開業・承継

2024.7.11

クリニック(病院)の経営を成功させる10のポイント!逆に失敗する要因も5つ紹介!

開業医は医療の提供だけでなく、クリニックの経営・運営におけるすべての業務を行います。財務や採用など幅広い業務を担う必要があり、その量は膨大です。クリニック経営における開業医の主な業務は、以下のものが挙げられます。

● 医療サービスの提供
● 経営戦略の立案
● 資金調達
● 収益や給与などの財務管理
● 各行政機関への対応および各種手続き
● スタッフの採用および教育
● 施設および医療機器の管理
● 集患対策

これらの業務を日々の医療業務と並行して取り組む必要があり、医師としてだけでなく経営者としての大きな責任が伴います。

本記事では、開業をめざす医師に向け、クリニック経営の現状を中心に、開業するメリット・デメリット、ならびにクリニック経営を成功させる10のポイントについて解説します。

開業後に経営を長期的に成功させて、地域医療への貢献と、患者の健康を支える第一歩を踏み出してみてください。

クリニック経営の成功とは?

クリニック経営の成功に明確な定義はありません。院長や経営者の考え方によって、クリニック経営の成功基準は異なります。

しかし、一般的には「安定した収益を維持すると同時に地域医療に貢献すること」が、開業クリニックの成功といえるのではないでしょうか。

クリニックの運営には多額の資金が必要であり、安定した収益を確保できなければ地域住民により良い医療サービスを提供することはできません。

開業医として地域住民から信頼されつつ、エリア全体の健康レベルの向上など地域医療に貢献するためには、医師としての知識や技術に加え、経営者としての能力が求められます。

経営理念の策定や具体的な集患方法、さらには運営上の注意点を把握することが、長期的に安定したクリニック経営を可能にします。

クリニック経営を成功させる10のポイント

クリニック経営を成功させるための10のポイントを解説します。開業する際は、以下の点を押さえた運営をめざしてみてください。

(1)経営理念・運営方針を明確にする

クリニックを開業する前に、経営理念と運営方針を明確にすることが重要です。経営理念はクリニックがめざすべき方向性や目的を示す指針となります。

医師としての迷い、経営者としての不安を抱いた際に経営理念に立ち返ることで、適切に対処しやすくなります。また、経営理念はスタッフや患者と共有することで、信頼と支持の獲得につながります。

(2)開業場所は好立地を選ぶ

開業場所は好立地を選ぶことがクリニック経営の成功につながります。ポイントとして、診療科目に適切な立地で開業することが大切です。

たとえば、小児科や産婦人科の場合、幼稚園・保育園が多かったり、ファミリー世帯が多く住んでいたりするエリアが適切となります。さらに、公共交通機関の使いやすさや道路事情など、交通アクセスを考慮することも重要です。開業前に地域のニーズや年齢など、情報収集を徹底することによって安定した集患が期待できます。

(3)Web広告やSNSを駆使した集患対策をする

クリニック経営は、診療・治療の数が収益に直結します。したがって、集患対策が非常に重要であり、口コミだけでなくWeb広告やSNSを駆使することが効果的です。

口コミは定性的な情報として信頼性を持つ人が多く、既存の患者からの紹介によって新規患者を集める手段として有効ですが、家族や友人・知人という限られた範囲でしか情報が伝わらないケースもあります。

そのため、潜在的な新規患者へのリーチが限定的であり、競争が激しい都市部や新しく開業したクリニックでは、口コミだけでは十分な集患効果を得ることが難しいです。

一方でWeb広告やSNSは、より広範囲にアプローチしやすく、地域を超えた多くの人々にクリニックの存在を知ってもらえるため、ターゲット層に対して効率的に情報を届けることができます。

宣伝費用が必要な場合はありますが、うまく集患できれば大きな収益をもたらします。リピート率の向上、さらにはクリニックの評価を高めることにも有効です。

(4)地域のニーズに合わせた医療を提供する

集患対策の一つに、地域のニーズに合わせた医療の提供が挙げられます。たとえば医師不足の地域の場合、かかりつけ医としての地位を確立しやすくなります。

また、高齢者の多い地域の場合、眼科や耳鼻咽頭科のニーズが高い傾向にあります。地域のニーズに適した医療を提供することは、住民からの信頼を得やすく、さらにリピート率を高めて大きな収益をもたらすことが期待できます。

(5)スタッフ定着率の高い組織づくりに取り組む

スタッフの定着率が高いクリニックでは、患者が安心して通いやすいため信頼関係を築きやすく、円滑なコミュニケーションが可能となります。患者満足度は向上し、リピート率や新たな患者の紹介に期待できます。

また、スタッフの定着率が高いことは業務の効率化に有効です。患者に提供する医療の品質を高める上に、求人などの膨らんだ経費の削減にもつながります。

(6)業務効率化を図る

クリニック経営において、業務効率化は成功の鍵です。業務の効率化はスタッフの負担を軽減し、定着率を向上させます。また、患者からの信頼にも直結します。業務の効率化により、待ち時間が短く、診療ミスや薬品不足が少ないようなクリニックは患者満足度を高めます。

これによりリピート率が向上し、好意的な口コミを集めることができます。逆に、業務効率の低いクリニックは患者の不満を招き、新規患者の獲得も困難となるでしょう。

(7)無駄な経費を削る

クリニック経営の成功には利益率を上げることが必要です。そのためには、無駄な経費を削減しなければなりません。以下は、クリニック経営における経費削減につながるポイントです。

  • 必要な医療機器のみを導入する
  • 医薬品などの在庫管理や発注管理を徹底する
  • 労働時間や残業時間を管理して人件費を抑える
  • 光熱費を抑える
  • 広告費や備品費を見直す

これらの経費を抑えることで、クリニック全体の収益増加につながります。

(8)経営コンサルタントの支援を受ける

クリニック経営を専門とするプロのコンサルタントに相談することもお勧めです。専門コンサルタントは、経営に関するノウハウを持っており、資金調達や事業計画の策定など、経営がうまくいくためのサポートをしてくれます。

クリニックの経営は非常に複雑です。資金調達や開業手続きなど、多くの時間とお金を費やします。些細な判断ミスが経営に大きな影響を与えるため、開業前から専門の経営コンサルタントと連携することが大切です。

(9)経営スキルを身につける

コンサルタント頼りにせず、自身の経営スキルを身につける努力も必要です。集患や収益の変動、業務効率など、現場の状況を常に把握し、適切な対処をしなければなりません。

特に、資金繰りやマネジメント能力は最低限必要な経営スキルです。経営スキルを身につけることは、開業後の経営を軌道に乗せたり、赤字経営の立て直しを図ったりする際に有用なだけでなく、その能力次第で、事業拡大など収益の増加を見込むこともできます。

加えて、人材育成はクリニック経営において欠かせないスキルです。優秀な人材を育てることは業務効率の向上、ならびに組織全体の成長を促進することができます。従業員個々の能力を最大限に引き出すために、適切な教育とトレーニングを実施することが必要です。

(10)他院との差別化を図る

競合する他院との差別化を図ることも、クリニック経営の大事なポイントです。近年、クリニックの件数は増加傾向にあります。競合が多くなるほど集患は難しくなり、減収などの影響を受ける可能性が高くなります。

以下は、競合他院との差別化を図る代表的な方法です。

  • 専門性など独自性を持たせた診療内容
  • 最新機器の導入など希少性の高さ
  • 自費診療の安さ
  • スタッフの高いホスピタリティ
  • プライベート空間などの特別感を持たせた院内

これら差別化を図る取り組みによって、患者の獲得と評価の向上が期待できます。

クリニック経営が失敗する5つの要因

ここまで、クリニックの経営を成功させるポイントやその理由を解説してきました。しかし、経営が失敗するケースがあるのも事実です。ここでは、クリニック経営が失敗する主な要因を5つ解説します。経営スキルの重要性がわかる内容です。

開業を検討中の医師、クリニック経営がうまくいっていないと感じている開業医の方は参考にしてみてください。

(1)事業戦略を策定していない

事業戦略の策定は、経営において最も重要な要素です。クリニックを開業する目的や計画、さらに具体的な事業方針を明確にしていなければ、行き当たりばったりの経営になってしまいます。なかなか集患できず、患者からの信頼も得られず、経営を続けていくための収益を出すことが難しくなります。

(2)集患対策がうまくいっていない

集患対策がうまくいかないと、クリニック経営は失敗する可能性が高まります。クリニックは、一人でも多くの患者を集めることが収益につながります。SNSやWebマーケティングを活用し、積極的に集患することが必要です。

(3)患者満足度およびリピート率が低い

集患対策が成功しても、患者満足度が低いと経営はうまくいきません。患者満足度はリピート率に直結しており、継続的に利用されないと安定した収益が得られなくなります。

そのため、患者と積極的にコミュニケーションを図り、不安や悩みを解消して信頼を得ることが重要です。さらに、待ち時間の短縮を図るための予約システムの導入や、スタッフの対応品質の向上にも取り組むことが求められます。

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(4)不必要な経費が多い

不必要な経費の多さは、経営を悪化させる大きな要因です。たとえば、無駄な設備投資や広告費用、必要以上のスタッフの雇用が挙げられます。クリニック経営は、運営に多額の資金が必要になるため、医療機関を専門とするプロのコンサルタントや税理士などに相談をすることも経費の抑制につながります。

(5)従来のやり方にこだわっている

従来のやり方にこだわりすぎるクリニック経営は、失敗しやすい傾向があります。医療業界は常に進化しており、新しい技術や治療法、患者のニーズの変化に対応しなければなりません

しかし、自身のこだわりや、過去の経営手法に固執すると、最新の医療トレンドに遅れを取る可能性があります。たとえば、SNSを活用した集患は現代の主流です。ITに疎いという理由でこれを拒否していると、集患どころか業務効率が低下し、患者満足度を高めることができなくなります。

従来のやり方が間違っているわけではありませんが、時代に合わせた柔軟な発想と適応力がクリニック経営には不可欠です。

クリニック経営の現状

近年、クリニック経営に取り組む医師は増加傾向にあります。開業や運営には多額の資金が必要ですが、果たして成功率はどのくらいなのでしょうか。

ここでは、クリニック経営の現状を解説します。

(1)クリニック経営の成功率

クリニック経営の成功基準は人それぞれ異なりますが、一つの指標として「倒産件数(率)」があります。

厚生労働省の「医療施設動態調査」(※1)によると、一般診療所(歯科診療所を除く)は2023年7月末時点で10 万 5,331 施設と、実にコンビニの2倍近くあります。

一方で、帝国データバンクの発表(※2)によると、2023年の一般診療所の倒産件数は23件と、2009年の27件に次いで多い結果となりました。とはいえ、倒産発生率で見た場合、わずか0.022%です。一般企業の倒産発生率が0.25%程度といわれているため、クリニック経営は倒産しにくいことがわかります。

さらに、クリニックが倒産しにくい理由に加えて、厚生労働省の「第23回医療経済実態調査」(※3)の報告によれば、開業医の平均年収は約2,491万円(医業収益から従業員の給与などの医業・介護費用を差し引いた金額)、手取りにすると平均1,600万円前後と高収入です。

また、厚生労働省が2022年7月に実施した「令和4年賃金構造基本統計調査」(※4)によると、勤務医の平均年収は約1,428万円(決まって支給する現金給与額×12+年間賞与その他特別給与額で割り出した金額)、手取りにすると平均850万~1,000万円のため、開業医は倒産しにくい上に高収入が期待できます。このことから、クリニック経営は成功しやすい事業と考えられます。

※1出典:厚生労働省「医療施設動態調査(令和5年1月末概数)」
※2出典:帝国データバンク「『医療機関』倒産動向 倒産集計一覧 2024年 1月報」
※3出典:厚生労働省 中央社会保険医療協議会「第23回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告 -令和3年実施-」
※4出典:厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査」

(2)開業医の平均年収

開業してクリニック経営をする医師は増加しています。その理由の一つが収入の高さです。前述したとおり、勤務医の平均年収は約1,428万円であり、手取り額は850万円~1,000万円です。

一方でクリニックを経営する開業医の平均年収は、約2,491万円です。必要経費を差し引いた手取り額で見ても約1,600万円と高額であり、クリニック経営を行うことで収入がアップする可能性があります。

クリニック経営の成功率が高い理由

倒産発生率の低さは、クリニック経営が成功しやすいといわれる理由の一つです。ここでは、なぜクリニック経営の成功率が高いのか、具体的な理由を解説します。

(1)患者を獲得しやすい

クリニック経営の成功には集患が重要であり、多くの個人クリニックは開業前に診療圏調査を実施しています。

診療圏調査とは、開業予定地の人口、年齢、性別、世帯特性、そして周辺の競合クリニック数などを調査し、獲得が見込める患者数を把握するための取り組みです。

開業前に診療圏調査を実施することにより、地域の医療ニーズを予測できるため、それを踏まえた診療を適切に行うことで、患者を獲得しやすくなります。

また、診療圏調査の方法はいくつかありますが、開業予定地を実際に訪れて自分で確認するのが最も効果的です。その他にも、専門業者に依頼したり、簡易的な調査が可能な「Web診療圏調査」や「診療圏調査アプリ」などを活用したりする方法があります。

(2)融資を受けやすい

クリニックの開業・運営には多額の資金が必要ですが、一般的な企業に比べて融資を受けやすいのが特徴です。通常の金融機関の融資に加えて、①日本政策金融金庫の新規開業資金、②医師会および地方自治体の開業支援ローン、③独立行政法人福祉医療機構の融資など、複数の支援策があります。

さらに、各都道府県や市町村は制度融資を設けており、資金調達で低利・固定金利など金利の優遇措置を受けることも可能です。

クリニックを開業する際には、地域ニーズに合わせた事業計画書を作成することで、融資審査が通りやすくなります。

このように、クリニック経営は多額の融資を受けやすいため、資金面において余裕をもって開業することが可能です。

クリニック経営のメリット

クリニック経営を成功させるためには、開業するメリットとデメリットを理解することが重要です。ここでは、クリニックを経営する上での3つのメリットを解説します。

(1)自分の裁量で仕事ができる

クリニック経営は、自分の裁量で仕事ができます。診療科目をはじめ、勤務時間や休診日、働き方などを自身の判断で決定することが可能です。これは、開業医がクリニックの経営者であり、経営方針を策定できることが理由の一つに挙げられます。

また、それゆえに病院勤務と比べて、経営者をはじめ、従業員がライフワークバランスを取りやすい点も大きなメリットです。勤務時間や休診日をバランス良く取ることは、プライベートの確保と心身の負担軽減につながります。

これにより、働きやすい環境が整い、従業員のモチベーションとパフォーマンスの向上が期待できます。

(2)高収入/収益拡大が期待できる

収入面においてもメリットがあります。診療科目や開業場所によって異なりますが、前述したとおり、開業医の平均年収は勤務医の約2倍です。また、綿密な経営戦略を立て、集患対策に取り組むことによってクリニック全体の収益を増やすこともできます。

そのためには、患者との信頼関係を重視し、リピート率を高めることが必要です。

(3)地域医療に貢献できる

医師や医療機関の不足している地域で開業する場合、地域医療において中心的な役割を担うかかりつけ医として活躍できる可能性が高まります。その結果、住民一人ひとりをサポートしやすく、信頼関係を築くことができます。

また、患者からかかりつけ医として選ばれれば、既存患者のリピート率向上や新たな患者の獲得といった集患、安定した収入の確保にもつながります。そのほか、かかりつけ医は病院や介護施設など関連機関と連携を取ることから、医師としての視野を広げることも可能です。

クリニック経営のデメリット

クリニックを経営する際は、以下の3つのデメリットに注意することが重要です。

(1)赤字経営になるリスクがある

クリニック経営の成功率は高いといわれますが、絶対に成功できるという保証はありません。集患がうまくいかず、患者との信頼関係を築くことができなければ赤字に陥るリスクがあります。

クリニックが赤字の場合、自身の収入を確保するどころか、開業時に借り入れた借金の返済も難しくなる恐れがあります。クリニック経営は、医師であると同時に経営者でもあることを自覚して、徹底した事前準備のもとでスタートすることが重要です。

(2)業務の負担が大きくなる

クリニックを経営する開業医は、診療・治療に専念できる勤務医と異なり、経営者としての業務および責任が伴います。

たとえば、経営戦略の立案、施設の運営管理、財務管理はもちろん、スタッフの雇用や教育、シフト管理など業務量は膨大です。

これらの業務は時間と労力が大きく、日々の診療・治療と並行して取り組む必要があるため、開業医の業務負担は非常に大きいといえます。

さらに、経営や運営上でトラブルが発生した場合は対処しなければなりません。これにより、ストレスや疲労などの心身の負担が増大する可能性も考えられます。

(3)開業および運転資金が必要になる

クリニックを経営するためには、多額の資金が必要です。

まず、開業にあたって設備投資が必要です。クリニックの規模や診療科目によって異なりますが、開業資金は平均1,500~8,000万円程度の準備が必要といわれています。

また、診療報酬は、入金されるまでに約2~3ヵ月程度かかるのが一般的です。そのため、開業後の運転資金として、平均3,000~3,500万円を目安に準備しておくことが必要です。

したがって、クリニックの経営には多額の資金が必要であり、大半を融資に頼る場合は返済についても考えておかなければなりません。いかにうまく集患し、赤字経営を避けるかがクリニック経営を成功させる鍵です。

まとめ

クリニック経営はポイントを押さえることで成功率が高まります。実際に多くのクリニックは成功しており、地域医療に貢献しながら高い収益を確保しています。

しかし、失敗しているクリニックがあるのも事実です。主な要因として、不明瞭な事業戦略、集患対策の失敗、不必要な経費の多さが挙げられます。

クリニック経営は非常に複雑なため、自身の経営スキルを磨くだけでなく、必要に応じて医療機関を専門とするプロのコンサルタントや税理士など外部と連携して進めていくことが重要です。これから開業をめざす方だけでなく、クリニック経営が軌道に乗っていないという方も参考にしてみてください。(クリニック未来ラボ編集部)