適切な距離感が居心地の良さを生み、スタッフの満足度&定着率のアップにつながる
「クリニックの福利厚生って、どんなもの?【第1回】《スタッフ定着率の高さにはワケがある!福利厚生レポート》」で紹介したように、法定外福利厚生は8つに分類されています。
その中の、「リフレッシュのための取り組み」と「日頃の労をねぎらうための取り組み」に力を注いでいるのが、神奈川県横浜市にあるつちはら整形外科クリニック。2021年10月現在、受付スタッフや看護師をはじめ、リハビリテーションスタッフ、理学療法士、作業療法士、診療放射線技師など、男女合わせて22人のスタッフが在籍しています。スタッフたちは非常に仲が良く、休憩時間にはいつも笑い声が絶えないのだとか。
開業して6年がたった現在も、約半数はオープニングスタッフ。パートナーの転勤などやむを得ない事情で退職した人もいますが、元スタッフの結婚式に土原院長や美紀さんが招待されるなど、退職後もいい関係が続いているようです。
スタッフと院長、スタッフ同士、そしてスタッフと患者。仕事で関わる人とのほど良い距離感を保ち、居心地の良い環境をつくるべく、土原院長と美紀さんが実践している福利厚生とは、どのようなものなのでしょうか。
スタッフのプライバシーを守るため、建物の4分の1をスタッフ専用の空間に
福利厚生といえば、と土原院長が一番に挙げたのは、2階建てのクリニックの4分の1をスタッフのためのスペースに充てていること。おしゃれな琉球畳のスタッフルームは、ちゃぶ台、冷蔵庫、電子レンジ、テレビを完備して、くつろぎの空間になっています。ドラム式洗濯機は、リネン用と制服用の2台があり、制服を持ち帰って洗う必要がありません。男女別のロッカーを設置しており、着替えの際に気を使わずに済むのも、特に女性スタッフにとってうれしいポイントでしょう。
さらに特徴的なのは、スタッフ専用の出入り口、階段、廊下、トイレを作り、患者とは完全に動線を分けていること。
「やはり、スタッフのプライバシーを守ることが大事かなと。正直、コストはかかりましたが、動線を完全に分けることで、例えばスタッフが帰るところを患者さんに見られて気まずい、といったことがないですからね」(土原院長)
開業前の、建物を設計する段階から“スタッフのため”を考慮していたとは、その気遣いのこまやかさを感じさせます。「スタッフと患者の距離感」がほど良く保たれているからこそ、オン・オフをしっかり切り替えて、気持ち良く働けるのでしょう。
エピソードつきの表彰制度で、スタッフ全員の納得感を高める
同院が開業当初から取り組んでいるというのが、スタッフの努力や成長に対する表彰制度。夏と冬の年2回、ボーナス支給日の朝礼で2~6人ほど表彰を受けるスタッフを発表しています。表彰では、商品券のほか、パスタマシーンやトースター、炊飯器といったはやりの家電、お酒が好きな人には高級なワインなど、一人ひとりに合わせた贈り物をしているのだとか。
ここでポイントなのが、「表彰にエピソードを添えること」だと、美紀さんは話します。
「後輩の指導を頑張ってくれた、業務の改善をしてくれた、など『この人はこんなことをしていました、それに対する表彰ですよ』という発表の仕方をしています。そうすると、表彰されなかった人は、『なるほど。では自分も心がけてみよう』と前向きに捉えられると思うのです」(美紀さん)
スタッフ一人ひとりの努力や成長を見て、表彰につなげるために、院長と美紀さんは日頃からスタッフと密なコミュニケーションを欠かさないようにしているとのこと。同院では、朝と昼に15分程度のミーティングを行うほか、毎日スタッフが輪番で業務中の気づきやヒヤリハットを書いて提出し、それに対して院長と美紀さん、副院長が返事を書く、というのが定例となっているそうです。
「例えば、受付スタッフと診療放射線技師とでは、仕事の内容も違えば、仕事量も仕事の難しさも違うので、点数での評価はしづらい。だからこそ、表彰理由となるエピソードを添えることで、表彰された人もそうでない人も、スタッフ皆が納得感を持つことができると考えています」(土原院長)
スタッフ個人をきちんと評価するだけではなく、それによって、周囲にどのような影響があるのかまで考え抜かれた取り組みです。「個人」と「全体」両方を大切にすることで、スタッフ同士がほど良い距離感でいることができ、それが良好な関係性にもつながっているのではないでしょうか。
スタッフごとにオーダーメイドで取り組む、スキルアップのためのサポート
「自分たちの受けたい医療を提供する」をコンセプトに開業した土原院長と美紀さん。スタッフに対しても、「自分がしてほしいと思うことを、患者さんにして差し上げてほしい」と常に伝えているそうで、接遇を含めた教育面に力を入れており、研修・勉強会や教材の費用補助などスキルアップのためのサポートも充実させています。
例えば受付スタッフの場合、まず医療事務の接遇に関するテキストを読むことを勧めるそうですが、美紀さんが実際に読んで、いいと思ったものを紹介しているのだとか。
「文章だけだと頭に入りにくいので、イラストが多めで、『これならできそう!』とすぐにイメージが湧き、女性の小さなかばんにも入る薄いタイプを選んで、『私も読んだけど、良かったよ』と勧めています」(美紀さん)
しかし、この教育に関する福利厚生、過去には失敗も重ねてきたと院長は言います。
「人によっては、クリニックが費用を出しすぎると『義務』に感じてしまって、かえって学ぼうという意欲がなくなってしまうことがあったんです。ですから、スタッフそれぞれの性格や資質、いま磨くべきスキルを見極めて、どの研修を勧めるか、全額こちらで出すか、交通費だけを出すかなど、ケースバイケースで対応するようになりました」(土原院長)
普段からスタッフ一人ひとりとしっかりコミュニケーションを図り、相手の希望やキャラクター、行動パターンを知り尽くしているからこそできる、オーダーメイドの福利厚生といえるでしょう。スタッフにとことん寄り添いながら、過剰になりすぎず、不足のないように。スタッフと院長とのほど良い距離感がポイントのようです。
院長は「経営者目線」、マネジャーは「スタッフ・患者目線」。異なる立場でスタッフに接する
あうんの呼吸でインタビューに答えてくれた土原院長と美紀さんですが、スタッフとの「ほど良い距離感づくり」の鍵となるのは、二人がともに経営者としての立場を取るのではなく、院長は「経営者目線」、美紀さんは「スタッフおよび患者目線」と、それぞれ異なる立場を取っていることにあるようです。
もともと社交的な性格で、なにより人をもてなすことや、それによって心地良い空間をつくり出すことが好きだという美紀さん。スタッフを監視していると思われないために、同院に来るのは週1回程度にしているそうですが、出勤するとスタッフとたくさん話すようにしているといいます。決してアイコンタクトだけで済ませることなく、積極的に話しかけに行き、スタッフが話しかけやすい雰囲気をつくるよう心がけているようです。
「女性が多い職場なので、院長にはできない女性ならではの会話をして、みんなの悩みを聞くのが私の役割。仕事の難しい話はあえてせずに、『ここがすごく良かった』『この間、患者さんがこのように褒めていらしたわ』と、うれしいな、よしもっと頑張ろうという気持ちになってもらえるような声かけを常に意識しています」(美紀さん)
また、身体的・精神的な不調や子育ての悩みなど、何か困り事があれば、スタッフはまず美紀さんに相談するそうです。
「ミーティングルームは、ダイニングテーブルを入れたりカップを飾ったりして、家庭的な雰囲気を演出することで、心がほぐれた状態で話をしてもらえるようにしています。冷たく寂しい会議室では、緊張して言いたいことも言えなくなると思うので」(美紀さん)
「自分たちの受けたい医療を提供する」という同院のコンセプトは、福利厚生においても、「自分たちがスタッフだったらしてほしい取り組みを行う」という考え方につながっているのでしょう。相手を思い、もし自分だったらと想像する。そんな人への愛情深さこそが、「ほどよい距離感」を生み出し、心地良い職場をつくっているのかもしれません。
まとめ
つちはら整形外科クリニックが実践する
福利厚生3つのポイント
1 建物の設計の工夫で、スタッフのプライバシーを確保
クリニックの全体の4分の1をスタッフのためのスペースに充てています。スタッフルームは靴を脱いでくつろげる琉球畳。出入り口からトイレまで、患者とは導線が完全に別なので、診療中も気を使う必要がありません。
2 スタッフ全員が納得できる、エピソードつきの表彰制度
一人ひとりに合わせたギフトを用意して、年2回、朝礼で発表。表彰された人は自分の努力や成長を具体的に理解できるように、表彰されなかった人も納得してそこから気づきを得られるように、必ず「エピソード」を添えるのがポイントです。
3 オーダーメイドで行う、スキルアップのためのサポート
研修や講習会などの費用、教材などを補助していますが、あくまでも「そのスタッフのためになる方法」を採用。どんな研修を勧めるか、費用はどこまで出すかなど、それぞれの性格や資質、将来なりたい姿を見極めて、オーダーメイドでサポートしています。
(クリニック未来ラボ編集部)