カフェのような待合室の主役は、患者が立ち座りしやすい高さの多彩な椅子
待合室は、患者が長い時間を過ごす場所。高齢者や立ち座りが不自由な人も、子ども連れも、誰もが落ち着いて待てることが求められます。そこでポイントとなるのが、待合室の椅子です。
横浜市港南区にある『上永谷整形外科』の鈴木毅彦院長は、父から継承した医院の建て替えを考える中で、どんな椅子が良いのか、患者に聞いてみたといいます。
「それまでは低めの椅子のほうがお年寄りも座りやすいと思い、低めの長椅子を設置していたのですが、意外にも小柄なお年寄りの方から、『待合室の椅子は低すぎて立ち上がりにくい。診察室の椅子ぐらいの高さが楽』と言われたのです」
測ってみたところ、待合室の長椅子の座面の高さは38㎝。診療室の椅子は46㎝でした。腰痛患者や松葉杖を使う人は座面が高いほうが楽ということもあり、高さにこだわって探したのですが、座面の高い長椅子は見当たりません。また、コロナ禍による感染対策で長椅子は間隔を空けて座るようになり、座れる人数が減ったことで、「1人用の椅子」という選択肢を検討し始めました。
「1人用ならば、座面の高さやデザインの種類も豊富で、しかも自由な配置ができます。壁や床面のイメージも決まってきたので、その雰囲気に合う椅子を選んでカフェ風にしようと思いついたのです」と鈴木院長。そこから、テーブル席やカウンター席を設置するアイデアも生まれたそうです。
椅子を選ぶ際は、消毒や手入れのしやすさ、持続可能な視点も重視
もう一つ、鈴木院長がこだわったのは、将来を見据えた「持続可能」という視点です。布張りの椅子にも惹かれましたが、スタッフの負担も考え、消毒や手入れがしやすい合成皮革で、かつ布のようなやわらかい印象の色を選択。経年劣化による椅子の修繕や買い替えなども考慮し、あまり高価すぎないものを選びました。
「建て替えや改装時は気が大きくなりがちですが、医院運営は常に順調とは限りません。地域に求められる診療を持続するために、ある程度、設備投資を抑えることも重要だと考えています」
院内全体はコンパクトな造りで、経年しても質感が変わらないビンテージ風のデザインにしたといいます。新しい医院には、子どもから高齢者まで、連日、多くの患者が訪れています。
「常連の方は、お気に入りの椅子が決まっているようですよ(笑)」
整形外科医としての視点から選んだ機能性の高い椅子。患者やスタッフの視線の方向にまで目配りして配置を考える、開業医ならではのこまやかな配慮。そして父から受け継いだ地域への責任。椅子一脚一脚に、鈴木院長のさまざまな思いが込められているのがわかります。
高齢者をはじめ立ち座りに配慮の必要な患者が多いのは、整形外科に限りません。待合室のリニューアルや椅子の買い替え時には、ぜひ鈴木院長の「椅子へのこだわり」を参考にしてみてください。
『上永谷整形外科』がこだわっている「待合室の椅子」6つのポイント
ここからは、同院が院内の待合室の椅子に関して「こだわっている6つのポイント」をピックアップ。具体的にどのような取り組みをしているのか、見ていきましょう。
(1)整形外科医の視点で選んだ椅子。色にもこだわり洗練された印象に
膝や腰に負担がかかりにくい、座面の高さ約45㎝の背もたれつきの椅子が5種類。座面は程良い硬さでお尻に優しいです。立ち上がりが困難な人のために肘掛けつき、体格が良い人のために肘掛けなしも用意。彩りや上品な色調にもこだわっています。

(2)カフェ風のテーブル席を設置。椅子を動かせば、車いす席にもなる
カフェのようなテーブルを2卓設置して、リラックス感を演出。テーブルは問診票の記入や、患者同士のコミュニケーションに役立ちます。1人用の椅子は位置を自由に動かせるのが利点で、車いす利用者のスペースにもなります。

(3) 窓側には、人目を気にせず気楽に過ごせるカウンター席を設置
窓側に向けて、周りに気兼ねなく過ごせるカウンター席を設置。外の風景を見て気分転換ができます。椅子は背もたれに木目調の柄が入ったデザインで、しゃれた雰囲気もプラス。荷物を置きやすいので子ども連れの利用も多いそう。

(4)座面は消毒や汚れに強い素材。椅子の間隔を空けて感染予防に
消毒しても劣化しにくい耐アルコール・耐次亜塩素酸、汚れがつきにくい防菌・防汚・耐移行の合成皮革素材を選択し、衛生管理や手入れの負担を軽減。椅子と椅子の間隔は約20㎝空け、背中合わせなど感染対策を考えた配置に。

(5)子どもが座って待てるよう、キッズスペースにも専用の椅子を用意
待合室の雰囲気に合わせて設けられた、落ち着いたデザインのキッズスペース。カウンターの高さに合わせた、北欧テイストのかわいい椅子が置いてあるので、おとなしく座って、お絵描きや絵本を楽しむ子どもが多いとのこと。

(6)患者が快適に待ち時間を過ごせるよう、互いに目線が合わない配置に
テーブル席やカウンター席を設け、椅子の向きを工夫することで、患者同士や受付スタッフと目線を合わせなくて済む配置に。待ち時間が長いときなど、患者と目が合うと気まずい思いをするというスタッフにも配慮しています。

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以上、待合室の椅子に関して「こだわっている6つのポイント」を紹介しました。
患者が待ち時間を過ごす「待合室の椅子」。年齢や病状、体格など、人によって“ベスト”な椅子の基準が違うものだということは、当たり前なようで意外と見過ごしがちなポイントです。建て替えや改装など、次に椅子を新調する際は、きっとこの『上永谷整形外科』の取り組みが参考になるはずです。ぜひサイズや色、予算だけで決めてしまわず、患者とスタッフが喜ぶ顔を想像しながら、自院にぴったりの一脚を選んでみてはいかがでしょうか。(クリニック未来ラボ編集部)