こんな配慮があったらうれしい!患者のプライバシーを守る工夫【前編】

患者のプライバシーを守るさまざまな工夫

生年月日や住所、氏名など、個人を特定する「個人情報」。ネットワーク社会の進歩により情報の取り扱いは厳重となり、世界的に見ても「個人情報を保護する」ことは当たり前のものとして認識されつつあります。

クリニックでの診療に関する情報も、もちろん個人情報の一つ。さらにいえば、病気やケガに至った経緯などに関しては、より個人的な情報=プライバシーにも関わります。患者はプライバシーに関して、どのような配慮を求めているのでしょうか。

本稿では、前・後編にわたり、プライバシーに関する患者のホンネ、プライバシーを守るための具体的な実践例をご紹介。この前編では、患者とドクター、それぞれへの調査を通じ、プライバシーを守ることの大切さをお伝えします。

診療時、患者はプライバシーが守られていないことにストレスを感じている

医療機関を受診する際、患者の多くは、大なり小なり何かしらのストレスを抱えているといいます。体調不良やケガに対して不安が募ったり、医師と良い関係が築けるか、期待と懸念が入り交じったり。加えて、医療機関のプライバシーへの配慮が診療時のストレスに影響するとの声があります。

医療ポータルサイト「ドクターズ・ファイル」が実施した患者へのアンケート調査(※1)によると、「診療時にストレスに感じることは?」という問いに対し、14.5%が「プライバシーが守られていない」ことに対して、ストレスを感じると答えています。

診療時にストレスを感じることは?

もちろん、医師や看護師など医療従事者は患者に対して守秘義務を負っているため、個人情報が漏れ出さないよう、診療では常に細心の注意を払っています。しかし、この後にご紹介する患者のアンケートからも、医療従事者が捉える「守るべき情報」と患者が感じている「守ってもらいたい情報」が離れてしまっていると考えられるケースが見受けられます。

プライバシーへの配慮不足が原因で、クレームに発展したり、患者離れにつながったりすることのないよう、日頃から意識することが大事だといえるでしょう。

スタッフの一言でばい菌扱いに!患者が体験した、プライバシーにまつわるエピソード

それでは、患者の声をご紹介していきましょう。ドクターズ・ファイルが実施した患者への別のアンケート調査(※2)には、クリニックにおけるプライバシーの配慮に関して、次のような、うれしい&悲しい体験談が寄せられました。

患者のクリニックでのうれしいエピソード
患者の悲しいクリニックでのエピソード

患者の視線は、医師やスタッフの接遇、院内の動線、椅子の配置など、細部にまで向けられていることがおわかりいただけたでしょう。患者は、患者同士が顔を合わせる心配のないプライベートな空間を心地良いと感じ、逆に周囲の目が気になるような環境に置かれると、不安や不満が生じ、ストレスを感じやすくなるようです。

プライバシー保護に力を入れるクリニックに聞く! 診療時のさまざまな工夫

次にご紹介するのは、医師たちの声です。日頃より、診療環境の整備や接遇面の向上など、さまざまな工夫を凝らし、プライバシー保護に尽力している3つのクリニックに、その実態をヒアリングしました。

実際の医療現場では、どのようにして患者のプライバシーを守りながら、診療を行っているのでしょうか。また、プライバシーを守ることには、どのようなメリットがあるのでしょうか。

1.肛門内科・肛門外科の場合

肛門内科・肛門外科のプライバシーを守る工夫

肛門内科・肛門外科という特性上、当院では、受付番号によるお呼び出しを実施しています。診察室・検査室へ入室後、他の方に会話が聞こえないと確認した上での、お名前の確認、問診を徹底しています。特に、声の大きさや周囲の様子には、私を含め看護師や受付スタッフなど全員が常に注意を払っています。口頭での症状や悩みの説明が恥ずかしいと感じる方もいらっしゃると思いますので、問診票に記入欄を設けています。

処置室の入り口手前にはカーテンを取りつけました。カーテンを閉めれば扉が二重のような状態になり、処置中に万が一誤って他の患者さんが入室してしまっても、カーテンが目隠しになってくれます。私自身、患者として医療機関を受診した際に「こうしてもらいたい」と感じる場面があります。患者さんの受診への抵抗感の軽減につなげるためにも、心地良い診療環境をつくる工夫は不可欠ですよね。

2.糖尿病内科の場合

糖尿病内科のプライバシーを守る工夫

糖尿病治療では、患者さんの日常生活を深く理解し、個々に合った薬の処方や生活指導を行い、改善を促していきます。治療の特性上、当然ながらプライバシーへの配慮は欠かせません。ですので、開業時には2つの診察室と栄養指導室、検査室をそれぞれ独立した造りに配置しました。周囲が気になりにくく、患者さんにとってプライベートな内容でもお話ししやすい環境かと思います。

当院では、私が診療している間に、看護師が別の部屋で次の患者さんの事前問診や検査を進めています。一人ずつ事前問診や検査を行うのでプライバシーも守られ、効率化もかなう、一挙両得な診療体制を実現しました。またお薬は院内で処方し、確認や説明は診察室で個別に行います。個人に寄り添う診療を実践することが、結果として患者さんのプライバシーを守ることにつながっているのです。

3.歯科の場合

歯科のプライバシーを守る工夫

通院の際、「できれば人と会いたくない」という方も多いですから、当院では患者さんとスタッフの動線を明確に分け、他人との接触の機会を最低限にしています。また診療室の扉に鍵をつけ、診療中は必ず施錠しています。他の方が誤って入室するのを防ぐだけでなく、お子さんが診療室を出てしまう、といったトラブル防止にもつながっています。周囲を気にせず診療を受けられる環境なので、ご家族で受診されるケースも多いですよ。

次回診療のご予約は、タブレット端末で入力して管理しているのですが、患者さんに予約状況を確認していただく際には他の患者さんのお名前が見えないようにお渡ししています。他にも、矯正治療の意欲向上の一環として、矯正中や矯正治療後の患者さんの顔写真を同意いただいた方のみ院内に飾っています。SNSへの投稿には用いないことを約束し、写真の取り扱いには細心の注意を払っています。

プライバシーへの配慮が結果として、診断や治療の精度を高め、スムーズな診療につながる

医師たちのヒアリングから、プライバシーへの配慮が結果として診断や治療の精度を高めたり、スムーズな診療につながったりすることがわかりました。また医師たちはおのおの、「一人ひとりの患者に、快適に過ごしてもらうためにはどうすればいいか」を考えて、工夫を凝らされています。目の前の相手を思いやる姿勢が、結果として心地良く診療を受けられる状況を生み出すのだといえるのかもしれません。

次回の後編では、プライバシーに関して患者の要望を踏まえた、具体的な対処方法をご紹介します。(クリニック未来ラボ編集部)

※1 ドクターズ・ファイルによる「患者のクリニック選びに関する調査」。対象は、全国主要都市に住む、もしくは勤務する20~59歳の男女4000人。2020年7月にインターネット調査にて実施。
※2 ドクターズ・ファイルによる「クリニックにおけるプライバシーの配慮に関する調査」。対象は、全国主要都市に住む、もしくは勤務する20~50歳の男女41人。2019年7月にインターネット調査にて実施。

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