クリニックの集患において看板は効果的か?
クリニックが地域医療に貢献し続けるためには、安定的な収益の確保が欠かせません。そこで重要なのが集患戦略であり、患者にクリニックの存在を知ってもらい、継続して足を運んでもらう取り組みが必要です。
看板は、建物敷地内や道路沿いに設置される広告媒体であり、通行人や近隣住民に対して自院の存在を直接アピールするのに効果的です。多くの企業や団体が認知度向上や集客、ブランディングのために利用する広告手段で、クリニックにおいても集患効果を発揮する重要なツールといえます。一度設置すると長期間掲示されるため、繰り返し目にすることで記憶に残りやすいという特徴もあります。
近年、患者のクリニック探しの情報源はインターネットが主流ですが、その手段は年々、多様化しているため、「オンライン施策」と「オフライン施策」の両方を適切に組み合わせて集患することがポイントです。
次で、看板が持つ集患効果について、WEB広告やホームページ、SNSなどの「オンライン施策」と、看板やチラシ、ポスター、イベント・講演などの「オフライン施策」の2つを比較しながら、詳しく解説します。
オンライン施策(WEB広告など)との違い
まずは、オフライン施策の一つである看板とWEB広告などを含むオンライン施策の違いについて、以下の表にまとめました。
看板 | オンライン施策 | |
---|---|---|
掲載場所 | 壁面などに物理的に設置(敷地内、道路沿いなど) | インターネット上で配信(WEB広告、WEBサイト、SNSなど) |
ターゲット | 地域住民や通行人 | インターネット利用者 |
対象地域 | 地理的に限定された、看板を設置した地域 | 地域を問わず広範囲 |
効果測定 | 正確な判定が困難 | 詳細なデータ分析が可能 |
ブランディング 効果 | 企業名やロゴなどを継続して視覚的にアピールでき、日常的に何度も目にする住民や通行人、乗客の記憶に残りやすい | ユーザーの属性や興味関心に基づき、WEB広告やSNSなどのオンラインチャネルを通じて認知度を向上できる |
費用面 | 基本的には初期費用(デザイン費・製作費・取付け施工費)のみ。ただし、野立て看板などの場合は月額の広告費が発生 | 継続的な運用費用が発生 |
看板は物理的な広告媒体として、地域住民や通行人に直接アプローチできる点が特徴です。一度設置すれば、撤去しない限りは長期間使用できるため、費用対効果が高くなる傾向があります。しかし、実際に看板を見て来院したのかは把握しづらく、集患効果を正確に数値化することは難しいという欠点もあります。
一方、オンライン施策はインターネット利用者を対象とし、詳細なデータ分析を通じてターゲット層を絞り込むことが可能です。興味関心のあるユーザーに効率的に広告を表示させ、特にWEB広告の場合は短期的に集患効果を期待できます。ただし、効果最大化のためにはデータ分析と改善が重要であり、継続的に運用費用がかかる点には注意が必要です。
看板とオンライン施策は、それぞれ異なる特性を持つため、クリニックの状況や目的に応じて使い分けたり、併用したりすることが重要です。
他のオフライン施策との違い
看板以外にも、クリニックの集患に役立つさまざまなオフライン施策があります。それぞれの特徴や、看板との違いについて以下で詳しく解説します。
チラシ
チラシは、伝えたい情報を掲載した紙媒体を特定の地域に配布する広告手段で、新規開業や内覧会の告知など、短期的な集患に効果的です。また、配布エリアを選定できるため、ターゲット層に直接アプローチすることが可能です。
チラシは捨てない限り手元に残るため、長期的な効果が期待でき、保存性が高い傾向にあるというメリットがある半面、一度目を通したら捨てられてしまうことも少なくありません。一方で、同じ場所に長期間設置される看板は、通行人がその場所を通る度に目にするため、不特定多数の人の記憶に残りやすいといえます。
ポスター
ポスターは、クリニックの基本情報や医療サービス内容を伝えるための広告媒体として、主に院内や待合室など患者が目にする場所に掲示されます。必要に応じて簡単に更新できる点が特徴であり、患者が待ち時間中に詳細な情報を確認できる媒体です。診療内容や施設の設備など、患者にとって有益な情報を効率的に提供する手段として活用されます。
それに対して看板は屋外設置が基本であり、一度設置すると大きな変更がない限り内容が更新されることはほとんどありません。
イベント・講演
イベントや講演は、参加者に直接情報を提供する広告手法であり、質疑応答や対話を通じたコミュニケーションが可能です。この形式では、参加者が能動的に情報を探しに来るという特性があります。
新規開院前の内覧会をはじめ、自院が強みとする診療科に関連する健康セミナーや医療機器の紹介など、専門性の高い内容を提供することで、地域住民との信頼関係の構築や潜在患者の獲得、クリニックの知名度向上につながるでしょう。
一方で看板は、受動的な広告媒体として、受け手が意識的に情報を探さなくても目に入る特徴を持っています。イベント・講演は双方向の交流が可能である点において看板とは異なり、特定のテーマに関心を持つターゲット層へのアプローチに適しています。
交通広告
交通広告は、鉄道やバス、空港、タクシーなどの公共交通機関の車内のほか、駅構内やバス停などに設置される広告媒体です。
ポスターや駅看板、ステッカー、デジタルサイネージ、車体ラッピング広告などがあり、乗客や歩行中の人々の目に自然と留まりやすいため、視認性が高い点が特徴です。看板と交通広告はいずれも設置場所が固定されており、何度も繰り返し目にすることで認知度向上が期待できます。
ターゲット層に違いがあり、近隣住民や通行人を対象とする看板に対し、交通広告は通勤・通学者などを含む公共交通機関利用者という、より幅広い層へのアプローチが可能です。また自院の最寄りの駅や路線など、出稿エリアを絞ることもできます。加えて、交通広告は公共交通機関に掲示することから公共性が高く、信頼性が高いのが魅力です。
しかし看板と同様に、どれくらいの人が交通広告を見て足を運んでくれたのかの効果が測りにくいというデメリットもあります。
新聞広告/雑誌広告/フリーペーパー
新聞や雑誌、フリーペーパーへの広告掲載は、それぞれの読者層に直接アプローチできる方法です。中でも新聞は、公共性や社会的な信頼度も高いため、日常的に新聞を見る地域住民との間に信頼関係を構築することに寄与します。これらの媒体は掲載期間中に効果を発揮し、一定期間を過ぎると効果が薄れる傾向にあります。
また看板は、野立て看板のような月額・年額の掲載料が発生するものを除き、一度設置すれば初期費用のみで長期間使用でき、維持費もそれほどかからないためコストパフォーマンスが高い傾向にある広告媒体です。一方で新聞や雑誌広告は掲載期間が限定されており、認知度向上のためには複数回出稿する必要があるため、継続的な費用が発生します。
クリニックの看板の種類と費用
看板には種類が複数あり、費用もさまざまです。適切な看板を選択することで、地域住民や通行人に対して効果的に情報を伝えやすくなります。以下では、クリニックで採用されている看板の種類と費用について解説します。
なお、看板の費用はサイズや材質、設置場所、表示期間などによって異なります。本記事で紹介する費用相場はあくまでも参考値であり、実際の費用とは異なる場合があるため、実施する際は、正確な見積もりを専門業者に依頼することを推奨します。
また、屋外での看板(屋外広告物)の設置は、事前に申請して許可を得なければならない場合がありますので、事前に設置場所を管轄する自治体などへの確認を忘れないようにしてください。
自立看板
自立看板は外壁や建物に設置するのではなく、基礎を地中に直接埋め込む形で設置する看板を指します。
小型のものから大型のものまであり、クリニックの敷地内の入り口や駐車場付近などから比較的近距離に立てられることが多いです。その魅力は視認性がとても高い点で、特に人通りが多い場所や交通量の多い道路沿いのクリニックに適しています。
費用相場は、20万(本体・制作費10万円程度、設置費10万円程度)~200万円程度で、デザインや素材などによって価格に開きがあります。また費用は加算されるものの、LED内蔵の電飾タイプを採用したり、アーム式のライトを取り付けたりするなどして夜間に光らせて視認性を高めることも可能です。
ファサード看板
ファサードとはフランス語で「建築物の正面」を意味し、ファサード看板は、来院患者が最初に目にするクリニックの正面や入り口上部の外装に取り付けられる看板を指します。
クリニックの「顔」として、遠くからでも認知度を高める役割を果たすのに加え、医院のロゴやコーポレートカラーなどを使ってクリニックのイメージや雰囲気を伝えるのに有用な広告媒体です。
夜間の視認性を重視する場合はLED内蔵型が推奨されますが、点灯するタイプかそうでないのかで費用は変わります。費用相場について、本体・制作費は非電飾タイプが8万円~40万円程度、内部式電飾タイプが15万~200万円程度、外部式電飾タイプが12万~100万円程度です。これに別途、設置費用が必要になります。
プレート看板
プレート看板は、板状の素材に必要情報を印刷したシートを貼り付ける看板で、ファサード看板としても用いられることがあります。主にクリニックの入り口や壁面に設置されます。アクリル板などの軽量素材が用いられ、設置が容易なのが利点です。
費用相場は本体・制作費が1万~15万円程度+設置費と比較的安価に抑えられやすいことから、小規模クリニックや開業初期で予算が限られているクリニックなどにおすすめです。また、シートの貼り替えが比較的容易なため、診療時間や休診日などの情報を更新する際にも負担が少なくて済みます。
ウィンドウサイン
ウィンドウサインは、クリニックの窓ガラスや自動ドアを活用し、そこに貼り付けるタイプのシートの看板のことです。通行人や来院者に向けて、クリニック名や営業時間などを案内できると同時に目隠しや日除けの効果も兼ね備えている広告媒体です。
費用相場は、本体・制作費が1万円程度~+設置費用とリーズナブルなことに加え、看板のシートは比較的簡単に設置できることから、DIYで設置作業を自身で行えば初期費用を抑えることが可能です。手軽さからウィンドウサインはクリニックでも人気が高く、新規開業や小規模クリニックにも適しています。
また、クリニックのロゴなど既存のデザインを利用することで、デザイン費を削ることもできます。そのため、コスト削減を重視する場合にも適した選択肢となるでしょう。
切文字看板
切文字看板は、金属板や木材などの板材を切り出して制作される立体的な看板です。主にクリニック名を表示する看板において用いられることが多く、クリニックの外壁や入り口付近など、患者の視線を引きたいさまざまな場所に設置されます。
文字やロゴを立体的に表現することで視覚的なインパクトと高級感が増すのに加え、遠くからでもクリニックの存在をアピールしやすくなり、光(ライト)を組み合わせることで夜間の視認性もさらに向上します。また、デザインの自由度が高く、費用は加算されますがステンレスなど素材を用いて高級感を演出することも可能です。
素材やサイズ、仕様、厚みによって費用相場は異なりますが、1文字あたりの本体・制作費が5,000~数万円程度で、これに加えて別途、設置費用が発生します。
野立て看板
野立て看板は、クリニックの敷地内ではなく幹線道路沿いや交差点、空き地などに自立して設置する固定型の看板です。毎日同じ場所に掲示されるため、繰り返し目に触れることで人々の記憶に残りやすく、新規開業の宣伝やクリニックへの道案内、誘導などにも活用されています。
設置に際しては、初期費用(本体・制作費、設置費)に加え、自分の所有地以外に設置する場合は、契約期間中は広告費として月額料金が発生します。費用相場は、本体・制作費と設置費を合わせて10万~50万円程度で、月額の広告費が1.5万~4万円程度です。
人気の場所は広告費が高くなる傾向にありますが、高いアピール力を持つ媒体ですので、人通りや交通量が多い場所に設置することで、多くの人々に視認される効果が期待できます。
袖看板
袖看板とは、着物の袖のように建物の壁面や支柱から道路側に向かって突き出るような形で設置する看板のことです。比較的高い位置に設置され、小型のものを「突き出し看板」と呼ぶこともあります。裏表にクリニック名やロゴ、入り口の位置を表記することで、遠くからでも目印として通行人が見つけやすいため、クリニックの集患に役立ちます。
費用相場については、本体・制作費は3万~30万円程度、設置費用5万~10万円程度に加え、設置場所によっては月額・年額の広告費などが必要になります。
電柱広告
電柱広告とは、電力会社や通信会社が設置・管理する電柱を活用した地域密着型の電柱看板のことです。長期に渡って屋外広告として道路沿いに設置することが可能なため、通行人やドライバーの目に触れやすく、地域住民に向けてクリニックの存在をアピールするのに役立ちます。また誘導看板として、自院までの道のりを案内するのにも活用されます。
主に2種類、電柱から突き出すタイプの「掛広告」と、電柱に巻き付けるタイプの「巻広告」があります。
また費用相場については、設置場所や契約期間(通常1年単位)、契約個数などによって異なりますが、本体・制作費は1万~2万円程度、月々の広告料金が2,000〜8,000円程度で、別途、設置費用などがかかります。屋外看板の中でも、比較的手頃な価格で始められる点は魅力といえるでしょう。
クリニックの看板を作成するときのポイントと注意点
クリニックの看板を作成する際には、ポイントや注意点があります。どのような点について考慮するべきか、解説します。
医療広告ガイドラインを遵守
クリニックが広告活動を行う際の基準を定めているのが、厚生労働省の「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針」、通称「医療広告ガイドライン」(※)です。
このガイドラインは、医療広告による消費者トラブルの増加を背景に、不適切な広告による患者の誤解や被害を防ぐことを目的としており、看板を含むチラシやポスター、パンフレット、ホームページ、メールマガジン、SNSなどあらゆる媒体に適用されます。
広告規制の対象となる医療広告の定義は、以下のとおりです。これらの条件を満たす場合、医療広告とみなされます。知らず知らずのうちに違反してしまっていたということがないよう、チェックしておきましょう。
- 患者の受診等を誘引する意図がある(誘因性)
- 医療機関の名称や医師の氏名が特定できる(特定性)
そして、医療広告ガイドラインでは、主に以下のような広告表現が禁止されています。ただし、「限定解除」の要件を満たす場合は、広告規制の対象外となります。
- 虚偽広告:客観的事実に反する内容。例えば「治療成功率は100%」「痛くない治療」「10歳若返る」など。
- 比較優良広告:根拠なく、他院との比較で自院が優れていると誤認させる表現。例えば「地域No.1の治療実績」「シェア日本一」「著名人も通うクリニック」など。
- 誇大広告:実際以上に効果を強調する内容。例えば「完全治癒を保証」「最先端の医療を提供」「知事の許可を取得したクリニック」など。
- 公序良俗に反する内容:わいせつ、残虐な画像・映像を使用する。差別的な表現を用いる、など。
- 患者の主観に基づく治療・効果に関する体験談:口コミサイトから治療効果に関する患者のコメントを転載、など。
- 治療のビフォーアフター写真(術前術後):写真のみが掲載されて説明が一切ない、など。
- その他、品位を損ねるような内容など
医療広告ガイドライン違反が確認された場合、速やかな是正対応がクリニックに求められます。改善されない場合には以下の罰則が科される可能性があります。
- 6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金
- 報告命令違反や立入検査に対する違反の場合、20万円以下の罰金
看板作成時にはガイドラインを事前にしっかり確認し、正確かつ客観的な情報のみを掲載するように徹底しましょう。
※厚生労働省「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針(医療広告ガイドライン)」
なお、医療広告ガイドラインについてはこちらの記事でも詳しく解説しています。
屋外看板の設置では法令を遵守
屋外に看板を設置する際は、法令を遵守することが重要です。自治体によっては、景観の維持や住民の安全などを目的とし、屋外広告物法に基づく「屋外広告物条例」を定めており、該当エリアで看板を設置する場合は事前に申請し、許可を得る必要があります。また、看板の高さが4メートルを超えるものは建築基準法に基づく「工作物確認申請」が求められます。
ほかにも、景観法・景観条例、道路交通法など看板に関係する法令は多岐にわたり、改正されることもあるため、設置の際には最新の情報を把握している専門家や自治体に相談すると良いでしょう。
看板は一度設置したら終わりではなく、徐々に劣化していくことから、自治体の安全基準を守り、定期的に点検やメンテナンスを行うことが大切です。
構造的なポイントを考慮する
看板を設置する際には、視認性を最優先に考慮する必要があります。遠くからでも認識しやすい大きさや配置、色使いを意識することで、患者への情報伝達効果を最大化できます。特に夜間の視認性を向上させるためには、照明や電飾を組み合わせることが有効です。
また、看板には診療時間や診療科目など、患者が必要とする情報を簡潔に記載することが重要です。設置場所や看板の種類に応じて記載内容を調整し、適切な情報提供を行うことで、患者の利便性を向上させることができます。
デザイン的なポイントを抑える
看板のデザインや色は、患者のクリニックに対する印象に大きく影響を与えます。
クリニックでは、青や緑、白といった清潔感や安心感、信頼感をイメージさせる色がよく用いられますが、ターゲット層や診療方針などクリニックの特性に合わせて選定するのも手です。例えば、子ども向けであれば明るくてアットホームな色、自費診療に力を入れる場合は高級感のある色といったような視点で採用することで、ターゲットに対してより効果的に訴求しやすくなります。
また、必要な情報がすぐ伝わりやすいよう、デザインはシンプルな構成が推奨されます。さらに、背景と文字のコントラストを高めることで視認性が向上し、遠距離からでも内容を理解しやすくなります。フォント選びにも配慮し、読みやすいよう大きな文字を使用することで情報伝達の精度が上がるはずです。
まとめ
看板は、クリニックのイメージを形成し、地域住民に存在を知らせるために有用な手段です。適切なデザインや設置場所を選ぶことで、他院との差別化を図り、自院を選んでもらう可能性を高めることができます。
また、医療広告ガイドラインを遵守することは、患者の信頼性を確保し、法的リスクを回避するために不可欠といえるでしょう。加えて、看板は経年とともに徐々に劣化することから、安全性の確保や耐用年数を延ばすためにも、自治体の安全基準を守り、定期的な点検やメンテナンスを行うことも大切です。
クリニックの看板は単なる表示ではなく、戦略的なマーケティングツールとして活用することが推奨されます。患者目線で必要な情報を簡潔かつ明瞭に伝え、地域社会での認知度向上と集患効果を最大化する看板作成をめざしてください。(クリニック未来ラボ編集部)