クリニックに求められる「医療接遇」、ウィズコロナ時代の患者コミュニケーションを円滑にする7つのコツ【前編】

医療接遇

2023年3月13日以降、マスク着用が個人の判断に委ねられることになり、5月からは新型コロナウイルス感染症の感染法上の扱いが、「2類相当」から季節性インフルエンザ並みの「5類」に引き下げられるなど、国民の生活は徐々に、医療の逼迫を避けながら、社会経済活動を両立していくという様式に移り変わっています。

その一方で、いまだ厚生労働省は、患者が医療機関を受診する際はマスクの着用を推奨しており、医療機関でも適切な感染対策はもはや当たり前となっています。これからのクリニック経営のために、ウィズコロナ時代の医療接遇について、今一度振り返っておきたいものです。

そこで今回、未来のクリニック経営に役立つ情報を独自に研究してお届けする「クリニック未来ラボ」編集部では、2022年に発表した過去の記事を再掲載します。なお、文章は作成当時のものです。(初出:「患者ニーズ研究所ONLINE」2022年7月1日配信)

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コロナ禍において、クリニックでは感染予防のためのマスク着用や、ソーシャルディスタンスにより、相手の声が聞きづらい、コミュニケーションが取りにくいというような医療接遇が難しい場面が増えています。さらに、コロナ禍が長引くにつれて、衛生面に過敏になる人、ストレスや不安から些細なことにイライラしてしまう人も増えているようです。

一方で、コロナ禍の長期化にともない、一時の緊張感が薄れて感染対策自体が形骸化している様子も見受けられます。感染拡大の波を繰り返し、コロナ終息の兆しはいまだ見えない中、クリニックおいては、医療接遇について見直す時期なのかもしれません。

そこで、医療接遇コンサルタントとして、これまでに全国10万人以上の医療者に医療接遇を提案してきた、ラ・ポール株式会社代表取締役福岡かつよ氏に、患者から寄せられた「不満の声」を例に、具体的な「ウィズコロナ時代における接遇のコツ」を解説してもらいました。

「適切な医療接遇は、医療安全につながる」として、接遇を「マナー」の側面としてではなく、「医療安全」という視点で提唱する福岡氏のアドバイス。ぜひ、スタッフの皆さんと共有して、日々のクリニック運営の参考にしてください。

ラ・ポール株式会社代表取締役
福岡かつよ

医療接遇コンサルタント。ラ・ポール株式会社代表取締役。厚生労働省の外郭団体に勤務し、医療・介護の現場を対象にしたさまざまな調査研究に携わったことから、医療機関向けの接遇に取り組む。20年以上にわたって医療・介護に特化し、接遇を通じて現場を活性化させるべく、大学病院からクリニックまで幅広くコンサルティングや講演・研修を行っている。著書に『看護師のための医療安全につながる接遇』(中央法規出版株式会社)がある。

【コツ1】患者と視線を合わせて意思疎通。アクションもつけて、声の主をよりわかりやすく

〈患者の不満エピソード〉
コロナ禍でクリニック受診を敬遠していたため、久しぶりに健診を受けに来たA子さん。受付はアクリル板で仕切られ、スタッフはマスクもしているため声が聞き取りにくく、なんとなく不安な思いにかられたといいます。名前を呼ばれても、どこから呼ばれたのかわからず、「呼ばれたのは私? 呼んだのは、どのスタッフ?」と戸惑うばかりでした。

福岡氏:2022年5月、厚生労働省は「屋外で会話がほとんどないなら、マスク着用の必要なし」との見解を発表しましたが、医療機関など屋内で会話をするときは、引き続き、着用を推奨しています。マスクやアクリル板があることで口元や表情が伝わりづらく、患者さんと意思疎通に苦労しているスタッフも多いのではないでしょうか。

ポイントは3つあります。

1つ目は、視覚(目)での伝達方法が主なので、まずは伝達ミスが起きないよう、患者さんとしっかりと目線を合わせて対応することです。

2つ目は、患者さんをお呼びするときは、名前だけではなく、手を挙げるなどアクションを添えて注意を引き、誰が声を出しているのかを明らかにすると良いでしょう。

そして3つ目は、医療安全の観点から。患者さんがこちらの声に応じたら、診察前や検査前には、患者さんの取り違え事故を防ぐために、名前をフルネームで言ってもらうと安心です。もしかしたら、一字違いなど似た名前の可能性があります。ただしこのとき、患者さんの中には、「なぜ何度も、名前を言わないといけないの?」と面倒に思う人もいるかもしれません。ここでのポイントはお願いの仕方です。「安全に検査を行うため、お名前を確認させていただいてよろしいでしょうか」のように、患者さんを守るためなのだと目的を伝えることで、相手に納得してもらいやすくなります。

目線を合わせて相手を確認し、患者さんの取り違えや伝達ミスを防ぎましょう。

【コツ2】患者の状態を瞬時に把握する「キャッチ力」で、相手によって伝え方を変える

〈患者の不満エピソード〉
感染リスクが気になり歯科医院を避けていたB男さん。我慢できない歯痛で久しぶりに受診。「コロナでずいぶん間隔が空いてしまったんですけど……」と気後れするB男さんに対し、いつも笑顔で愛想の良いスタッフは、マスクで口元が見えない分を補おうとしてか、大きな明るい声で、「お久しぶりですね!」。顔見知りの歯科衛生士も満面の笑みで、「お久しぶりですね!」。「気遣いはうれしいけれど、別に来たくて来たわけではないのに……」と、少し複雑な気持ちになったB男さんでした。

福岡氏:患者さんに安心して受診してもらうため、和やかな笑顔で対応するのは接遇の基本ですが、常に笑顔であればいいわけではありません。なぜなら、相手の状態によって、笑顔に対する受け取り方は変わるためです。医療現場の場合、患者さんの多くは緊張や不安などの心理的ストレスを抱えています。特にコロナ禍では、患者さんはより神経質になっています。そのため、患者さんの状態を瞬時に見極める「キャッチ力」によって、言葉のチョイス、声のトーン、話すスピードなど、一人ひとりに合わせた柔軟な伝え方が求められます。

例えば、このB男さんのように、感染リスクを恐れて受診を控えていたような患者さんの場合は、緊張や不安がより強いはずです。明るく高いトーンではなく落ち着いた声のトーンで、穏やかな表情をし、「感染がご心配だったのですね。今日はどうされましたか?」のように伝えると、安心してもらいやすいでしょう。 前提として、「多くの患者さんは医療機関に来たくて来ているのではない」ということを意識しながら、相手の状態に合わせた柔軟な伝え方を心がけてください。

【コツ3】思い込みはNG! 目的を理解しながら行動する「考える接遇」を心がける

〈患者の不満エピソード〉
急な腰痛で、整形外科を受診したC郎さん。受付で「問診票の記入をお願いします」と言われ、椅子に座って書き始めましたが、「どこまで既往歴を書くのかな?」と疑問が。そもそも記入した問診票は、受付に出すのかどうかの指示もありません。マスクをしていても飛沫が気になり声は出しにくいし、混み合う待合室の中を移動して人と接触したくないし……。30分が経過し、どうしようかと悩むC郎さんでした。

福岡氏:感染リスクを恐れて、院内で人と話したり、移動したりするのにも気を使う昨今。C郎さんのように、受付で患者さんが不安になったり迷ったりしないように、診療の流れをスタッフがわかりやすく伝えることが大切です。

また、そもそも問診票は、診療のために患者情報を教えてもらうためのものですから、スタッフが受け取りに行くほうが望ましいと言えます。患者さんに受付に持ってきてほしい場合は、「問診票のご記入が終わりましたら、恐れ入りますが受付までお持ちいただけますでしょうか。ご不明な点は遠慮なくご質問くださいね」のように、その旨を丁寧にお願いすると良いでしょう。これは一見、当たり前のことのように思われるかもしれませんが、意外とできていないクリニックが多いものです。

そして、さらに「わかる範囲で結構ですので、ご記入をお願いいたします」と気配りのある応対が医療接遇の本質でもあります。 C郎さんの例のように、問診票は患者さんが持ってきてくれるもの、こうすべきもの、といったように、クリニックには思い込みや医療者中心の慣習がありがちです。医療接遇で大事なのは、一つ一つの業務に対し、なぜそうするのか、目的は何なのかを常に考えながら行動することです。それが、接遇力向上につながり、「このクリニックで良かった」という患者さんからの評価につながります。

【コツ4】常日頃から衛生管理を徹底し、感染対策は定期的に見直す

〈患者の不満エピソード〉
持病があり、定期的な通院が必要なD代さん。クリニックのエントランスでは、簡易な手動式の体温計で受付スタッフが患者の体温をチェックしています。しかし、平熱は36℃台なのに、ここでは測るたびにいつも35℃台。D代さんの次に測った患者も、やっぱり35℃台。「この体温計は正確なのかしら」とけげんな表情で、設置されたアルコール消毒液のほうに目を向けると、液だれで周囲が汚れています。「ここの感染対策は大丈夫かしら」と不安になるD代さんでした。

福岡氏: 感染対策も医療接遇の一つです。そしてD代さんのように、コロナ禍で衛生管理に敏感な人が増えています。

そもそも医療施設は、衛生管理や感染対策が行き届いていて当然の場所です。ところが最近私も見かけたのが、とりあえず入り口に非接触式のアルコール消毒液を設置したのはいいけれど、液だれのために床が汚れてしまい、かえって不潔な印象を与えてしまっているクリニック。その場しのぎの感染対策は、患者さんに見抜かれやすいものです。

逆に、コロナ禍以前から、こまめにトイレ掃除をしたり、手の触れる場所を拭いたりなど、衛生管理の重要性を理解していたクリニックは、コロナ禍でも対策がしっかり徹底されています。そして、それは患者さんにも伝わっていて、「このクリニックは安全だな」と信頼性を高め、中には過去最高の収益を上げているクリニックもあります。

患者さんは、クリニックが清潔かそうじゃないかを観察しています。感染対策が形ばかりになっていないか、古いやり方のままになっていないか、新しい情報やエビデンスなども踏まえ、定期的に見直してみるといいでしょう。

感染対策は医療安全の基本です。患者さんだけでなく、スタッフを守ることにもつながります。コロナ禍を受けて、ではなく、医療機関として万全の感染対策は必須です。

【前編まとめ】続くコロナ禍、医療接遇を見直して患者に安心感を

前編でご紹介した4つのコツ、いかがですか。特別なことではないけれど、ついつい見落としがちなポイントは、心当たりのあるクリニックも多いのではないでしょうか。単なるマナーではなく、安全や環境にも注目した医療接遇という点が興味深いところです。

後編でも引き続き、ウィズコロナ時代に求められる医療接遇について、福岡氏にアドバイスしてもらいます。

<執筆者プロフィール>
森 由紀子(もり・ゆきこ)
ライター。医療系雑誌編集部を経て、コピーライターとして独立。阪神間で、医療や食品関連の情報誌や販促物の企画制作に携わる。夫の転勤に伴い、横浜市に転居。製薬企業のCSR関連情報誌や歯科医院サイト、『ドクターズ・ファイル』のクリニック・病院のコンテンツ制作に関わり500人以上のドクターを取材。

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