開業・承継

2025.3.28

精神科の開業医の平均年収は?勤務医との比較や精神科で開業する魅力を解説

精神科の開業医の平均年収

統合失調症やうつ病、アルコール・薬物の依存症などの精神疾患を有する患者数は、近年、増加の一途をたどっており、また超高齢社会である日本では、65歳以上の高齢者の約4人に1人が認知症とその予備軍(※)とされています。

精神医療へのニーズの高まりを背景に、より自分が理想とする医療の実現をめざし、精神科医として勤務医から開業医へのキャリアの転向を考えている方も少なくないのではないでしょうか。精神科のクリニックは他の診療科と比べて設備費用への投資が少ないことから開業のハードルが比較的低く、大都市部を中心に増えているため、開業後に安定した経営を続けるためには適切な収入の確保が欠かせません。

本記事では、精神科クリニックを開業した場合、病院での勤務医時代の給与と比べてどの程度変わるのかを中心に、精神科開業医の魅力や年収アップの具体的な方法などを解説します。

この記事が、精神科開業医としてのキャリアプランを考える上での参考になれば幸いです。

※出典:厚生労働省老健局「認知症施策の総合的な推進について(令和元年6月20日)」

精神科の開業医の平均年収はいくら?勤務医との差が生まれる理由

初めに、精神科で開業した場合にどの程度の年収が見込めるのか、勤務医の年収と比較しながらご紹介しましょう。

まず、厚生労働省の「第23回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告 -令和3年実施-」(※1)によれば、精神科の開業医の平均年収は「約5,421万円」と診療科の中で最も高い金額です。それに対し、2012年9月に独立行政法人労働政策研究所・研修機構が発表した「勤務医の就労実態と意識に関する調査」(※2)によると、勤務医の平均年収は「約1,230万円」でした。つまり、精神科の開業医は勤務医と比べて約4.4倍多い収入を得ている計算です。

詳しくは後述しますが、精神科は他科に比べて設備への初期投資が少ない上に、ワークライフバランスも確保しやすい傾向にあるため、開業のハードルが比較的低く、人気の診療科です。また、厚生労働省が3年に一度実施している「患者調査」(※3)によると、ストレス社会といわれる現代の日本では、精神疾患を有する総患者数は約614.8万人(2020年)と、前回(2017年)の調査結果の419.3万人から約200万人近くも急増しています。このように、メンタルヘルスケアの需要増加により、精神科の患者数が増加傾向にあることも精神科開業医の高収入につながっています。

一方、勤務医は固定給制が多いのが特徴です。安定して毎月の給料を得られる半面、収入に関する自由度が低く、大幅な年収アップを見込めない点は短所といえるかもしれません。そのため、本業以外に非常勤勤務やスポットアルバイトなどの副業に取り組む勤務医も少なくありません。

なお、「第24回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告 -令和5年実施-」(※4)では精神科の開業医の年収は「約2,185万円」(勤務医と比べて約1.78倍)と算出されており、ここで取り上げた令和3年の調査結果の「約5,421万円」はコロナ禍などが影響しているものと推察されます。開業医・勤務医の平均年収は調査年によって変動が見られる点にはご留意ください。

※1 出典:厚生労働省 中央社会保険医療協議会「第23回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告 -令和3年実施-」
※2 出典:独立行政法人労働政策研究・研修機構「勤務医の就労実態と意識に関する調査(2012年9月)」
※3 出典:公益社団法人日本精神科病院協会「第4回新たな地域医療構想等に関する検討会 資料7」
※4 出典:厚生労働省 中央社会保険医療協議会「第24回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告 -令和5年実施-」

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精神科で開業する魅力とやりがい

精神科医として開業することで、勤務医時代と比べて、大きな収入増加が期待できます。しかし、年収の増加という判断材料だけでは、開業するかどうかを決められない方もいるかもしれません。そこで、精神科医が開業する魅力ややりがいについてもご紹介します。

ワークライフバランスの取りやすさ

精神科に限りませんが、開業医は勤務医と比べて、ワークライフバランスが取りやすいという特徴があります。開業医は経営者でもあるため、開業すると、診療以外にも経営に関する広範囲な業務が増える一方で、当直・オンコールがなく、自身で診療時間を設定できるため、家庭生活や趣味と仕事の両立がしやすいといえます。

その上、入院設備のないクリニックは体力的な負担も少なく、自己研鑽や家族との時間、趣味の時間など、プライベートを大切にしながら診療に専念することができるでしょう。

また仕事においても、勤務先の診療方針に従うことの多い勤務医時代とは違い、自分が理想とする医療を追求しやすい上、クリニックの成長を直接肌で感じられることは、大きなモチベーションとなるはずです。

心理療法・薬物療法を中心とした診療

精神科クリニックでは、問診後に心理療法(カウンセリング)と薬物療法を中心とした診療を行うのが一般的です。時には治療方法が明確ではない精神疾患もあり、また患者によっても、一人ひとり治療法は異なります。そのため病気の症状だけでなく、患者の生活環境や家族関係などの情報から心理療法と薬物療法を適切に組み合わせ、患者との信頼関係を築きながら診療を行うことが、精神科クリニックの医師の魅力の一つとなっています。

また、精神疾患は長期化するケースもあるため、心の病を抱える患者の回復過程に長期的に関わることで、医師としてのやりがいも強く感じられるはずです。例えば、うつ病の治療は長くかかるものですが、患者の人生に長期的に寄り添い、社会復帰をサポートできます。

設備投資の少なさと開業のしやすさ

精神科クリニックの開業は、他の診療科と比較して初期の設備投資にかかる資金が少ない傾向にあるため、開業のハードルが低い点が魅力です。一般的に、精神科クリニックの検査ではX線(レントゲン)装置など大型の医療機器が必須ではなく、処置室や検査室も最低限の広さがあれば対応可能なことが多いため、初期投資を少なく抑えられます。

精神科の開業医がさらに年収を増やす方法

開業後、クリニックが地域医療に貢献し続けるためには、安定した経営基盤の構築が欠かせません。そこで続いては、精神科の開業医が年収をさらに増やすポイントを5つ解説します。それぞれ詳しく見ていきましょう。

競合クリニックとの差別化

精神科クリニックの開業数は増加傾向にあり、特に大都市部を中心に競争が激化しています(※)。うつ病や依存症、認知症など医師が強みとする専門外来を設けたり、精神保健福祉士や臨床心理士などの専門職を在籍させたり、休日や夜遅くまで診療したりするなど、他院との違いを明確にして来院患者数の増加につなげましょう。

差別化の一つに、オンライン診療があります。オンライン診療はコロナ禍をきっかけに注目されましたが、問診が診察の中心となる精神科は他科と比べて比較的導入しやすい診療科目といわれているため、診療方針や患者層に合わせて、導入を検討してみてもいいかもしれません。

また、患者ニーズへの適応も欠かせません。精神科にかかる患者は不安や恐怖心を抱えていることがあるため、詳しくは後述しますが、落ち着いた内装やプライバシーに配慮した待合室の設計、人に会わないよう人通りの少ない立地での開業など、患者の心理的負担を軽減する工夫もポイントです。

※出典:公益社団法人日本精神科病院協会「第4回新たな地域医療構想等に関する検討会 資料7」

専門分野の強化

精神科の開業医として年収を増やすには、例えばうつ病や認知症、大人の発達障害、依存症など、医師自身が得意とする特定の精神疾患に特化し、専門性の高い治療を提供することで、特定の患者に継続して通ってもらいやすくなります

また、そうした専門分野に関する講演会や患者向けセミナーを開催することで、他院との差別化、クリニックの知名度と信頼性の向上も期待できるでしょう。

コスト削減

精神科クリニックの経営効率を高めるには、適切なコスト削減が不可欠です。まず、医療機器を導入する際は、高額な機器の購入は慎重に検討し、状況に応じてリースやレンタルの活用も考慮しましょう。次に、受付や看護師などスタッフ配置の最適化も効果的です。医療業界は人材不足が深刻ですが、診療内容や業務量に応じて適切な人員を配置し、必要に応じてパートタイムのスタッフを採用することで、人件費を抑えられます。

そのほかに、電子カルテやWeb予約システムなどITツールの活用が挙げられます。近年、医療DXが注目されていますが、全国の開業医を調査した「開業医白書2024」によると、開業医の55.4%が電子カルテを、24.4%がWeb予約システムを導入しています。ITの活用により、事務作業の効率化が実現しやすくなるはずです。

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マーケティング戦略

精神科クリニックの診療は問診が中心であり、基本的に診療単価が一定のため収益を伸ばしにくい傾向にあります。患者の数が収益に直結しやすいことから、収入を増やすためには患者数の増加に注力することが効率的です。そこで、クリニックを宣伝する効果的なマーケティング戦略が欠かせません。

最近では幅広い世代がインターネットを使って医療機関を探すため、まずはオンラインでの情報発信に力を入れましょう。ホームページやSNSを活用し、クリニックの特徴や診療方針、精神疾患に関する有益な情報を定期的に発信します。一般的に精神科への通院は心理的なハードルが高めだといわれますが、これにより、潜在的な患者へのアプローチが可能になり、病気の早期発見だけでなく、クリニックの認知度向上と患者数の増加が期待できるでしょう。

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診療環境の整備

精神科の開業医として年収を増やすためには、快適な診療環境の整備が重要です。精神科ではセンシティブな病気だからこそ、院内でほかの患者とは極力顔を合わせたくないという患者は少なくありません。しかも、精神科では時間をかけて丁寧に患者の話を聞くことから、診察の時間が長くなりがちです。そこで昨今では予約制を取っている精神科クリニックがほとんどですが、Web予約システムを導入することで、待ち時間の短縮だけでなく予約時の利便性の向上が期待できます

ほかにも、待合室を患者同士の視線が合わないようレイアウトしたり、プライバシー保護のために診察室やカウンセリングルームに防音壁・防音扉を採用したり、内装を明るくて落ち着いた雰囲気にしたりするなど、患者の立場になって、リラックスして受診できる方法を取り入れてみてください。そうした配慮によって患者の満足度が高まれば、結果的に口コミを通じて新たな患者を呼び込む可能性が高まるでしょう。

精神科で開業するために必要な準備

精神科で開業するために事前に必要なことは、多岐にわたります。ここでは、その中でも押さえておきたい3つのポイントについて詳しく解説します。

経営理念の明確化

開業を決意した医師がまず行いたいのが、クリニックの経営理念を明確にすることです。理念は、どのような理想を持って診療に臨むのかを明文化したものです。診療方針の基盤となり、患者に向けてクリニックが何を大事にしているのか、めざすべき方向性を示すことができます。

また、経営理念はスタッフの行動指針にもなるため、自分の役割やどう行動すべきか、どんな働きが評価されるかが明確になり、仕事のモチベーションの向上につながります。医師自身も、経営や診療で悩んだり、つまずいたりした際に、経営理念があれば、そこに立ち返ることで適切な行動がしやすくなります。経営理念はホームページや院内の掲示などで周知するだけでなく、日々、院長の言葉で周囲に伝えるようにし、理念に基づいて実行することで、信頼の獲得につながるはずです。

開業場所の選定

近年、精神科や心療内科のメンタルクリニックは増加傾向にあり、精神科の開業成功には、地域のニーズを正確に把握することが不可欠です。特に立地は集患に大きく影響します。

そこで、多くの新規クリニックがまず開業前に「診療圏調査」を実施しています。診療圏調査とは、候補地で実際に開院した場合に、1日あたりにどの程度の外来患者数(推定患者数)が見込めるかを推計できる調査のことです。人口・世帯特性や競合クリニックの状況などの把握もでき、推定患者数はあくまでも予測値ですが、開業する場所を選定する際の一つの指標となるでしょう。

また、精神科の通院は長期間に及ぶことも珍しくありません。駅近や駐車場が広い場所のような通いやすさ、大通りから一本裏道に入った場所のような人目の少なさなど、患者の視点に立って選ぶこともポイントです。地域のニーズや将来性も踏まえながら、最適な開業場所を選んでみてください。

専門的な資格の取得

精神科の開業医が年収を増やす方法として、専門的な資格の取得も役立ちます。精神科医の資格は、主に以下の2つです。どちらの資格がなくてもクリニックの開業は可能ですが、スキルアップによって専門性が高まるだけでなく、資格保有者が在籍しているクリニックは患者からの信頼を深めやすく、集患力を高める上でのアピールポイントになります。

  • 精神科専門医
  • 精神保健指定医

「精神科専門医」(※1・2)は、日本専門医機構または日本精神神経学会が認定する資格で、例えば前者の場合は、医師免許を取得した後、5年以上の臨床経験(そのうち3年間は精神科専門医制度研修施設及び指導医のもとで研修を受ける)などが必要です。

一方で「精神保健指定医」(※3)は、厚生労働大臣が指定する特別な国家資格です。法律に基づき、精神疾患を抱える患者の強制入院や隔離、身体拘束などを医師の判断で行う権限を持ちます。入院施設のある有床クリニックの場合、診療報酬にも影響し、取得しておくと役に立つでしょう。取得には医師免許取得後、5年以上の臨床経験のうち3年以上の精神障害の診断・治療経験などが必要です。

※1 出典:日本精神神経学会「専門医を目指す方(学会専門医制度)」
※2 出典:日本専門医機構
※3 出典:厚生労働省「精神保健指定医とは」

まとめ

国は、精神障害者が地域の一員として、安心して自分らしい暮らしをすることができるよう「精神障害にも対応した地域包括ケアのシステム(にも包括)」の構築を推進しており、今後一層、精神医療が担う役割は重要となってくるでしょう。

精神科で開業する魅力には、開業資金の低さをはじめ、ワークライフバランスの取りやすさ、心理療法・薬物療法を中心とした診療などがあります。そして、精神科医として年収をアップさせるためには、競合クリニックとの差別化や、効果的なマーケティング戦略などの実施がポイントです。

精神科の開業は、勤務医時代よりも高い収入を得れる可能性がある一方で、経営にかかる責任や負担などリスクも伴います。十分な準備と戦略を立てることで、地域住民のメンタルヘルスの向上に寄与しながら、自分が理想とする医療の提供と安定した収入を両立させられるはずです。(クリニック未来ラボ編集部)

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