クリニック開業医の6割以上が診療報酬改定で「減収」に

診療報酬改定が行われた2024年春から約1年後のタイミングで実施した今回の調査。「2024年度診療報酬改定により、収益の影響はありましたか?」と尋ねたところ、「大きく減少した」、「減少した」と回答した人が60.7%となり、実に約6割もの開業医が、収益が減少したと回答しました。
逆に、「増加した」の回答はわずか3.0%。ほかに「変わらない」との回答が34.4%あったとはいえ、過半数のクリニックは「2024年度の診療報酬改定により、減収した」ことがわかります。
内科クリニックの約7割が減収に
【診療科別で見る収益への影響】

診療科別(内科系/内科系以外)に見ると、収益が減少したと回答したのは、「内科系」では68.4%と約7割に上りますが、「内科系以外」は53.2%と約半数にとどまりました。内科系クリニックのほうが、2024年度診療報酬改定による影響をより強く受けていることがわかります。
最も収益に影響を及ぼしたのは「初再診料の点数引き上げおよび処方箋料の引き下げ」

【診療科別で見る影響が大きかった改定内容】

では、「2024年診療報酬改定が収益に影響した」と回答し、減収となった開業医は、具体的にどんな点に影響を受けているのでしょうか。
診療報酬改定の内容はさまざまでしたが、「特に影響が大きかった」ものを3つまで選んでもらったところ、「初再診料の点数引き上げおよび処方箋料の引き下げ」が73.9%と断トツに。収益に影響があったクリニックのうち、4分の3が減収の原因として挙げたことになります。
次いで、「勤務医師、看護師等医療従事者の賃上げ」が半数の50.7%、「医療DX推進体制整備加算の新設」が28.3%、「医療・介護・障害サービスとの連携」5.4%と続きます。
また「その他」の意見の中を見てみると、以下のような回答がありました。
- 特定疾患管理料の対象疾患の改定(対象の減少)および生活習慣病管理の算定
- 在宅医療に関する改定
- 感染症対策、発熱に関する診察料、検査料の減少(ルールの変更)
- 通院精神療法の点数引き下げ(減点)
- 小児特定疾患カウンセリング料増点(収益増加の回答)
それぞれの背景について、続いて詳しく見ていきましょう。
初再診料は引き上げも処方箋料引き下げの影響で減収に
まずは、「初再診料の点数引き上げおよび処方箋料の引き下げ」についてです。
初再診料が初診3点、再診2点の引き上げだった半面、院外処方箋料は改定前の68点から60点と、8点の引き下げに。これだけでも、減収に直接的な影響をおよぼしたと考えられます。
全体のうち半数の50.7%が影響を受けたとして挙げた「勤務医師、看護師等医療従事者の賃上げ」については、特に内科系以外のクリニックが59.7%と比率が大きい結果に。理学療法士や技師など働くスタッフの職種が増えがちなクリニックほど、賃上げの影響が出やすいと推測できます。
また、「その他」の自由記述で多くの声が集まったのが、「特定疾患管理料の対象疾患の改定(対象の減少)および生活習慣病管理の算定」です。糖尿病、脂質異常症および高血圧が特定疾患療養管理料の対象疾患から除外されたことで、生活習慣病の管理を担う内科系クリニックへの影響はかなり大きいと考えられます。
従業員が多いクリニックほど「賃上げ」への影響大
【従業員数で見る賃上げによる収益への影響】

今度は視点を変え、「勤務医師、看護師等医療従事者の賃上げ」がクリニックの収益に与える影響を見てみましょう。
先述したように、影響を受けたクリニックは全体の50.7%と半分に上りますが、中でも「従業員数が11人以上いるクリニック」に限れば62.7%と、6割以上が賃上げに関する改定からの影響を受けたと回答しています。一方「5人以下のクリニック」は39.7%、「6人以上10人以下のクリニック」は49.6%という結果に。従業員数に比例して賃上げによる影響が大きくなっています。
2024年度診療報酬改定への対策は行ったか?

2024年度診療報酬改定がクリニックにさまざまな影響を及ぼす中、上記調査によると、特に「対策を行っていない」クリニックは未回答と合わせて、55%。「何もできることがない」「ひたすら耐える」といった「諦め」の意見や、中には「閉院を考えた」といった声も複数寄せられています。
診療報酬改定に対する具体的な対策とは
診療報酬改定に対して、「何らかの対策を行った」と回答したクリニックは45%。では実際にどのような取り組みを進めているのか、アンケート回答の一部を見てみましょう。
【診療の見直し】
- 検査など診療内容の見直しをした
- 非採算検査をやめた
- 患者さんの新規ニーズの発掘
- 診療時間を変更
- 訪問看護の強化
- 新たなサービス・診療外来を開始。これまで行っていなかったリハビリに対応、新事業を展開した
- 勤務時間の変更や、検査体制の見直し
- 診療規模の縮小
- 物販を開始した
- オンライン診療
- 処置の増加
- 新患枠の増枠
- コスパの良い業務に特化
- 検査を定期的に行う
- 単価の増加
- 血液検査などの検査を増やした
- 長期処方を減らした
- 特定疾患への主病名の変更
- 慢性特定疾患の患者は1カ月処方とした
- 自由診療の拡大
- 診療内容の定型化
- 年に数回程度受診する患者は、都度初診扱いにした
- 院内処方の一部を院外処方へ変更する。ワクチン接種料金の値上げ
- 1日の診療患者数枠の増加
- 初診患者枠の拡大
- 行政より委託の小児健診へ積極的に参加するようになった
- オペレーションの改善による診察数の増加、自費メニューの見直し
【地域連携強化】
- 新規連携先の発掘
- 連携システムの構築
- 介護施設など新規連携先の発掘
【新診療報酬での点数を確実にする】
- ベースアップ加算の導入や疾患の見直し
- 各種加算の見直し
- 生活習慣病管理料算定の徹底
- 丁寧に書類を作成し、従来どおりの点数でできるような診療を行った
- 各検査の損益計算、検査実施閾値の見直し
- 再診数を増やせるような診療の仕方の検討、別の加算は取れないかを検討
- 検査漏れがないか精査
- 保険病名の見直し
- 新しい算定項目の洗い出し
- データ加算を提出する
- 生活習慣病1を忘れずに取る
- ベースアップ加算料の算定
- 施設基準を申請した
- 医療情報取得加算の算定漏れにとにかく注意する
- 請求漏れがないよう再検討した
- 生活習慣病管理料と特定疾患管理料加算の選択
- ベースアップ加算、感染対策加算など取れる加算はすべて算定できるようにした
【人員整理】
- リストラ(スタッフの人員削減)
- 退職した職員(正職員)から、パート職員として雇用
- 常勤を減らし、パートを増やした
- スタッフの離職対策を講じた
【集患】
【経費削減】
- 従業員の残業を減らす
- 設備費、固定費の見直し
- 支出の適正化
- 役員報酬の減額(削減)
- 物品費、光熱費、消耗品のコストカット
- 薬品購入の差し控え、在庫の見直し
- ジェネリック医薬品の使用
【医療DX推進】
【その他】
- 誠意ある医療の提供
- 外注先の見直し
- 閉院への準備
診療内容の見直し
特に目立った意見は、「自由診療を増やす」「必要な検査の精査」「処方期間の見直し」といった「診療内容の見直し」です。診療報酬改定を機に、適切な採算が望める形に見直す傾向が見てとれます。
人員整理
これまで見てきたとおり、診療報酬改定にあった医療スタッフの賃上げは収益に大きな影響を与えており、スタッフ職に関わる人員の整理や、雇用体制の変更で対処するクリニックは多いようです。リストラのように痛みを伴う対策だけでなく、常勤を減らしてパートタイム従業員の比率を増やすなどの「人員整理」を講じるクリニックも見られました。
院長自身が痛みを引き受ける形の対処も
ほかに目立ったのが「経費削減」に対する取り組みです。物品や機材購入のコストカットに加え、「役員報酬の減額・廃止」、「ボーナスの廃止・減額」といった対応策も……。
特に「役員報酬の減額」を実施したという声が多く挙がりました。診療報酬改定によって減収が見込まれるクリニックのうち、院長自身が「痛みを引き受ける」形で対処したクリニックは少なくないようです。
診療報酬加算、業務効率化の2軸で「医療DX」を推進
「医療DX」の推進を対策に挙げているクリニックも多く見られました。医療DXにより「診療報酬加算」をめざせるほか、スタッフコストを抑えたり、診療効率を上げたりと「業務効率化」も見込めるため、2つの目的を同時に満たせる取り組みといえるでしょう。
まとめ
今回は、2024年診療報酬改定の収益への影響について調べました。クリニックを経営する開業医にとって収益に直結する改定内容が多く、アンケート調査の結果を見ても、非常に影響が大きいものだったということがわかります。
実際に行われている対策で特に注目したいのは「医療DX」によるもの。厚生労働省の資料「令和6年度診療報酬改定【全体概要版】」の中で、「主要な改定項目」の2つ目に挙げてあることから、国として優先順位の高い項目といえます。先にふれたとおり、診療報酬加算につながるだけでなく、業務効率を上げ、過剰人員対策にもなり得るため、ITに苦手意識を持つ開業医も取り入れる価値があるのではないでしょうか。
ほかにも、2024年度診療報酬改定による影響を最小限にするために、クリニックではさまざまな工夫を凝らしていることがわかりました。ぜひ、参考にしていただければ幸いです。(クリニック未来ラボ編集部)


