開業医白書

2025.6.20

【開業医調査】クリニックの医療DX事情│予約システム、ホームページ導入率は?

医療DXに関する開業医調査

急激に変化する医療業界。その荒波を乗り越えて、開業医がクリニックをアップデートしていくための一助になりたい――そんな想いから、当コーナー「開業医調査」では1つのテーマに焦点をあて、課題解決に向けたヒントを探っていきます。

今回のテーマは「クリニックにおける医療DXの推進」です。

一口に「医療DX」といっても、そのツールはさまざま。何をどう活用したらいいのか、迷っている先生方もいるでしょう。そこで、クリニック未来ラボ編集部では全国433人の開業医にアンケートを実施し、医療DXがどこまで浸透しているか、その実態を調査しました。

(調査対象:全国の30~90代の医科の開業医433人/インターネットパネル調査によるもの。調査期間:2025年3月17日~3月26日)

導入しているシステム1位は電子カルテだが、導入率は7割に満たず

開業医年代別導入システム・サービス(単位:%)
電子カルテWEB予約システムWEB問診オンライン診療電子処方箋自動精算機院内のコミュニケーションツール(チャットなど)自院のホームページ予防接種事務のデジタル化その他
全体65.628.412.714.518.710.68.862.12.37.9
30代89.338.721.318.722.718.710.766.74.01.3
40代79.845.724.521.326.617.016.070.20.01.1
50代68.234.111.417.019.311.48.069.33.43.4
60代52.315.94.511.418.23.43.456.81.117.0
70代以上40.98.02.34.56.83.45.747.73.415.9
※複数回答

クリニックで導入しているITシステム・サービスの1位は、「電子カルテ」。65.6%と、全体の7割弱でした。次いで、「自院のホームページ」62.1%という結果に。この2つに水をあけられた状態で、「WEB予約システム」28.4%、「電子処方箋」18.7%、「オンライン診療」14.5%、「WEB問診」12.7%、「自動精算機」10.6%、「院内コミュニケーションツール」8.8%が続きます。なお、「その他」の内容としては、「レセコン(レセプトコンピューター)」という回答が目立ちました。

さらに年代別に見ると、デジタルツールを使い慣れていることもあってか30代、40代の比較的若いドクターほど、複数のシステムやサービスを利用している傾向にありました。ここからは、さらに詳しく見ていきましょう。

電子カルテの導入率は30代が約9割の一方、60代以上は約5割と世代差あり

前述のように、「電子カルテ」は全項目の中で一番導入率が高いものの、全体で7割に届いていない状況を鑑みると、医療DXを推進する難しさがうかがえます。

しかし、年代別に見ると、30代、40代ではそれぞれ約8~9割が電子カルテを導入しており、「当たり前化」しているのも事実。その一方で、60代、70代以上では約4~5割にとどまっており、世代間に差があることが見えてきました。

自院ホームページ開設率は約6割。約9割が開設する一般企業との乖離が広がる

電子カルテに次いで多かった「自院のホームページ」は、30代~50代でそれぞれ約7割、60代以上で約5割が開設しているという結果に。世代差はそこまで大きくありませんが、全体で62.1%という数字は、一般的に見てどう捉えたらいいのでしょうか。

総務省の「令和6年 通信利用動向調査報告書(企業編)」によると、「自社のホームページを開設している企業の割合は93.2%」とありますので、一般企業と比較すると、ホームページ開設率が約6割というのは決して高くはありません。世間一般的には、「あって当然」のホームページも、クリニックでは浸透しきっているとはいえないのです。

しかし、今や情報をリサーチする際、「まずホームページを見た上で、サービスを利用する」「詳しく知るためにホームページを見る」「とにかくインターネットで調べる」といったユーザー動向が一般的。医療機関だけは別ということはないでしょう。

つまり、クリニックにおいても、ホームページをはじめとするインターネット上での情報提示は、今後さらに重要性を増すのは確実で、患者にとって「当たり前化」していくのではないでしょうか。

業界差があるWEB予約システムは3割以下と未だ導入が少ない

業界によってはすでに主流となっているWEB予約(ネット予約)。しかし、今回の調査でWEB予約システムを導入しているクリニックは全体で28.4%と、なんと3割以下という結果に。

飲食店や美容院、宿泊施設などのWEB予約が浸透している業界と、医療機関との大きな違いは、利用者(患者)に「突発性」があるかどうか。急な発熱やケガなどで利用する患者にとって、WEB予約はハードルとなる可能性もあります。しかし見方を変えれば、突発性が高いからこそ、電話ではなくWEB上で簡単に予約できるのは大きなメリットでもあるわけです。

若い世代はもちろん、高齢者のデジタルリテラシーも向上していることを踏まえると、WEB予約が「当たり前化」しつつある今、医療業界にもその波が押し寄せるのは間違いありません。「WEB予約ができるクリニック」の需要は、今後さらに高まっていくのではないでしょうか。

医療DXが進んでいるクリニックは約3割のみ

開業医年代別医療DX進捗(単位:%)
とても進んでいる進んでいる進んでいない全く進んでいないとても進んでいる+進んでいる進んでいない+全く進んでいない
全体2.832.149.215.934.965.1
30代4.044.045.36.748.052.0
40代5.338.346.89.643.656.4
50代2.330.748.918.233.067.0
60代2.329.552.315.931.868.2
70代以上0.019.352.328.419.380.7

調査では、デジタルツールを活用したクリニックの「医療DX」の現状についても尋ねました。その結果、「医療DXが進んでいると思う」と回答(「とても進んでいる」と「進んでいる」を合算)したのはわずか34.9%と、全体の約3割でした。前述のように、デジタルシステムやサービスの導入率が比較的高かった30代、40代の若い層だけを見ても、「医療DXが進んでいる」と回答したのは、5割以下という結果です。

一方、一般企業に目を向けると、約7割が何らかのDXに着手しているといわれています。昨今はAIの導入なども進み、その割合はさらに増加していくと考えられます。「業務効率化を図る」「人手不足をカバーする」「さらなるサービス向上につなげる」といったプラスの効果を考えると、DXの推進が一般的になっていくのは明らかです。

医療業界においても、政府が「医療DX令和ビジョン2030」を掲げているように、医療DXの推進は避けては通れないもの。にもかかわらず、「DXが進まない」と開業医が感じる要因はどこにあるのでしょうか。続いては、その理由を見ていきます。

医療DXに着手できない理由はコスト・人材面の課題

※複数回答

「医療DXが進んでいない」という回答をした開業医に、「その理由」を尋ねたところ、約7割に上る68.1%が「コスト」、次いで、42.6%が「対応できる人材不足」と回答しています。

医療DXを進めるには、費用はもちろん、スタッフがシステムを操作できるようにするための教育や時間などもかかります。いざ導入したら、うまく使いこなせず費用面と業務面の負荷が増えただけ……では本末転倒ですから、なかなか一歩踏み出せないというドクターが多いのかもしれません。

また、「必要性を感じない」と回答したドクターも36.2%いますが、裏を返せば、残りの64.8%、つまり6割強のドクターは「必要性を感じている」ということでもあります。こうしたことから、多くの開業医は必要性を感じつつも、費用や人材コストが壁となり、医療DXに踏み切れていない、というクリニックの実態が見えてきました。

まとめ

医療DXは、業務の効率化はもちろん、うまく使いこなすことで、人材不足の解消やスムーズな医療連携を実現できる可能性を秘めています。効率化によって生まれた時間を活用すれば、これまで以上に快適で丁寧な医療・ケアの提供にもつながるはずです。「デジタルツール=効率化」のイメージばかりが先行しがちですが、使い方次第で医療の質を底上げし、クリニックの進化を支える心強いツールになるのではないでしょうか。

そういった意味では、費用や人材コストがネックでスタートが切れない……というドクターこそ、各種システムやサービスをリサーチし、吟味してみることをお勧めします。

例えば、最初からすべて取り入れるのではなく、業務の一部にデジタルツールを用いるなど、費用や人材コストが抑えられる工夫をしてみるのもよいでしょう。また、最近は医療機関向けのWEB予約システムや、院内のデジタルコミュニケーションツールなど、低コストで利用できるサービスも増えていますので、専門の企業に相談してみるのも一つです。

自院に合ったシステムやサービスを見つけ、医療DX推進に向けた一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。(クリニック未来ラボ編集部)

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