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2024.6.17

治療の評判やメディア掲載の実績はアピールできるのか《医療広告ガイドライン10のポイント》【第7回】

治療の評判やメディア掲載の実績はアピールできるのか

医療機関がインターネットを使った情報発信を進める上で、忘れてはならないのが医療広告ガイドライン。厚生労働省は医療機関ネットパトロールを強化しており、ガイドラインに反する不適切な医療広告には行政指導が入ることも。何より患者に不利益を与えることになりかねません。そこで本コラムでは、医療広告ガイドラインでおさえておきたいポイントを、全10回にわたって解説していきます。

第7回は治療の評判やメディア掲載の実績はアピールできるのかをお届けします。

客観性に欠けるという理由で体験談は罰則つきNG

2018年の医療広告ガイドライン改定に伴い、インターネット上の体験談、いわゆる「口コミ」が広告禁止事項となりました。チラシやパンフレット、DM、テレビや雑誌などの広告媒体においては、体験談の記載は以前から罰則付きで禁止されています。

禁止される広告

  1. 比較優良広告
  2. 誇大広告
  3. 公序良俗に反する内容の広告
  4. 患者その他の者の主観又は伝聞に基づく、治療等の内容又は効果に関する体験談の広告
  5. 治療等の内容又は効果について、患者等を誤認させるおそれがある治療等の前又は後の写真等の広告

(医療広告ガイドライン第1-2-(2)参照)

たとえ医療機関側が意図しなくても、ウェブサイトの運営者に広告料等の金銭を支払っている以上、そのサイト上に自院の口コミが掲載されると罰則の対象となってしまいます。また、金銭を支払っていなくても、医療機関側の指示で口コミが掲載された場合は、もちろん厳しく処罰されます。

NG例

  • 広告料を支払っている医療ポータルサイトに自院の口コミが掲載された
  • 「先生のおかげで病気が治りました」という手紙を患者にもらったので、自院のホームページに載せた
  • 院長やスタッフのブログに、医療機関の名称がわかる形で患者の口コミを掲載した
  • ある患者が口コミサイトにうれしい評価を投稿してくれたので、後日お菓子をプレゼントした
  • 患者の口コミを掲載したチラシを配布した

さて、ガイドラインの策定に関わる有識者による検討会では、「体験談には、患者が医療機関を選択する上で有益な情報も含まれるのでは?」という意見もあったようです。実際、私が一般ユーザーへの取材で、かかりつけ探しの方法を尋ねると、半数以上の人が「インターネットの口コミを参考にしている」と答えました。

同時に、「受診してみると口コミの評価とは真逆だった」「実際に行ってみないとわからない」といった意見も多く聞かれました。例えば、時間をかけて丁寧に診てほしい人もいれば、とにかく早く済ませてほしい人もいる。一つの医療機関の評価が割れるのは当然のことでしょう。

つまり、体験談は客観性に乏しく、またその性質によって治療の内容や効果を誤認する人が現れる恐れがあります。以上の理由で、厳しく規制されることになりました。

処罰の対象にならない口コミもあるが、注意が必要

ガイドライン改定のタイミングで、思い切って口コミ機能を廃止した医療ポータルサイトがあります。一方、公平性・公正性を丁寧に説明して運用を続けているサイトや、新たに開設された口コミサイトもあり、今ではざっと見ても10近い医療系の口コミサイトが存在します(2021年5月時点)。広告が禁止されていても運営できるのはなぜでしょうか。

これには、医療機関側がまったく関与しないところで発信された口コミは規制の対象外になる、というルールが適用されているものと思われます。具体的には以下のとおりです。

よく聞かれるのが、「患者さんからの感想を院内に掲示しているけれど、これもNG?」という質問。確かに感想は体験談に含まれますが、医療広告ガイドラインでは以下のように定義されています。

院内掲示、院内で配布するパンフレット等

院内掲示、院内で配布するパンフレット等はその情報の受け手が、既に受診している患者等に限定されるため、(中略)「患者の受診等を誘引する意図があること」(誘引性)を満たすものではなく、情報提供や広報と解される。

(医療広告ガイドライン第2-5-(4)より抜粋)

院内掲示は広告ではなく情報提供に過ぎないため、患者さんからの感想を掲示するのは問題ないということになりますね。

客観的な評価でも紹介するとNGに

あくまで個人が自発的にブログや手記に記載した口コミであっても、医療機関側がホームページや医院の公式SNSアカウントなどで

「口コミサイトにこんなうれしいお言葉を頂戴しました」

「こちらのブログに当院のことを書いてくださっています」

といった紹介をしてしまうと、誘引性が認められて罰則の対象となってしまいます。

同じように、新聞や雑誌などのメディアに取り上げられたことを紹介する際も注意が必要です。次に挙げる具体例は、ホームページの「お知らせ」欄などでかなり頻繁に見かけますが、ガイドライン違反として是正指導が入ったケースをいくつか知っています。

悪質な投稿による被害多数……問われる口コミの信ぴょう性

各社口コミサービスの運営体制が健全化される一方で、悪質なユーザーによる虚偽の投稿が相次いでいます。大手検索エンジンのマップ上の口コミには、明らかな偽アカウントによる営業妨害のような口コミが多く見られ、一部の人による「荒らし行為」が指摘される事態となっています。

いわれのない悪評でも放置すると独り歩きしてしまうことがあり、悩ましいですね。あまりに悪質な投稿については弁護士に相談の上、情報開示請求によって発信者を特定するのも一つの手段です。ただし、訴訟問題に発展してパワーがかかるので、できれば避けたいところ。まずは運営者に削除依頼を出してみるのが良いでしょう。

また、悪い口コミに対して厳しい口調で反論を書き込むのは、読んだ人に悪い印象を与えることになり逆効果かもしれません。ユーザーは、口コミのすべてをうのみにしているわけではありません。評価の良い投稿、そうでない投稿のバランスを見て信ぴょう性を探っているようです。

あるクリニックでは、悪い口コミに対しては真摯に受け止めていることをアピールしつつ、実際に改善できるところは改善し、日々誠実な対応をしていくことで良い評価が増えたとおっしゃっていました。地道な努力が悪質なユーザーに打ち勝った事例ですね。

虚偽広告と判断されることは最大のリスク

今回は、医療機関の評判に関する広告の是非について解説しました。体験談は広告禁止事項ですが、患者以外の第三者が内容を編集したり、患者を装ってありもしない体験談を投稿したりすると、虚偽広告と見なされてしまいます。

2020年に、広告主の社員と広告代理店の代表が逮捕された事件を覚えていますでしょうか? 未承認の健康食品を「肝臓疾患の予防に効果がある」などと虚偽の事実をうたい、医薬品医療機器等法に違反(※)したものです。その際の広告手法が、第三者による体験談に見せかけた記事風広告でした。

虚偽広告は特に重く罰せられる違反であり、刑事罰が科せられる可能性も秘めています。医師が処罰の対象となった場合は、医業停止などの処分も十分にあり得ます。刑事罰となると医療機関名とともに報道され、信頼を取り戻すことが不可能に近くなりますので、くれぐれもご注意ください。

本コラムも残すところあと3回となりました。次回は医師の資格等に関する広告について解説します。

※医療広告は、医療法だけでなく医薬品医療機器等法(薬機法)、不当景品類及び不当表示防止法(景表法)などの関連法令にも準拠しています。

<執筆者プロフィール>
金光 美紅(かねみつ・みく)
ライター。大阪府生まれ。大手人材会社にて広告規制に即したコピーライティングに従事。2015年からは医療メディアのライターとして、医師・歯科医師をはじめとする医療従事者のほか、三師会会長、行政首長インタビューなどを経験。医療機関の広報・PR、疾患啓発などさまざまな記事を手がける。ライター歴10年目を機に独立。広告ガイドラインを遵守した記事作成を得意とする。

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