開業・承継

2024.8.21

開業医(医者)の平均年収はどれくらい?1億円いく?現実は儲からないのかも含めリサーチ

開業医の平均年収

「開業医はどれくらい儲かるのか?」

「開業医で年収1億円は可能?」

「儲かる開業医、儲からない開業医、それぞれの特徴が知りたい」

開業医をめざしている方の中には、こんなふうに興味を抱いている方も少なくないのではないでしょうか。一方で開業医になったものの、思いもよらぬ多額の借金を背負って悩んでいるケースもあると聞きます。

確かに、開業医は勤務医に比べて収入は高くなる傾向にありますが、必ずしもすべての開業医が儲かるわけではありません。開業医には経営スキルが必要であり、高度な医療技術だけでは経営は成り立たないのが現実です。

地域医療の発展や自分が理想とする医療で患者を幸せにしたいと考えている開業医にとって、経営を長く続けていくことは大事なポイントです。そのためには、安定した収入を得る必要があり、開業医の平均収入やクリニックの収益を出す方法を理解することが重要となります。

本記事では開業医の平均年収を中心に、年収1億円の実現に向けたポイントを解説します。さらに開業医に向いている人、向いていない人の特徴についても触れています。開業医をめざしている方は参考にしてみてください。

開業医は儲かる?儲からない?

開業医とは、自身でクリニックなどの医療機関を経営して診療を行う医師のことです。大学病院や総合病院で働く勤務医と異なり、経営手腕によって患者数の増加や人件費の削減など、収入を上げやすい状況にあります

そのため、開業医は勤務医に比べて収入が多いのが一般的であり、勤務医として経験を積んだ後に開業医の道を選ぶ医師は多いです。しかし、すべての開業医が儲かるわけではありません。

開業医は医師である一方、クリニックの経営者という一面があります。医療技術だけではなく、収益を上げるための経営スキルが必要であり、開業場所の選定や集患対策などさまざまな戦略を練ることが重要です。

そして、地域医療への貢献や医療を通じて患者を幸せにしたいと考えている開業医にとって、開業したクリニックを長く経営していくためには安定した収入の確保が求められます。

したがって、開業医は単に医療のスキルだけでなく、経営やマーケティングなど幅広いスキルを持つことが大切といえるでしょう 。

医者の平均年収3パターン

開業医の具体的な平均年収を解説します。金額の目安として、厚生労働省が発表している「医療経済実態調査」などをもとに、勤務医や診療科目別の平均年収も一緒にお伝えします。

(1)開業医の平均年収と手取り額

厚生労働省の「第23回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告 -令和3年実施-」(※)によると、開業医の平均年収は約2,491万円と報告されています。非常に高額な年収であるため、開業医に憧れを抱く勤務医は多いかもしれません。

しかし、開業には必要な経費が多く、税金面も勤務医と異なります。それにより、実際の手取りは1,600万円前後になる見込みです。

※出典:厚生労働省 中央社会保険医療協議会「第23回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告 -令和3年実施-」

(2)勤務医の平均年収との違い

厚生労働省の「令和4年賃金構造基本統計調査」(※)における勤務医の平均年収は、約1,428万円という結果でした。差し引かれる税金等が約6~7割あるため、実際の手取りは850万円~1,000万円前後です。

この調査報告が示す通り、手取りで平均1,600万円前後の開業医の年収は勤務医と比べると約2倍近くであり、高額な収入を得やすいことがわかります。

※出典:厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査」

(3)診療科別の平均年収

医師の報酬は、診療科目によって異なります。

以下は、厚生労働省が実施している「第23回医療経済実態調査 (医療機関等調査) 報告 -令和3年実施-」(※1)と、2012年9月に独立行政法人労働政策研究所・研修機構が報告している「勤務医の就労実態と意識に関する調査」(※2)をもとにした、開業医と勤務医の診療科目別の平均年収です。

診療科目開業医 ※1勤務医 ※2
内科2,051万円1,247万円
外科1,656万円1,374万円
産婦人科2,299万円1,466万円
眼科3,053万円1,078万円
皮膚科3,307万円1,078万円
整形外科2,487万円1,289万円
耳鼻咽喉科2,882万円1,078万円
小児科2,192万円1,220万円
精神科5,421万円1,230万円

※1 出典:厚生労働省 中央社会保険医療協議会「第23回医療経済実態調査(医療機関等調査) -令和3年実施-」
※2 出典:独立行政法人・労働政策研究研修機構「勤務医の就労実態と意識に関する調査(2012年9月)」

すべての診療科目において、開業医は勤務医の平均年収を超えています。小児科や整形外科のように、2倍以上の年収を得ている診療科も多いです。また、このデータをもとにすると、整形外科医の約2,487万円が開業医の年収中央値にあたります。なお、精神科の開業医の年収が突出して高いのはコロナ禍などが影響しているものと推測され、令和5年(2023年)実施の同調査では約2,185万円となっています。

開業医で年収1億円は現実的か

開業医になるうえで、年収1億円を目標に掲げる方がいるのではないでしょうか。前述の通り、開業医の平均年収は約2,491万円であることを踏まえると、年収1億円を達成するには約4倍の収入増が必要です。そのため、「開業医で年収1億円は現実的ではない?」と思われるかもしれませんが、実際は開業医で年収1億円を稼ぐことは不可能ではありません。

たとえば、美容医療や健康診断などの自由診療を導入することで高額な診療報酬を得ることができます。保険診療と比べると患者負担が高額となるため、自由診療に対しては抵抗感を持たれる方も多いかもしれませんが、保険診療ではできない治療が自由に選択できるようになることは、患者の満足度を高めるというメリットにもつながります。また、SNSやインターネット広告を活用した宣伝活動で集患増を狙うことも有用です。

そのほか、不動産投資や資産運用、医療系セミナーの講師などの副業で収入源を多様化すると安定した収入を確保しやすくなり、これらの方法を取り入れることで年収1億円をめざすことは可能といえるでしょう。

とはいえ、儲かる開業医の基本は良質な医療の提供です。患者を第一に考え、信頼関係を築くことで、医療の質の向上とともに収益の向上も期待できます。

開業医で年収1億円以上をめざす7つの戦略ポイント

開業医に向いている人や儲からない開業医の特徴をもとに、開業医で年収1億円以上をめざす具体的な戦略ポイントを解説します。

(1)開業場所は好立地を選ぶ

開業する場所・立地は、売り上げに直結する非常に重要なポイントです。きれいな内装のクリニックであろうと、最新の医療機器を備えていようと、集患できなければ利益が上がらず経営を続けることが難しくなります。

そのため、開業前に地域の特性や交通の利便性などを把握し、集患につながる好立地な場所での開業が大切です。

(2)優秀な人材の獲得と育成に取り組む

年収1億円以上を稼ぐためには、より多くの患者に対応することが必要です。そのためには、優秀な医師や看護師の獲得と、クリニック全体の能力を高める人材育成が鍵を握ります

求人募集では、給与や労働時間など働きたいと思われる条件を提示してみてください。さらに、採用後のOJTなど研修制度の導入も重要です。その結果、提供する医療サービスの品質は向上し、患者の信頼を得て収益を増加させることが可能となります。

(3)業務効率化を追求する

業務効率化は、開業医の利益につながる戦略ポイントの一つです。たとえば、スタッフと患者それぞれの動線が重ならないよう考慮した院内レイアウトにすると、互いの動きを妨げずにスムーズな診療がしやすくなり、より多くの患者を診療できます。

また、電子カルテや予約システムといった最新のシステムの導入は、業務の簡略化や作業時間の短縮に有用です。

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(4)売り上げを積み上げる工夫や経営拡大をめざす

開業後は、常に売り上げを積み上げる工夫を行い、時期を見て経営拡大に向けた取り組みが重要です。

たとえば、最新の医療サービスの導入、提携先の拡大、SNSを活用した宣伝活動やマーケティングの強化が挙げられます。これにより、集患の増加と年収アップに期待ができます。

(5)必要に応じて自由診療を取り入れる

自由診療を取り入れることは、開業医で年収1億円以上をめざす方法の一つに挙げられます。言うまでもなく、 自由診療は保険外診療にあたり、クリニック側が診療費を自由に設定することが可能です。報酬点数は高く、集患がうまくいけば収益の向上につながります。

しかし、専門的な治療を提供できる一方で、患者の診療費負担額は大きくなります。そのため、自由診療に対しては消極的な方もいるかもしれませんが、保険診療ではカバーできない、より患者の要望に沿った診療の提供は、患者の満足度を高めることにもつながります。診療前に「自由診療は高額である」ことを患者へ丁寧に説明し、必要に応じて自由診療を行うことが重要です。

代表的な自由診療を以下にピックアップしました。開業を検討している方は参考にしてみてください。

 ●美容外科/アンチエイジング
 ●レーシック
 ●不妊治療
 ●歯科矯正/インプラント
 ●AGA治療(男性型脱毛症)
 ●人間ドック

(6)診療科目の増設/分院展開をする

クリニックの収益向上には、診療科目の増設や分院展開があります。複数の診療科目を設置することにより、幅広いニーズに対応できるため効果的に集患できます。

また、分院の運営を軌道に乗せることで、クリニックの収益はもちろん、医者の収入も増やすことが可能です。さらに、異なる地域で分院を開業すると、クリニックの知名度を高めることができます。

ただし、分院展開は必ずしも収益化できるとは限りません。診療科目の増設や分院展開は、初期投資に多額の費用と管理能力が求められます。慎重な計画と、患者との信頼関係を築いて実施することが重要です。

(7)不動産投資や資産運用など副業で別収入を得る

不動産投資や資産運用など、副業への取り組みも年収1億円を実現する戦略の一つに挙げられます。以下は、開業医にできる代表的な副業例と、副業するメリットをまとめた一覧です。

代表的な副業例 開業医が副業するメリット
● 不動産投資/資産運用
● 医療系セミナー講師
● 医療系コラムの監修/執筆
● クリニックの安定経営
● 節税効果
● 今後の事業拡大
● クリニックの宣伝

これらの副業に取り組むことは、本業と異なる収入の確保につながります。また、副業は単に年収の増加だけが目的ではありません。安定したクリニック経営を可能とし、雇用するスタッフを守ることにつながります。

さらに不動産投資などの副業においては、マンションの購入費用やメンテナンス費用を経費に計上できるため、節税に効果的です。ただし、年収1億円を達成するためには、本業であるクリニックの運営にしっかりと取り組む必要があります。副業に力を入れるあまり、本業がおろそかにならないよう注意することが大切です。

開業医に向いている人の4つの特徴

開業医で成功するためには、適性を知ることが必要です。ここでは、開業医に向いている人の特徴を解説します。

(1)経営スキルが高い

開業医は、医者であり経営者でもあります。診察や治療のみならず、集患や利益を追求し、経営を成功させなければなりません。そのため、開業医には高い経営スキルが求められます。

マーケティング、先見性、決断力など、経営者に必要な最低限のスキルがあることは、開業医に向いている人の重要な特徴です。同様に、経営に興味がある人は積極的に経営について学ぶ姿勢があるため、開業医に向いている人といえます。

(2)自己管理能力が高い

開業医に向いている人は、高い自己管理能力を持っています。クリニックや医療機関を経営するためには、スケジュールや業務だけでなく、自身の体調や運営資金なども効率的に管理する必要があります

これは、開業したクリニックの利益に直結します。たとえば、適切なスケジュール管理は患者の予約や診療時間の最適化に効果的です。また、経営資金の適切な管理は、クリニックの長期経営や年収の増加につながります。

このように、自己管理能力は開業医に必要であるため、他人任せでなく自身でしっかり管理できる人は開業医に向いています。

(3)コミュニケーション能力が高い

コミュニケーション能力が高い人は開業医に向いています。患者への丁寧な対応とわかりやすい説明は、クリニックの評判と集患に効果的です。

また、クリニック経営はスタッフや関係各所との連携で成り立っています。開業医がスタッフとのコミュニケーションを深めることは連帯感を高め、円滑な業務の遂行、ひいては安定した経営につながります。したがって、開業医のコミュニケーション能力は年収の増加に重要な能力です。

(4)地域医療への貢献など明確な目的を持っている

開業医になるにあたり、地域医療への貢献など明確な目的を持っていることは重要な要素です。明確な開業目的は、運営方針やクリニックとしての方向性を決定づけます。

また、地域性や診療科目によりますが、開業医は地域住民のかかりつけ医になる存在です。地域ごとの特性を受け入れ、さらに住民に寄り添った医療を施すことで地域に根づき、開業医としての成功を引き寄せます

儲からない開業医の5つの特徴

高額な年収を得やすい開業医ですが、すべての医師が儲かるわけではありません。開業医の中には利益を出せず、開業する際に作った多額の借金を背負うケースも見られます。以下は、儲からない開業医に共通する5つの特徴です。

(1)経営方針やビジョンが明確でない

儲からない開業医は、開業後の経営方針やビジョンが明確でないケースが見られます。不明確な方針は、スタッフによって対応に違いが生じやすく、患者に不信感を抱かせてしまいかねません。

クリニックの評判を落とすことは、集患数と売り上げの減少につながります。したがって、開業する際は「何を目標に開業するのか」「どのようなクリニックをめざしているのか」を明確にすることが大切です。

(2)経営スキルが身についていない

開業医には経営スキルが必要です。経営スキルがない人は、利益を出すための具体的な知識や方法を理解しておらず、行き当たりばったりの経営を続ける恐れがあります

たとえば、資金調達ができない場合や、必要ない医療機器を高額でリースすることなどが考えられます。したがって開業する際は、医師としてだけでなく経営者としての能力も必要です。

(3)スタッフとの連携が取れていない

開業医としての成功には、スタッフとの連携が非常に重要です。スタッフと連携が取れていない場合、患者への対応にバラつきが生じやすく、クリニック全体の評判を落とす可能性があります

業務効率が悪くなる理由の一つでもあり、1日当たりの診療件数が減るなど売り上げにも支障をもたらす要因となります。

(4)利益重視になっている

開業した以上は継続的に利益を上げることが重要です。しかし、目先の利益を重視して患者をないがしろにしては儲けることはできません。患者なしでクリニックの経営は実現できないため、患者を第一に考えたうえで利益を追求した経営が大事です。

(5)地域の医療ニーズを把握できていない

儲からない開業医は、地域の医療ニーズを把握できていません。たとえば、過疎化が進む地域に産婦人科や小児科のクリニックを開業しても、患者を集めることは難しいです。

開業医は、患者の人数が利益に直結するため、人口構成や住民の健康課題などを事前に調査し、その情報をもとに地域のニーズに適した医療サービスを提供することが重要です。

まとめ

開業医は勤務医に比べて平均年収が高く、年間1億円以上の収入をめざすことも可能です。しかし、開業医で成功するためには、医者としての能力だけでなく、経営スキルや優れたコミュニケーション能力など、勤務医とは異なる能力が求められます。

また、開業医となることはお金を稼ぐことだけがメリットではありません。地域医療への貢献や、子どもから高齢者まですべての患者を治したいという医者としての理想を叶える手段の一つでもあります。

理想の医師像に近づくほど患者からの信頼を得られて、自然と儲かる開業医になれるでしょう。

目先の利益だけを追求せず、地域の医療ニーズを考慮し、患者を第一に考えて儲かる開業医をめざすことが大切です。(クリニック未来ラボ編集部)