マイナ保険証導入後、開業医はメリットをどう評価しているのか
マイナ保険証の導入が進む中で、実際に現場での業務はどのように変化しているのでしょうか。ここからは、開業医自身が感じている導入後の変化や評価を、調査結果をもとに見ていきます。
まずは、診察・受付・会計といった日常業務においてのメリットを感じているかを確認しましょう。

「メリットを感じた」は約3割にとどまった
本調査では、オンラインカードリーダー(マイナ保険証)導入後の業務について「メリットを感じた」と回答した開業医は28.7%(約3割)でした。逆に、「メリットを感じなかった」(28.4%)もほぼ同数。最も多かったのは「どちらともいえない」で39.4%でした。
肯定・否定のいずれかに評価が明確に寄っている状況ではなく、導入後の受け止め方が分かれている様子が示されました。
メリットを感じた開業医が挙げたポイント
マイナ保険証の導入に「メリットを感じた」開業医は、どのような点にメリットを感じたのでしょうか。本項では、メリットを感じた理由として挙げられた項目をもとに、オンライン資格確認がどの業務領域で効果を実感されているのかを整理します。

マイナ保険証導入メリットの7割超は「受付業務」
マイナ保険証導入にメリットを感じた開業医のうち、大多数といえる74.0%が「受付業務がスムーズになった」と回答しました。受付時の保険資格確認が簡略化されることで、窓口対応の負担軽減につながっているケースが多いと考えられます。
他のメリットで過半数を超えたものはないため、効果の実感としては圧倒的だったといえそうです。
4割超の開業医は薬剤情報・特定健診情報を活用
次点の「薬剤情報・特定健診情報の閲覧により、より適切な医療の提供につながった」と回答した開業医は42.3%でした。一般的にも医療人材の制約が指摘され、限られた時間や情報の中で効率的に診療判断を行う必要性が高まっています。
そうした現状を背景に、客観的な患者情報を参照できる点が、メリットの一つとして受け止められ始めたのではないでしょうか。
患者からのポジティブな反応は1割に満たない
一方、「患者からポジティブな意見を聞くようになった」と回答した開業医は1.6%にとどまりました。「事務作業コストが減った(30.1%)」、「レセプト返戻が減った(28.5%)」と、業務面ではポジティブな効果を感じるものの、患者側からポジティブな反応として返ってきているケースは多くないようです。マイナ保険証導入のメリット実感は、主に医療機関内部にとどまっている現状が示されています。
年代別にみる、マイナ保険証への評価の傾向
医療DXやデジタルツールへの向き合い方は、医師の年代や診療環境によって異なる側面があります。マイナ保険証に対する評価についても、年代別に見ることで、一定の傾向が確認できました。

30~40代の若年層は「メリットを感じた」割合が相対的に高い
30代の開業医では、「メリットを感じた」と回答した割合は42.0%、40代では36.5%でした。全体(28.7%)と比べると、それぞれ約10ポイント前後高い水準となっています。
一方「メリットを感じなかった」と回答した30代の開業医は17.4%、40代で16.7%にとどまり、否定的な回答は比較的少数でした。
ただし、いずれの年代においても「メリットを感じた」は過半数には達しておらず、若年層であってもポジティブな評価は限定的な範囲にとどまっています。
60代以上の開業医は4割が「メリットを感じない」
60代では「メリットを感じなかった」と回答した割合が39.8%と、全体(28.4%)を約11ポイント上回りました。70代以上でも38.6%と高い水準で推移しています。
一方、「メリットを感じた」は60代で17.0%、70代以上で21.6%にとどまりました。年代が上がるにつれ、マイナ保険証を業務上のメリットとして捉えていない開業医の割合が高くなっていることがわかります。
マイナ保険証に関するトラブルの発生状況
導入後のメリットを感じる開業医が一定いるものの、マイナ保険証本格導入以降、ニュースなどでも「運用トラブル」が取り上げられることは少なくありません。
そこで、「直近1年以内にマイナ保険証に関するトラブルを経験したか」を尋ね、その実態を調べました。

開業医の半数以上が直近1年でマイナ保険証によるトラブルを経験
直近1年以内に、マイナ保険証に関するトラブルが「ある」と回答した開業医は50.8%と、半数を超える結果に。トラブルは一部の医療機関に限られた「例外的な出来事」ではないと推測できます。
マイナ保険証の運用が原則義務化され、日常業務の中で継続的に対応せざるを得ない中、トラブルへの対応は現場にとって避けて通れないテーマとなっていることがうかがえます。
自由記述から整理する、主なトラブルの内容
直近1年でマイナ保険証関連でのトラブルが「ある」と回答した開業医に、その具体的な内容について深掘りしました。寄せられたコメントを確認すると、トラブルの内容には一定の傾向が見られます。
本項では、回答をもとに主なトラブルをいくつかのパターンに分けて整理し、マイナ保険証運用の現場で何が起きているのかを見ていきましょう。
機器・システムに起因するトラブル
カードリーダーや通信環境など、機器・システムに起因するトラブルでは、読み取りエラーや端末のフリーズ、通信不良などにより、受付業務が一時的に滞るケースが見られました。再起動や業者への問い合わせなど、その場での対応を余儀なくされている例も少なくありません。
【寄せられたコメント(一部抜粋)】
・カードリーダーが突然反応しなくなり、再起動することに
・通信エラーで資格確認ができず、旧来の保険証で対応した
・システムがフリーズし、復旧まで受付が止まった
・端末の不具合で、業者に連絡するまで業務が進まなかった
・不具合が起きたが、原因はわからなかった
保険資格・情報反映に関するトラブル
保険資格や患者情報の反映に関するトラブルも多発。転職や住所変更に伴う資格変更が反映されていない、表示される保険情報が実態と異なるといった指摘が見られました。
確認や修正のために、後日対応や暫定的な会計処理を行ったケースもあります。
【寄せられたコメント(一部抜粋)】
・資格が切り替わっているはずなのに、情報が更新されていなかった
・転職後の保険情報が反映されず、確認作業に時間を要した
・患者申告と表示情報が一致せず、保留対応を取った
・後日修正が必要になり、事務作業が増えた
・オンラインでは確認できず、電話で確認した
患者対応に関するトラブル
患者対応に関するトラブルも多く挙げられました。特に、高齢患者や操作に不慣れな患者の場合、受付時に説明や付き添いが必要となり、対応に時間を要するケースが見られます。
その結果、受付業務が滞ったり、スタッフの負担が増えたりする状況が生じています。また、患者のフォローだけではなく、クレームに発展しているケースも。
【寄せられたコメント(一部抜粋)】
・操作方法がわからず、受付で毎回説明が必要になった
・患者が暗証番号を忘れてしまっていて、その場で手続きが止まった
・顔認証がうまくいかず、別の確認方法を取った
・高齢患者への対応で、毎回スタッフが1人取られている
・説明に時間がかかり、かえって患者さんの待ち時間が延びてしまった
・操作ができなかった患者からの苦情や暴言が多数あった
・マイナ保険証に反対だと言って出さない人がいる
対応・問い合わせに関するトラブル
トラブル発生後の対応に関する戸惑いも見られました。どこに問い合わせればよいのかわかりにくい、連絡しても復旧まで時間がかかったといった声です。トラブルそのものに加え、対応フローのわかりにくさが現場の負担になっている状況が浮かび上がりました。
【寄せられたコメント(一部抜粋)】
・エラーなど不具合が起きたとき、どこに連絡すればよいのか迷った
・業者に問い合わせをしても、復旧まで時間がかかった
・業者か行政か、どちらに連絡すべきかわかりにくかった
トラブル発生時の対応方法と運用実態
これまで紹介してきたような、マイナ保険証に関するトラブルが発生した際、医療現場ではどのように対応しているのでしょうか。開業医のコメントから、トラブル時に多く見られた対応方法や、運用上の実情を整理していきます。ぜひ参考にしてみてください。
旧来の保険証や資格確認書による暫定対応
マイナ保険証での確認ができない場合には、旧来の保険証や資格確認書を用いて対応したケースが多く挙がりました。読み取りエラーやシステム不具合が発生した際には、受付業務を止めないために、旧来の方法に切り替える対応が取られています。一時的な代替手段として、柔軟に使い分けている様子がうかがえました。
後日確認・保留処理による対応
その場で保険資格が確認できない場合、後日改めて確認する、あるいは保留処理とする対応も多く見られました。患者には事情を説明した上で、後日修正や精算を行うケースも。即時に判断できない場合でも、診療を継続するための運用として定着しつつある対応といえます。
現場判断に委ねられる対応が多い実情
また、トラブル時の対応がマニュアルどおりに進むというより、現場の判断に委ねられているケースが多いことも読み取れます。スタッフや医師が状況を見ながら、その都度対応を決めている例が目立ちました。トラブル自体だけでなく、対応判断の負担が現場側に集中している実態も浮かび上がります。
まとめ|マイナ保険証導入後の実態から見えてきたこと
今回の開業医調査からは、マイナ保険証の運用において、トラブルが日常的に発生する状況の中で、明確な支援や整理された対応フローがないまま、現場が工夫と判断で対応を重ねている実態が浮かび上がりました。
マイナ保険証導入が医療現場と患者双方の疲弊につながっている
トラブル経験者は半数を超え、機器不具合や資格確認の問題、患者対応、問い合わせ対応など、制度の枠を超えた調整業務が現場で発生しています。これらの対応は、医師だけでなく、受付や事務スタッフが担う場面も多く、人的負担として積み重なっています。
また、患者側にも負担は及んでいます。資格確認ができず一時的に10割負担となる、後日あらためて来院や提示が必要になる、かえって受付に時間を要するといったケースが見られました。特に高齢患者にとっては、仕組み自体がわかりにくく、戸惑いを抱えたまま対応を求められている実情もあります。
マイナ保険証は原則義務化された制度であり、現場は「使うかどうか」が選べません。その中で、運用を成立させるための調整や負担が、医療機関側と患者側の双方に発生していることは、本調査が示した重要なポイントといえるでしょう。
将来的な業務負担軽減の可能性はある
一方で、本調査では、メリットを感じた開業医の多くが「受付業務がスムーズになった」と回答しており、マイナ保険証が受付回りの業務負担を軽減する側面を持つことも示されました。
現時点では、トラブル対応や調整が現場の負担となっている状況が続いていますが、患者、医療機関、そして支援サービスの側が運用に慣れ、仕組みとして安定していけば、マイナ保険証が疲弊した医療現場を下支えする存在になる可能性も考えられます。(クリニック未来ラボ編集部)
<執筆者プロフィール>
クリニック未来ラボ編集部
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