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2024.6.18

専門医はスーパードクター?!保有資格の掲載ルール《医療広告ガイドライン10のポイント》【第8回】

保有資格の掲載ルール

医療機関がインターネットを使った情報発信を進める上で、忘れてはならないのが医療広告ガイドライン。厚生労働省は医療機関ネットパトロールを強化しており、ガイドラインに反する不適切な医療広告には行政指導が入ることも。何より患者に不利益を与えることになりかねません。そこで本コラムでは、医療広告ガイドラインでおさえておきたいポイントを、全10回にわたって解説していきます。

第8回は専門医はスーパードクター?!保有資格の掲載ルールをお届けします。

広告可能な歯科医師の専門性資格はわずか5つ

患者にとって「どんな人に診てもらうか」はとても重要な要素です。ホームページのスタッフ紹介は必ずチェックするという声もよく聞かれます。医療機関においても、医師や歯科医師の経歴をアピールしたいというニーズはあるでしょう。

医療広告ガイドラインでは、医療従事者とそれ以外の従業員の氏名、年齢、性別、役職および略歴について広告することが認められています。「略歴」に該当するのは、生年月日、出身校、学位、免許取得日、勤務歴(診療科)などです。

そのほか、保有資格をプロフィールに記載することも多いと思います。各学会が認定している「専門医資格」がその代表ですね。しかし、専門性に関する認定資格(以下、「専門性資格」)については、広告可能な範囲がかなり限定的です。「これも書けないの?!」と驚かれるかもしれません。

広告可能な専門性に関する認定の主な条件

  • 研修体制や試験制度が基準を満たしていること
  • 厚生労働大臣に届け出た団体による認定であること
  • 医師、歯科医師、薬剤師、看護師、その他厚生労働大臣の免許を受けた医療従事者の専門性に関する認定であること

(医療広告ガイドライン第4-4-(9)イ参照)

「厚生労働大臣の免許を受けた医療従事者」とは
医師、歯科医師、薬剤師、保健師、助産師、看護師、准看護師、理学療法士、作業療法士、視能訓練士、言語聴覚士、義肢装具士、診療放射線技師、臨床検査技師、衛生検査技師、臨床工学技士、歯科衛生士、歯科技工士、救急救命士、管理栄養士及び栄養士

つまり、厚生労働省の「広告しても良い」という条件を満たした専門性資格のみ広告できます。どの資格が広告できるかは、厚生労働省のホームページ内にある「医療に関する広告が可能となった医師等の専門性に関する資格名(厚生労働大臣に届出がなされた団体の認定するもの)等について」で確認できます。

一覧を見てもらうとわかりますが、医師は56個、歯科医師は5個しか広告できる専門性資格がありません。そこに含まれない認定医、指導医は広告できないのです。また、各学会の会員であることも広告不可です。

学会や地域医師会の役員である旨は、現任であれば広告は可能です。ただし、団体のウェブサイトなどに活動内容や役員名簿が公開されていることが義務づけられています。また、役職を降りたときは速やかに広告上の記載内容を修正する必要があります。

なお、2021年10月より、日本専門医機構と日本歯科専門医機構が認定する専門医資格が新たに広告可能となったことは、ご存じの方も多いかと思います。これについては後述し、まずは各学会が認定している専門医資格について取り上げます。

資格名の記載ルールを誤るとガイドライン違反に

専門性資格を広告する際は、正式名称で書くというルールがあります。具体例を見てみましょう。

なお、非常勤の医師・歯科医師、スタッフの経歴を書くことも可能です。ただし、さも常勤であるかのように見せると誇大広告になるため、非常勤であること、いつ勤務しているのかを明記する必要があります。

「なんとなくスゴそう」を排除するのが医療広告ガイドライン

ここで、過去に行われた「専門医に関する意識調査」の調査報告」(※)をご紹介します。一般の1万5000人を対象に、「専門医」という名前にどのようなイメージを抱いているかを調べたものです。

実に80%近い人が、「専門医≒スーパードクター」と捉えているようです。もちろん各学会の専門医資格を取得するには、その分野における高い技術と豊富な知識が問われます。しかしここでいう「スーパードクター」とは、「神の手を持つドクター」、ブラック・ジャックのような非常にあいまいなイメージ。“専門医とは何か”を多くの人が正確に理解していないといえます。

専門医をはじめとする資格の能力や、その認定基準を一般の人々は理解していません。そのため、「よくわからないけどスゴそう」と思わせる側面があります。発信者が意図していなくても、優位性をアピールすることを徹底的に制限するのが、医療広告ガイドラインのスタンスでした。

「家庭医に憧れて」はOK、「家庭医です」はNG?!

学会認定の専門医のほかにも、専門性資格はたくさんあります。しかし、そのほとんどは広告が認められていません。また、広く使われている一般名であっても、専門性資格と誤認させるため注意が必要な名称も。以下は一例です。

広告が認められていない専門性資格の一例

■産業医(日本医師会が認定)
■検診マンモグラフィ独影認定医(日本乳がん検診精度管理中央機構が認定)
■日本糖尿病協会歯科医師登録医(日本糖尿病協会と日本歯科医師会が企画・登録)
■日本リウマチ財団登録医(日本リウマチ財団が登録)など

POINT!

「専門医」という名称でなければOK、というわけではありません。
専門性が認められたことで得られる資格は専門性資格にあたります。

■スポーツドクター
「日本医師会認定スポーツ医」「日本整形外科学会認定スポーツ医」「日本体育協会公認スポーツドクター」をさすことになり、専門性資格と見なされます。
NG例:「私はスポーツドクターとしてプロ野球チームをサポートしています」
OK例:「子どもの頃にお世話になったスポーツドクターに憧れて、整形外科の道に進みました」

■家庭医
日本プライマリ・ケア連合学会認定の「家庭医療専門医」と誤認するおそれがあるため、記載する際は資格名と勘違いさせないような工夫をするとよいでしょう。
例:かかりつけ医

POINT!

「○○医」「○○ドクター」という名称は、「その分野の専門医」というニュアンスを持つこともあり、一般名として使用される以外はほぼ認められません。

資格のすべてが広告不可ではない

いつものパターンですが、ここで紹介した「広告できない専門性資格」は、いずれも広告可能事項の限定解除要件を満たせば広告できるようになります。限定解除の詳細については、「その表現、つもりはなくても比較優良広告・誇大広告に!《医療広告ガイドライン10のポイント》【第3回】」を参照してください。

もう一点、「専門性に関する資格」とは別枠で、広告が可能とされているケースをご紹介します。

▼法令の規定に基づき一定の医療を担うものとして指定を受けた医師もしくは歯科医師
母体保護法指定医、身体障害者福祉法指定医、精神保健指定医、生活保護法指定医など

POINT!

ガイドラインでは、「略歴とは特定の経歴を特に強調するものではなく、一連の履歴を総合的に記載したもの」としています。保有している資格をアピールすることは、患者の受診等を不当に誘引する意図があると見なされてしまいます(誇大広告)。

(医療広告ガイドラインに関するQ&A参照)

ここまで読んでいただき、専門性に関する資格は一部の団体の、一部の資格のみ広告可能だということがおわかりいただけたかと思います。医療広告では優位性をアピールすることは認められていません。一方で、患者が適切な医療を選択する上では重要な情報として、限定的に広告可能としているわけです。

広告可能な専門医資格は「専門医機構認定の専門医」が基本に

ここまで、学会が認定している専門医資格を中心に紹介しました。

しかしその一方で、冒頭でもふれたとおり、2018年の「新専門医制度」の開始に伴い、医療法の一部改正が2021年10月より適用され、日本専門医機構と日本歯科専門医機構が認定する専門医資格が新たに広告で記載可能となりました。

厚生労働省医政局からの「医療法第六条の五第三項及び第六条の七第三項の規定に基づく医業、歯科医業若しくは助産師の業務又は病院、診療所若しくは助産所に関して広告することができる事項の一部を改正する告示の施行について」の「施行通知」(2021年9月29日)をご覧になった方も多いのではないでしょうか。

厚生労働省は、これまでの学会が認定する専門医から、新しくスタートした日本専門医機構と日本歯科専門医機構が認定する専門医への移行を促しており、広告可能な専門医の資格についても、日本専門医機構と日本歯科専門医機構が認定する専門医資格を基本としていく考えです。

これを受け、学会が認定する専門医資格で、日本専門医機構が認定する19個の基本領域と同一の専門医(16学会16専門医)と、日本歯科専門医機構が認定する5個の基本領域と同一の専門医(5学会5専門医)に加え、先に述べた広告可能な学会専門医資格(「医療に関する広告が可能となった医師等の専門性に関する資格名(厚生労働大臣に届出がなされた団体の認定するもの)等について」を参照)については、経過措置として、一定の場合を除き、当分の間、広告が可能とされています。

ただし、日本専門医機構専門医、あるいは日本歯科専門医機構の専門医として認定された場合、学会専門医として認定された旨を広告できなくなる、つまり同じ専門領域の資格を並列して広告することはできないため、注意が必要です。

基本領域19領域に対応する学会認定専門医(16学会16専門医)

基本領域に対応する学会認定専門医(5学会5専門医)

また加えて注意したいのが、経過措置についてです。

先ほど経過措置は「当面の間」と前述しましたが、「学会認定の〇〇専門医」と「機構認定の〇〇専門医」のふたつが併存する状況は、国民から見てわかりづらいなどといった議論が交わされた結果、2024年3月、厚生労働省は「基本領域と同一の専門性のある学会認定専門医を広告可能とする経過措置の終了について」として、経過措置を原則2028年度末で終了する旨を関係団体に向けて事務連絡しました。変動性の高い項目ですので、最新の情報については「医療に関する広告が可能となった医師等の専門性に関する資格名等について」などをご確認ください。

次回は医薬品・医療機器の名称に関するルールを紹介します。

<執筆者プロフィール>
金光 美紅(かねみつ・みく)
ライター。大阪府生まれ。大手人材会社にて広告規制に即したコピーライティングに従事。2015年からは医療メディアのライターとして、医師・歯科医師をはじめとする医療従事者のほか、三師会会長、行政首長インタビューなどを経験。医療機関の広報・PR、疾患啓発などさまざまな記事を手がける。ライター歴10年目を機に独立。広告ガイドラインを遵守した記事作成を得意とする。

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