経営のヒント

2024.6.19

「○○認定」は信頼の証でも広告上はクールに掲げるべし《医療広告ガイドライン10のポイント》【第9回】

医療機関の施設認定に関する広告規定

医療機関がインターネットを使った情報発信を進める上で、忘れてはならないのが医療広告ガイドライン。厚生労働省は医療機関ネットパトロールを強化しており、ガイドラインに反する不適切な医療広告には行政指導が入ることも。何より患者に不利益を与えることになりかねません。そこで本コラムでは、医療広告ガイドラインでおさえておきたいポイントを、全10回にわたって解説していきます。

第9回は医療機関の施設認定に関する広告規定をお届けします。

患者の不当な誘引につながる“パワーワード”に注意を

「大手」「老舗」「元祖」「MADE IN JAPAN」……これらは日本人の多くが魅力を感じるといわれる言葉です。いずれも人やお店をPRする際に、「信頼性」を強調する目的で用いられることが多いかと思います。

こうした人を惹きつけるインパクトのある言葉を、ビジネス分野では「パワーワード」と呼びます。医療においては、前回の「専門医はスーパードクター?!保有資格の掲載ルール《医療広告ガイドライン10のポイント》【第8回】」で取り上げた「専門医」や、今回のテーマである「○○指定医療機関」「○○認定クリニック」などの施設認定の名称が、人々が信頼を寄せやすいという意味でパワーワードといえるでしょう。

「○○認定」には「第三者の客観的評価を受けた医療機関」、「○○指定」には「特別に役割を与えられた医療機関」という印象が根強く、結果的に「この医療機関は信頼度が高い」と受け手に感じさせることになります。

ほかには、「最新」「最高」「画期的」「権威」なども挙げられますが、医療広告においてはほとんどが使用禁止、あるいは使用が制限されています。なぜなら人を惹きつける言葉は患者を不当に誘引し、「患者等に著しく事実に相違する情報」を与える可能性が高いからです。

「○○協会認定施設」(活動実態のない団体による認定)

→客観的かつ公正な一定の活動実績が確認される団体によるものを除き、当該医療機関関係者自身が実質上運営している団体や活動実態のない団体などによる資格認定や施設認定を受けた旨については、患者等を不当に誘引するおそれがあり、誇大広告として取り扱うべきであること。

(医療広告ガイドライン第3-1-(3)参照)

これは、医療広告ガイドラインに記載された「禁止される広告」の具体例です。第三者ではなく身内が評価をした施設認定や、架空の団体による施設認定は、誇大広告になると書かれています。

では、それ以外の団体による施設認定であれば、自由に広告しても良いのでしょうか? 答えはNoです。以前にもお伝えしましたが、医療広告は原則的に「広告可能な事項」に挙げられている事柄のみ広告が認められています。その大前提のもと、限定解除要件を満たしていれば、広告可能な事項に含まれない事柄でも広告できるようになります(「その表現、つもりはなくても比較優良広告・誇大広告に!《医療広告ガイドライン10のポイント》【第3回】」参照)。

一方、「禁止される広告」というのは、たとえ限定解除要件を満たしていても広告できない事柄です。簡単に言うと、限定解除要件を満たせば広告できることは増えるけれど、嘘や大げさなどの禁止事項は変わらずにNGということですね。

学会認定の研究施設であることは広告できない

身内や架空の団体により施設認定を受けた旨は、広告が禁止されることは理解していただけたかと思います。次に広告可能事項ですが、施設認定に関する条文のほか、施設の評価に関連するさまざまな条文をピックアップしてみました。

【1】について、「法令の規定に基づき一定の医療を担うものとして指定を受けたもの」とは、特定機能病院などを指します。例えば、各学会の認定研修施設である旨は、法令は関与していないため広告できません。そのほか、法令のもと指定を受けた医療機関は次のとおりです。

上記は一例であり、法令の規定に基づき一定の医療を担うものとして指定を受けた施設認定であれば、その旨を広告できることがあります。判断に困るときは最寄りの保健所にお問い合わせください。

「○○センター」表記は気軽に使えない

「その表現、つもりはなくても比較優良広告・誇大広告に!《医療広告ガイドライン10のポイント》【第3回】」にて少しふれましたが、「救命救急センター」に代表されるセンター表記も、施設認定に関わるため改めて解説します。

「センター」という言葉には、「ある地域の特定の業務を集中させた場所」という意味があります。そのため、広告上で自由にセンター表記を使用できるようにしてしまうと、優良誤認や誇大広告につながりかねません。

そこで医療広告ガイドラインでは、医療機関の名称、もしくは「ABC病院 ○○センター」などと医療機関の名称に併記する形で広告できる施設を、以下のいずれかに限定しています。

医療機関の名称に併記する形で広告できる施設

(1)法令の規定又は国の定める事業を実施する病院又は診療所
※救命救急センター、休日夜間急患センター、総合周産期母子医療センターなど

(2)自治体によって認められた地域における中核的な機能や役割を担う病院又は診療所

(医療広告ガイドライン第3-1-(3)参照)

院内掲示の具体例

ABC病院では院内のフロア図に「透析センター」と表記している
OK…ABC病院のホームページに「透析センター」と表記
NG…医療情報誌に掲載した広告に「透析センター」と表記

なお、医療機関の名称に「センター」をつけたい場合は、都道府県に問い合わせを行うことで、「地域における中核的役割を担っているかどうか」がその都度判断されるとのことです。

今回は医療機関の各種施設認定に関する広告ルールを解説しました。国や都道府県等によって認められた施設認定でなければ、原則的に広告ができないというまとめになります。規制の厳しさは、専門性資格と同等かと思います。

センター表記に関しては、「医療センター」の名がつく診療所が、行政から名称を変更するよう指導されるという事例が昨今もありました。「中核的な医療機関とするのは無理がある」との判断からです。同院は、かつては病院として地域の医療を担っていましたが、人口減少に伴い無床診療所へと縮小した経緯があります。

この事例のように、医療機関や施設認定の名称をはじめ、常に実態に見合った正確な情報を発信することで患者の誤認を避け、適切な医療機関の選択につなげる。これが国のめざすところであり、ルール違反に対する働きかけは年々勢いを増しているように感じられます。

さて、次はいよいよ最終回です。簡単なクイズも準備をしていますので、ぜひご覧ください。

<執筆者プロフィール>
金光 美紅(かねみつ・みく)
ライター。大阪府生まれ。大手人材会社にて広告規制に即したコピーライティングに従事。2015年からは医療メディアのライターとして、医師・歯科医師をはじめとする医療従事者のほか、三師会会長、行政首長インタビューなどを経験。医療機関の広報・PR、疾患啓発などさまざまな記事を手がける。ライター歴10年目を機に独立。広告ガイドラインを遵守した記事作成を得意とする。

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