経営のヒント

2024.6.20

その薬、本当に承認されている?自由診療と未承認薬の違い《医療広告ガイドライン10のポイント》【第10回】

医療広告における「自由診療」と「未承認薬」の違い

医療機関がインターネットを使った情報発信を進める上で、忘れてはならないのが医療広告ガイドライン。厚生労働省は医療機関ネットパトロールを強化しており、ガイドラインに反する不適切な医療広告には行政指導が入ることも。何より患者に不利益を与えることになりかねません。そこで本コラムでは、医療広告ガイドラインでおさえておきたいポイントを、全10回にわたって解説していきます。

第10回は医療広告における「自由診療」と「未承認薬」の違いをお届けします。

保険適用と薬機法上の承認は区別して考えること

「医療広告ガイドライン10のポイント」の最終回ということで、筆者が特に重要と考えている「自由診療」と「未承認薬」をテーマに選びました。これらの制度上の違いは理解されているかと思います。ここでは医療広告上の扱いについて解説していきます。

さっそくですが、次の文章は美容医療の広告によくある一文です。一度読んでみてください。

当院では自由診療として、しわやほうれい線の改善にプラセンタ注射を行っています(費用:初診料946円+1100円)。厚生労働省の認可を受けたプラセンタ注射薬を使用しています。

自由診療であること、その費用についてしっかりと説明しており、一見問題はなさそうです。しかし、実は大きな問題があり、ガイドライン違反となっています。どこだかわかりますか?

2024年6月現在、プラセンタエキスを用いた治療は、「ラエンネック」(日本生物製剤)が慢性肝疾患における肝機能障害に、「メルスモン」(メルスモン製薬)が更年期障害、乳汁分泌不全に限定して薬事承認されています。一方、美肌や若返りなどの美容目的では未承認。そのため広告NGなのです。

医薬品医療機器等法第66条第1項の規定により、医薬品・医療機器等の名称や、効能・効果、性能等に関する虚偽・誇大広告が禁止されている。また、同法第68条の規定により、承認前の医薬品・医療機器について、その名称や、効能・効果、性能等についての広告が禁止されている。例えば、そうした情報をウェブサイトに掲載した場合には、当該規定等により規制され得る。

(医療広告ガイドライン第3-1-(8) イ①より抜粋)

医薬品の効能や医療機器の性能、それらを使った検査・治療の有効性などを広告することができないのは、以前に説明しました(「お金のモヤモヤはクレームのもと!自由診療金額の正しい表記方法《医療広告ガイドライン10のポイント》【第5回】」参照)。加えて、承認前の医薬品・医療機器は名称すら広告できないということです。薬事承認の範囲外で使用する、いわゆる「適応外使用」もこれに含まれます。

一般の人は「自由診療」と「未承認薬」を混同して理解していることが少なくありません。そうでなくても、「承認された」と書いてあれば、どことなく安心感を覚えるものです。そこにつけ込むように、あえて紛らわしい文章で患者を誘引している医療機関が存在しますが、誇大広告とみなされるため注意が必要です。

薬も機器も販売名ではなく一般名で表記すること

先ほど、筆者はプラセンタ製剤の説明に「ラエンネック」「メルスモン」と記載しました。販売名を記載することは、医療広告上はNGとなります。

医薬品医療機器等法の広告規制の趣旨から、医薬品又は医療機器の販売名(販売名が特定可能な場合には、型式番号等を含む。)については、広告しないこととすること。

(医療広告ガイドライン第4-4-(13)より抜粋)

一般名での表記は可能です。しかし、例えばラエンネックの一般名が「胎盤加水分解物注射液」であるように、逆にイメージしづらいことも。その場合は、「プラセンタ注射薬」のような大きなくくりで表現すること自体は問題ないでしょう。もちろん、販売名が連想できる名称は認められません。

販売名の一例

  • ボトックス注射 →ボツリヌス毒素製剤を用いた注射
  • オプジーボ →ニボルマブ
  • セレック →歯科用CAD/CAMシステム
  • ダ・ヴィンチ →手術用ロボット
  • SOMATOM Definition Flash →CT装置

予防接種のワクチンも一般名で記載しなければなりません。例えば、新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るった当時、ニュースでは「ファイザー社のワクチン」「モデルナ社のワクチン」などと製薬会社名で表現されるのをよく耳にしました。しかし製薬会社名は広告可能事項に含まれていないことを考えると、広告では言及しないほうが良いでしょう。

では、以下の広告文はどうでしょうか。

当院ではボトックス治療を実施しています。多汗症治療では健康保険が適用されますが、えらの改善に実施する際は保険対象外となります。

(1)販売名を記載していること、(2)未承認である美容目的のボツリヌス療法について記載していること、この2点で規定違反となるため、広告できません。限定解除の要件を満たしている場合は広告可能ですが、次の事項も一緒に記載することが必須となるので注意しましょう。

  • 未承認であること
  • 入手経路(個人輸入等)
  • 個人輸入等の手段で入手した場合、厚生労働省ホームページに掲載された「個人輸入において注意すべき医薬品等について」のページ(※)
  • 同一の成分や性能を持つ他の国内承認医薬品があるかどうか
  • 当該未承認医薬品等が主要な欧米各国で承認されている場合は、重大な副作用やその使用状況を含めた海外情報(日本語でわかりやすく説明)
  • 主要な欧米各国で承認されている国がないなど、情報が不足している場合は、重大なリスクが明らかになっていない可能性があること

※厚生労働省「個人輸入において注意すべき医薬品等について」のページ

誠実な情報発信者が評価される時代へ

医療広告ガイドラインのポイントを全10回にわたって解説しました。皆さんの病院・クリニックが発信する広告はガイドラインを遵守できていたでしょうか? ホームページ制作会社や広告代理店に任せている場合も、大丈夫だとは思わずに一度見直すことをお勧めします。

過去にあった事例では、医療広告ガイドライン改定時に何の見直しもせずにいたら、ビフォーアフターの症例写真に行政指導が入ったクリニックがありました。ホームページ制作会社と保守契約を結んでいなかったため、フォローの連絡がなく、問題ないものと思っていたそうです。

制作会社の中には、「ページ内容を変更すると検索結果に影響が出るため、指導を受けてから修正する」などと説明している会社もあるようです。個人的にはお勧めできません。不正な広告が発覚すると行政から呼び出しを受けることもあり、是正後の報告も含めてパワーがかかります。不正の程度によっては継続的に監視対象となる可能性や、刑事罰を受けることも否定できません。

検索結果に影響が出るかどうかについては、むしろ患者に不利益となる情報は今後淘汰されていくでしょう。GoogleはYMYL分野の代表となる医療情報について、検索結果の品質をさらに高めるべく検索アルゴリズムを頻繁にアップデートしています。

YMYLとは
「Your Money, Your Life」の略。Googleが提唱した概念で、「個人の将来の幸福、健康、経済、または安全性に影響を及ぼす可能性があるページ」をさします。具体的には、医療、法律、政治などのジャンルが該当します。

とはいえ、100%問題のないホームページを自力で構築することは困難でしょう。医療専門の広告代理店やウェブ制作会社、コンサルタント、顧問弁護士に相談しながら、医療広告ガイドラインを遵守したホームページを運営していただきたいと思います。それが、皆さんの病院・クリニックが信頼できる医療機関であることの証となるはずです。

【クイズ】医療広告ガイドラインの理解度を確認してみましょう

最後に、まとめとして簡単なクイズを用意しました。理解度の確認としてぜひ挑戦してください。

Q.以下の広告文のうち、問題があるものは「×」、ない場合は「〇」をつけてください。〈1〉〈6〉〈7〉は内容が間違っていれば「×」、正しければ「〇」としてください。ただし、すべて限定解除要件を満たしていないケースとします。

〈1〉医療広告ガイドラインを違反しても、即刻、罰則を受けるわけではない
〈2〉「開院1周年を記念して、先着10名様に無料ホワイトニングをプレゼントします」
〈3〉「当院の院長はインプラント治療の先駆者です」
〈4〉「当院は児童整形外科を標ぼうしています」
〈5〉自由診療にかかる費用の内訳は、事細かく記載しなければならない
〈6〉ビフォーアフターの写真を撮影し、治療後の写真が暗かったので明るくなるよう加工したが、広告上問題ない
〈7〉患者さんが自分のブログにAクリニックのクチコミを書いたが、Aクリニックには問題ない
〈8〉「私は地域の総合内科医として皆さんの健康を見守っています」
〈9〉「当院は日本外科学会認定研修施設です」
〈10〉「胃の動きを抑えるためブスコパンを使用します」

正解と解説

〈1〉:まずは任意調査として、説明や書類の提出を求められる
〈2〉×:費用を強調する記載やプレゼントの記載は、広告禁止事項に含まれる
〈3〉×:「先駆者」は「最も早く」という意味を持つ最上級表現。比較優良広告は認められない
〈4〉:「児童+整形外科」は組み合わせとして問題ない
〈5〉×:どんな項目に費用がかかるか、総額の目安、また註釈で医療費の総額が変動する条件を入れておけばOK
〈6〉×:加工したビフォーアフター写真は広告に使用できない
〈7〉:患者さんが自発的に書いたクチコミはOK。それを医療機関側が紹介すると規定違反
〈8〉×:日本内科学会認定「総合内科専門医」と誤認するため広告NG。「日本内科学会総合内科専門医」と記載する場合はOK
〈9〉×:学会の認定研修施設である旨は広告NG
〈10〉×:「ブスコパン」は販売名のため広告NG。「ブチルスコポラミン」であればOK

<執筆者プロフィール>
金光 美紅(かねみつ・みく)
ライター。大阪府生まれ。大手人材会社にて広告規制に即したコピーライティングに従事。2015年からは医療メディアのライターとして、医師・歯科医師をはじめとする医療従事者のほか、三師会会長、行政首長インタビューなどを経験。医療機関の広報・PR、疾患啓発などさまざまな記事を手がける。ライター歴10年目を機に独立。広告ガイドラインを遵守した記事作成を得意とする。

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