導入前に知っておくべき「人事評価制度の全体像」
「人事評価制度導入で得られるメリット《クリニック向け!人事評価7つの基本のキ》【第1回】」の前回記事でもお伝えしたように、人事評価の導入には、「企業理念・ビジョンの浸透」をはじめ、「従業員のモチベーションの向上」「コミュニケーションの促進」「生産性の向上」などさまざまなメリットがあります。
しかも、理念・ビジョン・方向性などは、人事評価とひもづけることでより浸透が図られるため、一人の成長が周囲に与える影響が大きい少数精鋭のクリニックこそ生かしやすいともいわれています。
一般企業では何かしらの人事評価制度を取り入れている企業が増えており、中小企業庁の2022年版「中小企業白書・小規模企業白書」によると、全体の約58%が実施(企業規模別割合の加重平均)しています。
一方で、医療ポータルサイト「ドクターズ・ファイル」が医科・歯科のクリニックを対象に行った「クリニックの人事評価制度に関するアンケート調査」(※)によると、クリニックの導入率は約2割。一般企業と比べると、まだその割合が低い状況です。

そのため、周囲に話を聞ける人も少なく、いざ人事評価を導入しようと思っても、「何から始めればいいかわからない」「やり方がわからない」というドクターもいらっしゃるのではないでしょうか。
実際、導入したものの「成果がなかなか得られない」という声が聞かれるのも事実。その理由の一つが、導入の進め方を誤っているケースです。
順番を間違えたり、必要な工程をスキップしたりなど、適切ではない方法で運用してしまうと、本来期待できるはずのメリットが十分に享受できなくなってしまいます。せっかく導入したのに効果が得られないとしたら、それはもったいないことです。
こうした事態を防ぐためには、人事評価を導入する際、まず導入前後のフローを把握し、全体像を理解しておくことが重要です。
これにより、要所要所で押さえるべきポイントが明確になり、適切な運用へとつながります。さらに、導入後のイメージが具体化されることで、準備から実行までのスケジュールが立てやすくなり、運用ルールの設計もスムーズになるでしょう。
なお、より詳しくクリニックにおける人事評価制度の導入実態について知りたい方は、こちらの調査記事をご覧ください。
人事評価の導入フロー(準備〜運用まで10ステップ)
それでは、一般的な人事評価の手順を見ていきましょう。
下の図は、1~4が人事評価を「導入する前」の準備段階のフロー、5以降が「導入した後」の運用段階のフローです。

一つひとつのフローを詳しく解説していきます。
【人事評価の流れ】
■導入前
1.導入目的の明確化
クリニックの「今」を分析・把握することが第一歩です。クリニックがどんなスタッフを求めているのか、望む人物像を考え、人事に関して解決すべき問題点・悩みを明らかにしましょう。
クリニックの理念・方向性などを再確認し、課題を洗い出すことで現状が見えてきます。現状が見えれば目的がはっきりし、この後のフローが具体化しやすくなります。
2.評価軸の設定
次に「何を評価するのか」、スタッフを評価する軸となる評価項目を言語化します。一般的な評価項目もありますが、クリニックの理念・ビジョン・方向性に合わせて独自の項目を加えて設定すれば、よりクリニックの現状に最適な評価項目のもとで、公正な評価をすることができるでしょう。
こうした理由から、人事評価制度の効果は小規模なクリニックでも十分に発揮でき、結果として組織全体の成長につながります。
3.各評価軸の基準設定
評価項目を設定したら、次は「どのように評価するのか」という、項目ごとのレベルを設定します。あらかじめ決まった基準があれば、主観的な感覚で評価することが回避されるほか、複数の評価者がいる場合でも評価に差異が出づらくなります。
それによって公正な評価が実現し、スタッフは納得感のある評価を得ることができます。
4.院内スタッフへの説明
準備が整ったら、クリニック内で説明会を行うなど、スタッフへの周知を行います。
人事評価はスタッフの給与や待遇に関わる大事な制度ですので、導入目的や方法を丁寧に説明し、理解を得ることが大切です。導入後の齟齬を避けるためにも、納得してもらえるように努めましょう。
公正な評価を得て、仕事ぶりを認められたと感じることで、スタッフはクリニックへの信頼感と安心感を得やすくなります。頑張りを評価することは従業員エンゲージメントを高め、離職率の低下も期待できます。
看護師や医療事務、受付などクリニックで
働くスタッフを適切に評価・管理
■導入後
5.運⽤開始
院内スタッフ全員に説明を終え、同意を得られたら、いよいよ運用スタートです。運用が浸透するまでは、ある程度の時間がかかることを想定しておくと良いでしょう。
また、給与・賞与の更新タイミングに合わせて、人事評価の周期を設定します。「クリニックの人事評価制度に関するアンケート調査」(※)によると、クリニックが実施している評価の回数は、年に「2回」(56.3%)が最も多く、次に「1回」(27.1%)、「3回」(10.4%)という結果でした。頻度について迷っている方は、参考にしてみてください。

6.⽬標設定
3で設定した評価項目を基に、各スタッフとクリニック・個人の成長に向けた目標を設定します。クリニックの理念・ビジョン・方向性に沿い、現状に合った適切なレベルの目標とすることが理想です。
目標は経営側だけでなくスタッフと一緒に考えることで、意見をくみ取りやすくなり、より妥当なレベルに内容を調整できます。その結果、全体としてバランスの取れた目標になりやすいでしょう。
売上や患者数、時間配分など、数値で示せる項目はできるだけ数値化して設定すると、達成度が見えやすくなります。
7.⾃⼰評価
目標に対する結果・達成度をスタッフ自身で評価をしてもらいます。自分で評価を繰り返すことで、自身の振り返りや成長の確認ができるだけでなく、今後の課題を見つけ、何をすべきかを明確にできるという大きなメリットも。そこから実務に落とし込むことで、クリニック全体の生産性アップにもつながります。
8.上司評価
評価者はスタッフの自己評価内容を確認しながら、スタッフ一人ひとりを明確な基準のもとで公正に評価します。この時に評価者が注意したいのが、「評価エラー」です。
これは、評価者の主観や感情によって、実態とは違う偏った評価をしてしまうこと。目標設定や基準が不明瞭なことで、評価が主観に左右される恐れがあります。スタッフの不満につながる大きな要因となりますので気をつけましょう。
9.フィードバック⾯談
人事評価の結果をスタッフに伝えます。評価すべき点を伝えることはもちろん、達成できなかった場合や反省点がある場合は、一緒に理由を考え、克服するための新たな目標を設定するなど丁寧にフォローしましょう。
評価する側からの一方的な面談ではなく、双方が話しやすい雰囲気をつくることも大切です。
10.アクション
フィードバック面談で話し合った内容をもとに、スタッフは日々の業務に落とし込み、行動へと移していきます。
評価者は日頃からスタッフとコミュニケーションを図りながら、仕事ぶりや進捗状況をチェックします。モチベーションを高める言葉がけなど、アクションしやすい職場の雰囲気づくりを心がけましょう。
導入成功のポイントは「目的から逆算すること」
ここまで、10の人事評価フローをご紹介しました。一つ一つが大切な工程であり、中でもやはり押さえておきたいのが、最初に挙げた、1の「導入目的の明確化」です。
導入することでどのようにクリニックとして成長したいか、理想とする姿を設定するところから始めてみましょう。ここが曖昧な場合、「なぜやるの?」「何を重視して評価しているの?」という疑問が湧いてしまい、スタッフに納得感を与えることが難しくなってしまいます。
そして、目的が固まったら、そこから逆算し、導入までのフローや導入後の運用ルールを構築・設計、そして実行へと移していきます。人事評価の運用までの準備には、時間がかかる場合が多いようです。
また、導入のタイミングとしては、組織の規模にもよりますが、多くの企業では、年度初めなど新入社員が多く入社する時期や、上半期締め後など、企業としての節目のタイミングでスタートさせることが一般的なようです。
予算を組んだ時期と評価時期を合わせることで、評価を処遇に反映させやすく、わかりやすいというメリットがあります。クリニックでも参考にできるでしょう。
【まとめ】
人事評価は、導入前には目的の明確化や、評価軸の設定、スタッフへの周知などの体制づくりに時間をかけ、導入後はスタッフの理解を得ながら取り組む姿勢が大切だということをお伝えしました。
評価者は、そのための知識やスキルをしっかり身につけることで、スタッフの成長やクリニックの経営改善につなげることができるでしょう。
次回、3回目のテーマは、人事評価に納得感を出すために大切な「評価軸の考え方」です。
※ドクターズ・ファイルによる「クリニックの人事評価制度に関するアンケート調査」。対象は、ドクターズ・ファイルを契約中の全国の医科・歯科クリニック。回答数は210院。2022年4月27日~5月6日にインターネット調査にて実施。
<執筆者プロフィール>
齋藤 由希(さいとう・ゆき)
ライター。DTP関連会社での雑誌制作・進行管理業務、アルバイト情報誌編集部での編集・執筆業務を経て、フリーランスのライター・エディターとして独立。著名人のインタビュー記事をはじめ、芸能・料理・健康などさまざまなジャンルの記事執筆や広告のコピーライティングなどに従事。ヨガ講師としても活動中。

