まず知っておきたい人事評価の導入フロー《クリニック向け!人事評価7つの基本のキ》【第2回】

人事評価の導入フロー

患者が医療機関を選ぶ上で、ポイントの一つとなるのがそこで働くスタッフの存在。親切丁寧な対応や優しい笑顔、寄り添う姿勢は患者にとって大きな支えとなります。

そんなクリニックの顔ともいえるスタッフが高いモチベーションで働けるよう、近年、医療機関でも注目を集めているのが「人事評価制度」。高齢化が加速する日本では医療ニーズが高まる一方で、医療現場は慢性的な人手不足に陥っており、今後、ますます人材確保が難しい時代になることが予想されています。人事評価制度は上手に活用することで、スタッフの成長や定着率の向上が期待でき、生産性や業績アップといった経営改善にもつながります。すでに興味・関心を寄せているドクターも多いのではないでしょうか。

そこで、未来のクリニック経営に役立つ情報を独自に研究してお届けする「クリニック未来ラボ」編集部では、連載「人事評価7つの基本のキ」を通じて、人事評価制度の導入に際して押さえておきたいポイントを、全7回にわたって詳しく解説します。

第2回は「人事評価の導入フロー」を取り上げます。

導入するその前に! まずは全体の流れを把握することから始めよう

「人事評価制度導入で得られる8つのメリット《クリニック向け!人事評価7つの基本のキ》【第1回】」でお伝えしたように、人事評価の導入には、「企業理念・ビジョンの浸透」をはじめ、「従業員のモチベーションの向上」「コミュニケーションの促進」「生産性の向上」などさまざまなメリットがあります。しかも、理念・ビジョン・方向性などは、人事評価とひもづけることでより浸透が図られるため、一人の成長が周囲に与える影響が大きい少数精鋭のクリニックこそ、生かしやすいともいわれています。

一般企業では何かしらの人事評価制度を取り入れている企業が増えており、中小企業庁の2022年版「中小企業白書 小規模企業白書」によると、全体の約58%が実施しています。しかしその一方で、医療ポータルサイト「ドクターズ・ファイル」が医科・歯科のクリニックを対象に行った「クリニックの人事評価制度に関するアンケート調査」(※)によると、クリニックの導入率は約2割。一般企業と比べると、まだその割合が低いことがわかりました。

アンケート調査

周囲に話を聞ける人も少ないため、いざ人事評価を導入しようと思っても、「何から始めればいいかわからない」「やり方がわからない」というドクターもいらっしゃるのではないでしょうか。

実際、導入したものの「成果がなかなか得られない」という声が聞かれるのも事実。その理由の一つが、導入の仕方を間違えているケースです。順番を誤ったり、実施すべき工程をスキップしたりなど、間違った方法で運用されてしまうと、本来期待できるはずのメリットが十分に享受できなくなってしまいます。せっかく導入したのに効果が得られないとしたら、それはもったいないことです。

そうならないためにも、人事評価の導入にあたっては、まずは導入前と導入後のフローを知り、全体像を把握することが重要となってきます。そうすることで、要所要所で押さえるべきポイントがわかり、適切な運用へとつながります。また、全体的なイメージをつかむことで、準備から実行までのスケジュールが立てやすくなり、運用ルールも設計しやすくなるでしょう。

人事評価の導入準備から運用まで10のステップ

それでは、一般的な人事評価の手順を見ていきましょう。1~4は人事評価を導入する前の準備段階のフロー、5以降は導入後の運用段階のフローです。

人事評価を導入する

詳しく一つひとつ解説していきます。

【人事評価の流れ】

■導入前

1.導入目的の明確化

クリニックの「今」を分析・把握することが第一歩です。クリニックがどんなスタッフを求めているのか、望む人物像を考え、人事に関して解決すべき問題点・悩みを明らかにしましょう。クリニックの理念・方向性などを再確認し、課題を洗い出すことで現状が見えてきます。現状が見えれば目的がはっきりし、この後のフローが具体化しやすくなります。

2.評価軸の設定

次に「何を評価するのか」、スタッフを評価する軸となる評価項目を言語化します。一般的な評価項目もありますが、クリニックの理念・ビジョン・方向性に合わせて独自の項目を加えて設定すれば、よりクリニックの現状に最適な評価項目のもとで、公正な評価をすることができるでしょう。

3.各評価軸の基準設定

評価項目を設定したら、次は「どのように評価するのか」という、項目ごとのレベルを設定します。あらかじめ決まった基準があれば、主観的な感覚で評価することが回避されるほか、複数の評価者がいる場合でも評価に差異が出づらくなります。それによって公正な評価が実現し、スタッフは納得感のある評価を得ることができます。

4.院内スタッフへの説明

準備が整ったら、クリニック内で説明会を行うなど、スタッフへの周知を行います。人事評価はスタッフの給与や待遇に関わる大事な制度ですので、導入目的や方法を丁寧に説明し、理解を得ることが大切です。導入後の齟齬を避けるためにも、納得してもらえるように努めましょう。

■導入後

5.運⽤開始

院内スタッフ全員に説明を終え、同意を得られたら、いよいよ運用スタート。運用が浸透するまでは、ある程度の時間がかかることを想定しておくと良いでしょう。また、給与・賞与の更新タイミングに合わせて、人事評価の周期を設定します。前述した「クリニックの人事評価制度に関するアンケート調査」によると、評価を実施する回数は年に2回(56.3%)が最も多く、次に1回(27.1%)、3回(10.4%)という結果でした。

人事評価の流れ

6.標設定

3で設定した評価項目を基に、各スタッフとクリニック・個人の成長に向けた目標を設定します。クリニックの理念・ビジョン・方向性に合わせて、現状にふさわしいレベルの目標とすることが理想です。目標は、経営側だけでなく、スタッフと一緒に考えると意見をくみ取れるだけでなく、適切なレベル設定をしやすくなるので全体的にバランスの良い目標となるでしょう。売上や患者数、時間配分など、数値化できるものは数字で目標を設定すると達成度が見えやすくなります。

7.⾃⼰評価

目標に対する結果・達成度をスタッフ自身で評価をしてもらいます。自分で評価を繰り返すことで、自身の振り返りや成長の確認ができるだけでなく、今後の課題を見つけ、何をすべきかを明確にできるという大きなメリットも。そこから実務に落とし込むことで、クリニック全体の生産性アップにもつながります。

8.上司評価

評価者はスタッフの自己評価内容を確認しながら、スタッフ一人ひとりを明確な基準のもとで公正に評価します。この時に評価者が注意したいのが、「評価エラー」です。これは、評価者の主観や感情によって、実態とは違う偏った評価をしてしまうこと。目標設定や基準が不明瞭なことで、評価が主観に左右される恐れがあります。スタッフの不満につながる大きな要因となりますので気をつけましょう。

9.フィードバック

人事評価の結果をスタッフに伝えます。評価すべき点を伝えることはもちろん、達成できなかった場合や反省点がある場合は、一緒に理由を考え、克服するための新たな目標を設定するなど丁寧にフォローしましょう。評価する側からの一方的な面談ではなく、双方が話しやすい雰囲気をつくることも大切です。

10.アクション

フィードバック面談で話し合った内容をもとに、スタッフは日々の業務に落とし込み、行動へと移していきます。評価者は日頃からスタッフとコミュニケーションを図りながら、仕事ぶりや進捗状況をチェックします。モチベーションを高める言葉がけなど、アクションしやすい職場の雰囲気づくりを心がけましょう。

導入前に「目的」を明確化し、運用ルールを設計しよう

ここまで、10の人事評価フローをご紹介しました。一つ一つが大切な工程ですが、中でもやはり押さえておきたいのが、最初に挙げた、1の「導入目的の明確化」です。導入することでどのようにクリニックとして成長したいか、理想とする姿を設定するところから始めてみましょう。ここが曖昧な場合、「なぜやるの?」「何を重視して評価しているの?」という疑問が湧いてしまい、スタッフに納得感を与えることが難しくなってしまいます。

そして、目的が固まったら、そこから逆算し、導入までのフローや導入後の運用ルールを構築・設計、そして実行へと移していきます。人事評価の運用までの準備には、時間がかかる場合が多いようです。

また、導入のタイミングとしては、組織の規模にもよりますが、多くの企業では、年度初めなど新入社員が多く入社する時期や、上半期締め後など、企業としての節目のタイミングでスタートさせることが一般的なようです。予算を組んだ時期と評価時期を合わせることで、評価を処遇に反映させやすく、わかりやすいというメリットがあります。クリニックでも参考にできるでしょう。

【まとめ】

人事評価は、導入前には目的の明確化や、評価軸の設定、スタッフへの周知などの体制づくりに時間をかけ、導入後はスタッフの理解を得ながら取り組む姿勢が大切だということをお伝えしました。評価者は、そのための知識やスキルをしっかり身につけることで、スタッフの成長やクリニックの経営改善につなげることができるでしょう。

次回、3回目のテーマは、人事評価に納得感を出すために大切な「評価軸の考え方」です。

※ドクターズ・ファイルによる「クリニックの人事評価制度に関するアンケート調査」。対象は、ドクターズ・ファイルを契約中の全国の医科・歯科クリニック。回答数は210院。2022年4月27日~5月6日にインターネット調査にて実施。

<執筆者プロフィール>
齋藤 由希(さいとう・ゆき)
ライター。DTP関連会社での雑誌制作・進行管理業務、アルバイト情報誌編集部での編集・執筆業務を経て、フリーランスのライター・エディターとして独立。著名人のインタビュー記事をはじめ、芸能・料理・健康などさまざまなジャンルの記事執筆や広告のコピーライティングなどに従事。ヨガ講師としても活動中。

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