医療機関を探す際、患者は「ドクターに関する情報」を重視している
2020年に医療ポータルサイト「ドクターズ・ファイル」が行った患者調査(※1)によると、「病院・クリニックを選ぶ際、重要視しているポイントは?」の質問に対し、65.8%(3位)の人が「治療方針や得意な治療・検査など、ドクターに関する情報」と回答。
診療時間(1位)や家や職場からの近さという立地的条件(2位)などの基本情報は、実際に通う上での物理的条件となるため、ランキング上位は必然と考えられます。よってここで注目したいのは3位にランキングされている「ドクターに関する情報」です。
おそらく患者心理としては、診療時間や立地的条件などの基本情報によって「通うクリニックとしての候補」までは絞り込むものの、それだけで「自分にとってベスト」と判断するには至っていないことが予想されます。そこで、判断の決め手となるのが、この「ドクターに関する情報」なのでしょう。
それでは、患者にとっての「いいドクター」とは一体どんなドクターなのでしょうか?
【推しドクターの条件1】わかりやすく伝える「コミュニケーション能力」がある
IさんとYさんがいいドクターだとする条件は、診断結果や治療内容をわかりやすく伝える「コミュニケーション能力」だと言います。
実際、ドクターズ・ファイルの患者調査でも、「ドクターのどんなところを重視するか」という質問に対する回答は、「診断の的確さ」(4位)や「ドクターの経歴や資格」(6位)を上回り、「説明の仕方などコミュニケーションの取り方」(3位)がランクインしています。
この調査結果と2人の声から患者の心理を読み解くと、そもそも日本の医療はレベルが高く、クリニックや病院で誤った診療を受けるようなことはまずないだろうという安心感がベースにあると推察できます。
つまり、ドクターの診断や治療が的確なのは大前提であり、その上で診断結果や治療内容をわかりやすく説明してくれる「コミュニケーション能力」こそ、自分にとっていいドクターかどうかを見極める大きな判断材料になっているということです。
誰でも、わからないことは、不安や恐怖、ストレスにつながるもの。説明のわかりやすさを求めるのは、ごく自然な心の動きかもしれません。
【推しドクターの条件2】不安や意図をくみ取ってくれたという「安心感」がある
UさんとSさんは、いいドクターには「不安や意図をくみ取ってくれた」という安心感があると言います。ここにはどんな患者心理が働いているのかを探っていきます。
先ほど、患者の本音として、ドクターには「コミュニケーション能力」を求めるということを前述しました。それでは、そもそも患者は過去に通っていた、または現在通っているクリニック・病院で、十分なコミュニケーションが取れたと感じているのでしょうか?
ドクターズ・ファイルの患者調査によると、ドクターに聞きたいことを十分に聞けないという経験のある人は、「十分に聞けないことがある」(18.7%)「十分に聞けないことがたまにある」(52.1%)を合わせるとなんと7 割にも上りました。
そして、UさんとSさんにも聞いてみたところ、「前に通っていたクリニックは聞きたいことが聞けず、もやもやが残った」と口をそろえます。
「わからない=不安」だからこそ、自分の状態やドクターの見立て、これから受ける治療内容を詳しく知りたいと思うのが患者心理です。にもかかわらず、こうした状況が生まれているのは、「先生は忙しそうだし、短い診療時間の中であれこれ質問するのは気が引ける」と気兼ねしてしまう実態があるからと予想されます。
2人の冒頭発言の背景にはこうした患者の遠慮があり、それが後々、「聞きたいことを聞けなかった」という不満につながっていくのかもしれません。
患者の不満や不安をくみ取った上で、わかりやすい言葉で丁寧に説明をするということが、受診時の満足感、つまりクリニックや病院に対する信頼や高い評価につながります。であれば、ドクターは正しく診断・治療するだけではなく、「患者の不安を理解」し、「知りたい情報をわかりやすく説明」してこそ、患者の真のニーズを満たすといえるでしょう。
【推しドクターの条件3】対象の症状に必要な検査・治療に対応している
「条件1」で触れたように、患者にとってのいいドクターには、コミュニケーション能力が重要であることがわかりました。とはいえ、もちろんそれだけがすべてとは言えません。このSさんとKさんのように、いいドクターの条件として、「対象の症状に必要な検査・治療に対応しているかどうか」を挙げる患者もいます。
実際、ドクターズ・ファイルの患者調査でも、前述の「ドクターのどんなところを重視するか」という質問に対する回答は、「得意とする検査・治療内容」(1位)「診療ポリシーや治療方針」(2位)と、治療に関わる内容が上位にランクインしています。
病気やけがを少しでも早く治してもらうためには、治療に関する情報を第一に知りたいと思うのは必然と言えるでしょう。
その一方で、実はクリニック・病院選びにおいて患者が求める情報は、抱える疾患の重症度や悩みの深さによってかなり異なることがわかっています。こちらは、過去にドクターズ・ファイルが行った、別の患者調査(※2)の結果です。
軽度症状では「近くにあり、すぐに診てもらえるか」、中度症状では「対象の症状に必要な検査・治療に対応しているか」、重度症状では「ドクターが対象の症状に必要な検査・治療を専門としているか」を最重要と考えており、抱える悩みや症状が重症化・慢性化するほど、患者は病気や検査方法、治療についての詳細を欲していることがわかります。
つまり、症状の重さや不安のレベルによって求めている情報の内容が変わるということです。これは2014年の調査結果ですが、今の時代にも共通する普遍的な患者のニーズだと思います。情報発信に際しては、「患者」とひとくくりにせず、さまざまな目的でクリニック・病院を探している一人ひとりの視点を大切にすることも重要と言えるでしょう。
【推しドクターの条件4】クリニック全体の心遣いを感じられる
最後の条件です。ここまで、患者の本音を探っていくと、ドクターのコミュニケーション能力と得意な検査・治療に対するニーズが高いことがわかりました。その一方で、SさんとYさんによると、いいドクターの条件は「スタッフの対応や設備など、クリニック全体の心遣い」だと言います。
その理由として、どれだけ技術が高く、説明が上手なドクターがいたとしても、スタッフの対応や設備があまり良くなかったら、通うのを躊躇してしまうからだと説明します。そこには、「いいドクターにはいいクリニックにいてほしい」というのが患者の本音があると推察されます。
そして、ドクターズ・ファイルの患者調査(※1)でも、前述した「ドクターのどんなところを重視するか」という質問に対する回答から、患者が「クリニック全体の心遣い」を重視していることがわかります。
クリニックを訪れる人は、体調不良による精神的なストレスに加え、通院にかかる時間的ストレス、診察時の緊張といった多くの不安を抱えています。それらの不安を解消し、安心するための場としてクリニックに訪れますが、さらにストレスを抱えるような結果になれば、患者としては「ほかを探そうかな……」という心理になってしまうかもしれません。
裏を返せば、クリニック全体に気配りが感じられること、例えば、感染対策の徹底や、待ち時間を減らすための予約システムの導入、キッズスペースの確保、ウォーターサーバーの設置といった居心地の良さを考えた待合室の空間づくり、そしてスタッフの優しい声かけなどが、満足度アップにつながると考えられるのではないでしょうか。
クリニック全体でストレスフリーな場をめざし、「患者とのコミュニケーション」「設備」「待ち時間」など、それぞれのシーンにおいて、まずはできる部分から工夫や努力を続けることが、患者にとっての安心につながり、多くの人にとってかかりつけ医として定着していくのかもしれません。
【まとめ】患者とクリニックのベストマッチングのための情報発信を
この記事では、いいドクターの4つの条件を紹介しました。
「穏やかな先生がいい」「ずばっと結論を言ってほしい」など、患者の好みはさまざまです。そのため、「どんな治療を得意とするか?」などの技術的な側面はもちろん、「先生はどんな雰囲気の人?」といったドクターに関することが、実は患者はとても気になるところなのです。
それらをしっかり伝えた上で、院内の設備など、クリニック全体の取り組みまでをアピールすると、患者はさらに安心して、かかりつけ医として選びやすくなるでしょう。
クリニックに足を運ぶ前から、ドクターの顔が見えることは、患者にとっては大きな安心材料の一つとなります。ホームページや広告メディアなどでのわかりやすい情報発信によって、患者の安心につなげましょう。(クリニック未来ラボ編集部)
※1 ドクターズ・ファイルによる「患者のクリニック選びに関する調査」。対象は、全国主要都市に住む、もしくは勤務する20~59歳の男女4000人。2020年7月にインターネット調査にて実施。
※2 ドクターズ・ファイルによる患者調査。対象は、首都圏在住の年間2回以上通院経験のある男女416人。2014年にインターネット調査にて実施。