スタッフが辞めてしまう背景には“評価の不透明さ”がある
医療情報ポータルサイト「ドクターズ・ファイル」 が実施した「患者調査」(※1)によると、患者はクリニックを選ぶ際、通いやすさや医師・歯科医師に関する情報を重視している一方で、約3割の人が「スタッフに関する情報」と答えています。

患者がクリニック選びで“スタッフに関する情報”を重要視していることからも、優秀なスタッフが長く働き続けられる環境づくりは欠かせません。しかし実際には、人材難にもかかわらず離職が起きやすく、クリニックの経営を悩ませるケースも少なくありません。
仕事の専門性の高さや大変さも相まってか、実は医療業界の離職率は高い傾向にあり、転職サイクルの早さも業界ならではといえます。そして、離職する要因の一つとして考えられているのが、「人事評価の曖昧さ」です。
スタッフ側からしばしば聞こえてくるのが、「給料が上がらないのはなぜ?」「どうやって評価されているかがわからない」「どうしてあのスタッフは評価が高いのか、納得ができない」などといった不満の声。
一方、経営側からも、「スタッフがすぐに辞めてしまう」「どうしたらスタッフが前向きに働いてくれるのか」「注意したいことがあっても、ベテランスタッフには言いづらい」などといった、悩ましい声が聞こえてきます。
なお、より詳しく患者が何を重視してクリニックを探しているのかについて知りたい方は、こちらの調査記事をご覧ください。
スタッフの成長を支える「人事評価制度」とは?3つの種類を紹介
しかし、クリニックの発展にはスタッフの成長が肝となります。
スタッフ一人ひとりが理念に共感し、同じ方向に向かって一丸となれているかによって、その発展スピードは大きく変わります。そこで、やはり無視できないのが「人事評価制度」です。
この制度は、事業所独自でスキルや成果、働きぶりなどの指標をつくり、従業員を公正に評価することで、給与・役職などの処遇に反映するというものです。
それぞれの職場で決めた同じ物差しで働きぶりを評価するため、従業員は納得感のある評価を得ることができ、より意欲や向上心を持って働きやすくなるという効果が期待できます。
下の図は、人事評価制度の基本的な流れを整理したものです。

図のとおり、評価は処遇(昇給・昇格・賞与)に連動します。クリニックで用いられる主な3つの評価制度は次のようです。
評価制度
企業が定めた人事制度のルールで従業員の行動や成果を評価し、その結果に応じて等級や報酬に反映していく制度です。従業員のモチベーションアップや育成が期待でき、一人ひとりの能力・成果を把握することで、配属や異動に生かすことができます。
等級制度
従業員の能力や業績をもとに、役割や職務といった立場を決める制度です。等級に応じて人事評価を行い、その結果が他の制度へと影響します。人事評価制度の基盤ともいわれる中心的な考え方で、軸となるのは能力・職務・役割の3つです。
報酬制度
等級や評価結果を反映し、従業員の報酬を決める制度。報酬は、給与や賞与、退職金といった金銭的報酬のほか、福利厚生などの非金銭的報酬もあります。等級や評価結果を反映し、従業員の報酬を決める制度です。
民間企業では一般的ですが、近年は医療機関でも導入が進んでおり、大病院に限らずクリニックでも導入が増えています。
クリニックの人事評価制度導入で得られる8つのメリット
ドクターズ・ファイルの「クリニックの人事評価制度」(※2)によると、「人事評価制度を導入している」と回答した医科・歯科クリニックの48院(210院中)の院長のうち、75.0%が「スタッフのモチベーション向上」を導入理由に挙げました。
続いて、「クリニックの成長」(60.4%)、「医療機関の理念やビジョン、目標の明示」(56.3%)と「人材育成」(56.3%)が同率で並ぶ結果となりました。

制度導入の狙いは、現場の活性化や組織づくりにあることがわかります。なお、より詳しくクリニックにおける人事評価制度の導入実態について知りたい方は、こちらの調査記事をご覧ください。
こうした背景を踏まえて、ここからはこれらの理由とも重なる、クリニックの人事評価制度導入で得られる8つのメリットを見ていきましょう。
1.クリニック理念・ビジョンの浸透
クリニックの理念・ビジョン・方向性を明文化することで、スタッフの職場理解が深まります。
さらに、院長などの評価者が日々の忙しい診療の合間や朝会などの短い時間では伝えきれない部分を、評価項目に落とし込むことで、どういったスタッフが評価されるか、何を期待しているかといった求める人物像を明確にできます。
2.生産性の向上
クリニックの評価基準が明確になるため、スタッフは自身が取るべき行動がわかり、スキルアップを図りやすくなります。その結果として、一人あたりの生産性が高まり、さらにはクリニック全体の生産性の向上につながります。
3.公平感のある評価・処遇
評価は、給与や等級などの処遇を決める際の根拠となるものです。曖昧な評価ではなく、客観的な評価項目、基準をもとに評価することで、自ずと処遇に対しても公平性が高められ、スタッフの納得感の向上につなげられます。
4.モチベーションの向上
明確な評価基準を設けることで透明性が高まり、スタッフは納得感を得ることができます。頑張りを評価され、認められることで仕事へのモチベーションが増す効果があります。
5.コミュニケーションの促進
院長などの評価者からのフィードバック面談は、頑張ったことに対する言葉をかけたり、今後の目標を一緒に考えたりする大切なコミュニケーションの場となります。直接対話をすることでより一層、強固な信頼関係を築けるでしょう。
6.人材育成
客観的な評価項目と基準に基づいて評価するため、クリニックが求める人物像に対し、スタッフができていること、できていないことを明確に把握できるようになります。見えてきた課題や目標に向けて、今後何をすべきかを一緒に考えることでスタッフの育成につながります。
7.人材のスキル管理
人事評価は半期に1回、1年に1回のように、定期的に行うため、スタッフ一人ひとりのスキルや特性、育成状況を細かく把握することが可能に。その情報を活用することで、今後の採用計画や適材適所の人材配置に役立てられます。
8.信頼関係・エンゲージメントの向上
公正な評価を得て、仕事ぶりを認められたと感じることで、スタッフはクリニックへの信頼感と安心感を得やすくなります。頑張りを評価することは従業員エンゲージメントを高め、離職率の低下も期待できます。
看護師や医療事務、受付などクリニックで
働くスタッフを適切に評価・管理
少数精鋭のクリニックこそ人事評価制度が活きる理由
上で述べたように、院長が思う理念・ビジョンの浸透やスタッフのモチベーション向上など、人事評価制度の導入によるメリットは多くあります。いずれもクリニックの成長にとって、必要なものばかりといえるでしょう。
実は、人事評価制度は従業員数が多い病院や企業に適していると思われがちですが、少数精鋭で運営されるクリニックこそ、制度のメリットを最大限に生かしやすいといえます。
その理由としては、主に次の2点が挙げられます。
1.理念・ビジョンの浸透が早い
少人数ゆえに、クリニックの理念や方向性がメンバー全員に伝わりやすく、共通認識を持ったチームづくりが進めやすくなります。
2.一人の成長がチーム全体に良い影響を与える
メンバーそれぞれの行動変化やスキルアップが周囲にダイレクトに波及し、互いに刺激し合いながら前向きに業務へ取り組む環境が生まれます。
こうした理由から、人事評価制度の効果は小規模なクリニックでも十分に発揮でき、結果として組織全体の成長につながります。
【まとめ】
ここまで見てきたように、人事評価制度には、クリニックの成長や組織づくりに役立つ多くのメリットがあります。
一方で、注意したいのが、ただ人事評価を導入するだけではもったいないということ。その効果を最大限に引き出すためには、導入前の設計段階から実際の運用までの流れを理解し、評価軸をどのように定めるかといった基本的な知識を院長自身がしっかりと押さえておくことが重要です。
次回のテーマは「人事評価の流れ」です。ぜひご覧ください。
※1 ドクターズ・ファイルによる「患者調査」。対象は、関東(東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県)に在住、もしくは勤務している20~59 歳の方1600人。2020年7月30日~8月5日にインターネット調査にて実施。
※2 ドクターズ・ファイルによる「クリニックの人事評価制度に関するアンケート調査」。対象は、ドクターズ・ファイルを契約中の全国の医科・歯科クリニック。回答数は210院。2022年4月27日~5月6日にインターネット調査にて実施。
<執筆者プロフィール>
齋藤 由希(さいとう・ゆき)
ライター。DTP関連会社での雑誌制作・進行管理業務、アルバイト情報誌編集部での編集・執筆業務を経て、フリーランスのライター・エディターとして独立。著名人のインタビュー記事をはじめ、芸能・料理・健康などさまざまなジャンルの記事執筆や広告のコピーライティングなどに従事。ヨガ講師としても活動中。

