開業・承継

2025.1.17

内科の開業医の平均年収は?勤務医との比較や内科で開業する魅力を解説

内科の開業医の平均年収

開業医をめざす上で、勤務医時代と比べて収入は増えるのか、業務内容がどの程度変化するのか興味のある方も多いでしょう。数ある診療科目の中でも、内科は患者と継続的に関わり、かかりつけ医として信頼される喜びも大きいことから人気があります。

内科は開業医の診療科の中で最も医師数が多く、それだけに競争が激しい世界ともいえます。そのため、いざ内科開業医となったとき、医師として理想の医療を提供し続けるには、クリニックの安定的な経営と、責任の重さや働きぶりに見合った年収が欠かせません。そこで本記事では、内科の開業医の平均年収を勤務医と比較しながら詳しく解説するほか、内科の開業医ならではの仕事の魅力もご紹介します

なお、内科は一般内科のほか、呼吸器や循環器、消化器、血液、糖尿病、腎臓、神経など専門領域が細かく分かれていますが、本稿では一般的な内科のクリニック(無床)の開業医を中心に取り上げます。

この記事を通じて、内科開業医としてのやりがいを知っていただければ幸いです。

内科の開業医の平均年収は約2,051万円|勤務医との差が生まれる理由

初めに、内科で開業した場合にどの程度の年収が見込めるのか、勤務医の年収と比較しつつご紹介しましょう。

まず、厚生労働省の「第23回医療経済実態調査 (医療機関等調査) 報告 -令和3年実施-」(※1)によれば、内科の開業医の平均年収は「約2,051万円」です。それに対し、2012年9月に独立行政法人労働政策研究所・研修機構が発表した「勤務医の就労実態と意識に関する調査」(※2)によると、勤務医の平均年収は「約1,247万円」でした。

つまり、内科の開業医は勤務医と比べて約1.6倍の収入を得ている計算です。大規模な病院では、消化器内科や循環器内科など自分の専門分野を診ることが多いですが、内科の開業医は風邪や腹痛など日常的な急性症状から、糖尿病や高血圧など慢性疾患の生活習慣病まで、総合的な視点で幅広い疾患を扱います。そのため、長期的な患者との関係の構築がしやすく、安定した収入を実現しやすいことが理由の一つに挙げられるでしょう。

さらに後述するように、予防医療に力を入れる場合は健康診断や人間ドックを、ビジネスパーソンが多い場合はにんにく注射やAGA治療を、といった具合に患者のニーズに合わせて自由診療を提供サービスに組み込むことで、収益の増加と経営の安定化も図れます。

一方、勤務医は固定給制が多いため、安定性がある傍ら収入に関する自由度が低い傾向にある点はデメリットです。勤務医の中には勤務先以外の定期非常勤など副業・兼業をしている人も少なくないですが、2024年4月より施行された医師の働き方改革における時間外労働の上限規制の影響で、収入が減少したという声も聞かれます。また、大学病院では臨床に加え、医学部学生への講義など教育、博士の学位取得のための論文作成など研究にも時間を割く必要があります。

なお、内科医の平均年収や勤務医の年収は調査年によって金額が異なりますので、ご留意ください。

※1 出典:厚生労働省 中央社会保険医療協議会「第23回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告 -令和3年実施-」
※2 出典:独立行政法人労働政策研究・研修機構「勤務医の就労実態と意識に関する調査(2012年9月)」

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年収以外にも多い、内科で開業医になる魅力とやりがい

このように内科医として開業することで、一定の収入増加が見込めます。とはいえ、年収だけでは開業するかどうかを決められない方も多いでしょう。そこで続いては、内科として開業する魅力ややりがいについても紹介します。

理想の医療を提供できる

内科に限りませんが、クリニックを開業することで、自分が考える理想の医療サービスを実現できる点は大きな魅力といえます。責任は重くなりますが、経営の方向性や診療の方針、働く時間も含めて自由に設定できるほか、患者一人ひとりに十分な時間をかけた丁寧な診療や、最新の医療技術の導入など、院長個人の医療理念に基づくサービスを提供できるでしょう。

また、内科の中で特定の分野に特化した専門性の高い診療を行うことも可能です。内科は他の診療科と比べて競合クリニックが多いため、一般内科だけでなく専門領域も診ることで、自院ならではの強みや特色を打ち出せます。

地域医療に貢献できる

数ある診療科目の中でも、総合的なサポートを行う内科は地域医療の要といっても過言ではありません。「かかりつけ医」と聞いて患者の多くが内科をイメージするように、内科として開業することで、患者の人生により長く寄り添い、地域に根差した社会貢献ができる点をやりがいに感じるでしょう。

地域コミュニティーに貢献する具体的な方法としては、以下のように多様なものがあります。

  • 日常的に健康に関する相談に応じ、適宜、連携先の専門医や専門医療機関に紹介するなど、かかりつけ医として地域住民の健康を支える
  • 患者や家族の健康状態や病歴を把握し、早期発見・早期治療につなげる
  • 予防医学の観点から健康指導や生活習慣病を防ぐための指導
  • 健康イベントや講演会など地域の健康増進活動への参加
  • 児童・生徒の健康診断や健康相談など、学校医としての活動

少子高齢化を背景に、医療・介護・福祉が連携し、患者やその家族を支える地域包括ケアシステムの構築が求められる中、かかりつけ医が担う役割は大きくなっており、内科開業医の一層の活躍も期待されています。

患者と長期的な関係を築ける

また、患者との長期的な関係を築ける点も、内科開業医の大きな魅力の一つです。体調不良を感じたとき、最初に内科にかかる患者が多いように、幅広い症状の診察に対応可能であり、長期にわたる治療や管理が必要な慢性疾患にも対応する内科は、定期的に受診するリピート患者を獲得しやすい診療科目といえます。

継続的な診療は患者との信頼関係を構築し、医師側としても患者の健康状態を総合的に把握しやすいため、患者一人ひとりに合った治療ができる点も魅力でしょう。普段の健康状態を知っているかかりつけ医は患者の小さな変化にも気づきやすいため、がんなど重大な疾患の早期発見や早期治療につながり、患者の命を救うことも少なくありません。

このように内科は、開業医としての充実感ややりがいを得やすい診療科目といえます。

内科の開業医がさらに年収を増やす方法

続いて、クリニックの経営を安定させ、内科の開業医として年収をさらに増加させる方法について解説します。

自由診療を増やす

厚生労働省が承認していない治療法や医薬品、材料を用いる自由診療は、保険診療が適用されない特殊なニーズに応えられるだけでなく、患者のニーズに合わせたきめ細かいサービスを提供できるほか、高い収益性が見込める点も特徴です。内科クリニックにおける代表的な自由診療には、人間ドックや各種健康診断、検診、予防接種などがあります。

ただし、自由診療の開始に際しては、機器の導入などに多額の初期コストがかかる場合も多いため、地域のニーズなどを考慮した上で検討すると良いでしょう。

条件が整った土地で開業する

内科開業医の年収を増やすためには、立地選定がとても重要です。

少子高齢化が顕著に進む中で、医療のあり方は徐々に「治療」から「予防」へとシフトしており、かかりつけ医の性格が強い内科の需要は増加傾向にあります。そのため、クリニックとして安定した経営を行うには、競争の激しい地域は避けるべきでしょう。

開業前に、候補地では患者数が1日にどの程度見込まれるのかを把握できる「診療圏調査」の実施をお勧めします。その結果を踏まえ、人口動態や競合状況を綿密に分析し、最適な場所を選ぶようにしてください。

具体的には、次のような方法を用いるのがお勧めです。

  • 国勢調査(※)の人口データを参考にする
  • 競合クリニックの診療科目や特色、規模を調べる
  • 地域の特性や医療政策の動向にも注目する

また、賃料や人件費など固定費の低さ、競合の少なさなどの要因が重なり、都市部のクリニックよりも地方のクリニックのほうが高年収の傾向にあります。地方で開業し、かかりつけ医としてのサービスに重きを置く場合は、地域住民がアクセスしやすい住宅街にクリニックを構えると良いでしょう。

なお、他のクリニックとの差別化を図る方法としては、標榜科目を増やす方法も有効です。

※出典:総務省統計局「令和2年国勢調査」

優秀な人材の採用や若手医師の育成環境の整備

内科の開業医が年収を増やすには、看護師や受付・事務など優秀な人材の採用と若手医師の育成が重要です。個人で働くのではなく、経営者としてチームを作り、組織運営をすることで、クリニックの規模拡大や収益の安定性につながります

スタッフの質は医院の評判に直結するため、優秀な人材の確保は不可欠です。基本的に開業時のクリニックの医師は院長一人であることがほとんどですが、将来的に二診体制にしたい、医療法人化して分院を設立したいなどといった展開を考えている場合、若手医師の育成は、クリニックの将来的な成長に大きく関係します。そのため、定期的な勉強会の開催、学会参加や外部のセミナー・研修参加の支援など、具体的な育成方法を早い段階で実践できると良いでしょう。

医療の質が向上し患者満足度が高まることで、クリニックの評判が上がり、新規患者の増加につながるでしょう。さらに、優秀な人材が集まることで、より高度な医療サービスの提供が可能になります。

マーケティング戦略を確立する

開業した後、新規患者を獲得するために行うマーケティング戦略も、年収アップには有用です。やり方は主に次の5種類があります。まずは特に影響力の大きい「SEO」と「MEO」を実施し、その後にその他のマーケティング戦略の実施を検討すると良いでしょう。

  1. SEO(検索エンジン最適化)
  2. MEO(マップエンジン最適化)
  3. リスティング広告
  4. ディスプレイ広告
  5. コンテンツマーケティング

SEO対策は、Googleなどの検索エンジンでホームページなどを上位表示させ、ユーザーの流入を増やすことを目的とした施策で、クリニックの認知度向上に役立ちます。MEO対策では、Google Mapなどでの検索結果の表示順位を上げ、地域の患者にアピールできます。

また、リスティング広告は、ユーザーが特定のキーワードで検索した際に、Googleなどの検索エンジンの検索結果画面に表示される広告であるのに対し、ディスプレイ広告はウェブサイトやアプリ上にバナーを表示し、ブランド認知度を高めます。最後のコンテンツマーケティングでは、クリニックのホームページやブログ、SNS、メールなどで有益な医療情報を継続的に発信し、患者との信頼関係を構築できる点が特徴です。

これらのマーケティング戦略を組み合わせることで、新規患者の獲得や既存患者の定着率向上が期待できるでしょう。

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適切な節税対策を行う

内科開業医の年収増加には、適切な節税対策も大切です。代表的な個人事業主のクリニックの節税方法をまとめました。

  1. 事業にかかる支出を経費として正確に計上する:消耗品や人件費など漏れなく記録することで、必要経費の対象にできる
  2. 小規模企業共済やiDeCoといった公的制度に加入する:掛け金が所得控除の対象にできる
  3. 中小企業倒産防止共済に加入する:掛け金が必要経費の対象にできる
  4. 所得を分散する:家族従業員への給与支払いにより、全体の税負担を軽減できる
  5. 償却資産の廃棄:償却資産税が課せられないよう、不要となった償却資産は処分し、除却損や売却損として経費に計上できる
  6. 医療法人化:保険診療報酬額が5,000万円以上を超えた場合、法人化すると所得税ではなく法人税が適用され、節税が見込める

こういった節税対策を適切に組み合わせることで、効果的に税負担を軽減できます。ただし、税務処理は複雑で専門的な知識を要するため、本来の仕事である診療やクリニック経営に集中するためにも、税理士や会計士に相談しながら進めることをお勧めします。

年収アップをめざす内科医が開業する際の注意点

内科医が開業する際の注意点には、医療機器など高額な初期費用やクリニックを設立する際の立地条件などがあります。それぞれ詳しく見ていきましょう。

初期費用が高額になる

内科医が開業する際、初期費用の高額さは大きな課題となるでしょう。内科系には一般内科以外にも、神経内科、消化器内科、循環器内科、糖尿病内科など複数あり、どの診療領域を提供するかによって初期費用やランニングコスト(固定費と変動費)に変動が生まれます。

内科一般の平均的な開業資金は4,000〜5,000万円とされており、主な用途は次の通りです。

  • 不動産費
  • 内装工事費
  • 医療機器購入費

特に高額となるのは医療機器で、X線撮影装置(レントゲン)や超音波画像診断装置(エコー)、心電図検査装置などに多くの費用がかかります。医療機器の導入にあたって資金調達をする場合、方法としては自己資金のほかに銀行融資や開業支援ローンなどがありますが、融資を受ける際は現実的な返済計画の立案が重要です。

また医療機器以外にも、国が普及を推進している電子カルテは、近年、開業時に導入するクリニックが増えています。

予想される収益から固定費や変動費を差し引いた利益をもとに、無理のない返済額を設定しましょう。開業後数ヵ月間は収益が安定しにくいため、余裕を持って計画を立てる必要があります。

クリニックの立地は総合的に吟味する

立地は集患に大きく影響します。立地条件によってさまざまなメリット・デメリットがあるため、クリニックの立地選定には多角的な視点で吟味しましょう。まず、地代や光熱費、人件費などの固定費は立地によって大きく変動します。例えば、都心部は固定費が基本的に高額になる傾向がありますが、人口が多いため、一定の患者数を見込むこともできます。

高級住宅街や商業地域など、立地はクリニックのブランドイメージにも影響します。例えば、自由診療のアンチエイジング医療を導入する場合、美容に関心の高い30〜50代の女性が多く生活する地域が適しているでしょう。

また、マーケティング施策の有効性も立地に関わります。例えばアナログマーケティングにおいては、一般的には繁華街では看板広告が効果的ですが、住宅街ではチラシ配布が有効な傾向があります。過当競争を避けつつ、十分な需要がある地域を選ぶことが重要です。

内科で開業するために必要な準備

内科で開業するために必要な準備は、資金契約や診療コンセプトの設定、ワークライフバランスの考慮など多岐にわたります。具体的な方法やポイントを解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。

綿密な情報収集と資金計画

内科開業の成功には、事前の綿密な情報収集と資金計画が不可欠です。特に初期費用の把握が重要で、開業前には物件取得や内装工事、医療機器の購入など、どの工程にいくら費用が発生するのか、詳細に調査する必要があります。中でも医療機器は高額ですので、リースやレンタルの活用で初期投資を抑えることも検討しましょう。高齢化の進展により急増する在宅医療実施の有無も重要な検討事項です。

また、開業後の安定運営のため、開業前に少なくとも半年分の運転資金を確保することが推奨されています。運転資金は、人件費、家賃、光熱費などの固定費に加え、医薬品や消耗品の仕入れ費用も考慮に入れてください。

明確な診療コンセプトの設定

競合が多い内科のクリニックを開業する際は、他院と差別化する明確な診療コンセプト設定が将来の成功を左右します。例えば一般内科のみで運営するか、特定の専門領域を加えるか、それとも専門領域のみに絞るのかなどを慎重に検討しましょう

なお昨今、競争が激しい大都市部では、一般内科のみの標榜では成功が厳しいといわれており、何かしらの「強み」を持つことが重要です。

具体的な診療コンセプトは、開業後のマーケティング施策を見据えて立案することが大切です。例えば、美容医療を扱う際は、高齢者が多い地域よりも、都心部といった若い世代が行き交う地域のほうが需要はあります。地域のニーズや競合クリニックの状況も考慮し、自身の強みを生かして地域に貢献できる診療コンセプトを設定しましょう。

ワークライフバランスの考慮

内科開業医の場合、クリニック内にいる医師は院長一人のみということも少なくありません。そして、労働時間を自分で決められるため、地域医療に貢献したいと考える責任感の強い医師ほど、代わりがいないからと長時間労働になる傾向にあります。

全国の開業医500人を調査した「開業医白書2024」でも開業医の過重労働の実態が明らかになっており、開業医の労働時間は20.4%が10時間以上で、中でも40代以下の若い開業医の3割が10時間以上の労働時間となっています。

加えて、開業医は診療以外にも経営に関する業務に追われ、空いた時間には専門領域・専門領域以外に関する学習や学会参加といった自己研鑽に励むなど、過重労働によって身体的・精神的健康を損なうリスクがあるため、ワークライフバランスの考慮は重要です。

具体的には、予約制の導入や電子カルテ、オンライン診療などの活用により、診療を効率化する方法などが挙げられます。

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また、年間の休診日を事前に設定し、患者に周知することで、スムーズに休暇を取得できるでしょう。診療時間外の業務負担も考慮し、適切なスタッフの採用を検討するのもお勧めです。ワークライフバランスを考慮した開業準備は、医師自身の健康と幸福だけでなく、患者へのより良い医療サービスの提供にもつながります。

利益の仮説検証を行う

内科開業医の成功には、あらかじめ経費を少なくして利益を最大限にするといった仮説検証が不可欠です。具体的には次のような公式を活用して一つ一つ分析し、仮説を立てて検証していきます。

  • 利益=「売上-費用」
  • 売上=「単価×患者数×診療日数」
  • 費用=「原価+販売管理費」

例えば患者一人当たりの単価の低さが問題になりそうなら、自由診療の導入や、診察の効率化を見込める電子カルテやオンライン診療などの実施を検討しましょう。患者数の少なさが利益率の低さにつながっているとの結論に至った場合は、地域のニーズに合わせて複数科に増やすといった対応や効果的なマーケティング戦略を通じて検証します。

まとめ

本記事では、内科の開業医の年収と、さらに年収を上げる方法について解説しました。内科の開業医の平均年収は約2,051万円と勤務医を上回ります。多くの利益を上げられれば、理想とする医療の提供や地域医療への貢献などにつながるため、やりがいも得られるでしょう。

クリニックを開業するためには高額な初期費用や立地選びなどが必要になりますが、綿密な情報収集と十分な資金計画ができれば、開業が現実的になるでしょう。本記事が内科の開業医をめざす際の一つの参考になれば幸いです。(クリニック未来ラボ編集部)

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