「離職率ゼロ」の秘訣はスタッフの健康・生活・成長のサポートにあり?!《スタッフ定着率の高さにはワケがある!福利厚生レポート》【第6回】

福利厚生レポートvol.6

超高齢社会による医療ニーズの増加などを受け、人手不足が深刻な医療業界。多くの求職者が、より良い労働条件を求めて職場を探しています。そうした中、近年では優秀なスタッフに選ばれ、長く働き続けてもらう環境をつくるために、福利厚生の充実化を進めるクリニックも増えています。

そこで本稿では、クリニックが取り入れている手厚い福利厚生や、ユニークな福利厚生をシリーズで紹介します。第6回は、まかない・手当・勉強会の3本柱でスタッフの健康と成長をバックアップする、ALOHA外科クリニックの院長に話を聞きました。

※本稿の初出は、「〈第6回〉「離職率ゼロ」の秘訣はスタッフの健康・生活・成長のサポートにあり?!《スタッフ定着率の高さにはワケがある! 福利厚生レポート》」(「患者ニーズ研究所ONLINE」2022年1月7日配信)です。再掲載にあたり一部加筆・編集しています。肩書きやデータは本稿初出時のものです。

スタッフはファミリー、安心して成長できる環境を

「クリニックの福利厚生って、どんなもの?【第1回】《スタッフ定着率の高さにはワケがある!福利厚生レポート》」で紹介したように、法定外福利厚生は8つに分類されています。

その中でも「リフレッシュのための取り組み」や「自己啓発・能力開発関連」に力を入れているのが東京都品川区にある「ALOHA外科クリニック」です。新谷隆院長が2020年6月に開院し、鼠経ヘルニアの日帰り手術、緩和ケアを中心とした訪問診療、アドバンス・ケア・プランニングの3つを軸に診療している同院。2022年1月現在、看護師と事務スタッフ、計5人が働いています。

新谷院長は「コロナ禍で開院して力になってくれたスタッフのことは家族のように思っています。ですからここでなら安心して働ける、頑張りたいと思える環境にしたかったんです」と、独自の福利厚生を用意したそう。では、具体的にどのような取り組みを行っているのでしょうか?

院長&グランマによる「まかないランチ」で和気あいあいと

同院では毎日、新谷院長と院長の母で御年80歳のグランマ(スタッフから親しみを込めて呼ばれている愛称)によるまかないランチが振る舞われます。月・火曜日は院長の手作りランチ、水曜日は院長こだわりのカレー、木曜日は1日寝かせたカレーを食べて、金・土曜日はグランマの健康的な家庭料理というのが、1週間のサイクル。もちろん、スタッフはすべて無料です。

新谷院長がまかないランチを出すと決めたのは、そこから生まれるコミュニケーションを大切にしたいという想いから。

「同じ釜の飯を食う仲間っていうでしょう? クリニックが和やかな雰囲気になったらいいなと思って取り入れました」

とはいえ、これだけの人数分を作るのはなかなか大変では? という問いに、グランマは「子どもや孫の健康は気にするわよね。それと同じなの」と温かな心遣いを覗かせます。

取材をした金曜日は、グランマが調理担当の日。翌週が事務スタッフの誕生日ということで、休憩室には寿司桶に盛られた本格的なちらし寿司が登場していました。

このようにお祝い事がある日には特別メニューを作ったり、時にはスタッフのリクエストに応えたりすることもあるそうですが、基本的には院長とグランマが自らスーパーで新鮮な食材を見繕い、栄養バランスを意識して献立を決めているといいます。新谷院長いわく、まかないの経費は主婦歴の長いグランマの高度な家事スキルによって、1人1食250円ほどに収まっているとか。

「前の職場ではコンビニに寄ってから出勤することが当たり前だったので、食費も浮くし、健康的な献立で助かっています」と話すのは、手術を終えて「グランマ、おなかが空きました~」と実のお母さんに甘えるかのようにして休憩室に入ってきた看護師。真心がこもったおいしいご飯が働く活力の源になっていることは、間違いなさそうです。

勤続のご褒美は「個人の頑張りに即した手当」で支給

開院以来、いまだ離職者ゼロを保っているという同院。1年の節目に「オープニングから働いてくれているスタッフにご褒美を」と新たに取り入れたのが、基本給に上乗せで支給する特別手当です。

よくある「扶養手当」や「資格手当」などの要件に当てはめた形の手当ではなく、スタッフ個人の働きぶりや生活事情に合わせて支給しているところがALOHA外科クリニック流。そのために院長がスタッフ一人ひとりと話し合って、どんな手当をつけるかを決めていったというから驚きます。

例えば、2児のママである事務スタッフには「育児手当」を。これは院長がスタッフの育児を応援したいという理由で支給しているそう。また、電車通勤をしている人には、コロナ禍で電車に乗る感染リスクに対する「コロナ危険手当」を支給。ほかにも、地方から上京してきた看護師には「1人暮らし手当」を、訪問診療のまとめ役を担う人には「訪問診療手当」を、とそれぞれに違った手当をつけています。

「クリニックは全員の頑張りによって成り立っているので、職種に関係なく日々積み重ねている努力が給与に反映されるようにしたかったんです。それに、安心して働ける環境というのは、何をおいてもまず十分なお給料をもらえてこそだと思いますから」

ユニークな手当の数々に、仕事や生活をしていれば一見当たり前と思える努力も認めて評価しようとする新谷院長の姿勢が垣間見えます。

専門講師を招いた「人材教育プログラム」で成長を後押し

新谷院長は「広く女性の人生を応援したい」という考えを持っています。同院で働くスタッフも医師以外は全員が女性なので、そのキャリアを支える一助になればと、2021年7月から月に1回、人材教育の専門講師を招いて勉強会を行っているそうです。

自己分析を通して「なりたい姿」や「社会のために何ができるか」を考える講座で、期間は1年で全12回を予定しているのだとか。最終的にめざす姿は、「目標実現のためにリーダーシップを取れる人」だといいます。

「勉強会で磨いてほしいのは人間力。当院で働くことで、医療技術だけでなく人としても成長できているという実感を持ってもらいたい。それが結果的にここで働き続けたいと思う理由になれば、うれしいですね」

スタッフの人生をバックアップすることが、クリニックの発展につながる

まかない、手当、勉強会という独自の福利厚生から見えてきたのは、新谷院長がスタッフの人生を思いやる気持ち。

ある看護師は「このクリニックに転職した時に引っ越しをしたのですが、院長が『費用は大丈夫?』と聞いてくださって。何かと気遣っていただいています」とうれしそうに話していました。金銭面のサポートもさることながら、こうしたこまやかな心配りをありがたいと感じるスタッフも多いようです。

新谷院長は「仕事は生活、人生の一部でしょう。ですから、スタッフの長く続く人生を見据えてバックアップすることが、ひいてはクリニックの発展につながると思っています。これからもそのために良さそうなことがあれば、工夫して取り入れていきたいです」と、優しい笑顔を見せてくれました。

まとめ

ALOHA外科クリニックが実践する
福利厚生3つのポイント

1 手作りのまかないで健康に配慮&話題づくり

診療日は毎日無料のまかないを提供。栄養バランスの良い家庭料理を、と院長と院長の母が自ら腕を振るっています。「あれがおいしかったよね」「今日のメニューは何?」と話題に上り、院内コミュニケーションも円滑に。

2 仕事の成果は手当で還元。働く安心感は給与にひもづくと考える

「育児手当」や「訪問診療手当」など、スタッフ個人の働きぶりや生活事情に合わせて手当を支給。努力を給与に反映する仕組みが、スタッフのモチベーションアップにつながっています。

3 月1回の勉強会で自己啓発。人として成長できる環境を提供

女性のキャリアを応援する新谷院長が「自己理解を深めて自由にキャリアを描けるように」と外から講師を呼び勉強会を開催。スタッフに「このクリニックで働いて成長している」という実感を持ってもらうことで長く在籍してもらう狙いも。

(クリニック未来ラボ編集部)

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