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2024.6.14

診療科名の正しい表記は“患者ファースト”の証《医療広告ガイドライン10のポイント》【第4回】

広告できる標ぼう診療科名のルール

医療機関がインターネットを使った情報発信を進める上で、忘れてはならないのが医療広告ガイドライン。厚生労働省は医療機関ネットパトロールを強化しており、ガイドラインに反する不適切な医療広告には行政指導が入ることも。何より患者に不利益を与えることになりかねません。そこで本コラムでは、医療広告ガイドラインでおさえておきたいポイントを、全10回にわたって解説していきます。

第4回は広告できる標ぼう診療科名のルールについて解説します。

「何を診てもらえるのか」がイメージしやすい診療科名に

職業柄、街を歩いていると病院やクリニックの看板につい目がいきます。そこでしばしば確認されるのが、広告NGの診療科名。看板だけでなく医療機関のホームページにおいても、本来は広告が認められていない診療科名が記載されているケースが散見されます。

そこで今回のテーマに、「広告可能な診療科名」をピックアップしました。内容的には医療広告の基本となりますが、意外と違反が多く見られるところでもありますので、今一度ご確認いただければと思います。

さて、皆さんもご存じのとおり、標ぼう可能な診療科名は医療法によって定められています。昭和23年(1948年)の医療法制定時は、具体的名称を列挙する形で16種類のみが広告可能とされていました。今ではあまり見ない「皮膚泌尿器科」などもあったのですね。

そこから内科、外科をそれぞれ臓器別に分けるなどして、標ぼう診療科名は少しずつ増やされていったわけですが、同時に「何を診てくれる科なのかがわかりづらい」という国民の声も聞かれるようになりました。そこで平成20年(2008年)4月1日の医療法の一部改正に伴い、次のような組み合わせによる標ぼう方法が採用されたという経緯があります。

あの重要な診療科名も実は広告が認められなかった!

改正後は臓器や疾患ごとに診療科名が細分化され、また内科なのか、外科なのかが明確になったことで、患者が自分に合った診療科をより探しやすくなったのではないかと思います。次に、上記の標ぼう方法とは別に気をつけたいポイントをまとめました。

(1)改定前は認められていた以下の診療科名が標ぼうできない

神経科、呼吸器科、消化器科、胃腸科、循環器科、皮膚泌尿器科、性病科、肛門科、気管食道科

経過措置あり!

胃腸科や肛門科など、広告できないはずの診療科名が堂々と書かれた看板を見たことはありませんか? それは法令違反ではなく、経過措置によって認められているのでしょう。
改定前から標ぼうしている医療機関は引き続き標ぼうが可能であり、看板や広告上の表記を変更する必要もありません。
ただし、看板の書き変え、ホームページの刷新など広告の変更を行う際には、診療科名の変更手続きを行うとともに、広告上の表記も改めなければなりません。

(2)不合理な組み合わせとなる診療科名は認められない

例:整形内科、心療外科、男性産婦人科、胸部眼科、アレルギー科アレルギー疾患 など

(3)以下の診療科名は法令に根拠がない名称のため標ぼうできない

〈医科〉
呼吸器科、循環器科、消化器科、女性科、老年科、化学療法科、疼痛緩和科、ペインクリニック科、糖尿病科、性感染症科 など

〈歯科〉
インプラント科、審美歯科 など

このほか、「総合診療科」「総合内科」も広告できません。どちらも臓器別専門科には分類されにくい複合的な疾患をカバーするなど、重要な役割を担うかと思います。そのため、標ぼうできないと知って意外に思われる方は多いでしょう。「総合診療科」については、標ぼうできる診療科名とするかどうか議論を重ねているようですので、今後改正されることを期待したいですね。

患者に誤解を与えなければ診療内容に触れることはできる

最後に、本来は広告できないにもかかわらず、ウェブサイトや看板などにおいて広告されがちな診療科名をご紹介します。

(1)アレルギー内科

一見、問題なさそうですが、正しくは「アレルギー疾患内科」です。

(2)審美歯科

かなり一般的に使われている名称ですが認められません。歯科は特に標ぼうできる診療科名が限られます。

(3)インプラント科、補綴科

どちらも歯科の治療方法の名称であり、診療科名としては認められていません。

(4)トラベルクリニック

海外に渡る前に予防接種の相談などを行う診療科のこと。法令に根拠がありません。

本当によく見かける事例として、「歯科、矯正歯科、インプラント」と並べて記載された広告があります。たとえ名称に「科」とつけていなくても、これでは「インプラント」がれっきとした診療科だという誤解を患者に与えかねません。そうなると誇大広告にあたるほか、不適切な診療科名を広告すると罰則の対象となりますので、早急に改善する必要があります。

もしも、「インプラント」「補綴」「トラベルクリニック」に対応していることを伝えたい場合、診療内容として広告することは問題ありません。そこで、標ぼう診療科名とは離れた位置に別の枠を設け、一目見て診療内容とわかるように「インプラント治療」「補綴治療」「ペインクリニック」「糖尿病診療」などと表記するのも一つかと思います。

もう一点、広告が認められない診療科名が記載できる場合があります。それは、本コラムの「その表現、つもりはなくても比較優良広告・誇大広告に!《医療広告ガイドライン10のポイント》【第3回】 」でご紹介した「限定解除」。限定解除の要件を満たせば、「審美歯科」も「総合診療科」も広告可能となります。

今回は、広告できる標ぼう診療科名のルールをおさらいしました。ウェブサイトにおいては病院・クリニック概要欄のほか、インターネットの検索結果、サイト内ヘッダー(一番上のタイトル部分)、フッター(最下部)に診療科が記載されていることがあります。これらは見逃されがちですので、今一度ご確認ください。

次回も医療広告ガイドラインの具体的なルールを解説します。

<執筆者プロフィール>
金光 美紅(かねみつ・みく)
ライター。大阪府生まれ。大手人材会社にて広告規制に即したコピーライティングに従事。2015年からは医療メディアのライターとして、医師・歯科医師をはじめとする医療従事者のほか、三師会会長、行政首長インタビューなどを経験。医療機関の広報・PR、疾患啓発などさまざまな記事を手がける。ライター歴10年目を機に独立。広告ガイドラインを遵守した記事作成を得意とする。

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