)受付横に少額のグッズを置く

中原維浩著『物販だけで毎月100万円売り上げる Start up!! 待合室マーケティング』を参照して作成

これら7つは一般小売業などでも実践されているテクニックを中原氏が応用して編み出したもので、取材した戸塚駅戸塚駅前トリコ歯科でも使われています。

ここからは、その中から編集部が特にドクターの参考になりそうだと思った、「(1)売りたいグッズのフェイスを増やす」「(2)売りたいグッズを『ゴールデンライン』に陳列する」「(6)集視ポイントをつくる」「(7)受付横に少額のグッズを置く」の4つの法則を抜粋。写真とともに、一つ一つ見ていきましょう。

売りたいグッズの「フェイス」を増やす

「フェイス」とはグッズを置く棚などの陳列面のこと。陳列面を大きくすることで商品の視認率が上がり、患者の手に取られやすくなるといいます

「人気の定番商品や力を入れている商品などは、フェイスを大きく設けるといいでしょう。例えば、当院では歯間ブラシが力を入れているお勧め商品なので、通常のクリニックでは多くて2列のところを、3列使って陳列しています。こうやって、見た目のゾーンを増やしておくことで、患者さんの目にふれやすくなります」

ただし、フェイスが大きければ大きいほど商品は目立つものの、例えば5面以上使った場合、同じ商品ばかりになってその効果が薄くなるため、バランスには気をつけましょう。

売りたいグッズを「ゴールデンライン」に陳列する

患者が陳列棚を前にした際に、意識しなくても商品が見やすく、選びやすく、取りやすいとされる高さを「ゴールデンライン」と呼びます。

「その高さは、商品を取る際、しゃがんだり手を伸ばしたりする必要がない、首から腹の上のあたり、85〜150cmとされ、一般的な小売店などでも売り上げを大きく左右する重要なポイントといわれています。そのため、人気商品や新商品など、最もアピールしたい商品はゴールデンラインに陳列することを、ぜひお勧めします

ただし、クリニックのコンセプトや患者層に合っていない商品を置くと、悪目立ちしてクリニック全体のイメージダウンにつながりかねないため注意が必要です。

集視ポイントをつくる

「フェイス」や「ゴールデンライン」を意識した商品の陳列に加え、患者の視線を集める工夫も大切です。ぱっと見てその商品の魅力がわかるような「集視ポイント」を設けると良いと中原氏は言います。

「お勧め商品や売れ筋商品を陳列する棚に、スタッフに協力してもらいながらPOPや販促物を配置しましょう。患者さんの視認率が高まり、手に取ってもらいやすくなります。

そして、時計を見る習慣でもそうですが、人間の目線は上のほうに向きやすいといわれています。棚の上部にPOPや販促物を設置すると、より効果的でしょう。例えば、当院ではお勧めの商品を陳列した棚の上部に、イラストを使ったスライドショーが再生される液晶ディスプレイを置き、集視ポイントとしています」

受付横に少額のグッズを置く

いざ「フェイス」や「ゴールデンライン」を意識したディスプレイにしようと思っても、今ある陳列棚を急に変更するのは難しいという場合もあるでしょう。そんな時は、受付横のスペースから始めてみてもいいかもしれません。

「よくコンビニやスーパーなどのレジ近くで、手に取りやすいサイズの安価な菓子やホットスナックを販売していますよね。小売業で最も売り上げが期待できる場所が、このレジの周辺だといわれています。ついでに買おうという消費者心理になりやすいためです。

当院でも、レジ横に30円程度のチョコレートを置き、販売しています。虫歯を防ぐ効果が期待できるキシリトールを使ったものなのですが、治療を頑張った自分へのご褒美という感覚でお求めになられる患者さんが多くいらっしゃいます」

抑えておきたい! クリニックで物販する際に気をつけるべき5つの注意点

ここまで、クリニックが待合室マーケティングを活用した物販を実践する際のコツを紹介しました。

一方で、中原氏がこれまで400以上のクリニックの物販を指導してきた中で、注意すべき点もあると言います。以下に中原氏の声をまとめましたので、併せてチェックしておきましょう。

(1)医療行為の範囲外の商品を扱うのは「×」

医療法上、クリニックでの物販は、場所がクリニックの建物内であり、患者への医療の提供または療養の向上の一環として行われるものに限定されています。もし扱う商品が医療行為の範囲内かどうか迷う場合は、管轄の保健所に必ず確認しましょう。

(2)誇大広告や虚偽広告は「×」

「100%治る」「10歳若返る」「NO.1の実績」など、POPや掲示物で、患者に誤解を与えかねない表現を用いることは、「不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)」で禁止されています。

(3)商品をガラスケースに入れるのは「×」

クリニックが一番やりがちなミスが、商品をガラスケースに入れてしまうこと。患者は実際に手に取ることができないため、売っているのか、どう買えばいいのかがわからず、結果、ただの飾り状態になってしまいます。

(4)商品を置きすぎるのは「×」

つい欲張って商品を置きすぎるケースも、よく見受けられます。これも良くありません。商品を多く置きすぎると、患者だけでなく、スタッフもお勧め商品を選定しづらくなってしまいます。

(5)インセンティブ制にするのは「×」

中原氏の経験上、スタッフ各個人の成果(売り上げ)に対して報酬を支払うインセンティブ制は、スタッフ間のもめ事の原因になってしまう可能性があるそうなので注意が必要です。逆に売り上げの合計に対して全員で均等に報酬を分ける方法だと、チームワーク力を高められるとか。

セルフケアの大切さを伝えていくのも、かかりつけ医の役割

超高齢社会の日本。2050年問題の対策として、国が地域包括ケアシステムの構築を進める中、かかりつけ医の役割がとても重要になってきているのはご存じのとおりです。最後に中原氏はこう語りました。

「私はその役割の一つとして、かかりつけ医が患者さんに予防の大切さを伝え、セルフケアを指導していくことが大事だと思っています。物販というとお金もうけの印象が強いかもしれませんが、それだけが目的ではありません。

セルフケアグッズの物販を通じて、かかりつけ医が治療を施すだけでなく予防を指導することで、患者さんの健康が守られる。そして、それにはちゃんとした知識が必要です。これからも、医科歯科問わず、クリニックの先生方に、その大切さを伝えていきたいですね」

※AIDMA(アイドマ)の法則…1920年代に米国のサミュエル・ローランド・ホール氏が提唱したマーケティング理論で、消費行動をステップ化したマーケティングにおける基礎的な法則のこと。「A:Attention(注意)」「I:Interest(興味)」「D:Desire(欲求)」「M:Memory(記憶)」「A:Action(行動)」を意味する。

<執筆者プロフィール>
安東 渉(あんどう・わたる)
フリーライター・編集者。編集プロダクションで雑誌や書籍の編集に携わる。現在は、執筆から編集、デザインまでを手がけるフリーランスの万能エディターとして活動中。ビジネスをはじめ医療、カルチャー、ファッション、スポーツなど、幅広いジャンルで情報発信を行う。

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