人事評価制度導入で得られるメリット《クリニック向け!人事評価7つの基本のキ》【第1回】

人事評価制度導入

患者が医療機関を選ぶ上で、ポイントの一つとなるのがそこで働くスタッフの存在。親切丁寧な対応や優しい笑顔、寄り添う姿勢は患者にとって大きな支えとなります。

そんなクリニックの顔ともいえるスタッフが高いモチベーションで働けるよう、近年、医療機関でも注目を集めているのが「人事評価制度」。高齢化が加速する日本では医療ニーズが高まる一方で、医療現場は慢性的な人手不足に陥っており、今後、ますます人材確保が難しい時代になることが予想されています。人事評価制度は上手に活用することで、スタッフの成長や定着率の向上が期待でき、生産性や業績アップといった経営改善にもつながります。すでに興味・関心を寄せているドクターも多いのではないでしょうか。

そこで、未来のクリニック経営に役立つ情報を独自に研究してお届けする「クリニック未来ラボ」編集部では、連載「人事評価7つの基本のキ」を通じて、人事評価制度の導入に際して押さえておきたいポイントを、全7回にわたって詳しく解説します。

第1回は「人事評価制度導入のメリット」を取り上げます。

「人事評価の曖昧さ」が離職を招く要因の一つに

医療ポータルサイト「ドクターズ・ファイル」が実施した「患者調査」(※1)によると、クリニックを選ぶ際、通いやすさや医師・歯科医師に関する情報を重視している一方で、約3割の人が「スタッフに関する情報」と答えています。

クリニックを選ぶ

そのため、クリニックとしては優秀なスタッフに長く働いてほしいところですが、実際には入職しても長続きせず、人手不足に悩んでいるところが少なくないと聞きます。

仕事の専門性の高さや大変さも相まってか、実は医療業界の離職率は高い傾向にあり、転職サイクルの早さも業界ならではといえます。そして、離職する要因の一つとして考えられているのが、「人事評価の曖昧さ」です。

スタッフ側からしばしば聞こえてくるのが、「給料が上がらないのはなぜ?」「どうやって評価されているかがわからない」「どうしてあのスタッフは評価が高いのか、納得ができない」などといった不満の声。

一方、経営側からも、「スタッフがすぐに辞めてしまう」「どうしたらスタッフが前向きに働いてくれるのか」「注意したいことがあっても、ベテランスタッフには言いづらい」などといった、悩ましい声が聞こえてきます。

スタッフの成長に欠かせない「人事評価制度」とは?

しかし、クリニックの発展にはスタッフの成長が肝となります。スタッフ一人ひとりが理念に共感し、同じ方向に向かって一丸となれているかによって、その発展スピードは大きく変わります。

そこで、やはり無視できないのが「人事評価制度」です。この制度は、事業所独自でスキルや成果、働きぶりなどの指標をつくり、従業員を公正に評価することで、給与・役職などの処遇に反映するというもの。それぞれの職場で決めた同じ物差しで働きぶりを評価するため、従業員は納得感のある評価を得ることができ、より意欲や向上心を持って働きやすくなるという効果が期待できます

人事評価制度

■3つの評価制度の種類

評価制度

企業が定めた人事制度のルールで従業員の行動や成果を評価し、その結果に応じて等級や報酬に反映していく制度です。従業員のモチベーションアップや育成が期待でき、一人ひとりの能力・成果を把握することで、配属や異動に生かすことができます。

等級制度

従業員の能力や業績をもとに、役割や職務といった立場を決める制度です。等級に応じて人事評価を行い、その結果が他の制度へと影響します。人事評価制度の基盤ともいわれる中心的な考え方で、軸となるのは能力・職務・役割の3つです。

報酬制度

等級や評価結果を反映し、従業員の報酬を決める制度。報酬は、給与や賞与、退職金といった金銭的報酬のほか、福利厚生などの非金銭的報酬もあります。民間企業では導入・運用が進んでいる人事評価制度。近年は医療機関でも大規模病院を中心に導入が進んでおり、今後はクリニックにも浸透していくものと予想されます。

少数精鋭のクリニックこそ生かしやすい8つの導入メリット

ドクターズ・ファイルでは、全国の医科・歯科クリニックに向け、「クリニックの人事評価制度」に関するアンケート調査(※2)を実施。「人事評価制度を導入している」と答えた院長にその目的を尋ねたところ、「スタッフのモチベーション向上」と答えた人が75.0%と最も多く、次に「クリニックの成長」、「医療機関の理念やビジョン、目標の明示」と「人材育成」が同率という結果が出ました

スタッフのモチベーション

このように人事評価制度にはさまざまなメリットがあります。中でも、主に期待できるものが以下の8つです。

【人事評価制度のメリット】

1.企業理念・ビジョンの浸透

クリニックの理念・ビジョン・方向性を明文化することで、スタッフの職場理解が深まります。さらに、院長などの評価者が日々の忙しい診療の合間や朝会などの短い時間では伝えきれない部分を、評価項目に落とし込むことで、どういったスタッフが評価されるか、何を期待しているかといった求める人物像を明確にできます。

2.生産性の向上

クリニックの評価基準が明確になるため、スタッフは自身が取るべき行動がわかり、スキルアップを図りやすくなります。その結果として、一人あたりの生産性が高まり、さらにはクリニック全体の生産性の向上につながります。

3.公平感のある処遇

評価は、給与や等級などの処遇を決める際の根拠となるものです。曖昧な評価ではなく、客観的な評価項目、基準をもとに評価することで、自ずと処遇に対しても公平性が高められ、スタッフの納得感の向上につなげられます。

4.モチベーションの向上

明確な評価基準を設けることで透明性が高まり、スタッフは納得感を得ることができます。頑張りを評価され、認められることで仕事へのモチベーションが増す効果があります。

5.コミュニケーションの促進

院長などの評価者からのフィードバック面談は、頑張ったことに対する言葉をかけたり、今後の目標を一緒に考えたりする大切なコミュニケーションの場となります。直接対話をすることでより一層、強固な信頼関係を築けるでしょう。

6.人材育成

客観的な評価項目と基準に基づいて評価するため、クリニックが求める人物像に対し、スタッフができていること、できていないことを明確に把握できるようになります。見えてきた課題や目標に向けて、今後何をすべきかを一緒に考えることでスタッフの育成につながります。

7.人材のスキル管理

人事評価は半期に1回、1年に1回のように、定期的に行うため、スタッフ一人ひとりのスキルや特性、育成状況を細かく把握することが可能に。その情報を活用することで、今後の採用計画や適材適所の人材配置に役立てられます。

8.信頼関係・エンゲージメント効果

公正な評価を得て、仕事ぶりを認められたと感じることで、スタッフはクリニックへの信頼感と安心感を得やすくなります。頑張りを評価することは従業員エンゲージメントを高め、離職率の低下も期待できます。

以上が、主な人事評価制度の導入によるメリットです。いずれもクリニックの成長にとって、必要なものばかりといえるでしょう。そして人事評価制度は、従業員の多い大きな企業や組織、医療機関では総合病院のようなところに向いていると思われるかもしれませんが、実は少数精鋭のクリニックこそ、上記のメリットを最大限に生かしやすいともいえます。

大きな理由としては

1.クリニックの理念・ビジョン・方向性が浸透しやすいため、チームがまとまりやすい

2.一人の成長が周囲に与える影響が大きく、お互いが良い刺激を感じながら前向きに業務に取り組むことができる

などが挙げられます。その結果、クリニックの成長へとつながります。

【まとめ】

以上の説明からわかるように、人事評価制度にはクリニックにとって多くのメリットがあります。注意したいのが、ただ人事評価を導入するだけではもったいないということ。その効果を最大限に引き出すためには、導入前から実際に運用に至るまでがどのような流れとなっているのか、評価軸をどのように定めるかなど、ドクターが基本的な知識を抑えておくことがポイントです。 次回のテーマは「人事評価の流れ」です。お楽しみに。

※1 ドクターズ・ファイルによる「患者調査」。対象は、関東(東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県)に在住、もしくは勤務している20~59 歳の方1600人。2020年7月30日~8月5日にインターネット調査にて実施。
※2 ドクターズ・ファイルによる「クリニックの人事評価制度に関するアンケート調査」。対象は、ドクターズ・ファイルを契約中の全国の医科・歯科クリニック。回答数は210院。2022年4月27日~5月6日にインターネット調査にて実施。

<執筆者プロフィール>
齋藤 由希(さいとう・ゆき)
ライター。DTP関連会社での雑誌制作・進行管理業務、アルバイト情報誌編集部での編集・執筆業務を経て、フリーランスのライター・エディターとして独立。著名人のインタビュー記事をはじめ、芸能・料理・健康などさまざまなジャンルの記事執筆や広告のコピーライティングなどに従事。ヨガ講師としても活動中。

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