眼科の開業医の平均年収は約3,053万円|勤務医との差が生まれる理由
初めに、眼科で開業した場合、どの程度の年収増加が狙えるのか、開業医と勤務医の年収差を比較しましょう。
年収の金額について、厚生労働省の「第23回医療経済実態調査 (医療機関等調査) 報告 -令和3年実施-」(※1)によると、眼科の開業医の平均年収は「約3,053万円」です。一方で、2012年9月に独立行政法人労働政策研究所・研修機構が発表した「勤務医の就労実態と意識に関する調査」(※2)では、眼科勤務医の年収は「約1,078万円」と報告されています。
眼科の開業医が勤務医の3倍近い年収を得ている背景には、日本国民の10人に1人がコンタクトレンズを装用しているといわれる昨今、コンタクトレンズの処方が増加しており、安定した収入源を確保できる点が影響しています。また保険適用外の白内障手術や視力矯正手術のレーシックなど、短時間で高い収益を得られる手術の導入を自身で選べる点も挙げられるでしょう。
一方、勤務医は固定給与制が多く、収入が安定している一方で、診療実績による大幅な収入増加が難しいです。
なお、開業医・勤務医の平均年収は調査年によって変動が見られる点にはご留意ください。
※1 出典:厚生労働省 中央社会保険医療協議会「第23回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告 -令和3年実施-」
※2 出典:独立行政法人・労働政策研究・研修機構「勤務医の就労実態と意識に関する調査(2012年9月)」
眼科の開業医の年収が他科よりも高い理由
実は、開業医の中で眼科の年収は他科よりも高い傾向があります。例えば、前述したように「第23回医療経済実態調査 (医療機関等調査) 報告 -令和3年実施-」の調査によれば、眼科の開業医の平均年収は約3,053万円であるのに対し、最も人数の多い内科の開業医の平均年収は約2,051万円です。眼科の開業医が高年収な理由を、それぞれ詳しく解説しましょう。
短時間の手術が多い
多くの眼科の手術は、短時間で実施できるのが特徴です。代表的な眼科医の手術例と要する手術時間をまとめました。
- 白内障手術:約15〜30分
- 緑内障手術:約30分~1時間
- ICL(眼内コンタクトレンズ)挿入術:約15分
- レーシック手術:約20分
このように、眼科は短時間で実施できる手術が多いため、1日で複数件の手術を行うことが可能です。後述するように、開業時には手術機器や設備について多額の初期投資が発生しますが、年間の手術件数が多いほど固定費を分散できます。そのため眼科クリニックは、高い利益率を維持しやすい点が魅力といえるでしょう。
日本国内での安定需要
日本では高齢化に伴い、白内障や緑内障といった目の病気を患う人の数が増加傾向にある上、遺伝的要因や環境要因から子どもの近視も増えています。また、定期的な診察や処方が必要になるコンタクトレンズ使用者も多いほか、近年では就寝時に使用することで近視視力を矯正するオルソケラトロジーの需要も広がっています。
このように、眼科は老若男女問わず、小児から高齢者まで幅広い層のさまざまなニーズに応えられるため、安定的に患者を確保しやすい傾向にあります。
視力矯正手術の普及と高額診療
2000年に厚生労働省(旧・厚生省)が、エキシマレーザー装置を近視や遠視、乱視などの屈折矯正手術に利用することを正式に承認して以降、日本でも急速にレーシック手術が普及しました。近年ではICL(眼内コンタクトレンズ)などとともに一般化したことで、視力矯正手術を受ける患者が増加しています。
この背景には、視力矯正の技術の進歩により手術の安全性と効果が向上し、患者の関心が高まっている点が挙げられるでしょう。レーシックやICLなどの視力矯正手術は高額な上、患者の全額自己負担の自由診療となりますが、患者の生活の質を短期間で大きく向上させるため、満足度も上がりやすく、口コミによる新規患者獲得にもつながります。
年収以外にも多数!眼科で開業医になる魅力・やりがい
ここまで眼科医の年収について解説しましたが、年収だけでは開業するかどうかを決められない方もいるでしょう。続いては、地域貢献など眼科で開業医になる魅力ややりがいについて詳しく解説します。
地域医療への直接的な貢献
かかりつけ医として患者の目の健康を長期的に見守り、適切な治療や予防を提供できる眼科クリニックは、地域医療に大きく貢献できる点が魅力です。地域の患者と向き合い、直接的に生活の質向上をサポートできることに大きなやりがいを感じられるでしょう。
また、地元医師会に所属して地域の学校や施設と連携することで、地域のコミュニティーと深く関わり、幅広い層に健康診断や眼科検診を通じたサポートを提供できます。地域住民と信頼関係を築きながら、その土地に根差した医療を提供することで、住民から頼られる存在になれる点も魅力といえます。
ワークライフバランスの良さ
眼科の開業医は、ワークライフバランスが取りやすいという特徴があります。多くの眼科治療や手術が日帰りで行えることもあって業務の時間が安定しており、夜間や休日の緊急対応がほとんどないためです。
開業医は診療時間の設定や業務量を自身でコントロールできるため、オンとオフが明確で、仕事と家庭生活や趣味の両立がしやすくなるでしょう。また、予約制を導入すれば効率的に診療スケジュールを組めるだけでなく、患者の待ち時間短縮にもつながります。自己学習の時間も確保しやすく、最新の医療技術や知識の習得に励める点も魅力です。
なお全国の開業医500人を調査した「開業医白書2024」によれば、開業医の24.4%がウェブ予約システムを導入しています。
患者の生活の質を直接上げられる喜び
眼科の開業医には、患者の生活の質を直接向上させられる大きな喜びがあります。勤務医の場合、患者は一定の治療を終えると紹介先の病院やクリニックに戻ることも少なくなく、その後の経過や回復の度合いを知ることがしづらい傾向にあります。
一方で開業医の場合、継続的な診療を通じて信頼関係を構築し、患者としっかり向き合った上で長期的な視点を持って治療を行いやすい傾向にあります。特に視力の改善や眼疾患の治療は、患者の日常生活に直接的な影響を与えるため、手術前後の変化を実感してもらえることは、モチベーションの向上につながるでしょう。
また、患者の生活背景や職業、趣味などを考慮し、例えば、デスクワークが多い患者には目の疲れを軽減する方法を、スポーツに打ち込む患者には競技に適した視力矯正法をといったふうに、一人ひとりに寄り添った医療を提供することで、さらに患者の満足度向上が期待できます。
眼科の開業医がさらに年収を増やす方法
こういった地域や患者への貢献を継続するためには、安定したクリニック経営や労力に見合った額の収入が欠かせません。そこで続いては、眼科の開業医がさらに年収を増やすポイントを5つにまとめました。
自由診療を増やす
自由診療のメリットは、保険診療に比べて柔軟な価格設定が可能な点です。視力矯正術といった高度な治療を提供できれば、高い収益を見込めます。また、自由診療は保険診療では対応できない患者の特殊なニーズに応えやすいため、満足度の向上につながることも大きな魅力です。
具体的には、レーシック手術やICL挿入術、オルソケラトロジーといった視力矯正治療などが挙げられます。他には、眼科ドックの導入や高機能コンタクトレンズの処方といったコンタクトレンズ関連の自由診療も収益向上の機会になります。
ただし、最善の治療をするために自由診療を取り入れたにもかかわらず、導入した高額機器が患者のニーズに合わなかったり、ビジネス感を強めて患者の受診意欲を低下させてしまったりすると、経営に悪い影響を及ぼしかねません。また、不明瞭な料金の設定や事前の説明不足があった場合、施術後にトラブルに発展する可能性もあるため、導入コストを十分に理解した上で、自由診療を取り入れると良いでしょう。
優秀な人材の採用や若手医師の育成環境の整備
勤務医から開業医になったときは、個人として働くのではなく、自身を経営者として位置づけてチームを作って運営するというマインドが大切です。理念をもとに医師やスタッフ一人ひとりが一丸となり、主体性を持って自走できる組織となることで、院長個人の負担が減り、診療や経営に専念できるようになります。
特にスタッフの質はクリニックの評判に直結しますので、開業当初は人材採用や教育に力を入れると良いでしょう。また、開業時の医師は院長一人であることがほとんどですが、将来的に複数医師による診療体制や分院展開、継承を見据えている方は、若手の医師を育てるのもクリニックの長期運営の観点で大切です。
医師が増えれば、院長が病気やけがなどで一時的に就業不能になった場合でも、その間休業することなく、収入が途絶えるようなリスクを下げられます。医療の質向上や患者満足度の上昇、新規患者の増加など、人材育成の利点は多岐にわたります。
マーケティング戦略を確立する
どれだけ高品質な医療サービスを提供していたとしても、クリニックの存在を知ってもらえなければ集患にはつながりません。そこで、マーケティング戦略に力を入れることもお勧めします。眼科クリニックとしてマーケティングを行う場合、まずはSEO(検索エンジン最適化)とMEO(マップエンジン最適化)に注力すると良いでしょう。
- SEO:Googleの検索エンジンで自院サイトの上位表示をめざす施策
- MEO:Googleマップなどの地図検索で自院が優位に表示されるようにめざす施策
他には、GoogleやInstagramなどの有料広告や、若年層へ効果的にアプローチできるSNSアカウントの運用なども選択肢の一つです。
有料広告は経費がかかるため、費用対効果を最適化する工夫が重要です。特に需要が高いジャンルや、ターゲット層のトレンドを調査し、それに関連するサービスに特化した広告を出しましょう。例えば近年のトレンドとして、若年層の間でレーシックやICL挿入術など、生活の質を向上させる施術の人気が高まっています。
適切な節税対策を行う
その他、眼科クリニックにおいて経営を安定させるには、収入の増加だけでなく適切な節税対策による税負担の軽減も重要です。具体的には、家賃や人件費などの固定費の見直しや、個人事業主のクリニックであれば、退職金制度のような小規模企業共済、自分で掛け金を拠出して資産運用する個人型確定拠出年金(iDeCo)などといった制度の利用を検討できます。
また、医療機器は非常に高額ですので、購入するよりも手元の資金を残しつつ経費計上できるリースを活用すると良いでしょう。
なお、個人事業主と医療法人では税金の種類が異なり、節税の観点から、以下の条件の内いずれかを満たす場合は医療法人化が推奨されています。
- 年間所得が「1,800万円」を上回った場合
- 社会保険診療報酬が「5,000万円」を上回った場合
- 社会保険診療・自由診療の合計報酬が「7,000万円」を上回った場合
眼科医が開業する際の注意点
高収入を得られる可能性のある眼科開業医ですが、開業する際はいくつか注意点があります。それぞれ詳しく見ていきましょう。
初期費用が高額
眼科クリニックの開業には、高額な初期費用がかかります。平均的な開業資金は5,000万円から1億円程度といわれていますが、立地や規模によって変動するため注意が必要です。初期コストの中で大きいのが高額な医療機器です。価格はメーカーや性能などによって差がありますが、例えば、標準的な設備である眼底カメラは300万円程度で、光干渉断層計(OCT)は1,000万円程度で販売されています。
返済計画を立てる際は、予想される月間収益から固定費や変動費を差し引いた利益をもとに、無理のない返済額を設定してください。開業後の数ヶ月間は収益が安定しない可能性があるため、余裕を持った計画が必要です。資金調達方法を検討する際も、自己資金と融資のバランスを考慮しましょう。
クリニックの立地は総合的に吟味
眼科クリニックの立地選定は、総合的かつ多角的な視点で考慮しなければなりません。
- 家賃や土地代
- 光熱費といった固定費
- 人件費
- 人材の集めやすさ
- 年齢層別の人口といった予想される患者の特徴
- 医療サービスの需要
眼科クリニックにとって、特に重要なのは「人材の集めやすさ」です。例えば、国家資格を有し、眼科医の診療をサポートする視能訓練士は都市部に集中する傾向があり、地域によっては採用が困難となる可能性もあります。
サービスへの需要の大きさも、地域の人口や年齢層によって大きく異なります。例えばレーシック手術を提供する場合、高齢者が多い地域よりも、20〜40代の多い地域のほうが安定した需要を見込めます。また、近隣にコンタクトレンズや眼鏡の販売店がある場所であれば、それらの店舗と上手に連携することで定期的な視力検査とコンタクトや眼鏡の処方による収入増が期待できます。
交通アクセスや地域の開発計画なども考慮に入れ、長期的に安定した経営が可能な立地を選定しましょう。
眼科で開業するために必要な準備
最後に、眼科で開業する際に必要となる準備についてまとめました。開業したい医師の方はぜひ参考にしてください。
綿密な情報収集と資金計画
初期費用は立地や規模によって大きく異なりますので、眼科開業には綿密な情報収集と資金計画が不可欠です。例えば、都内の人通りの多い好立地でクリニックを開業するためには、家賃が月数百万円といった高額の支払いを視野に入れなければなりません。
また、基本設備として検査機器が必要になるほか、手術を行う場合は手術機器の導入に数千万円単位の費用が発生する上、手術室や回復室の確保、オペに対応できる看護師の採用も欠かせません。特に手術機器は金銭的な負担が大きいため、リースやレンタルも検討し、初期投資を抑えるための工夫を行いましょう。
こういった初期のコストに加え、安定した運営のためには、開業前に目安として半年分の運転資金を確保しておくことが望ましいです。賃料、人件費、光熱費や医薬品・消耗品の仕入れ費用も考慮して毎月の固定費を計算し、半年分の運転資金を算出しましょう。
明確な診療コンセプトの設定
眼科クリニックの開業数は近年、増加傾向にあり、特に首都圏では潜在的な患者数が多い一方で、競争が激しいというデメリットがあります。そのため、ライバルの多いエリアでクリニックの経営を行う場合、他のクリニックと差別化できる明確な診療コンセプトの設定が成功の鍵となります。
差別化の戦略を立てる際は、地域のニーズや競合クリニックの状況を十分に分析しましょう。例えば、一般外来に加えて近視治療や緑内障外来、コンタクトレンズや眼鏡の処方、日帰り手術など、特定の分野に特化することで独自性を出せます。
また、最新の医療機器の導入や専門性の高い治療の提供も差別化のポイントになります。診療コンセプトは開業後のマーケティング施策にも直結するため、長期的な視点で立案することが重要です。
ワークライフバランスの考慮
開業医は自身で労働時間を決められるからこそ、長時間労働になりやすい傾向があります。経営者でもあるため、勤務医と比べて、人事や財務など診療業務以外の業務にも追われがちです。長時間労働は身体的・精神的健康を損なうリスクがあるため、効率的な診療時間を設定することが大切です。
例えば、予約制の導入や電子カルテの活用、オンライン診療の実施などにより、診療を効率化できるでしょう。また開業すると、基本的にクリニック内の医師は院長一人という状況となることが多いため、休みが取りにくくなるという声も聞かれますが、自身の休暇取得の計画的な運営も大切です。年間の休診日を事前に設定し、クリニック内のチラシやブログ、SNSなどを通じて患者へ周知すると良いでしょう。
ワークライフバランスを考慮した開業準備は、医師自身の健康だけでなく、患者へより良い医療サービスを提供することにつながります。
利益の仮説検証を行う
利益は「売上-費用」で表されますが、単価・患者数・診療日数や経費の内訳など、売上と費用を詳細に分解して考えることで、より具体的な仮説検証を見出せます。例えば、売上を増加させるために単価の高い自由診療の数を増やし、診療単価を上げるといった戦略が考えられるでしょう。
また、賃料が高くても人通りの多い物件や商業施設内にあるテナントを選び、患者数増加を狙う戦略もあります。さらに、ウェブ予約システムや自動精算機などの導入で一部の院内業務の自動化を実施すれば人件費を抑えられ、大きな経費削減になります。
まとめ
ここまで述べてきたように、眼科の開業医は高い年収を得られる可能性があります。短時間で行える手術の実施やコンタクトレンズ使用者の安定需要、視力矯正手術の普及などが、眼科開業医の高収入につながる要因です。
しかし、眼科開業医として成功するためには、患者のニーズを踏まえた自由診療の導入や適切なマーケティング戦略、優秀な人材の確保など、継続的な努力が求められます。
適切な準備と戦略を立てることで、眼科開業医としての高い年収と充実したキャリアを実現できるでしょう。(クリニック未来ラボ編集部)