在留外国人が増加する日本で、スペイン語圏の患者を受け入れる
国の政策により、日本で働く外国人や、外国人旅行者が急増するにつれ、外国人が医療機関を受診することも増えています。外国人患者に対する医療提供体制の確立は喫緊の課題となっており、出入国在留管理庁の発表によると、2023年末時点の在留外国人数は、341万992人(前年末比33万5,779人、10.9%増)と、過去最高を更新する中、一般のクリニックにおいても外国人患者への対応は身近なテーマといえるでしょう。
東京23区で最も外国人が多い新宿区。その南部に位置する信濃町駅前で、スペイン語圏の外国人患者の診療を多く手がける『信濃町診療所 Clinica Medica』の矢吹大輔院長も、この10年の間に、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた時期はあったものの、中南米など外国からの患者の数がぐっと増えたと語ります。
「私はメキシコで医学を学んだ経験があり、最初は知人の紹介などで外国人患者さんが来院していました。今では週に1~5人に増えています。その約8割は東京都内や周辺に在住する方、あとは旅行者。国別ではペルー、コロンビア、メキシコ、スペインなどです。英語に比べてスペイン語に対応できる医院は少ないので、母国語が通じて安心したと言われることが多いですね」
同院は外国人患者のホームドクターの役割を果たしており、在住者は矢吹院長の専門である泌尿器科・皮膚科を、旅行者は風邪や腹痛を理由に来院することが多いとか。対応が難しい症状の場合は、近隣の国立国際医療研究センター病院など外国語に対応する病院に紹介しているといいます。
国民性や慣習の違いに配慮し、目を見てコミュニケーションを
外国人患者の診療には、言葉・文化の壁、医療費制度の違いなど、さまざまなハードルがあります。注意点として矢吹院長は、薬の種類や効果についても詳しく説明すること、体格に合わせた薬の容量の調整などを挙げます。また国民性の違いから、患者と視線を合わせて応対することも重要だそう。
「目を見ながらでないと不安にさせてしまうのです。私は外国人の患者さんに対して、常に対等な姿勢で、笑顔とオープンな雰囲気を心がけています。問診では家族や生活環境のことまで詳しく話す方が多く、診療時間が長くなりがちです。そのため、他の患者さんを待たせ過ぎないように気をつけています」
診療費の未払いも深刻な問題といわれますが、支払いトラブルはほとんどないそうです。旅行者の場合、同院では提携する旅行保険会社から紹介されることが多く、診療費はそこに請求するシステムとなっています。また、ホームページなどを見て来院するような、いわゆる飛び込みで来院する旅行者は自費診療になるため、パスポートや旅行保険の確認、診療費の概要、日本円での現金払いになることなどを事前に説明した上で、診療を始めるといいます。
「外国人患者さんは、日本人の患者さん以上に不安だと思いますので、細かな質問にも丁寧に答え、他院に紹介するときも親身に対応することを心がけています。当院に来て良かったと満足されると、私もうれしいですね」
『信濃町診療所』がこだわっている「外国人患者への対応」6つのポイント
ここからは、同院が外国人患者への対応に関して「こだわっている6つのポイント」をピックアップ。具体的にどのような取り組みをしているのか、見ていきましょう。
(1)医師が外国語で対応できる! 母国語が通じて患者は安心
日本語を話せる在留外国人であっても、痛み方など細かい症状は説明しにくいためスペイン語での対応に安心する患者が多いとか。同院のように医師自身が対応できるのが理想ですが、通訳機器や通訳者の配置で外国語対応する方法もあります。

(2)外国人患者が来院した際の受付マニュアルがある
受付では日本人スタッフが、あいさつや「保険証を持っていますか?」「私はスペイン語が話せません」など簡単なスペイン語で対応。速やかに矢吹院長につないでいます。また毎週水曜はメキシコ人で院長の妻である看護助手が受付を担当。

(3)診療をスムーズに進めるために特別な問診票を用意
患者の状況をしっかり把握し、スムーズに診療を進めるために欠かせないのが問診票。同院では、日本語が話せない外国人の初診患者への対応として、スペイン語の問診票を準備しており、診療前に記入を促しています。

(4)ホームページが外国語に対応! 問診票もダウンロードできる
クリニック探しにインターネットを利用する外国人も多いため、特徴やアクセスがわかりやすいよう、ホームページはスペイン語にも対応。また、スペイン語の問診票がダウンロードでき、医師、患者双方にとって役立っています。

(5)看板や掲示物にも外国語を併記し、外国人の受け入れをアピール
日本語が話せても漢字の文書は苦手という外国人のために、案内スタンドや看板、院内の一部の掲示物にもスペイン語を併記。また、アピールという点では、スペイン語の案内チラシを各国大使館に配って宣伝したこともあるそうです。

(6)患者のリクエストに応じて処方箋などを外国語で表記
外国人患者の要望に応じて、処方箋や領収書などを外国語で用意。特に薬に関しては、どんな薬なのか、どう服用するのか、初めて見る薬に対して不安を覚える人も少なくないため、院長が翻訳したものをメモにして渡すこともあります。

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以上、外国人患者への対応に関して「こだわっている6つのポイント」を紹介しました。
日本人の人口が減る一方で、今後も在留外国人は増え続けることが予想されています。外国人患者の受け入れを検討しているクリニックも少なくないのではないでしょうか。慣れない土地で不安な外国人患者が、少しでも安心感を持って受診できるように、国民性や慣習の違いに配慮した『信濃町診療所 Clinica Medica』の取り組みをぜひ参考にしてみてください。(クリニック未来ラボ編集部)