自身のことを患者に伝える難しさを克服する~第三者目線の活用~《患者のココロをつかむ情報発信》【第5回】

自身のことを患者に伝える難しさを克服する

患者とのコミュニケーションを上手に取ることで、患者やその家族と信頼関係を築き、満足度を高めたいと考えているクリニックの医師は少なくないのではないでしょうか。

医療情報ポータルサイト「ドクターズ・ファイル」の初代編集長、医療情報誌『頼れるドクター』の編集長として、約20年間、2つのメディアを通じ、医療情報を求める数多くの患者の心理を定性/定量的に分析してきた牧綾子氏が、患者と医師がより良い関係を構築するためのノウハウをわかりやすく解説します。

第5回のテーマは、「自身のことを患者に伝える難しさを克服する~第三者目線の活用~」です。

※本稿は、牧綾子著『20年のインタビュー・調査からひもとく 患者のココロをつかむ情報発信 ~2024年改訂版~』(株式会社ギミック)の一部を再編集したものです。

ドクターが自身のことを患者に伝えるのが難しい3つの理由

クリニック選びにおいて、患者が「ドクターについての情報」を重要視していることはこれまでのコラムでお伝えしてきました。とはいえ、ドクターが、自分自身の考えや人柄を患者に伝えるのはなかなか難しいもの。その理由は主に、

(1)自身の特長を客観的に捉えることの限界
(2)医療に対する患者とドクターの理解度の溝
(3)自院や自身をアピールすることへの羞恥心の壁

が挙げられます。これらを克服するには、第三者の目線、つまり私たちのように客観的な視点を持つ編集者やライターがドクターやクリニックのことを理解し、ドクターに代わって患者に伝えるのがとても有効だと考えます。

クリニックの情報発信で第三者目線を活用する3つのメリット

ではなぜ、客観的な視点が有効なのでしょうか。主なメリットは3つあります。

(1)患者の目線で伝えるべきことがはっきりする

大前提として、そもそも一般の患者は医療についてほとんど知らないと考えるべきです。家族が持病を抱えているといった人はともかく、大きな病気にかかったことがないような患者の知識は、基本的にはゼロベースと考えた上で最適な情報発信をしていくことが必須になるでしょう。

そのときドクターの経歴や学会資格などをそのまま羅列しても、その価値を理解できる患者は極めて少ないのが実情です。そこで経歴の背景や得意としている治療、持っている資格の意味や目的などを説明し、必要に応じて検査機器なども見てもらいながら、言葉とビジュアルを駆使して患者に情報を伝えることになります。手間のかかる作業かもしれませんが、そうした姿勢に患者はドクターの真摯な診療姿勢と人柄を見るものです。

自身の特長をどう捉えるかは非常に難しいものですが、第三者のリードのもと、このような作業を行っていくことで、伝えるべきことが見えてくることもあります。

(2)わかりやすい表現で患者との溝を埋める

本来は専門的で難しい医療情報をいかに易しく伝えるかはとても重要です。

しかし、患者は年齢も知識量もさまざまで、説明に苦労されているドクターは多いようです。対面ならまだしも、自院のホームページなどに文章で書くとなると、どこまでかみ砕けば良いのか判断に迷いますし、執筆にかかる手間も並大抵ではありません。中には、書いたのはいいが論文調で難しいとか、詳しく伝えようとしすぎて長文になってしまうといった、患者が読みにくい文章も見受けられます。

そこで「ドクターズ・ファイル」では、プロのライターがインタビューを行い、原稿を書いて、読み手にわかりやすい文章を作成しています。医療専門のライターでなかったとしても、その分一般の人たちと同じ目線でドクターに話を伺えるので、読み手である患者にはわかりやすく、かえってメリットになるものです。

医療に詳しいかどうかよりも、患者の知りたいことをドクターにしっかりと聞けて、ドクターの診療方針や得意な治療を理解し、クリニックの特長を的確に記事にできる「ドクターズ・ファイル」のライター陣は、先生方からの評価が高いように思います。

また、プロカメラマンが撮影した写真は構図が良く洗練されていて、患者に多くの実情を伝えられるツールだと、どの先生にも喜ばれています。

さらに、デザインチームが画像の品質や文字のフォントなどにこだわり抜いてウェブサイトや書籍を制作していますので、見やすさとビジュアルの良さが読者の目を引きつけます。これらをすべて自院でとなると……なかなか手が回らないことでしょう。

(3)第三者によるPRはブランディングにもつながる

情報発信の手法について、図2で解説しながら少し整理してみたいと思います。

クリニックの開業時、その地域に合致した医療サービスを提供しようとマーケティングを実践されたドクターは多いでしょう。立地や標榜科目、診療時間、外観・内装デザインなど、地域に最適な医療体制を検討されたと思います。また、それらを伝えるべくホームページの開設やチラシの制作もされたのではないでしょうか。これらすべてがマーケティング活動にあたり、図2の【1】に該当します。

さらに自院の広告宣伝をしようとすると【2】のように看板や交通広告などで「私は〇〇の治療が得意な患者想いのドクターです」と自身で連呼することになります。

一方、【3】のPRは、【2】のように広告宣伝するのではなく、テレビや雑誌、ウェブサイトなど第三者的立場のメディアの力によってターゲットに訴求する手法です。クチコミもこれにあたります。第三者メディアが発信する情報には手前味噌ではない客観性があるため、患者が受け入れやすい情報といえます。そして、これら【1】から【3】の情報が複合的にターゲットへと伝わり、蓄積されて、【4】のブランディングへと昇華していくことになります。

「ドクターズ・ファイル」のように第三者の立場で取材を行い記事にするというメディアは【3】の手法にあたります。例えば「私は〇〇の治療が得意な患者想いのドクターです」とドクターが自らアピールするのではなく、「あの先生は〇〇の治療が得意な患者想いのドクターですよ」と客観的な第三者によって自然な形で周知できるのです。

このように第三者による情報伝達は自前のアピールに比べ、スピードも影響力も信頼性も上がるため、ぜひお勧めしたい手法の一つです。

イラスト/古藤みちよ

<執筆者プロフィール>
牧 綾子(まき・あやこ)
ドクターズ・ファイル初代編集長、頼れるドクター編集長。株式会社リクルートの求人事業部にて10年間、事業・商品・営業の企画業務を担当。その後、株式会社ギミックにて「ドクターズ・ファイル」の立ち上げと『頼れるドクター』の創刊から携わる。開業医だった祖父と80歳を過ぎた今も総合病院で内科医として勤務する父の背中を見ながら、ドクターの医療に懸ける想いを肌で感じて育つ。また、2児の母として子育てを通じ医療情報の必要性を強く信じている。クライアントやユーザーに寄り添いながらメディアづくりをすることを大切にしている。

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