在宅医療を行うクリニックが実践する負担を減らす4つのアプローチ

在宅医療を行うクリニックが実践する負担を減らす4つのアプローチ

外来医療、入院医療に次ぐ、第3の医療とも呼ばれ期待されている在宅医療。後期高齢者の増加などに伴い、その社会的ニーズは年々高まっています。しかし、在宅医療を提供する医療機関はまだまだ不足しており、社会に浸透しているとは言い難いのが実情です。

その一因といえるのが、医療者にかかる負担の大きさ。24時間対応できる医師・看護師の確保に始まり、訪問看護ステーションとの連携や、在宅患者の緊急受け入れができる体制整備など乗り越えるべき壁は多岐にわたります。そのため、「導入へのハードルが高い」と感じてしまうクリニックも少なくありません。在宅医療をさらに普及していくためには、こうした医療者たちへの負担を軽くしていくことが先決でしょう。

そこで今回は、積極的に在宅医療を導入しているクリニックが、負担を軽くするために実際に行っている取り組みをまとめました。ほかのクリニックでは、どんな工夫がされているのか? その気になる事例をご紹介します。

1.「24時間」にこだわらない。無理のない体制が、長続きの秘訣【青葉ひろクリニック】

患者と365日向き合っていくのが、在宅医療。それゆえ、関わる医師やスタッフの負担はどうしても大きくなってしまいます。そこで、在宅医療を中心とする内科・消化器内科の「青葉ひろクリニック」(神奈川県横浜市)では、最初から24時間対応にこだわらず、まずは自分たちのできる範囲で在宅医療を導入しています。他のクリニック同様、軸足はあくまで外来診療。空いた時間で通院困難な患者を訪問するため、医療者の負担を抑えられるだけでなく、経営面の安定にもつながっているといいます。

そして、もう一つのポイントが、すでに在宅医療に取り組んでいるクリニックに赴き、数ヵ月間の研修を受けておくこと。実際の診療の流れや必要な書類、在宅医療ならではの保険点数(居宅療養管理指導費など)といった知識を事前に備えておけば、安心して在宅医療をスタートできるそうです。

また最近では、夜間や休診日に別の医師が診療してくれる代行サービスも併用して患者を見守る取り組みも増えてきています。毎月ある程度のコスト(※サービスによって異なる。代行を依頼した診療分の点数は、依頼元のクリニックに加点)や、代行医師との情報共有は必要ですが、医療者のさらなる負担軽減が望めそうです。ただ、大切な患者を預けることになるので、信用できる業者の見極めを忘れてはいけません。

2. 手軽にささっと情報共有! SNSの活用でスタッフ連携がスムーズに【青葉ひろクリニック】

在宅医療には、医師のほかにも看護師やケアマネジャーなど多くの人間が関わります。そのため、スタッフ同士の密な情報共有が欠かせません。ただ、集まった情報を医師だけで管理していくのはなかなか難しいもの。その負担を軽くするため、前出の「青葉ひろクリニック」(神奈川県横浜市)では院内の情報整理を担当する看護師や専任の事務スタッフを雇っています

さらに、円滑な情報共有のため、複数人のスタッフとリアルタイムでコミュニケーションが取れる医療用SNSも活用。画像や動画の送信のほかにグループトークもできるので、とても便利なのだとか。近年はSNSに慣れているスタッフが多いため、操作方法もスムーズに覚えられるものだといいます。

ちなみに、こうした医療用SNSのアプリケーションは種類も多く、スマートフォンやパソコンで手軽にダウンロードできます。基本利用料が無料のものもあるので、一度試してみるのも手です。

そして、意外と重要なのが、医療連携を視野に入れて地域全体で同じアプリケーションを利用すること。導入する際は、地域のケアマネジャーや、すでに在宅医療を実践している他クリニック、医師会とも相談してみましょう。

3. 診療の軸は、看護師。患者に寄り添い、スムーズなチーム医療を実践【しまむらクリニック】

患者やその家族と密に関わることになる、在宅医療の現場。そこでは、医療者にも高いコミュニケーション力が求められます。そのため、内科や消化器内科、糖尿病内科、循環器内科などの診療を幅広く行い、訪問診療にも力を入れる「しまむらクリニック」(神奈川県横浜市)では人材を採用する際、経歴や専門性以上に「性格」や「人柄」を重視しています。

また、患者との距離が近い看護師を軸とした在宅医療を徹底しており、医師への相談が不要と判断される場合は、看護師自らジャッジすることもあります。ただ、そのためには、スタッフ間の情報共有が必須。こまめな報告や適切な連絡が、次回の診療へスムーズにつなげるための秘訣なのだそう。患者の中には、医師に相談しづらいことでも看護師になら話せるという人もいますから、在宅医療の現場においても看護師の存在は重要なのです。

さらに同院では、院内研修も積極的に行い、常にスタッフのレベルアップを図っています。今後、取り入れたい薬や機器があれば、それらを提供する企業のスタッフを講師に招いて、直接使用方法などのレクチャーを受けることも。ちなみに、研修の内容については看護師たちにヒアリングをして、現場で必要となるものを選んでいるそうです。

4. 医科、歯科の垣根を越えて、患者をトータルに診療できる連携体制を【河野歯科医院】

介護施設や高齢者向けマンション、個人宅などへの訪問歯科診療に取り組む、「河野歯科医院」(神奈川県横浜市)。同院では歯科衛生士が中心になって、患者や家族、ケアマネジャー、歯科医師と連携しながら、診療情報の整理やさまざまな調整を行っています

例えば、患者の全身疾患や投薬の状況、ケアマネジャーから報告される家族との関係性や生活環境といったバックグラウンドに至るまで、必要に応じて歯科医師と共有し、スムーズな診療に貢献しています。そして、患者とその家族の生活の場に足を踏み入れることになるのが在宅医療。患者が不安にならないよう、何事にも動じずに必要な診療を行うことを心がけているのだとか。

さらに、同院ではこれまで築いてきた他院との連携制もフルに活用。歯科疾患と関係が深い骨粗しょう症の治療をしている患者なら、抜歯の前に休薬してもらうなど、治療スケジュールを調整しています。また、患者が在宅での周術期口腔ケアを望むなら、手術前後に必要な口腔ケアを患者宅で行えるよう、執刀する病院へ情報共有するなど、医科・歯科の垣根を越えて連携することが大事だといいます。

【まとめ】できることから、一歩ずつ。一人でも多くの人が、「幸せな最期」を迎えられるように

日本では今、8割近くの人が病院で亡くなっています。その一方、内閣府が全国の 55 歳以上の男女を対象にした「高齢者の健康に関する意識調査」(平成24年度)によると、「自宅で最期を迎えたい」と願う人は5割以上というデータも。今後、一人でも多くの人が自分らしく幸せな最期を迎えるためには、在宅医療の普及が必要不可欠となってくるでしょう。

医療者にとって、在宅医療は確かにハードルの高いものですが、工夫次第でその負担を減らしていくことはできそうです。近い将来、導入を検討されているクリニックは、院内の情報共有手段やスタッフの研修内容を見直すなど、できることから始めてみるのはいかがでしょうか。それがいずれ、在宅医療を本格的に導入するための足掛かりになるかもしれません。(クリニック未来ラボ編集部)

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