【人事担当者は必読!】クリニックのための人事評価ガイド

人事評価者が知っておくべき、クリニックのための人事評価ガイド

近年、スタッフが働きやすく、働きがいのある職場づくりのために、医療機関でも取り入れられているのが「人事評価制度」です。

上手に活用することで、スタッフの成長や定着率の向上が期待でき、生産性や業績アップといった経営改善にもつながります。近年は、人事業務を効率化できる「ドクターズ・ファイル クリニコ」のようなクリニック専用の人事評価システムも登場しており、クリニックでも関心を寄せている院長や理事長、事務長などの労務責任者は多いのではないでしょうか。

この記事では、人事評価制度の導入を検討中のクリニックに向け、クリニックが導入すると良い理由や導入のメリット、運用までの手順、評価軸の考え方、成功の秘訣など、人事評価制度に関する基礎的な知識をまとめました。人事評価制度への理解を深める上で、お役立ていただければ幸いです。

人事評価制度とは?

「人事評価制度」とは、事業所独自でスキルや成果、働きぶりなどの指標をつくり、従業員を公正に評価することで、給与・役職などの処遇に反映するというもの。評価するための明確な物差しがあることにより、従業員は納得感のある適切な評価を得られ、より意欲や向上心を持って働きやすくなります。その結果、生産性や品質の向上が期待できます。

民間企業では導入・運用が進んでいますが、近年、医療機関でも大規模病院を中心に広がっており、今後はクリニックにも浸透していくものと予想されています。

「評価の曖昧さ」が離職を招く要因の一つに

仕事の専門性の高さや大変さも相まってか、医療業界の離職率は高い傾向にあり、転職サイクルの早さも業界ならではといえます。そして、離職する要因の一つとして考えられているのが、「評価の曖昧さ」です。

スタッフ側から聞こえてくるのが、「給料が上がらないのはなぜ?」「どうやって評価されているかがわからない」「あのスタッフの評価が高いのは納得できない」などといった不満の声。一方のクリニックの経営側からも、「スタッフがすぐに辞めてしまう」「どうしたらスタッフが前向きに働いてくれるのだろうか」などといった、悩ましい声が聞こえてきます。

しかし、クリニックの発展にはスタッフの成長が肝となります。スタッフ一人ひとりが理念に共感し、同じ方向に向かっていかに一丸となれているかによって、その発展スピードは大きく変わります。そこで、早期離職など課題解決の手段の一つとして期待されているのが人事評価制度なのです。

小規模なクリニックこそ人事評価制度を導入すべき理由

医療機関でも大規模病院を中心に広がっている人事評価制度ですが、実は大規模な病院よりもクリニックのほうが、そのメリットを最大限に生かしやすいともいわれています。

その大きな理由は2つ。一つに、一人あたりの影響力が大きいため、互いが良い刺激を与え合いながら前向きに業務に取り組めること。二つ目に、理念やビジョン、方向性が浸透しやすく、チームがまとまりやすいことが挙げられます。つまり、スタッフが少ないからこそ、一人の成長がクリニックの発展に大きく寄与しやすいと考えられるわけです。

クリニックに人事評価制度を導入するメリット

主に8つのメリットが期待できます。それが、「企業理念・ビジョンの浸透」「生産性の向上」「公平感のある処遇」「モチベーションの向上」「コミュニケーションの促進」「人材育成」「人材のスキル管理」「信頼関係・エンゲージメント効果」です。いずれもクリニックの成長にとって必要なものばかりといえるのではないでしょうか。

■8つの導入メリット

1 企業理念・ビジョンの浸透
2 生産性の向上
3 公平感のある処遇
4 モチベーションの向上
5 コミュニケーションの促進
6 人材育成
7 人材のスキル管理
8 信頼関係・エンゲージメント効果

なお、医療ポータルサイト「ドクターズ・ファイル」が全国の医科・歯科クリニックを対象に実施した「クリニックの人事評価制度に関する調査」(※)では、人事評価制度を導入した理由について「スタッフのモチベーション向上」と答えたクリニックが75.0%と最多でした。この結果からも、モチベーションの活性化に期待しているクリニックが多いことが伺えました。

一つ一つのメリットをより詳しく知りたい方は、こちらの記事もぜひチェックしてみてください。

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クリニックでの人事評価の導入フロー

下図が人事評価制度を導入する前の準備段階から導入後の運用段階までの、一般的な手順です。導入をする前に、まずは一連の流れを理解し、全体像を把握することが適切な運用につながります。

人事評価のフロー

評価軸の設定やフィードバック面談など、一つ一つが大切な工程ですが、中でも押さえておきたいのが、一番目に行う「導入目的の明確化」です。人事評価制度を導入することで、どのようにクリニックとして成長したいか、理想とする姿を経営理念や経営ビジョンに基づいて設定するところから始めてみましょう。

この部分が曖昧な場合、経営側に対して「なぜやるの?」「何を重視して評価しているの?」といった疑問が湧き、スタッフに納得感を与えることが難しくなってしまいます。

一つ一つの工程をより詳しく知りたい方は、こちらの記事もぜひチェックしてみてください。

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クリニックでの人事評価軸の考え方

人事評価軸とは、従業員を公正に評価するために経営側が設ける基準であり、これを明確に言語化することにより人事評価制度が成功へと近づきます。

評価軸は一般的によく活用されている「能力評価」「情意評価」「業績評価」の3つの評価基準と照合しながら、評価の対象となる行動や能力を評価項目に落とし込み、具体的な評価内容を設定していきます。求められる業務における成果は等級や役職、職種ごとに違うため、それぞれに最適な基準を設ける必要があります。

このとき、実際に制度を設計する前にあらかじめ自院の課題を洗い出し、経営戦略や方針と評価の方向性を合わせることがポイントです。

実は、人事評価軸の設定は、大切がゆえに経営側がつまずきやすい工程でもあります。人事評価軸の考え方をより詳しく知りたい方は、こちらの記事もぜひチェックしてみてください。

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クリニックの人事評価者に必要なスキル

人事評価者は、業績や目標に対するスタッフの自己評価を踏まえ、明確な評価基準のもと、公平な視点で評価しなければなりません。さらに、スタッフと一緒に目標を設定するほか、フィードバック面談や中間面談を通じて、良い部分をさらに伸ばし、見直しが必要な部分は今後の取り組み方を指導するなど、スタッフのモチベーション向上や成長につなげることも評価者の大切な役割です。

そこで評価者に求められるのが、「適切な目標設定力」「目標達成へのマネジメント力」「公平な評価力」「信頼を得る評価面談力」「偏りを回避する評価エラー理解力」の5つの能力です。

■評価者に必要な5つのスキル

1 適切な目標設定力
2 目標達成へのマネジメント力
3 公平な評価力
4 信頼を得る評価面談力
5 偏りを回避する評価エラー理解力

評価には責任が伴いますので、評価者は常にスタッフから信頼を獲得できる評価を行うように、スキルアップに努めたいものです。一つ一つのスキルをより詳しく知りたい方は、こちらの記事もぜひチェックしてみてください。

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クリニックでの人事評価時の注意点

いざ人事評価制度を導入しても、適切に運用できなかった場合、スタッフのモチベーションの低下や、職場内の人間関係の悪化、離職者の増加など、逆効果を生んでしまうこともあるので注意が必要です。

そうした事態を招かないためにも運用にあたっては、「理念・ビジョンとずれている」「評価基準が明確でない」「評価項目が極端に多い」「フィードバックをおろそかにしている」「定期的に見直しをしていない」の5つの注意点を押さえておくことが肝要です。もしこれらのうちのいずれかに心当たりがある場合、見直しを検討してみてもいいかもしれません。

■5つの注意点

1 理念・ビジョンとずれている
2 評価基準が明確でない
3 評価項目が極端に多い
4 フィードバックをおろそかにしている
5 定期的に見直しをしていない

人事評価制度の運用に悩むクリニックが陥りがちな注意点と対策について、より詳しく知りたい方は、こちらの記事もぜひチェックしてみてください。

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クリニックでの人事評価エラーの種類と対策

「人事評価エラー」とは、人事評価を行う際、評価者の先入観や個人的感情から無意識のうちに不公平な評価に陥ってしまうことです。

例えば、被評価者の目立ちやすい特徴やある評価項目の結果に引っ張られ、全体としても不適切な評価をしてしまう「ハロー効果」、評価が全体的に甘くなってしまう「寛大化傾向」など、さまざまです。

■注意すべき人事評価エラー11個

1 ハロー効果
2 中心化傾向
3 寛大化傾向
4 厳格化傾向
5 逆算化傾向
6 期末誤差
7 対比誤差
8 論理誤差
9 アンカリング
10 親近感によるエラー
11 帰属要因によるエラー

人事評価は人間が行うため、評価者がどんなに注意を払って公平な評価を心がけても、主観や偏見、感情の影響をまったく受けずに行うことは難しいもの。そのため、前もって人事評価エラーの種類を理解し、評価基準を明確に設定したり、具体的な事実に基づいて評価したりなど、対策を講じることが求められます。

よくある人事評価エラーの種類と具体的な事例、対策について、より詳しく知りたい方は、こちらの記事もぜひチェックしてみてください。

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クリニックでのフィードバック面談の効果と方法

「フィードバック面談」とは、評価者から被評価者へ人事評価の結果とその根拠を伝え、今後の成長に向けての課題や来期の目標設定について話し合う場のことを指します。被評価者が評価内容に対して納得感を得る方法として、多くの企業が取り入れています。

ドクターズ・ファイルの「クリニックの人事評価制度に関する調査」(※)でも、人事評価制度を導入するクリニックのうち、81.3%とおよそ8割がフィードバック面談を実施していることが明らかになっています。

実施することで、人材の育成やスタッフのモチベーションの向上、コミュニケーションの円滑化などの効果が期待できます。

フィードバック面談はただ人事評価の結果や処遇を伝えるだけの場ではありません。事前準備からアイスブレイク、スタッフからの自己評価、課題の話し合いなど、事前に流れを押さえておくことが大切です。

フィードバック面談の主な流れと評価者が気をつけたいポイントについて、より詳しく知りたい方は、こちらの記事もぜひチェックしてみてください。

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まとめ

超高齢社会による医療需要の増加や働き方改革の推進によって、医療従事者の採用は今後、ますます厳しさを増していくといわれています。公平な人事評価によって優秀な人材を確保したいと考えるクリニックにとって、人事評価制度は強い味方となるはずです。

もし必要性を感じていても、「開始前の設計から全部一人でできる自信がない」「うまく運用にのせられるか不安」となかなか導入に踏み切れない場合は、「ドクターズ・ファイル クリニコ」のようなクリニック専用の人事評価システムを利用してみるのも手です。ぜひこの記事を参考にしながら人事評価制度を効果的に活用し、クリニックの成長へとお役立ていただけたら幸いです。(クリニック未来ラボ編集部)

※ドクターズ・ファイルによる「クリニックの人事評価制度に関する調査」。対象は、ドクターズ・ファイルを契約しているクリニック(医科・歯科)。回答数は210件。2022年4月27日〜5月6日にインターネット調査にて実施。

イラスト/岸 潤一

ドクターズ・ファイル クリニコ

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