経営のヒント

2024.8.16

【バリアフリー編】患者が障壁なく通院できる歯科医院《こんなところにも注力!クリニックの強みZOOM UP》

バリアフリー

地域に支持されるクリニックには、医療サービス以外にも、プラスアルファの強みがあるもの。当コーナーでは、そんな強みを持つクリニックを訪ね、より良いクリニック作りのヒントを紹介します。

今回のテーマは「バリアフリー」。東京都八王子市にある『原田歯科医院』へ足を運びました。

※本稿の初出は、「〈バリアフリー編〉治療を必要とするすべての人が、障壁なく通院できる歯科医院《こんなところにも注力!クリニックの強みZOOM UP》」(「患者ニーズ研究所ONLINE」2022年3月4日配信)です。再掲載にあたり一部加筆・編集しています。肩書きやデータは本稿初出時のものです。

■教えてくれた先生

原田歯科医院
原田 達也 院長

1989年東京医科歯科大学歯学部卒業。同大学歯学部附属病院の障害者歯科治療部在籍時に「障害者歯科医療をライフワークに」と考え始め、1994年に開業。DIYが得意で、「鎮静タワー」や嚥下内視鏡専用の自走カートなどを自作。通院困難患者のため、訪問歯科診療にも力を入れている。

大切なのは、患者の立場でクリニックのどこに「障壁」があるのかを知ること

障害のある人も高齢者も、あらゆる人が平等に持っている、障壁のない暮らしを送る権利。この権利を誰もが当たり前に行使できるようにするには、障害のある人とない人が共存する社会をめざすノーマライゼーションの普及と定着が欠かせません。

医療現場においても、安全で質の高い医療をできる限り多くの人に提供するべく、バリアフリー化を図る動きが目立つようになりました。一方で、バリアフリーの必要性を強く感じながらも、大規模な改修工事はなかなか難しく、何から手をつければいいかわからないというクリニックも多いのではないでしょうか。

一般の歯科医院では治療困難な患者を受け入れるスペシャルニーズ歯科に力を注ぐ『原田歯科医院』。原田達也院長は、患者の声や診療時に感じる課題をヒントに、さまざまなハンディキャップを持つ患者を受け入れるためハード面・ソフト面のバリアフリー化に長年注力してきました。

「まずは自ら車いすに乗るなどして、クリニックのどこにバリア(障壁)があるのか、身をもって知ることが大切だと思います。知的障害や自閉症のある患者さんは予測のつかない動きをする場合があるので、死角をつくらないことを重視しています。車いすが通れるように入り口を広くしたり、多目的トイレを設置したりとクリニックの構造自体を変えるには大規模な改装が必要ですが、設備の配置や動線の工夫で解決できることも多いんですよ。余計な物を置かないだけでも、使い勝手が良くなります」

ITやAIを積極的に取り入れ、人にしかできないことに集中

同院を受診する患者の中には、体に障害がある車いすの人をはじめ、視覚障害、聴覚障害、知的障害、自閉症、認知症などを抱え、歯科治療を受ける上でさまざまなハードルがある人も多くいます。

原田院長は、「車いすから診療台に移乗できるよう十分なスペースを確保したり、手話や筆談を含めたコミュニケーションの手段を事前確認したりといった、それぞれの障害の特性を踏まえた準備をしています」と話します。

例えば、知的障害や脳性麻痺の場合、てんかんなどの合併症に備えて発作止めの坐剤を持参してもらい、すぐに投与できるよう準備しているそうです。また、重積発作や恐怖による衝動を抑えるための麻酔設備、全身管理を行うモニターなどの機器をそろえておくことで余裕を持って対応しているといいます。

設備面に加えて、同じくらい重要性を実感しているのがマンパワーです。障害のある方を診るには、歯科医師だけでなく麻酔専門の歯科医師、歯科衛生士など、多職種のチーム医療が不可欠。各職種が必要な知識とスキルを習得するためのトレーニングを積むことが大切です。臨床が多くのウエートを占める開業医の場合でも、その時間が取れるような工夫が必要になります。今後はさらにIT化、AI化を進めて、効率化を図っていきたいですね」

『原田歯科医院』がこだわっている「バリアフリー」6つのポイント

ここからは、同院がバリアフリーに関して「こだわっているポイント」を6つピックアップ。具体的にどのような取り組みをしているのか、見ていきましょう。

(1)豊富な専門知識を武器に、全身麻酔での治療にも対応

障害のために意識下での歯科治療を受けることが困難な患者には、鎮静や全身麻酔が必要となることも。そのため、診療の傍ら母校である東京医科歯科大学にて歯科麻酔学を学んだという原田院長。大学病院と同レベルの麻酔設備を備え、麻酔専門の歯科医師とともに診療にあたっています。

(2)受付スタッフを常時2人配置し、死角がなく介助しやすいように

入り口と待合室を見通せる位置に受付を設置。常時2人のスタッフが、ネットワークカメラで院内の様子を確認しながら患者対応・業者対応を行っています。なお、現金での会計が苦手な人のために、キャッシュレス決済を導入。

(3)バリアフリーに配慮した設備。DIYでこつこつ改善も

車いす専用の駐車場、段差のない入り口、エレベーター、引き戸など、患者の動線を確保。院内はすべて土足仕様で、車いすに乗ったままでの治療も可能です。待合室は物を減らし、必要な家具にはDIYでキャスターをつけて可動式に。

(4)同伴者とともに入室でき、プライバシーを守れる診療室

同伴の家族や介助者が治療を見守れるよう、診療室内に椅子を設置。診療室は引き戸を閉めれば個室になるため、不安や恐怖から患者が大声を上げたり、暴れたりした場合も周囲を気にせずに済みます。

(5)オストメイトにも対応した、多目的トイレを完備

ベビーシートが設置されているほか、オストメイト(人工肛門・人工膀胱保有者)にも対応した多目的トイレを完備。車いすのまま、介助者も一緒に入ることができます。1階の待合室の一角にあり、受付の目が届くのも安心です。

(6)IT技術を積極的に取り入れ、患者の安全と安心の確保に努める

ITの専門家のアドバイスを受けて、麻酔の際に必要なデータを自動記録するソフトウエアを導入。それらの機材を架台にまとめ、「鎮静タワー」として活用しています。院内の複数箇所にネットワークカメラを設置し、患者の見守りに注力。

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以上、バリアフリーに関して「こだわっている6つのポイント」を紹介しました。治療を必要とするすべての人に応えるため、患者の立場で、ハード、ソフトの両側面から考えられた設備ときめ細かな対応。バリアフリー化が推進される中、より良いクリニック経営のヒントにしてみてください。(クリニック未来ラボ編集部)